14話ーそれぞれの能力ー
各支部の協力を経て、それぞれの場所に東京チームエル・ソルの救出へ向かった一向。
室瀬率いる鬼神対策北海道支部が先に、敵と思われる者と遭遇。
緊迫の瞬間である。
ー青森県 シーン"室瀬"ー
青年は東京チームエル・ソルが座り込む水溜りの周りを歩き回り、チャパチャパと音を立てる。
ここら辺一帯の木々は今にも枯れそうで、葉が茶がかっていた。
俺はおかーさんの耳の近くで話す。
「おかーさんはエル・ソルのあの人の保護を頼む」
「わかったわ」
歩き回る青年は足を止める。
「花は長らく同じ姿を保てないでしょう」
青年は空を見てそう言った。
「芽生え、花を咲かす。そして、枯れる」
「何が言いたい」
「木も枯れ、地も枯れる。この大地に生かされる物全ての果ては"枯れ"なんだよ」
青年は手で顔を覆う。
「生を奪い、枯れを示す」
青年は横に生えてる木に向かう。向かう途中に青年は徐々にデュロルの姿へと変わっていく。
1歩ごとに、地に着いた足から変わっていく。
手が木に触れた時、全身はデュロルに変わっていた。木に触れた瞬間、木は生気を吸われるように萎び、やがて枝先から崩れ落ち、灰に変わる。
崩れ落ちた灰は風に流され、空気に消える。
「なななななな何ですかあれぇ〜ぇへ!」
水戸部オタクはかなり驚いたようで尻込みをした。
「おほっ」
無口なゴンゾーも驚きが声に出たようだ。
「生の果ては枯れ。人間も同様。この能力を前にしても尚、立ち向かう勇気はあるか」
「モモモモモモモグラくん!ここは撤退した方がいいのでは!?」
退こうとする水戸部オタクとは逆に、おかーさんは真正面を向いていた。
「自意識過剰は命取りになるぜ」
「ほう。大槌使いの青年。名を聞こう」
「自分に酔いしれてる奴に名乗る気しねえ。凄え能力持ってっからって、かっこつけてる奴には尚更な」
「……。興味が湧いた。掛かって来るなら掛かって来い。早くしなければ、この女も同じく」
そう言うと奴は東京チームエル・ソルの女性の肩の装甲に触れる。
触れた部位は徐々に錆び、灰に変わる。
「おかーさん!ゴンゾー!水戸部オタク!援護!」
俺は走り出した。大槌を両手でしっかりと握りしめ、デュロル目掛け振り下ろす。
大きく飛び散る水。デュロルには避けられたが、エル・ソルから遠ざける事に成功した。
おかーさんは人質となっていたエル・ソルの女性を抱え、その場から離れる。
ゴンゾーとデュロルが拳を交わす。だが、デュロルに触れたゴンゾーの拳の装甲は錆び、小範囲ではあるが崩れ落ちてしまう。
「ゴンゾー!そいつに触れるな!」
"奴に触れずに倒すにはどうすれば"
「オタク!奴を狙ってくれ!」
「わわ、わかった!!コードネームはメガネって何回言ったらおぼえてくれるのぉ〜」
水戸部オタクは思い切り弓を引く。
放たれた矢は大きく外れ、後ろの岩でできた壁に当たるが、デュロルは大きく避けていた。
ふと足元を見ると、先程まであった水が一切無くなり、土が枯れていた。
立っているだけで枯れさせるのか!?
「枯れの怖さが分かったようだな」
確かに。打つ手がない。
「モグラくん!多分手で握ってる刀とかじゃあいつに枯らされちゃうと思う」
「なるほどな」
一か八かの勝負に出るか。
ー神奈川県 シーン"千歳"ー
「GPSの反応はここら辺ね」
高千穂が透過モニターのレーダーを見てそう言うが、辺りを見てもその姿はない。森の中のため、陰に隠れて見つからないのかもしれない。
すると、上を見た滝原が指で示しながら言う。
「あれって、エキポナですよね?」
指の先を見やると、そこには何本もの木に連なる、巨大な蜘蛛の巣に絡まるエキポナの姿があった。
「何じゃありゃ!」
東京チームエル・ソルのシールド使いの男は、顔に黒布を被せられ、ピクリとも動かない。
「よーし!救出!」
俺が蜘蛛の巣を斬ろうと歩き出した矢先、強い殺気を感じた。
ピタリと立ち止まる。すると、目の前には白く光る線が横切った。
線の元を辿ると、草木に隠れるデュロルの姿があった。
「クソっ。当たらなかったっぺーや」
男にしては声が高く、ギリギリ声で姿を現す。
「バーカ!今の当て無かったらチャンスないさね!」
もう1人、上の方から女の声が聞こえる。
上を見やると、そこには木と木の間を巨大な8本足で移動し、蜘蛛にデュロルの上半身が生えたような女デュロルが居た。その姿は、蜘蛛の部分は装甲で白く、関節部分は通常デュロル同様に装甲が無い黒い筋肉質の皮膚となっている。上半身と蜘蛛の部分のつなぎ目は、蜘蛛の頭部が位置する場所になる。
