表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
105/144

104話ー非力ー

 人に夢を強制的に描かせる能力。


 人は懐かしさを糧に想いを馳せる。


 心優しいデュロル。


宮武(みやたけ) 権蔵(ごんぞう)チームー


 広大な土地に一本の道が通る。その上を、数台の装甲車が走る。


 砂煙が度々横から吹く為、警戒が必要だ。


「ゴンゾー!最高なミッションなのによ、訓練の時みてえに落ち着いてるよな。俺は緊張しちまってるぜ」


「同感だ!街の任務(ケンカ)とは全然違え。この緊張感はやべえのによ!」


「訓練も、任務も同じだ。いつも通りすれば、何ら問題は無い」


「渋いなあ。街のギャングとはえらく違うぜ。これが日本のヤクザってやつかい」


 千歳(ちとせ)達や、北海道の仲間達には気付かれなかったのに、このヤンチャ達には直ぐ気付かれた。仕草や口調は出してない。だが、それ程にこいつらの感覚は鋭いのだ。


 こいつらは、俺が(そう)の説明を一度しただけで感覚を掴んだ。俺の見様見真似とは言うものの、そんな芸当、日本でも出来る奴は少ない。


 荒れた街で育ったこいつらは、感覚を掴む力と見る力が飛び抜けてるんだろうな。


 だからって、俺が隠し通してきた家事情にまで気付くかね。


「それに、その事は内密と言ったろう」


「ここにゃ俺らしか居ねえし、あんま気にすんなって」


「あんまゴンゾーを怒らすなよヘイル。指詰められるぜ」


「おっと、俺の可愛い小指ちゃん大人しくしてろ?」


 慣れない。


 日本でも俺はイジられキャラではあった。だが、千歳にイジられる時と違うのは明らか。こっちは、何か、激しい。


 こうもイジられると、嫌でも思い出してしまうな。


 "権蔵(ごんぞう)、ヤクザを拒んでもよ、性根はヤクザやぜ。"


 オヤジの言葉。ずっと心に残り続けてやがる。


 オヤジ一代で組を高い地位まで築き上げ、そこに産まれた一人息子。ゆくゆくは組を引っ張るだろうと期待された。


 しかし、俺は拒んだ。生粋のヤクザ家系から、異質が産まれてしまった。そのことが気に食わなかった当時の若頭は、俺を半殺しにした。


 俺の身体は、一度死んだ。


 気付いた時には、俺はエキポナになっていた。


 身体を機械にしないと、生きれない身体にされたんだ。


 俺は後悔してない。今こうして、充実した日を送れてる。楽しい仲間にも出会えた。


「ゴンゾー、今日はやけに浸ってるねえ」


「ああ言っときながら、実は超緊張してんじゃねえか?」


「……ああ。いや、まあ、緊張は……」


 度を超えた重圧……!!


「来る!」


 【超硬えバリアぁ!!】


 ヘイルは装甲車の外に分厚いバリアを張った。


 そのバリアに衝突する、凄まじい衝撃。


 ヘイルの両腕は微かに震えていた。


 ジョニスは装甲車を飛び出し、衝撃の正体を見る。


「鹿みてぇな2本ツノに、腰に注連縄(しめなわ)!鬼だ!!」


 ヘイルと共に装甲車を飛び出し、他の装甲車からもチームメンバーが降車する。装甲車を後ろに退かせ、鬼に相対する。


 ジョニスの言った通り、鹿のツノに似ている。それ以外は、特に武具は持っていない。何処かから取り出せる可能性もある。いやしかし、先程の衝撃は、あの屈強すぎる両脚から放たれたものだろう。


宮武(みやたけ) 権蔵(ごんぞう)。オリが目ぇ付けてた漢ぉ。ここに来て正解だったぜぃ」


 癖のある喋り方だ。


「オリの脚が気になるけぃ、やっぱ見るとこ違ぇねい」


 ……いや、嘘だ。決めつけるな。脚が発達してるだけで鬼になるか?何を基盤にして鬼になってるかは知らんが、他に何か……。


 奴の脚が、俺の右頬を掠る。その風圧に、俺は体勢を崩した。カバーするように、仲間が駆け寄る。


 しかし奴は、再度距離を取る。


 まるで、ただその威力を見せつけたかのように。


「オハッチャ・ルパオ・パー。脚にステ全振りした漢ぉ〜」


「ゴンゾー!鬼ってのを生で初めて見たけどよ、どいつもこんな狂ってんのか?」


「ああ、身体能力は狂ってる」


 ルパオは自身の脚を撫でていた。その脚は、鍛錬を極めていた。デュロルであろうと、見惚れてしまうのは仕方ない。


「良い脚だな」


 思わず声に出た。


「アッハッ!アッハハハハ!」


 ルパオは嬉しそうにしている。思わず褒める形になったが、ルパオは褒められる事をしてる訳じゃない。その脚が人に向けられてきたなら、俺は今、犠牲者の矛となる必要がある。


