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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
12/144

11話ー高千穂の約束ー

 高千穂の夜は長く暗い。


 高千穂は記憶の中から、光を掴む。

 夜を照らす、朝日が昇る。


 翌日、窓の外にエキポナの人と警察の人が幾人も立ってた。


 只事じゃない平日に胸騒ぎがした。


 しばらくすると、部屋のチャイムが鳴る。


「お嬢さん、ありがとう。あなたのお陰で助けることができた」


 良かった。合ってたんだ。


 私は昨日、エキポナの耳の後ろに付いてるスイッチを入れた。


 エキポナは捜査の時、視線がそのままカメラになる。それがスイッチ式だという事を小学校に来たエキポナの人が説明してたのを覚えてたから。


 つまり、昨日部屋に来たエキポナのお兄さんの行為は向こうに丸分かりだったって事ね。


 私は崩れ落ちた。


 自然と目頭が熱くなる。


「あなたが稼いだお金は全てお返しするから、安心してね」


 そう言う目の前のお兄さんは輝きに満ちていた。


「おばさんや、朱梨ちゃんは?」


「ここのおばさんは、鬼の神って書いて鬼神(アラハバキ)と呼ばれるデュロルのグループと繋がっていて、そのデュロル達にお金を渡していたんだ。逮捕したから安心してね」


「鬼神……」


「朱梨ちゃんは、今さっき保護したよ」


「良かった」


「あなた、ご家族は?」


「いません、たった1人いたパパに捨てられました」


「ううん。違うんだ。あなたのパパさんは高千穂 宏介(ひろすけ)で合ってる?」


「は、はい」


「高千穂 宏介さんはあなたを庇ったんだ」


「……えっ?」


「あなたのママとパパは離婚してたって聞かされてたよね?」


「……はい」


「あなたのママは.....」


「おい片桐(かたぎり)!今それを話したらどんなショックを受けるか」


「そうですね」


「いいの、話して」


「……わかった」


「おい!」


「この子が聞きたいって言ってるんですよ。それを断る理由が分かりません」


「好きにしろ」


「では」


 かたぎりと呼ばれた男の人は、言いづらそうに、でもその中に真剣さを見せる目で私に言った。


「あなたのママは鬼神に殺されました」


「……!?」


「小学2年生だったあなたを守って。パパさんはあなたを守るために、毎月決まったお金を払う契約をして、あなたを鬼神に渡さなかったのです」


「え……」


「食費や生活費に鬼神への契約金が加わり、負担はかなり多かったことでしょう。その受け渡し場所はパチンコ店を抜けた先でした」


 私は言葉すら出なかった。


「とうとうお金を払えなくなってしまい、あなたを鬼神に受け渡さない方法は、あなた自身がお金を稼ぐ事だったのです」


「……鬼神」


「今日までよく耐えました。安心してください。パパさんはあの日、私が保護しました。あなた方に何かあればすぐ対処できるよう、後をつけていたのですが、申し訳ないことに、あなたの乗る車を見失ってしまって……」


