12話ー響く音はー
遂に鬼神幹部への接触に成功した千歳一行。
この機会を逃すまいと皆闘志を燃やし立ち向かう。
上半身真っ黒で装甲の無い古田の身体は、恐らく自在に姿を変えるためだろう。
今の古田に、先程の藤長の斬撃は効いていないだろうな。結構深く斬ったように見えたけど、ピンピンしてるし。
里道の放った矢が古田に刺さる。すると、先程まで古田から突き出ていた刃は身体に収まり、次に丸い筒のような物が多数生え出した。
すると、丸い筒から真っ黒い矢が飛び出す。四方八方に際限なく飛ぶ矢に中々近付けずにいた。
「千歳、ここは俺に任せろ」
畑山はビリビリと電気を纏わせた大楯を構える。飛んできた矢は大楯には敵わず、勢いを失い地面に落ちる。すると、矢は煙を出して消滅した。
畑山は勢いよく向かっていく。古田は畑山と反対方向に逃げようとするが、チームアグアの2人がそれを許さない。
「矢さえ更新しちまえばいいんだろう?」
更新?そうか。あいつは1種類の攻撃しか吸収できない。今は里道の矢以外の攻撃を当てていないから、当てちまえば矢は収まるってことか。
畑山は近づくと盾を投げて隙を作る。避けた古田にチームアルボル自慢の格闘を繰り出した。
「ぐあっ!ぼはっ!なーんてな、わいのこのブヨブヨの身体には効かんのや」
「畑山!!!」
畑山は両腕を掴まれる。
「まずはお前や!!!」
畑山は至近距離で何発もの矢を受ける。
両腕を離され、ガクンと力が抜け落ちる。
「せやろうなぁ、この矢は腕くらい吹っ飛ぶほどの威力はあったで」
もう一度畑山に筒を向けた。
「クソ!」
俺は同じく走り出す。
「ダアアアアアアア!!!」
反対側に回り込んだ室瀬が先に大槌をフルスイングする。直撃した大槌は古田を歪ます程の威力を見せた。
古田は田んぼを抉りながら数十メートルも転がった。
ジジッ
「ケンシ!!ウルフとチームエル・ソルの視界がおかしい!一緒に居ないのか!?」
周りを見渡してもチームエル・ソルの姿が見えない。
ジジッ
「居ねぇ!!ちょっと見てくる!」
チームエル・ソルを新幹線から落とした辺りを確認すべく、そこへ急いだ。
壁を超えて線路を見やると、そこにはチームエル・ソルの4人の顔に黒布が被せられ地面に横たわり、側に金髪で片目が隠れる程の前髪に、レザージャケットを素肌に着て、スウェットを履いている男と、指を咥えるサングラスのスーツ姿の男が立って居た。
そこに向かって歩く川崎さんの姿もあった。
「川崎さん!!」
俺の呼びかけにピクリと肩を動かす川崎さん。
「あー!千歳!!お前とはまだ殺り合いたくねぇんだけどー!」
金髪レザージャケットの男が俺を指差す。
「チュパッ。あいつが?パチュッ」
サングラスの男が金髪に問う。
「ああ、あいつは俺の獲物だ!」
金髪は獲物を狩る狼のような右眼で俺を見据えた。
「覚えてねえなんて言わせねぇぞ千歳」
「!?」
金髪はデュロルに変身する。その姿は埼玉県南部で会った鬼神の幹部、黒谷 渉そのものだった。
「お前とはまだだ。今じゃねえ」
先程の声と違い、声が何重にも重なったような声色に変わった。
「それだとしても、チームエル・ソルを返してもらわなきゃだしよ」
「……」
「だってよ川崎ぃ。千歳を止めておけ、殺すなよ?俺の獲物だ」
「ん?なんで川崎さんの名前知ってるんだ?」
川崎さんは俺に体を向け、馬鹿野郎と言わんばかりの顔をしていた。
「川崎さん?」
川崎さんは無言で刀を抜く。
どうゆうことだ?
川崎さんは悔しそうな顔で言う。
「ケンシ!!刀を抜け!お前はこれ以上行かせない」
「よぉし、いい子だ川崎ぃ。行くぞ瑠璃哉」
黒谷とサングラスはチームエル・ソルの4人を2人ずつ担いで歩き出した。
「待て!!!」
「ケンシ!!俺が見えないか!」
「川崎さんと闘う意味がわかりません!!何故あいつらを助けるんですか!!鬼神ですよ!?」
「俺はお前が思う程の男じゃない」
「いいえ!川崎さんは優しい人です!______ 」
子供が迷子になってた時だって、見つかるまで一緒にいてあげてたし高千穂が放った矢が人に に向いた時、身体を張って守ってくれた。
おばあさんだっておじいさんだって困ってたら助けてあげるような優しい川崎さんが鬼神の味方につくなんて考えられねぇ!