 こっちに来て出会ったジョニスとヘイルは、両親兄妹をデュロルに殺されてる。他の仲間達も被害者だ。自分の力で生き抜かなきゃならないあの街で、幼くして親を亡くしたジョニスとヘイルの強くなりたいという想いは計り知れない。


 デュロルを褒めることは、その人らにとって屈辱だろう。


「すまない。心無いことを言った」


 ルパオに背を向け、仲間に深く頭を下げる。


「ねぇ〜、敵に背を向けるって馬鹿ぁ?」


 ルパオの蹴りを躱し、その脚を掴んで放る。


 無礼をそのままにできない。


 頭を下げるだけで言葉が取り消しになる訳じゃない。だが、タイミングを逃せば一生言えず、死んでも後悔する。


 それに、確かめておきたかった。


「ルパオの脚、血の匂いがこびりついてた。数えきれない人を殺してる」


 一度汚してしまったら、いくら洗い流そうと痕は取れない。デュロルの中には、人を殺めずに鬼の地位まで登り詰める者も居る。ルパオも、そうであって欲しかった。


「じゃあゴンゾー、思いっきり行けんね」


 ジョニスとヘイルは身の丈以上の大楯を構えた。2人とも盾使いだ。


 チームアルボルの役目は体勢の立て直し。前衛兵士のカバーと、後方支援。倒れることの無い最後の砦となること。


 しかし、俺のチームは真逆だ。


 砦の俺らが作り出した隙を、体力を残した後ろの奴らが刺す。前衛は俺ら3人。後衛は精鋭14人。心強い後衛達だ。


 北海道チームエル・ソルでは、俺は中衛だった。(れん)(おか)が敵を激しく削り、俺は暴れる2人の補助。後衛は正人(まさと)。糸のような隙を突く、優れた兵士。デュロルからしたら、日本のチームエル・ソルは脅威だろう。その脅威が前衛で張ることは、圧になる。


 ジョニスとヘイルは、俺に次ぐ想の技術を持つ。


 ルパオの体力を俺らで削り取る。


張盾(はりたて) 注連縄張手(しめなわはりて)


 右手の平を突き出し、衝撃波を畝らせる。反応が遅れたルパオは、衝撃波に触れて体勢を崩す。衝撃波に触れた感覚を、そのまま掴む。衝撃波は注連縄となり、ルパオを捉える。それを引き寄せようと踏ん張った。しかし、逆に引っ張られてしまう。ルパオの強靭な脚部が重心を支えていた。


「ヘイル!!」


 ジョニスの掛け声で2人は前進する。


【超硬えバリアぁ!!】


 ヘイルの突進と同時に生成された半円球のバリアが、ルパオの体勢を崩した。


【クレーター……】


 ジョニスのバリアが展開する前に、ルパオは姿を消した。俺の注連縄から脱し、ジョニスが俺の横を通り過ぎて行く。


 転げたジョニスが後方で立ち上がる。


 ルパオは一瞬でジョニスを蹴り飛ばした。


 そして、ルパオは既にジョニスを蹴っていた。


 速すぎる。


 目で追えても身体の反応が追い付かない。


 いや、追い付かなければ勝てない。


 あの脚部に鬼の想を全振りしてるなら、今以上の力が出る筈。


 ルパオは振り向いて虚空に右脚を突き出す。


 一瞬にして空気の歪みは届き、俺はその圧に後方へズラされる。空気を蹴ったのだ。


 ……。


 この違和感は何だ。


 ルパオはヘイルへ接近し、蹴り飛ばそうと踏み込む。俺の突き出した注連縄はルパオを捉える。地面に脚が着いてない瞬間を狙った為に、ルパオを引き寄せるのは他愛無かった。既に速さにも順応した。あの脚部も凄いが、脅威では無い。


 ルパオは虚空を蹴り、その威力を飛ばした。それは日本の奴らも数人できる。


 もし脚部に想を全振りしただけなら、もっと高威力な蹴りがあるだけ。後は移動速度が上がるくらい。地面は砂気の多いもの。高威力の踏み込みをすれば、その分地面も砕けて踏ん張りが効かなくなる。


 ……本当の能力は何だ??


