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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
106/144

105話ー敷いた道ー

 ゴンゾーが対峙した鬼。


 剛脚を持ちながらも。


 物体をすり抜ける。


宮武(みやたけ) 権蔵(ごんぞう)チームー


 何が起きたか分からなかった。


 今、宮武(おれ)は地面に鼻血を垂らしてる。


 乾燥した砂を、俺の血は黒く染めた。


 ジョニスとヘイルの盾を、ルパオはすり抜けた……?


 ルパオの本当の能力か。


 厄介すぎるだろ……。


 ルパオは今、屈強な脚で地面に立っている。あの脚の攻撃力に、絶対的な防御力。しかし、序盤あいつは能力を使わなかった。能力を使うとデメリットがあるのか?


 使わなくても俺らに勝てると踏んでいた?


 それとも、奴の過去と関係してるのか?


 ルパオは俺に急接近する。手前に張手で衝撃波を出した。しかし、奴の脚は俺の左肩に届く。


 咄嗟に避けていなければ、ルパオの脚は俺の顎を吹き飛ばしていた。俺の左肩の骨は砕けた……。


「ゴンゾー!!」


 ジョニスはシールドを展開するも、ルパオに鳩尾(みぞおち)を打ち抜かれ、後方に構える兵士に突っ込む。


 衝撃がある以上、脚の接地面は実体がある。


 あの速さで蹴っておいて、衝突の瞬間だけ透過せずに実体化させてる。しかも接地面だけって……。ルパオ、器用な奴だ。


 能力の練度が、これまでのデュロルと桁が違う。


 これが鬼。


 能力を使ってからたった3発の蹴りで、ここまで見せつけられるか。


 しかし、何故だ。


 ルパオから恐怖を感じない。


 "力がありゃ強ぇってのは、道を舐め腐ってるなぁ権蔵(ごんぞう)。"


 オヤジの方が断然に怖かったからか。





ー権蔵 10歳ー


組長(オヤジ)!どうしたんすかその傷!」


「アヤハハ!ちょいと道でな!ナメたガキが居てよ」


「そんガキ攫い行きやしょう!おい!表に車回しとけ!組長、1人で出るのはおやめくださいと……」


「バカヤロぉ!」


 オヤジは自分の頬の血を拭きながら、若頭に怒鳴った。


「俺の力が弱えだけだ。それにあっちはカタギだ。攫うって思考を誰が教えたよ竹田(たけだ)ぁ」


 オヤジは、絶対に手を出さない。


 ヤクザなのに、暴力はしなかった。


「すいやせん。組長(オヤジ)がそんなまでされて、許せんくて」


「その優しさを周りにも向けろ」


 他の組からケツ割った竹田を、オヤジは受け入れた。そっから、竹田は若頭にまでなる。


 俺は家がヤクザってことで、学校じゃ人が寄ってこなかった。


 宮武組がいくら暴力しないとしても、世間の目は周りと変わらない。


 俺はそれが嫌だった。


 オヤジはヤクザとしては異端だ。


「オヤジ、俺家出るわ」


 オヤジはしばらく黙ってから、盛大に笑った。


「10になったガキが、どう生きてくんだ?」


 竹田も近くに居た。


「どうにかなる。いくらオヤジが暴力しねえからって、俺はヤクザにならねえ」


 竹田は表情を動かさない。


「俺はヤクザが嫌いだからな」


「ザッハッハ!そうか!好きにしろ!俺ぁ心配だからよ、ちょくちょく様子見るで」


 俺は当てもなく家を出た。


 ポケットに入ってた5万を、俺は川に投げ捨てようとした。意地だった。オヤジが入れたんだろうけど、これを使ったら負けた気がしたから。


「若。ここに居やしたか」


 河川敷の高架下。俺の後ろに竹田は立っていた。


「竹田……。何だ」


「俺ぁ組長を尊敬してやす」


「……知ってるよ」


「組長を侮辱した若を、俺ぁ許せやせん」


「……納めろ竹田」


 その鋭利な刃は、俺の首の皮を掠める。


 竹田は本気なのだと、この時に知る。


 竹田を背負い、地面に叩き落とす。


「もう、俺を追うな竹田」


「何で……殴んねんすか!俺ぁ若を殺そうとしたんすよ!」


 そう言われて、俺はハッとした。無意識に殴るって選択肢を除外してたから。


 竹田を放し、その場から去る。


 しかし、俺は背中を刺された。


 幾度となく続く激痛の中で、意識は遠くなる。


 気が付いた時、俺は病室に居た。


 側にはオヤジが座っていた。


「気ぃ付いたか権蔵」


「オヤジ……」


「お前、何で竹田をやんなかった」


「……」


「ザッハッハ!!」


 静かな病室に、その豪快な笑いは存外に響く。


 その笑いに驚いて起きた身体は軽かった。手は機械に。見渡した俺の身体は機械だった。


「許せよ。そうしなきゃお前は死んでた」


 俺に何があったかは、想像できた。


「竹田か」


「ああ。そうだ。俺ぁ竹田を止めらんなかった。いや、気付けなかった。あんな化け物になっちまいやがって」


 何だか廊下が騒がしい。


「俺がやってきたヤクザは暴力じゃねえ」


 オヤジは廊下の影をチラと見る。


「俺ぁ生き様こそがヤクザやと思っとる」


「生き様?」


「俺も生まれた時からヤクザでよお、お前みたいな考えを持ってた」


 オヤジも?