「______今までの顔は楽しそうでした!でも今はなんでそんなに困ってるんですか!!」
「……」
川崎さんは刀をグッと握る。
「刀を構えなければ、斬る」
川崎さん。
「抜かねぇ!!一緒に戦った仲間を俺は斬れねぇ!!」
川崎さんは力んで握る手を一瞬緩めた。
「……。できない」
「!?」
「俺はできない。お前は斬れるか?」
川崎さんが何を言っているのかわからなかったが、表情を見たら理解できた。
俺は……。
「そうか。すまんな、お前は立派だ」
川崎さんは振り上げた刀を振り下ろした。
「効いたか?」
古田は立ち上がる。
「あ〜効くぅ〜」
「打撃は効かねえか」
「新感覚や」
古田の右腕は肥大し、大槌の様に円柱状に変化した。右腕を中心に筋力が増えるのも見るだけで分かる。
与えた衝撃が強ければ強いほど、身体も姿を変えるのか。
「千歳!!」
……。
こんな時に何処行きやがった千歳!
「藤長!!俺とお前で交互に攻撃するぞ!」
「了解!テンパ(里道)とクイーン(高千穂)も援護を頼む!」
「わかった!任せて!」
「ハタケッティの救出も任せて!」
枯れた田んぼの真ん中に構える古田を、囲む様に陣形を組む。
「逃げ場はねぇ!覚悟しろ古田!!」
「おぉ〜怖い怖い」
俺と藤長で挟み込み、交互に攻撃する。
古田は避け切れずに交互に攻撃が当たり始める。
「何度やったって無駄や!!わいに攻撃は効かんでぇ!」
「そんなこと言ってる余裕あんのか!?」
古田は姿を変える度に動きが鈍くなっていた。
「はあ、はあ。なんのことや」
「今、疲れてるんじゃねえか?」
「んなことあらへんわ。余裕や」
「それならまだイケるな!」
藤長、俺、高千穂の怒涛の攻撃に古田の身体は変化を見せなくなった。
「身体を変形させるんだ、それなりに体力も使うだろうよ。いくらデュロルさんでも元は人間、体力が無限なんてことはないだろ?」
「く、クソガキがっ」
高千穂が近づく。
「パラダイス。知ってるでしょ?」
「は??あぁ、アレか。アレがどうしたんや」
「あんたが死んだらパラダイスはどうなるの?」
「さあ、無くなるんやない?知らんけど」
「っ!!!あんたの所為でどれだけの人が酷い目にあってると思ってるの!!」
「ほぉ、そりゃ悪かった。なーんてな!人がどんな目にあってようが知らんわ!わいにとってそれが金になるんや。どんな稼ぎ方したってわいの勝手やろ!!」
「金になる……。あんたは生きてても酷い目にあった人の気持ちなんて解らないでしょうね」
「解ってたまるか!てめぇらだってわいの気持ちなんて解らんやろ!わいは人間が大嫌いなんや!!!そんな人間がどんな酷い目にあってようが、知ったこっちゃねえ!!」
ー27年前 古田 アンドリュー 5歳ー
「いい?目には目を、歯には歯を。これを覚えておきなさい?次イジメられたら、やられた事をやり返すの!」
「うん!ママありがとう!」
その日から僕はイジメられたら、同じことをそのままやり返すようになった。
「ママ!最近いじめられなくなったよ!でもね、みんな無視するんだ!」
「そうなの」
「パパが帰って来なくなってからなんだよ?みんなから無視されるの」
「うん。いい?アンドリュー。あなたは今日から1人で生きていきなさい。ママは遠くに行っちゃうから」
「え?僕も行くよ!!」
「あなたは来れないくらい遠くに行くの。ごめんね」
「僕1人でもエキポナさん達が助けてくれる??」
「ええ、きっと。エキポナさんは優しいから信じてね」
「わかった!!エキポナさん信じる!ママ早く帰ってきてね?」
ママはニッコリと笑った。ただそれだけ残して出て行った。
しばらくすると怖い大人が家に来た。
無理矢理連れてかれた場所には、ロープに縛られたママがいた。
「ママ!!」
「おいボーズ。こいつの最期を見いや」
瓦礫の上に無造作に置かれた座椅子に腰掛けるエキポナさんが立ち上がった。
「エキポナさん!!ママを助けて!」
「ボーズ、誰に口聞いとんや。シメるで?」
「ギャハハ」
周りにいる怖い大人達も笑う。
「このババア、組の大切な大切な幹部を天に召したんや」
「てんにめした?」
「アンドリュー、ごめんね」
「ボーズ、てめぇの父ちゃんはこのババアに殺されたんや!組のマスコットやったのにのぉ〜」
「ママが?」
「アンドリュー。目には目を、歯には歯をよ?」
「生意気やでババア」
目の前に居たはずのママは消えた。
後ろの方でベチャって音がした。
振り向いてもママは居なかった。落ちてたのは紅い塊。さっきまでなかったのに。
「エキポナさんがやったの?ママはどこ?」
「さぁね〜〜」
「おててに血ついてるよ?怪我したの?エキポナさん悪い人じゃないってママ言ってたよ?」
「とんだボーズやな。あんたの母ちゃんは今!わいが殺したで」
「え??」
後ろの紅い塊は良く見るとママの顔で、紅くて、それで……動いてなくて……。
「ボーズも生きて返さへんで」
エキポナさんは優しいから信じていいって。
ママは……。
「ボーズはナイフでええ。寄越せ」
ザッ!お腹に痛みが走る。
痛いよママ。どうしたらいい?