 今まで堪えていたモノが一気に解放された。


「うわああああああぁぁぁ。ありがどおございまず……!」


「今日この日まで、あなたがどこに連れてかれたか分からず、助けに来れなくてすみません」


「うああぁぁあぁあ」


 これまでの苦しみ、無の感情から解放された喜び。見捨てずにいてくれたこと。大好きだったパパを疑ったこと。色々な感情が入り混じった。


「あの、お名前を」


「私の名は片桐 瑛太(えいた)です」


「この恩は一生忘れません。私もJEAのエキポナになります。その時には下に就かせて下さい!」


 せっかくエキポナになるなら、その身体の1番使い勝手のいい方法を選ぼう。


「え?エキポナに。私の下に就くのは難しいと思いますので、1つ約束をしましょう」


「は、はい。何でしょう?」


「いつか、信頼できる強い仲間を連れて私の所に来て下さい」


「わかりました!!それまでに私は強くなります!」


 その後、パパとも再会を果たし、感動の涙を流し合った。


「亜百合……辛かったな……」


「パパこそ……」


 となりの部屋の朱梨ちゃんとも会うことができ、朱梨ちゃんもエキポナになることを選んだ。


 朱梨ちゃんの隣の部屋にいた人はこのまま水商売を続けるそうで、殆どの部屋の人がそう決断した。


 パパにも事情を説明し、エキポナになることを快く受け入れてもらえた。


 しばらくしてエキポナの手術を受け、JEAの訓練施設に入る。





ー高千穂15歳ー


 チームアグア訓練生の中でも群を抜く的への命中率。風を読む力。噂は瞬く間に広がり、教官からも一目置かれていた。


「高千穂ちゃん僕と組もうよ!」


「亜百合ちゃん僕の仲間になってよ!亜百合ちゃんがいたら百人力だよ!!」


「た、高千穂さん。好きです。仲間になってもらえませんか?」


「あなたの強さに惹かれました!共に戦いましょう!」


 近寄ってくる男は皆、私が強いからとか人に任せっきりの人ばっか。


「え〜選びきれないよ〜」


 そう笑顔で答えるのが苦しかった。


 私を必要としてくれるのは嬉しいけど、あの人の言う「信頼できる仲間」にはなれない。



 私の前に信頼できる人なんて出てくるのかな。





ー高千穂16歳ー


 他チームの成績の上位の人が集まる合同訓練。


 チームは違っても誰もが知ってる英雄の峯岡さんと、対等に言い合う1人の男の子が目立った。


「おいクソ坊主!!ここまで来てお前がその態度じゃ俺の面子(めんつ)が立たねえだろーが!」


「うっせぇ!!おっちゃんのメンツなんて知るかっ!」


「お前にそんな口聞かれたら俺が他チームの奴からナメられるだろぅ?」


「んナメられるだろぅ?じゃねえよ!」


「ぷふっ!今の似てるぞ千歳!」


「本当か!んナメられるだろぅ?」


「ははははは!!似てる似てる!」


「いい加減にしやがらぁあぁあぁぁ!」


 ガツンと殴る音にその場には穏やかな笑い声に包まれた。そんな空気だから無駄に緊張はしなかったな。


 合同訓練が始まり、私が的をど真中で打ち抜くと次々と声をかけてくる男の子たち。


 ここに来てもいつも通り。


 すると、あの峯岡さんと張り合っていた男の子が声をかけて来た。


「お前すげぇな!!よおし!俺も負けねえぞ!」


「え!?」


 いつも声をかけてくる人達とは違った。


「藤長!!こいつかなり凄えぞ!俺らも負けてられねえな!凄えとこ見せてやらねえと!」


「そうだ……んぬぇ!?おんぬのく!そ、そうだな!」


「千歳お前の番だぞ!!」


「よし!行くぞ!!」


 私の横にいた2人の男の子は勢いよく走り出し、格闘ロボの各急所についている風船の的を目指した。


 チームルナは2人組みでいかに早く風船の的を破れるかの訓練だ。格闘ロボの動きも速く、人の動きを予測し、それに対処するプログラムが組まれているため、なかなか的を破れずに苦戦し、数分かけて全ての的を破るのが平均だった。それに対して2人は数秒で全ての的を破る。その瞬間を目撃した人は一斉に驚愕した。


「なんだあの2人!?」


「もう的を破ったのか!?」


 それには私も唖然とした。


 自然と足はその2人に向かっていた。


「君達凄いね!」


「お前に負けてらんねえからな!次も勝負だ!」


 この人たち本当に凄い。1人はずっと顔を赤くしてデロデロしてるけど。


 みんなから「ちとせ」って呼ばれてる人はどんな夢を持ってるんだろう。どんな理由でここにいるんだろう。





ー高千穂18歳ー


 千歳くんと他3人で埼玉のデュロル5人を対処したあの日、千歳くんは私に言ってくれたの。



 "俺くらい頼ったっていいだろ!!何度も合同訓練を共にした仲間じゃねえか!!


 お前は1人じゃねえ!!!


 この俺が仲間だ!!!!"



