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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
103/144

102話ー磔ー

 正人の前に現れた土を操る鬼。


 守りに特化した正人は苦戦する。


 激しい呼吸の中で聞こえた藍の声に気付かされる。


室瀬(むろせ) 正人(まさと)チームー


 高葦(たかあし)大想(たいそう)が作った俺らを囲む山。その一部分の土を退かして穴を作る。


 今土の中には、【磔装填(はりつけそうてん)】で放った大矢を、形状変化させて張り巡らせている。土の山を高葦に動かさせない為。


 この山の内側に仲間が居たら、俺の"我武者羅"が発揮できない。仲間を守りながら、殺傷能力のある技を展開するのは危険すぎる。


 それに、みんなを守る為に伸ばした能力を、攻撃に変更するとなると、俺ですら分からないことが起こりかねない。


 けど今の俺は、みんなの援護を頼らないだけの自信がある。


 何故か今、出来る気がする。


「みんな穴から出て!なるべく遠くに離れて!」


「そんな!マサトはどうするの!?」


「俺なら大丈夫だ!やってみたいことがある!」


 俺を心配したルルーザの肩に、エリックが手を乗せて頷く。


 俺以外の13人は穴から出て行く。


 そうはさせないと高葦は土を伸ばした。俺はそれを阻む。


「いや……正人さんらしくないっすね。焦ったんすか。ここであの人達を退かせるのは誤判断じゃねっすか」


「警戒してるんだね高葦。俺が1人になったら、普通は喜ぶんじゃない?」


「もちろん警戒はしてるっすよ。ちょっと意識を広げるのが面倒なだけっすね」


 焦ってるな高葦。


 高葦、こいつは俺らを調べてる。


 だからこそ、想定外を警戒してる。


 俺はみんなを守ることしかして来なかった。吐出した攻撃性は無い。みんなを退かせた事イコール、知らない何かをする兆候。


 お前は勘が良いよ。その通りだもん。


 初めて、暴れてやろうって思ったんだからな。


 地中の矢に意識を向けつつ、背中の矢筒から大矢を引き抜く。高葦は弦を引かせまいと距離を詰めた。


 【大想(たいそう) 磔装填(はりつけそうてん) 銀根(ぎんこん)


 地中に根のように変形させ張り巡らせていた大矢。その枝分かれした先端を地上に突き出し、それぞれが高葦に向かって突き進む。


「マジっすか!」


 高葦は体勢を崩しながら躱すも、数カ所は斬れた。しかし、擦り傷程度。致命傷では無い。この数を避け続けるのか?四方を囲む山の中までビッシリ根は張ってるのに。どうし……。


 俺は息を呑んだ。


 呼吸を乱す。


「気付くの遅いっすよ」


 高葦は地面を動かしてない。


「疲れ、溜まってんじゃねっすか」


 地面を動かさせない為に、俺は根を張り巡らせた。でも高葦は動かしてない。地面を動かす労力に、体力や想を使わなくて良い。


 なら……。


「俺はそれを上回るだけだ!!」


 更に根を増やし、雨のように先端を降り注ぐ。


 高葦は動かせる土を防御に使うものの、それすらを上回る数で翻弄する。


 高葦に、切り傷は増えていく。


「本っ当……つくづく……(れん)じゃなくて良かったって思うっすよ」


 致命傷を躱し続けて、高葦は圧のある声でそう言った。


「数打てばいいってもんじゃねっすよ。何してくるんかと思ったら、想定内のことしてきたっすもんね」


 想定内……だと。


「詰めが甘いと言うか。1人で暴れるより、周り頼った方が賢かったっすね」


「そんな挑発には乗らない!!お前が追い込まれてるだけだ!!」


「いや、全然っす。だって……」


 【極想(きょくそう) (たたり)日望更生(ひのぞみしこうせい)


「まだこんなに想残ってるっすよ」


 ここで極想……!


