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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
16/144

15話ー師匠と弟子ー

 千歳の師匠である峯岡は迷子になっていた。なかば毎度のことで、仲間内ではあまり驚くことではないようだが。


 何はともあれ、無事に到着することができた峯岡。果たして師匠の実力は如何に。


ー滋賀県 シーン"里道"ー


「やーーーっと着いたあああああ!!!」


 入口から響くミネールさんの声に2人は反応した。


 ヤマターニさんは隙を見てネチョネチョデュロルの鳩尾(みぞおち)に肘を入れる。怯んだのを確認し、走って戻ってくる。同様にユキーマさんも隙を見て急所を狙おうとするが同等にやり合ってる為、中々隙がつけていない。


「里道ー!!みんな無事かー!」


「ミネールさんこそ、無事で良かったですよ!」


(すぐる)!左側のデュロルを」


「お!わかった!」


 ミネールさんがこの広い空間に姿を現すと、右側のネチョネチョデュロルは起き上がりながら反応した。


「フ、フレイ!?何でフレイがいるっちょ!?」


 その怯えた声に女デュロルは反応するが、目の前のユキーマさんに集中する。


「ささ、澤野(さわの)!ここは撤退しよっちょ!」


 この呼び掛けも無視する女デュロル。


「ねえ!聞いてるっちょか!?」


 これも無視だ。


「逃げるっちょよ!」


「うるせえぞ、腰抜けが」


 女デュロルはそう言うと、ユキーマさんの隙を見てネチョネチョデュロルに向かって液体を大量に飛ばした。


「う、うわああああ!」


 液体がデュロルに当たると、その部分から蒸気が発生し、装甲が溶けだした。皮膚にも大量に浴びたデュロルは倒れこみ、蒸気の出る部位を抑えて踠いている。


「おい!!仲間同士で何してんだ!!」


 ユキーマさんは隙をつき、ミネールさんと位置を入れ替える。


「仲間?勝手に連れて来られた場所にたまたま居た奴を誰が仲間だと思う」


 踠いていたデュロルは気を失うように静かになる。


「卓が女デュロルを相手してる間に、僕たちは人質と倒れてるデュロルを保護しよう。バルキリーは人質の方を頼むよ!テンパくんは僕に着いてきて!」


「わかった」


「はい!」


 ミネールさんの表情は硬くなる。


「目的が同じなだけってわけか。だとしてもだ、1つの命をコケに扱うお前は大嫌いだ」


「私たちの境遇の者は、皆死んだほうがマシだと思っている。1つしかない人生を、他人の夢の奴隷で終わるなら、元々無いも同然だ。隣のあいつは、その夢の奴隷を全うしてるに過ぎない」


「何故全うするんだ。しなきゃ死ぬんか?」


「しなかったら殺される」


「じゃあ隣のやつが何で全うするか、お前には分かんねえのか?」


「ああ、興味ない」


「生きたいからに決まってんだろーが!!自分の命守って必死こいて奴隷とやら演じてんだろ!!それを(あたか)も死にてえとか、人の感情を勝手に決めつけんな!!」


「そうか、生きたいのか」


「お前は生きたくねえのかよ!」


「死んだ方がマシだ」


 ミネールさんは目を見開き、目の奥は真正面の向こう側を見つめるようだ。


「そろそろ卓の我慢が限界を超えるから急ごう。テンパくんは2番の麻酔矢をこの子に射ってくれるかい。バルキリー!そっちは大丈夫か?」


「何とか!」


「よし!ここから脱出!早くしないと巻き込まれちゃうからねっ」


 巻き込まれるって?