「暴力ばっか見てたからよ、反面教師ってやつだな」


 それでオヤジは暴力を……。


「世の中のヤクザの印象ってのは変わらねえ。俺がいくら暴力しねえからって、風当たりは変わらん。でもよ、そんな変わり者のヤクザが居たってことを知ってもらう。ヤクザってもんが無くなりゃいいって思いながら、ヤクザやってる半端者だ」


 初めて聞く、オヤジの本音。


「でもよ、それが俺の極道(ヤクザ)だ」


 廊下はより一層騒がしくなる。


「そんな自分で敷いた道を、俺ぁ踏み外した」


「え?」


「俺ぁ竹田を殺した」


「……は?」


「優しいサツでよ、どうしても権蔵と話してえって言ったら聞いてくれた」


 廊下の影は、警察……。


「だからこれが、権蔵との最後の会話だ。出てきたとしても、俺ぁ組のもんやっちまった。殺されんのがオチだろうな。ザッハッハ!」


「笑い事じゃ……」


 病室のドアを、誰かがノックする。


「ああ、今行く」


 オヤジは返事してから、俺を見た。


「権蔵、ヤクザを拒んでもよ、性根はヤクザやぜ。命狙った竹田に暴力しなかった。お前は俺以上に、自分の道持ってる格好良い漢だ」


 立ち上がり、俺の髪を掻き乱す。


「自分の道は自分で敷いて歩け。踏み外すなよ」


 歩き出す。


「オヤジ……?親父……親父!!!」


 親父の姿が、染み付いて離れない。


 俺はそんな親父が怖い。


 ヤクザの世界で、縛られずに自分の道敷くのは容易じゃねえ。


 それを、竹田を殺すまで貫いた親父は凄い奴だ。まあ、殺しちまったからクズに変わりねえけど。そんくらい自分の意思貫く親父の方が怖い。


 ルパオも確かに強い。けど、何か、自分を否定してるように感じる。


 透過する能力……辛い過去の表れ。


 ルパオは過去の自分を受け入れた。俺も親父の言葉から逃げてられねえな。


 ヤクザには成りなくない。けど、親父の望んだことは出来る。だから俺はJEAに入った。恵まれた体格活かして人を守りたかった。ヤクザの反面教師か。JEAの中でもなるべく暴力しないチームアルボルに入隊した。直接殴らずに済むように、盾と、衝撃波で動きを封じることに徹した。


 これが俺の道。踏み外してない。


 呼吸して、目の前を見る。


 ルパオは透き通る。だが、あいつは地面に立ってる。触れられる。触れられるなら、動きを止められる。


 【注連縄張手(しめなわはりて)】の衝撃波で作った縄も、ルパオは透けた。


 ……ジョニスとヘイルのシールドも透けた。


 けど、蹴られた。身体は当たった。


 いや安直か。想だけを透けるとは考え難い。


 危険だが、確かめる必要がある。


 俺はルパオに正面から突っ込んだ。張り手で衝撃波を飛ばすも、ルパオはビクともしない。飛ばした衝撃波を掴んで縄にし、後方の小石を幾つか掴んで引き寄せる。ルパオのドテッ腹を貫いてる縄は俺の手元に来る。俺の手に小石があった。