 これだけで、本当に鬼になれるのか?


 世界デュロル保護機構のルータスはこんなもんじゃなかった。鬼の名に相応しい強敵だった。


 ルパオも鬼だ。しかし、今ルパオは、俺の注連縄に引かれ、後方から突進しながら展開されたジョニスのシールドに装甲が砕けたところだ。


 廉1人でもどうにかなる相手だぞ。


 これはまずいな。


 能力を使わず、脚部の筋力だけでここまでやってのけるとは。能力の発動タイミングによって、前衛の3人は壊滅する。


 ……。


 能力を発動させることなく、仕留める。


【注連縄張手 大綱押出(おおつなおしだし)


 注連縄の衝撃を絶え間なく与える。脚さえ掬ってしまえば、ルパオは何も出来ない。千歳が見せた、虚空を蹴って移動するってのも出来ないっぽいしな。


 ルパオは上空へと飛ばされる。


【クレーターシールド】


 ジョニスが空中に球体型のバリアを作る。そこに注連縄を付けて俺を引き寄せる。それを繰り返してルパオを追いかけた。地上の2人に注連縄を付け、上空に引き上げる。


【注連縄張手 大綱引き】


 ルパオに装甲が揺れる程の衝撃波を与えて吹き飛ばし、途中で左腕を掴む。音速近い速度から急停止する。ルパオの肩が外れた。音速近い速度で注連縄を引き寄せ、ジョニスとヘイルはタイミングを合わせる為に準備した。





 鈍足な奴らかと思ってたのになあ。


 まさか、オリが短時間でここまでやられるとは思いもしなかったい。


 この脚に対応される前に、いつも蹴り殺してたもんなあ。速度への順応が早かったい。


 やっぱ日本のデブは戦闘経験が段違いだぬ。戦闘の組み立て方も上手え。オリの不利な空中戦に持ってかれたし、盾使いなのに何で空中戦できんのかに。


 この速さでシールド喰らったら、さすがに痛いよにぃ。


 ……使おうなんて、久しぶりに考えたぬ。


 この感情が嫌いだから、使わずにやってきたんに。



ールパオ 6歳ー


 オリが周りと違うことを理解した歳。


 元気に外を駆ける友達。


 その都度、オリは下半身を見た。


 生まれつき、オリに脚は無かった。


 車椅子に乗り、行ける場所の限られる生活をしていた。


 それだけなら、オリは我慢できた。


 小さな子供は無知が故に残酷で、オリは笑いの対象となる。


 周りと違うってだけで。


 違う部分が目に見えてるってだけで。


 車椅子から降り、引き摺りながら遠くに行ったこともあった。


 自分の非力さを痛感した。


 親って存在が居たなら、オリは救われたのかもしれない。


 周りからの視線の全てを痛く感じた。


 引き摺った傷口が痛くてたまらなかった。


 もうこのまま落ちてしまいたい。


 この車椅子を、地面を、何もかもすり抜けて、真っ逆さまに。


 視線も、オリに当たるから痛いんだ。


 デュロルみたいに強い存在なら、周りの目を気にしなくなるのかな。


 非力だから、気にしちゃうんだ。


 朝、悲鳴で目が覚めた。


 オリから逃げて行くおばちゃんが見えた。


 ベッドから起き上がる時の違和感。


 脚があった。


 立つことに慣れなかったが、数分でコツを掴む。


 施設の全員を脚で踏み殺した時、エキポナが到着した。オリは能力で逃げ延びた。


 自分の脚で何処までも行けることが嬉しくて、嬉しくて、歌いながら走った。


 人生は輝きはじめた。


 でも、能力を使うと、脚が無かった頃の自分の非力さを思い出してしまう。


 願う程に非力だった自分を。


 その感情が嫌いだから、脚を鍛えたんだ。


 その脚も、今じゃ意味を成さにい。


 空中じゃこの脚も使えね。


 シールドを蹴ろうとしたけど、あのデブが衝撃波を出しやがる。


 はあ、空中戦も想定しとけば良かったぃ。


 今更悔いても仕方にい。覚悟を決めるけ。


 【大想(たいそう) アイディアル・ルパオ】


 デブの両端のシールドはオリをすり抜けた。


 堂々と中央突破される時の顔は、いつ見ても良いものだに。


 デブの顔、両端の2人を蹴り飛ばした。


 非力な自分を思い出す。


 その自分に言い聞かすように、俺は能力を使っていこう。


 すり抜けるオリを、倒せると思うな。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