「走って!」


「あわわわわ!」


 僕はヤマターニさんに背中を押されながら出口へと急ぐ。ヤマターニさんはデュロルを背負い、ユキーマさんは人質を背負う。





「お前は生きたくないのか」


「私が生きたいと思う日はこないだろう」


鬼神(アラハバキ)があるからか?」


「……ああ」


「大丈夫だ。お前が生きたいと思える日は来る。俺の弟子が必ずそうしてくれる!」


「ほう、鬼才にも弟子がいたんだな」


「まあな。お前は俺らが保護するから、安心しろ」


「安心は出来ない」


 突如、空気を遮るニゴイ音は耳を掠る。


 先程には無かったオーラがそこにはあった。


「仲良さげだな、澤野」


「!?!?」


 視界の外の声に思わずピクリと肩が動く。声の主は足首まである黒のロングコートを着た者だった。フードを被っており顔は見えていない。


 澤野と呼ばれる目の前の女デュロルは、震える程に酷く怯えていた。


「鬼才と呼ばれたエキポナと仲良くして、何がしたい」


「いえ……何も……」


「シラを切るつもりか」


 すると、そこに居たはずのロングコート野郎は消えた。


 視界の隅で、女デュロルが倒れるのが見えた。倒れた女デュロルの背に立つロングコート野郎。


「戦力外に用はない」


 倒れた女デュロルはピクリとも動かない。


「てめえ、そいつに何した!」


「儚い命が減っただけ。代わりはまた作ればいい」


「何だと!!」


 俺は思わず刀に手を掛ける。


「待て待て、鬼才が刀を抜く意味はわかっているのだな?」


「ああ!わかってる!!」


「そうか、抜かないほうがいい……」


 目の前に居たはずのロングコート野郎は消えた。


「俺はお前をいつでも殺せるからだ。フハハハハ!!」


 その声は急に耳元から。後ろに回り込まれた。


「部下供は用が済んだら殺す。今そいつらを、死人を出してでも保護したって無駄だぞ?フフ」



 "刀には色々な人の想いが詰まってんだ。だから、刀を抜く時ってのは想いを込めた人達の願いを叶える時。その想いを踏み捻るようじゃぁ、エキポナ失格だ。"


 俺は刀を抜いた。





 ミネールさんのいる洞窟の穴から吹き出た炎の凄まじい熱は、ミネールさんの想いを表しているようだった。


「卓、激しくやってるね」


 炎の後、立て続けに崩壊音が聞こえ、洞窟のある崖の上で地面が砕け飛ぶのが見えた。砕けた地面から火柱が上がり、その炎の中から2人の人影が見える。


 外にいた僕たちは崖を飛び登る。


 洞窟の天井を突き破って出て来た2人。ミネールさんと、"知らないデュロル"。


 今まで女デュロルと対峙していた筈なのに、今ミネールさんの目の前にいるのは男のデュロルで……。


「卓の顔が何時もと違う」


 紅く輝く刀身の刀を握り、刀身に若干の炎を纏わせる。いつも和やかな笑顔のミネールさんからは想像もつかない表情をしていた。


 対するデュロルは余裕そうに腕を組む。


「卓……」


 ミネールさんを見守る2人。


「鬼才とは、唯の可愛いあだ名だったのか?」


 ミネールさんはデュロルの言葉を聞いて、一切の動揺を見せない。


「何をそんなに怒ってるんだ?」


 ミネールさんはデュロルを睨みつける。


「1つの命を何だと思ってる!」


「モノだ。死んだら次がある」


「自分の命もモノなのか!!!」


「下の人間、上の人間。生きてる世界が違うんだよ。お前も上の人間だ、俺らがモノではないことは分かりきっている」


「てめぇらと一緒にすんじゃねえ!!」


「フハハハハ。命に執着しすぎなんだよ」


 その言葉を聞いたミネールさんは刀を素早く鞘に納め、アクセルを握りしめる。


「まずいテンパくん!ここから逃げなきゃ!」


 そう言われヤマターニさんに押されて崖から落ちる。


 落ちながら見上げた空を、炎が覆った。


 空中で体勢を立て直し、着地する。


「あんな卓、久しぶりに見た」


「あの時以来ね」





 おかしい。俺が完全に動きを見て刀を振っているにも関わらず、刀身が身体に触れる瞬間、まるでそいつがその場にいないような感覚だ。


 目の前から消えては視界の外から攻撃される。あの時言われた一言が現実になってしまう。


 "俺はお前をいつでも殺せるからだ。フハハハハ!!"


 うるせえ!


 あいつは時々笑いながら攻撃を躱し、攻撃をする動作をとって直前で止める。


 完全に遊ばれている。


 こんなに近くにいる奴をぶっ倒せねえなんて情けねえ!


「おっと、危ねえ」


 ん?一瞬だけ動きが鈍った。その鈍った瞬間から、奴は間合いを取るようになった。


 遠く離れた奴に中距離に火を飛ばすも、避けられてしまう。


「ハア、ハア」


 かなり体力を消耗してしまった。当たらない相手に向かって無駄に力んでしまっていたのか。


「そろそろ時間だ。君の相手はまた後でしよう」


 そう言うとデュロルは燃える地の煙と共に姿を消した。


 奴がいないか周りを確認するが、これといった影も無く、気配も感じない。


 俺は突き破った穴から崩れそうな洞窟に降り、倒れてる女デュロルを抱え出口へ向かった。





「卓!!」


 ミネールさんの表情は悲しそうに見える。


「すまねえ、刀を抜いたにも関わらず、逃がしちまった。千歳のジジイに知られたら殺されるな」


 千歳のジジイ??