「蜘蛛か!?」
畑山は酷く怯えた表情で蜘蛛デュロルを見やり、しばらく見てから目をそらす。
「お前ら!そこのエキポナ君は返してもらうぞ!」
「クモモモモモ。取り返せるもんなら取り返してみるさね」
「ハリリリリリ。まあ、返すわけにゃいかんぺーよ」
そう言うと蜘蛛デュロルは木の上を素早く移動し、姿を消した。
男デュロルも素早く陰に隠れる。
「注意して!!」
高千穂は弓を構える。
「うわっ!」
突如、畑山の叫ぶ声が聞こえる。
畑山を見やると、木の上から伸びる蜘蛛の糸に上半身が絡まっていた。
「なんだこれ!全然解けねえ!」
「待ってろ!切ってやる!」
俺が切ろうとすると、俺と反対方向に畑山は引き摺られる。
その先に、男デュロルが姿を現す。
「まずは1人っぺーな!」
「クモモモモ!いくよ!」
畑山は男デュロルから右ストレートを受ける。威力は無いことは見て取れるが、畑山の腹から背中にかけて1本の細い針が貫いた。
赤く染まる針。静まる空気。
「畑山!!」「畑山くん!」「マッチョさん!」
畑山は針デュロルの右腕を掴む。
「捕まえたぜ」
畑山は刺されながらも、無助走で強烈な右フックを針デュロルの頬に打ち込んだ。打ち込まれた反動で針はデュロルの腕に引っ込む。
なんの表情も読み取れない針デュロルの装甲の左頬にヒビが入る。
「い、いてっぺーよ!!」
針デュロルは左頬を抑えながらも逃げるように草木に隠れる。
「マッチョさん大丈夫ですか!?」
「ああ、俺の心配すんな。どこからくるか分かんねえから油断すんじゃねーぞ」
「は、はい!」
畑山は刺された部位を抑えながらも、落としたシールドを拾い上げる。
「高千穂、蜘蛛女の姿見えるか?」
「ううん、音はするんだけど」
辺りから葉が揺らぐ音と、枝が擦れる音が続く。
「わあー!!」
突如、滝原の叫ぶ声が聞こえる。
滝原は蜘蛛の糸に引っ張られ、大木に巻き付けられる。
その直後、高千穂も同じく大木に引き寄せられ、身動きが取れなくなる。
俺と畑山は背中を寄せ、辺りを隈なく見渡す。すると、真上から何本もの細い針が降り注いだ。
お互い避けると、お互いが別々の蜘蛛の糸に掛かりそれぞれ別の大木に引っ張られた。
4つの大木の中心に2人のデュロルは姿を現す。デュロルはハイタッチをし、歓喜の声をあげた。
「エキポナゲーーーッチュっぺーな!」
「聞いてたより強くなかったさね!」
俺ら4人はデュロルに捕まった。
4人は真っ直ぐ2人のデュロルを見る。諦めの欠片も無しに。
ー愛媛県 シーン"藤長"ー
「なんアイツ!」
童顔すのちゃんは目の前のデュロルを見て驚いた。
「て、天狗ばい!」
巨乳のセロリちゃんも同じく。
「でかすぎない!?」
いかつい瀬川ちゃんも。
確かにデカイ。2メートルは優に超える長身のデュロルの見た目は、ほぼ天狗だ。
長い鼻が付いた装甲に、チリチリの髪の毛が顔半分と後頭部位を覆う。
上半身は筋肉質で、筋肉を際立たせるように、筋肉の合間に沿った装甲。下半身には、腰から膝下まである鎧のような装甲が前後側面に4つある。右手には装甲に似た物質の白い団扇を握る。足には下駄を履いていた。
この化け物のようなデュロルを前にして、驚かない人は居ないだろう。
天狗デュロルの後ろに、人が1人入るほどの大きさの中が見えない籠が置いてある。恐らくあの中に東京チームエル・ソルの1人が入れられているのだろう。
「カマキリ君に全部任せる訳にいかんからね!ウチ達も頑張る!」
童顔すのちゃんの目つきに迷いはない。
「セロリ!バリアの準備しといて!」
「任して!!」
女の子だからって怖じけず、真っ直ぐデュロルに立ち向かおうとしている。
この子達全員が、俺に迷惑を掛けないようにって。逆だ。俺がこの子達の迷惑になっちゃいけない。
「さっきの奴とは違うみたいだ」
無口だった天狗デュロルが、重なるようなドス低い声を発する。
「さっきの奴って何だ!」
「腰抜けの青年だ。息があるかどうか」
天狗デュロルは川の浅瀬を指差して歩いた。
そこには、仰向けで水に浸かったチームルナと確認できる青年がいた。
「はっ。倒れとう」
「あいつに何をした!」
「さあ、どうしたものか」
「ふざけやがって!」
俺は刀を抜いて斬り掛かるが、2メートルを超える巨体とは思えぬ速さで避けられてしまった。