"目には目を、歯には歯を。やられたことをやり返すの"
うん、分かったよママ。
「か、頭!このガキ……!」
「おぉっと、JEAを思い出すやんクソボーズ」
自然とお腹の痛みは消えた。僕の手は真っ黒だ。服も着てないし、真っ黒。
手から刃が生えてきたんだ。
「デュロルの誕生や……」
その場にいた全員が動かなくなった後、僕は行く場を失った。
しばらくして、同じ境遇の人達と出会う。
ー現在ー
「デュロルにゃデュロルなりの生き方ってもんがあるんや。人間の様に呑気になんて生きてらんねえ」
「大変なのは分かる!けど、どうして人を粗末にするの!!」
「いい事教えてやるよ姉ちゃん。あんたらエキポナはわいらデュロルを倒して飯食ってるやろ?」
「……!?」
「同じや。デュロルは人間様で "飯食ってる" んだよ!!!デュロルはデュロルの争いがあるんや、それに勝手がなきゃ命がねえ。あんたらよりよっぽど過酷なんや!!!」
シラけた風が横切る。
「ハタケッティまだ動かない方が良いんじゃない!?」
畑山は足でがっしりと地面を掴む。
「おいクソデュロル。自分勝手な奴は嫌われるんだぜ」
「デュロルなんや、嫌われる以前の問題やろ」
「自分が良ければいい?自分の為なら他人の命なんざ軽く見れる?根本的に考え方がクズな奴が俺は大嫌いなんだよ」
「畑山くん」
「確かに俺らはデュロルを倒してお金をもらってる。けどな!目的が違え!!俺らがデュロルを倒すのは他の人を守る為だ!!!お前ぇらみたいに自分の為に動いてんじゃねえよ!」
「綺麗事並べるんじゃねえガキ!所詮誰だって自分が良けりゃそれで良いんだ!!」
「そう思うことは悪くねえ!!ただその後のことに気付かねぇのは唯のバカだ!!いつか人は離れてく!1人じゃ人間何も出来ねぇんだよ!!」
千歳くんと同じこと言ってる……!
「わいは1人じゃねえ、仲間がいるんや」
「今どこにその仲間がいる」
「どこかだ」
「俺には"ここに"仲間がいる。困ったら助け合い、協力し合う仲間が。お前は今1人、誰も助けに来ないのが証拠だ」
「近くにいないから助けに来ないに決まってるやろ!!」
「そうかな。千歳があそこの新幹線の線路で鬼神幹部を見たって言ってるけど」
「……!?何だと!!!」
古田は力強く立ち上がる。
「俺らは今ここでお前を処刑する。1人の気分はどうだ?」
「あいつらは俺の仲間だ、例え見捨てられたとしても、あいつらのこと悪く言う奴はゆるさねえ!!ああああぁあぁああ!!」
古田は雄叫びをあげ、腕を大槌状に変形させる。
「わいはあんたらを殺して!仲間の元へ戻る!!」
「藤長!高千穂ちゃん!里道!切断しろ!体から離れた部分は一切機能しなくなる!!」
「そうか!わかった!」藤長の顔色が変わる。
「俺も援護する!」室瀬も応える。
「やってみる!」高千穂も弓を引く。
「これで決めよう!!」里道も弓を引き、真剣な顔で言う。
大槌状の右腕は藤長目掛け振り下ろされるが、藤長はそれを避け、古田の右腕は田を抉る。
「グソッダレがあああああああああ!!」
その瞬間、藤長が背後から古田の右腕を切り落とした。
身体から離れた右腕は大槌状から手の形に戻る。
古田は切断された傷口から腕を生やそうと絞り出すように捻るが、これまで何十回と変形を繰り返したその身体は言うことを聞かなかった。
「ああああ!!ウソや!!!」
俺は古田の後ろから体を拘束した。
「室瀬!!構えろ!」
「おう!」
俺は古田の左腕を掴み一本背負いをする。そこに室瀬が大槌を下から上に振り上げる。
「がっ!!」
宙高く跳ね上がった身体を高千穂は見逃さなかった。
「里道くん!」
「うん!」
高千穂と里道は同時に矢を放つ。
高千穂の矢は古田の左肩を射抜き、里道の矢は左腹部を射抜いた。
矢の重さに更に高く飛ぶ古田。
「今回のはスペシャルなの。私の記憶の怒りはこれっぽっちじゃ済まないけど、あなたが居なくなれば少しは楽になるわ。ばいばーい!」
高千穂はそう言った後______
「何も知らえクソガキ供が!!調子に乗ったこと後悔しろ!!!」
______弓にあるボタンを押す。
「ママぁあぁあぁぁああ!!!」
静寂な田を越え、住宅街にまで響くその爆発音を、迷惑と感じる者はいないだろう。
今年デビューした超新星達の手によって、驚異の1つは削がれた。
死者124名、エキポナ負傷者36名。
鬼神幹部 古田 アンドリュー 絶命。