 って。


 千歳くんなら信頼できる。


 無事に約束果たせそうだよ。





ー現在ー


「______理解できた?」


「とんだ重い過去をお持ちだったのか」


 そんな過去を背負った彼女を、鼻の下伸ばして下心満載で近づいてしまった。俺はなんて情けない。なんて仁義のない人間なんだ。


「話してくれてありがとな、高千穂」


「いつか話さなくちゃいけないと思ってたから!」


「よおし分かった!!安心してついてこい!」


「うん!!」


 彼女の千歳への信頼度は何なんだ。確かに何か惹かれる所はあるが。


「高千穂、そんな過去を背負っているのによくデュロルにならなかったな」


「堀さん。私には目的がありました!そのお陰で絶望はしなかったんだと思います!」


「そうか。あと、その話に聞き覚えのある言葉があったんだが。『パラダイス』と言ったか?」


「はい、そうですけど?」


「パラダイスは鬼神の幹部、古田アンドリューが担当している事が分かっている」


「え!?」


「鬼神だと!!」


「ああ。パラダイスは関東から名古屋まで密かに広がる違法売春屋だ。それぞれ店を持たず、アパートを主に経営している。その店の安全を確保する為に鬼神に毎月売上額の50%を支払う制度らしい」


「それを仕切ってる鬼神が古田って奴なんですか?」


「ああ。恐らく、高千穂のお母さんを殺害し、お前を鬼神に入れさせようとしたのが古田アンドリューだろう」


「……!?」


「……おい高千穂」


「うん。堀さん、そいつは私を中心に作戦を練らしてください」


「いいだろう」


「2人は絶対ね。他の人にも協力してもらいましょう。そいつだけは絶対に許せない」


「丁度、次の犯行は古田の番らしく、明日朝に新幹線で名古屋に向かうようだ。それを狙え」


「分かりました。そいつが乗る新幹線だけ他の人が乗らないように手配お願いします」


「了解だ」


「他の人も集めましょ!明日にかかってる!」


「ああ!!」





ー時間は少々遡り、午前2時ー


「みんな集まったな。上河原の脱獄ご苦労だった」


「ああ!わいにかかれば朝飯前や!」


「ええ。今回ばかりは古田の活躍のおかげね」


「よくやった古田。そして、また全員が揃うことができた」


「ごめんネ、迷惑かけテ」


「気にするな。また、再開しようと思う。次は古田からだ。お前は明日東京駅7時30分発の新幹線で名古屋に向かってくれ。もう7号車の席は取ってある」


「話が早いや〜ん。その新幹線の乗客を狙えばええんやな?」


「そうだ。名古屋での犯行の後、パラダイスの売上金を持って、『ぞうきばやし株式会社』が名古屋に来てる。渡してこい。あとお前は黒人気質でちょっと目立つから、反対色の服は着るな、黒で統一しろ。アタッシュケースも黒地に銀の縦線2本が入ったコレにしろ」


「了解や。『ぞうきばやし』はちょっと緊張する……」


「嫌なら他の奴に任せるが、その場合、どうなるかわかっているだろうな」


「へいへい、やりますやん!」


「よし、古田はもう行っていい。上河原、お前も体を少し休めろ、行け」





ー現在ー


 鬼神は約10年前、姿を現してから裏社会で力を握っていた。


 子供が誘拐され、その親は騒がないように人身売買され。生きてることすら確認できない。


 それを今ここに保護している子達に知られては、また絶望の底に落としてしまうだろう。


 鬼神を盗聴して得た有力な情報として、「ぞうきばやし」って会社が怪しい。


 表では「鬼神が人間を捕食しなくてもいい薬を求める」態度を示していたが、裏では数々の悪事を行なっていた。段々と真相が見えてきた。


 暴かれてく真相に鬼神(あいつら)の怒りはどこまで登ってしまうのか。





ー翌日7時28分東京駅ー


ジジッ

「全身黒の服装、黒地に銀の縦線2本のアタッシュケースを持った黒人が乗り込むのを確認しました」


ジジッ

「了解」


 俺と高千穂、畑山、藤長、川崎さんは古田より後方車両に乗る。チームエル・ソルの4人と室瀬、里道は黒人より前方車両に乗り、古田を挟む形で乗り込んだ。


 鬼神の会議を盗聴していたおかげで、乗る車両と時間の特定ができた。誰が古田かを見極めるために、その時間に同じ車両に乗る予定だった人の予定をキャンセルする際、切符で購入した人は監視カメラの映像と照らし、事情を説明するため探し出し、実際に会いに行き、本人が対応した場合は確認でき、本人以外が対応した場合はその人が身内である証拠を取り、映像を見せ、購入した本人と断定させ、協力してもらいキャンセルしてもらう。ウェブ購入の際、登録されている電話番号に連絡し、事情を説明し協力してもらう。同じ車両の1席だけ、連絡が取れず、登録した電話番号が既に解約されており、登録してある住所が山奥の廃屋になっていたため、その席が古田だと判断した。その他の車両に乗る人のも直接確認を取り、キャンセルしてもらっている。そのため、その時間の新幹線に他の乗客はいない。その時間に改札を通り、7号車に乗ろうとした全身黒の服装で、黒地に銀の縦線2本のアタッシュケースを持った黒人が古田だとわかる。