「ほう、左利きか」
俺の攻撃を避けながらも悠々と話す天狗デュロル。
その喋り方は、自信に満ち溢れているようだった。
瀬川ちゃんとすのちゃんは俺の援護に入り、セロリちゃんは浅瀬に倒れるチームルナの青年を助ける。
瀬川ちゃんの放った矢は身を低くして避けられる。すのちゃんの大槌は腕で防がれてしまう。
3人に囲まれた天狗デュロルは一度しゃがみ、一気に10メートル程飛び上がった。手に持つ大きな団扇を真下に向けて空中で一振りする。
すると、叩きつけられた風圧は四方に散らばり、俺らの陣形を崩し、天狗デュロルは着地する。
「正義とは何か。あの方が教えてくれなければ、気付かなかっただろう」
天狗デュロルは腕を組み、俺らを見下ろすようにそう言った。
「正義は私たちよ!!」
瀬川ちゃんが叫ぶ。
「ほう、何が正義か」
「人の命を守ってる!人々の安全のために!」
「そこが欠けている。人が助かれば、我々デュロルになった人種はどうでもいいと?」
「そうゆう事じゃ……」
「元は人間。デュロルは自分の意思で望む人などいない!どう生きていけばいいか分からなくなり、自分を守ろうと人を食すデュロルを、人のため世のために踏み捻ることの何が正義か!!」
「……」
すのちゃん、瀬川ちゃん、セロリちゃんは下を向いた。そんな言葉を掛けられたら、考えてしまうに決まっている。
だけど、間違っていることは確かだ。
ー滋賀県 シーン"里道"ー
「え……。もしかしてレーダーってこの洞窟の中を示してます?」
「ああ。明らかにこの中だな」
「僕たちが付いてるから、大丈夫だよ!」
「入る前に、ミネールさんを待たなくていいんですか?」
「やめろ、その言い方力が抜ける」
「卓は大丈夫。信じてればね!」
ヤマターニさんはこれでもか!と爽やかさ満載だね。
ユキーマさんにも迷いは無いみたい。さすがチームエル・ソルだよ。
僕たちはミネールさん到着の前に大きな洞窟に足を踏み入れた。
暗い中をライトで照らしながら進んでいくと、物凄く広けた場所に出た。天井部分にはヒビが入っていて、太陽光が差し込んでいる。ライト無しでも充分な明るさだ。
「あそこにある塊がそうね」
ユキーマさんが指差す方には、黒布を顔に被されたエキポナの体を、白く濁った何かが地面に固定しているものがあった。腕は十字に伸ばされ、立たされた状態で居た。
「アレは何だろう?粘着性のものだったら厄介だけど」
固定されてる両脇にある、天井に伸びる岩の後ろから2人のデュロルが姿を見せる。
右側のデュロルは、典型的なデュロルの姿をしている。左側のデュロルは、見た感じ女性で頭以外は典型的なデュロルの姿で、頭はポニーテールのように装甲が後退していた。
「私らに見せびらかすように人質を置いて、何のつもり?」
ユキーマさんは首を傾げながら問う。
右側のデュロルがそれに答える。
「深い意味はないっちょ」
ユキーマさんの顔は明らかに怒っていた。
左側の女デュロルは無言でただ腕を組んでいる。
「テンパくん、卓が来るまで時間を稼ぐ。君は大阪の戦い方を知らないと思うから、あんまり無理しなくてもいいよ!」
「え、はい!」
その言葉の後、ヤマターニさんとユキーマさんはデュロルの方へ歩き出した。
ヤマターニさんは右側のデュロルへ、ユキーマさんは左側の女デュロルへと分かれる。
ゆっくり歩き寄る2人に、右側のデュロルは困惑していた。
「な、何ちょお前ら!近づくなっちょ!」
左側の女デュロルは歩き寄るユキーマさんを静かに見る。
右側のデュロルは困惑しながらも、ヤマターニさん目掛け、手から白く濁った塊を飛ばす。
塊は当たらず地面に落ち、ぬべりと広がった。
その後も避け続けるヤマターニさん。
左側の女デュロルは、近くまでユキーマさんが寄ると、装甲と黒い皮膚の間から液体を垂らし始める。その液体が地面に落ちると、そこから蒸気が発生し、火を水で消すような音を発した。
その液体をユキーマさん目掛け飛ばすも、それを全て避ける。
ユキーマさんも一切手を出さず、デュロルの攻撃をただひたすらに避けていた。
僕はこの2人の戦い方に理解が追いつかずに突っ立っていた。
「な、なんだっちょこいつら!!気味が悪いっちょ!」
お互いがデュロルを避け続け、両デュロルが困惑して来た頃だった。
入口の方から聞こえてきた声に、今まで避けていただけの2人は反応した。
「やーーーっと着いたあああああ!!!」