 透化モニターで、仲間の位置を確認する。かなり離れてくれてる。


「自分のことは二の次っすか」


 地面が沈んだ。液体みたく波打ち、俺の根すらもスルリ通り抜ける。


 俺と高葦が居るこの位置を中心にして、円錐形に大きく凹む。蟻地獄の超デカいバージョン。一つの街は壊滅するぞ……。


 俺の位置がどんだけ凹んだのかは、周囲の土を見れば分かる。その高さは600メートルを超えてるだろうな。


「かなり痛いっすよ」


 高葦は周囲の土に包まれ、地中へ消えた。


 天井は閉じた。


 途端、全身の感覚が麻痺したと錯覚する程の衝撃に襲われる。透化モニターは砕かれ、装甲が身体へと食い込む。


 そして、土は畝り始める。


 俺の、生温かい血に触れた。


 遠のく意識を、強引に掴んでる状態。


 四肢が残り、意識があることは奇跡に近い。


 もうすぐ、酸素も尽きる……。


 このまま何も出来ないのか?


 そんな最期で良い訳ないだろ。


 足掻け。


 足掻き倒せ。


 大弓【磔装填(はりつけそうてん)】に連結させていた副腕を解除し、肩甲骨に付ける。その時、大弓を中央で分け、それぞれの副腕と連結させる。


 【磔装填(はりつけそうてん) 爪根(がこん)


 回転させた副腕で地中を突き進む。その途中、副腕から八方に乱雑に弾を射出する。適当なところで弾を棒状に変形させた。


 俺が地中で動き出したことを高葦は知ってる筈。あいつは土を動かすだろう。その時に、展開させた棒との距離と、棒がどう動いたかによって俺の位置を把握する為。俺が居る位置を見失えば、命は落ちる。





 正人が地中で動き出した。


 土の重さが正人に向くようにしたのに、まだ動くか。高葦(おれ)が調べた時は、そんなに執拗な奴だとは思えなかった。やはり土壇場で人は変わるのか?


 正人の位置は把握している。その距離からは俺に何も出来ない。17発、小さな弾を射出したな。それは棒状に変わるやつ……やっぱりね。


 自分の位置を把握する為かな。思い通りにさせてあげるよ。


 地中を動かす寸前、正人の周囲に再度弾が配置された。


 それに意識を取られ、棒から伸びる針に気付くのが遅れた。


「っぶね」


 この棒も、根になるのか。


 地中を動かし、正人の身体をへし折ろうと意識を向けた。


「……しくった」


 正人と同じ形に、同じ想を込めた物が27つある。動きの癖まで似せてある。デコイかよ。これは……完全に……。


「見失っちまった」


 あのデコイ達全員を、俺に近づけなければ良い。


 俺はデコイ達を遠ざけようとしてる。けど、集中できない!!辺りに散らばった17本の棒が、乱雑に俺を襲ってくる。


 地中は俺の天下だろ!


 正人に振り回されてどうする!


 デコイの1つが、真下に居る。


「やっべ!」


 俺の頭蓋を狙った棒の急襲。それを躱した。


 強い衝撃……変形したデコイに突き上げられた。


 土を固めていたにも拘らず、俺は地上に飛び出ていた。


 デコイは地中に根を張ったまま、俺に引っ付いていた。俺に触れた箇所から、デコイの根は全身に巻き付く。土でデコイを引き剥がそうにも、他のデコイから伸びる根が俺に絡み付くんだよ。


 残るデコイは6体。17つのデコイを使って、俺を拘束しただけだ。残りの数で何が出来る!


「キツいのは正人さんの方っすよねえぇ!!」


 全てのデコイは副腕を取り、大弓に変形させた。


「っは!!正人さん!地中から俺を射抜くつもりっすか!無謀っすよ!冷静になった方が良いんじゃねっすか!」


 地中に居なくたって、俺は地を動かせる。


 地中から飛ばす矢なんて、何ら脅威じゃない。


 デコイ6体は一斉に矢を引いた。


 くそっ!土で邪魔してんのに、身体に絡み付く根が邪魔でトドメが刺せねえ!!