 古田に怪しまれないように自然な動きと数千パターンの会話をプログラムしたマネキンを全車両の至る席に配置し、あたかも乗客が乗っているように見せかけた。


 誤って一般人が乗り込まないように、全ての開閉扉前に駅員を見張らせる。


 古田は席に着きソワソワと周りを見やるが、ドアが閉まり出発する。


 新幹線が動き出して間も無く、古田は動き出した。


 立ち上がり、最前車両の運転席を目掛け歩き出す。


 チームエル・ソルらの乗る6号車に入る。後をつけて行き、奴は逃げ場をなくす。古田は室瀬達がエキポナだと気が付いた。


 古田は真っ直ぐ、気づかないふりをして運転席のある車両に行こうとする。


「お前、古田アンドリューだな」


 ピクリと動く背中。早歩きになる。


「止まれ!」


 構わず歩く古田。


「里道!挟め!」


「了解!」


 古田の進行方向に里道が立ち塞ぐ。


「クッソお前ら何やねん」


「鬼神幹部古田アンドリュー。お前は『パラダイス』の違法売春や児童誘拐、大量虐殺を犯した犯罪者だ。観念しな」普段の顔より一層凛々しく真剣な顔の室瀬。


「人違いと思うんやけど〜」


「人違いならまず拘束しても大丈夫だな」


 室瀬がそう言うと古田は上半身真っ黒のデュロルに変身した。


「何故バレてるんや!!」


「里道!狭い車内だと俺は不利だ。頼む!あとチームエル・ソルも頼む!」


 そう言えばここにはチームエル・ソルもいた筈だけど。


「はぁ?一体何故貴様に僕ちゃん命令されなきゃいけないの?自分でやれ!」


「構ってられねえ」


「高千穂!お前も弓構えててくれ!」


「わかった!千歳くんは?」


「取り押さえる!!」


 デュロルは座席の列の間に入り、座席を蹴り飛ばす。四方に蹴り飛ばすお陰で中々近づけない。


 蹴り飛ばされた座席が固まってるチームエル・ソルに激突する。


「痛ああぁあぁあああぁいいいいぃぃい」


「大丈夫ですか?お怪我は?」


「ありませんか??手当のお金は?」


「払ってくれますか??」


 色々突っ込む所はあるが、今は目の前の古田に集中せねば。


 古田が座席を蹴り飛ばしてくれたお陰で少し広くなった。


 古田が俺に殴りかかってくるが、余りにも遅く見えてしまった。


 古田の左フックを回避し、脇腹に右フックをぶち込んだ。


「ダアアアーーー!!」


「おい千歳!!」


「悪い!!」


「追うぞ!!」


 放った右フックは古田の脇腹に命中し、新幹線の壁を突き破り、外に放り出してしまった。


 泣きわめくチームエル・ソルらも空いた壁から突き落とし、全員で新幹線から外に出る。


 もちろん高速で走行中だけど。


 ガガッと地面を抉る。チームエル・ソルは数百メートル勢いが止まらずに引きずられていた。


 古田は線路横の壁をよじ登り、下の田んぼに逃げる。俺らも後を追うが、広々とした田んぼにはデュロルの体はあまりに目立った。


 長い間使われてないのか、土が枯れている。


 里道と高千穂は矢を放ち、古田の行く手を塞ぐ。


 藤長が追いつき、背中を切る。


 飛び散る血が枯れた土を彩る。


 古田は起き上がると、体から数本の刀を生やしていた。


「わいに攻撃は無駄や。吸収しちゃうよ〜」


 両腕からも刀を生やす。


「ガキが大人をナメたらどんな目に合うのか教えてやるで。わいらに手ぇ出したこと後悔せぇや!!!!」




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