 ルパオは物理的にも透き通る。


 難易度は爆上がりだな。


 衝突の瞬間に捉えるか、不意を突くか。そう言ってる間に、ルパオの脚は俺の右腕に届きそうだった。左肩は砕けてるから、ここで右腕が使えなくなるのは困るな。


 俺は退く体勢を見せた。ルパオは構わずに脚を振るう。それを見てから、俺はルパオの脚側に突っ込んだ。


 賭けだった。


 ルパオの脚は俺の右腕をすり抜け胴を打つ。


 後方に吹き飛び、吐血する。


 ルパオは衝突の瞬間だけ接地面を実体化させる。ご丁寧に、踏み切った方の脚も宙に浮かしてる。衝突の接地面だけが見事に実体化されるようになってる。


 精密な想には、精密な想で対応する。


 ルパオを錯覚させれば……。ほんの一瞬、俺の身体に触れる接地面に、薄い衝撃波を作る。


 それに気付かれれば、ルパオは透過してしまう。


 蹴る瞬間あいつは宙に浮く。ルパオに触れる瞬間は、衝突時しかない。


 コンマ何秒の世界。そこに、全てを賭ける。


 このカウンターは、千歳(ちとせ)(れん)に特訓してもらった。あいつらの速さで目は慣れてる。やれる。


 心臓の鼓動を呼吸で整える。


 ルパオは、ジョニスとヘイルに目を向けずに、俺に距離を詰めた。


 ルパオに向けて衝撃波を飛ばす。構い無しにすり抜けやがる。そっから脚が届くまで、瞬き一つする間もない。


 身体の動きを見る。脚が打ち込まれる場所。


 それはほぼ、直感に近かった。


 衝突の寸前まで、その場所に想を集めない。


 さっきまでと同様に、蹴りが見えてないフリをする。


 ルパオの脚は、俺の首元に来ていた。タイミングがズレれば、首は飛ぶ。死に至る。


 保守的になれば、直ぐにでも想を集めたい。しかし、それが気付かれれば透かされる。


 届くまでのコンマ数秒がやけに遅く感じるのは何故だ。


 走馬灯を見る訳でもない……。


 俺はゾーンに入ってるのか。



 【極想(きょくそう) 注連縄張手(しめなわはりて) 点締(ともしめ)



 首元の皮膚からナノにも満たない距離に、全身の想を即座に掻き集めた。


 それに触れた瞬間、衝撃音が耳を(つんざ)いた。その音から逃れるように、俺の身体は反射的に動く。


 一瞬目を閉じたことに気付いて、急いでルパオを見やる。


 ルパオの左脚は、血飛沫を撒き散らし、脛から砕け飛んでいた。収まらない衝撃に、ルパオは空中で回転する。


「脚ぁああああぁあああああ!!!」


 喉が千切れる程の絶叫の後、地面に転げる。


 地面に落ちたルパオは、下半身が地面に埋もれた。透けたまま地面に着いた、それに気付いて途中で透過を解除した。見ただけでそれを理解する姿勢だった。


 俺はそれが見えた。しかし、反動で飛ばされた威力が落ちずに、直ぐに向かえない。


「ジョニス!ヘイル!!」


 俺がそう叫んだだけで、2人はルパオに駆け寄った。


 本当、優秀すぎて助かる。


「みんな!!今だ!!」


 後方で待機していた兵士達は走り出す。


 地面から上がろうと腕を立てるルパオに、ジョニスとヘイルは腕目掛けてシールドで殴る。


 ルパオは地面の下に入ることを嫌がっている。腕を透かす事なく、腕が砕かれてでも地面にしがみつく判断をした。


 俺は地面に転げ、体勢を立て直してから再度ルパオを見た。


 ルパオは足掻くのを止めていた。言わばパニック状態。奴にとってあの強靭な脚は、自身の過去と深く関わりがあったのだろう。それ故に()で、頼った。透過という強力な能力を持ってしても、脚に執着した。


 それを失ったこと。透過能力を誤り、下半身を地面に埋めてしまう。


 その今の姿が、過去の自分と重なるのだろう。


 ルパオは砕けた腕で頭を抱え、ただ絶叫していた。


 子供のような、単純明快な恐怖。


 改めて思う。


 強力な想の裏には、深い絶望が携わっていることを。


 その絶望を絶望のままにするのか、それを力に変えるかは、人による。


 デュロルもまた人。


 鬼であれ、奥にあるのは人。


 ルパオは今、何を想う。


 後方で待機していた兵士の刃が、ルパオの首に届こうとしてる。最初の数回は透過したが、身体が下にズレたことを境に、透過を止めた。


 そのズレは透過によるものじゃなかった。地面の中で透過が解除され、下半身の位置にあった地面は退かされていた。その分、地面は脆くなる。


 自身の重さで沈んだ。それを透過だと錯覚する程に、ルパオは追い込まれていた。


 モーラの刃が、ルパオの首を斬った。


 ルパオとの戦いは、かなり短時間だった。それに見合わない程の疲労が、俺とジョニスとヘイルに襲った。


 汗と、呼吸と、傷の痛みが感じさせる。


 判断を一個でも間違えていたらという、有りもしない恐怖。


 俺一人じゃ成し得なかった。


 俺の敷く道。


 後に続く者が、安定して歩きやすいものになったなら、俺も……親父も満足だろ。


 更に後方で待機していた部隊に決着を知らせ、後処理を頼んだ。


 千歳の元に、歩を進める。




 タイマフィア【ジャキンレーオナ】

 幹部

 鬼名【触鬼(ふれき)

 オハッチャ・ルパオ・パー 絶命。





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