「卓が刀を抜いたのなら、お弟子さんも抜く筈だろ?想いは叶うさ!」


「ああ、必ず」


 いつも元気なミネールさんに元気は無く、焼けた地を消すように雨が降る。


 人質の東京チームエル・ソルと気絶してるネチョネチョデュロル、瀕死の女デュロルの保護は完了した。


 瀕死の女デュロルは大阪支部に着いてからすぐに緊急治療室へと運ばれ、ネチョネチョデュロルは独房へ保護といった形で入れられた。


 女デュロルは首の骨を折られていたらしく、もう少し遅ければかなり危ない状況だったらしい。


 ミネールさんは珍しく暗い表情だったけど、しばらくしたら元のミネールさんに戻った。


「いつまでも暗い顔してたら楽しくねーべ!がっはっは!」


 このミネールさんの方が安心できるな。





ー神奈川県 シーン"千歳"ー


 大木に縛られた4人に諦めの文字は浮かぶはずもなかった。


「あれ?お前の糸って簡単に解けたっぺーな?」


「そんなことはないさね?電車は止められるさねよ?」


「え、でも、明らかに糸を引きちぎったっぺーよ!?」


「よーし!解けた!」


「こんなんで俺らを捕まえたつもりでいるのなら、浅はかだ」


 簡単に糸は解け、高千穂と滝原の糸も解く。


「畑山と滝原!蜘蛛女の方頼んだ!高千穂は俺と針男行くぞ!」


「ああ!」「うん!」「はい!!」


「やぺぺっぺっーな!」


 針男は林の中へ、蜘蛛女は木の上へそれぞれ逃げる。


「逃がさねえぞ!」


「今度はちゃんと見てるから、私に任せて!」


「ああ!指示してくれ!」


「手前の木を2本切り倒して!!」


「わかった!ごめんよ木!!」


 俺は刀を抜き、その流れで木を1本、2本と斬り倒した。


「伏せて千歳くん!!」


 高千穂は弓のトリガーを押し込み、射出に勢いを出すローラーを回転させる。


 矢が通った音がハッキリと聞こえる。


「っぺーな!!」


 林の奥で叫び声が聞こえた。


 高千穂の放った矢は木を3本貫通して、大木の裏に隠れていた針男に突き刺さる。


「当たった!!」


「高千穂すげーな!!!」


「千歳くんに似合った力でしょ?」


「バッチリだ!」


 針男に刺さった麻酔矢が効き、1人捕獲完了。


「滝原!東側の5本目の木の上に俺を飛ばしてくれ!」


「はい!」


 滝原は俺の横に来て大槌を思い切り振る。


 それに合わせ大槌に足を乗せ、その勢いで5本目の木の上まで飛ぶ。自分の足で飛ぶより勢いがあり、避ける隙を与えない。


 飛ばされた場所に蜘蛛女は居た。がっしりと身体を腕で締め付ける。


「は!離すさね!!」


 そのまま地面へと落ちる。その時、蜘蛛女を下にし、落下のダメージを与えた。


 起き上がろうとする蜘蛛女の脚を掴み、自分を軸に振り回す。その勢いから巨大な蜘蛛の巣に投げ飛ばす。


 蜘蛛の巣にくっ付いた蜘蛛女に向かって走り、途中でシールドを拾い上げ、蜘蛛の巣まで飛んだ。


「や、やめるさね!来るなさね!!」


 シールドで殴って放電させる。


 全身に放電を浴びた蜘蛛女は蜘蛛の巣を突き破り地面に叩きつけられる。


 倒れ込んで煙を纏う蜘蛛女。


 気絶を確認し、拘束した。


「捕獲完了!!」


「畑山は脳筋だな!」


「千歳に言われたかねー!!」


「ねっ?この2人バケモノでしょ?」


「す、凄いです。お2人も凄いですけど、クイーンさんも凄いじゃないですか!僕も強くならなくちゃ!」


「そりゃ良いこった。なっはっは!」


 東京チームエル・ソルに複雑に絡まった糸を、迎えに来た装甲ヘリの中で丁寧に解く。


「他のみんなは上手くやってるかな?」


「みんなきっと頑張ってるよ!」


 本部へ着いたら蜘蛛の奴と針の奴は、黒潮と菅岡、山辺が入れられている横の独房へと運ばれるらしい。


「高千穂、畑山、滝原」


 俺の呼びかけに真っ直ぐな瞳で俺を見る。


「俺は本気で鬼神をぶっ飛ばす。お前ら、付いてきてくれるか?」


「ふふ。もちろんでしょ千歳くん!私は千歳くんに付いてくって決めたんだから!」


「俺もだ。男が1度決めた事だ。千歳には負けてらんねえからな!」


「僕も付いていきます!必ず皆さんの力になって、僕がここにいる意味を!決して無駄にはしません!!」


「ありがとう!」


「なに改っちゃって。私たちはチームなんだから」


「ああ!まずは黒谷をぶっ飛ばす!!そんで川崎さんは戻ってきてくれる!」


「川崎さんは自分の意思で向こうに行ったんじゃないの?」


「確かにな、そうなれば敵になるが」


「ん?ああ!違うんだ!川崎さんはそんなことする人じゃねえよ!」


「千歳くんがそう言うなら、私は信じるよ!」


「お2人が全力で千歳さんに着いてく理由もわかりますね。信じてます千歳さん!」


「ああ!俺を信じて待ってろ!必ず戻ってくっからよ!」


「俺らで力合わせたら黒谷にも勝てるだろうしな!」


「わりい、俺だけに行かしてくんねえか。そうじゃねえと、川崎さんが危ねえんだ」


「どうゆうことだ!?」


「実は______」




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