 デコイ6体に与えた傷は、致命傷を優に超えてるだろ!!


 デコイですら想定外なのに、まだ大技が残ってるってのか……!?


 想定……外……。



 【極想(きょくそう) 磔装填(はりつけそうてん) (はりつけ)



 極想……。


 そんな想……無かっただろうが!!!


 ふざけんじゃねえ!!


 矢を放つ瞬間、デコイ5体は変形する。1人のデコイ……正人と俺を直線で結ぶ筒になる。その筒の根は、地中を張り巡らせ、地上にまで及ぶ。俺が動かすのに時間がかかる地盤にまで根を伸ばした。


 ピクリとも動かず、一切の邪魔を許さない、矢の通り道。


 空洞の筒を突き進む矢は、耳を震わせる音を放つ。その音に、俺の脳内は掻き乱れた。


 死が近付く音だと、芯から理解した。


 根に固定され身動きの取れなくなった俺に、正人の放った大矢は胸部を突き抜ける。


 矢尻が背を貫通したところで大矢は停止し、俺の体内で根を張り出す。


 ツノは崩れ、装甲を維持する力を失う。


 顔は空気に触れ、雨に濡れた。


 遠のく意識の中で想う。


 最期の景色が、こんなぐちゃぐちゃな大地だなんて……。


 この景色を見たくないから、力を付けたんだろクソ野郎。


 何で思い出すんだよ……。


 土に汚れた家族の顔が嫌な程見えてくる……。


 あぁ……。


「やだよぉ……」




 大手警備グループ【フルフェイス】

 人事部勤務

 鬼名【泳鬼(えいき)

 高葦(たかあし) 砂宏(すなひろ) 絶命。




 遠のく意識を必死に掴みながら、俺は身動きの取れない地中に居た。


 俺の極想で土は押し固まって、地上に繋がる穴になってた。だから酸素はある。


 けど、指先すらピクリとも動かせない。


 どうしよう……。


 このまま土葬されるのかな……。


 それに、高葦を本当に倒せたのか分からない。


 想の雰囲気からして、もう息してない筈。


 ……。


 いくら敵であっても、命を奪うのは心が痛い。


 高葦は、高葦なりの理由があって、そっちの立場に居たんだろう。


 でも、どんな理由があったって、罪の無い人の命を奪うことは許されない。


 罪があれば命を奪っていいのかって言われると、それも答え難いんだけど、そうしなきゃ犠牲者が増えてしまうなら、俺は奪う。


 誰かが止めなきゃいけない。


 そう言い聞かせはするけど、やっぱり辛い。そこは変わっちゃいけない部分だと想う。


 そうこうしてる間に、仲間達が俺を引き上げてくれた。命を落とした兵士の遺体も、地中から引き上げた。


 また、犠牲者は出てしまった。俺の目の前で。


 俺はクリスに背負われながら、横になった7人に手を合わせる。遠くで待機してもらってたチームオロの人達に、事後処理を任せ、残った13人は装甲ヘリに乗り込む。


千歳(ちとせ)くんのとこへ向かおう」


 身体はなんとか動かせる。


 みんなのとこにも、鬼は来るはず。


 頼む……みんな勝ってくれ……。


 俺は……何とか勝てた。


 (らん)が、俺を叱ってくれたお陰だな。


 何だか久々に藍と会話できた気がして、兄ちゃん少し嬉しくなっちまった。


 何度でも想う。


 あぁ、生きていたらなって。


 生きていたら、廉と切磋琢磨してたよな。絶対に。


 廉の双子の妹なだけあって、気も強いし。


 ビックリするくらい気が合ってたし。


 あの頃を、思い出しちまったなあ。





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