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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
102/144

101話ー我武者羅ー

 黒潮の奮闘によりユルゾック撃破。


 地上を揺るがす程の大爆発。


 その爆発は、これから起こる事の幕開けとなった。


室瀬(むろせ) 正人(まさと)チームー


 黒潮(くろしお)中林(なかばやし)の訃報は、直ぐに届いた。彼らは命をかけて、東京本部の者達を守った。


 ゆっくり休んでいて欲しい。


 そして、やはり東京本部に襲撃。情報が漏れていることは確定した。千歳(ちとせ)くんは既に歩を進めているけれど、俺らも油断できない。俺らの情報だって掴まれてるに違いない。


 俺のチームは装甲ヘリで北上してる。気候は雨。下はジャングル。人の気配すら無い場所。


 しかし、それは奴らには関係の無いこと。


「急激な地形変動により、緊急着陸します!」


 計5機の装甲ヘリは、それぞれ空き地へと着陸する。俺も見た。目の前に山が突如として現れたのを。


 明らかに、俺らの行手を阻む為のもの。


 以前の報告で、鬼神(アラハバキ)の中にも地形を操るデュロルは居た。


 しかし、この規模では無かった。


ジジッ

「装甲ヘリは直ちに離陸してください。山の出現による、土砂が流れてきます」


 装甲ヘリは離陸し、後方に飛んでいく。後続の数十機にも待機するよう指示する。


 地面に残った20人で、山を作った元凶を対処する。


 土砂は辺りの木々を薙ぎ倒した。それを回避して倒木に乗り、地響きに耳を澄ませ、異変を探る。


「前方山の頂上に、人影が!」


 其処には、胡座をかいて辺りを見渡す人影がある。それに、あのシルエットは……鬼だ。2本のツノ……ハンマーヘッドシャークみたいなツノに、腰に注連縄(しめなわ)が巻かれてる。


 心拍数が上がった。数値化されてるからか、逆に冷静になれる。


 皆も、鬼を見据える。


 俺にさえ鬼が来るとなると、日本のメンバーは全員マークされてるな。


 鬼は山の頂上で立ち上がると、鬼の足元の地面が勢いよく吐出した。


 鬼は今視界の外だ。


 何処に行……。


 【土砂蟻地獄(どしゃありじごく)


 地面は突如急勾配になり、円錐形に凹む。その中央に、土砂は吸い込まれていく。20人全員がこの穴に居る。鬼は俺らの位置を見ていたのか。


 足元は、崩れやすく踏ん張りの効かない土だけが配置されてる。技の速度と、小さな石すらを一瞬で見分けて退かす技術。そして何より、訓練されたエキポナでさえ、冷静を欠く程の精密な穴。


「落ち着け!!冷静になれば抜け出せる!(そう)を足の裏から放り出せ!土を少しでも固めて足場を作るんだ!!」


「ああああ!!」


 2名の兵士が、中央に吸い込まれた。


 吸い込まれた瞬間、2名の気配が消える。何らかの技で、即死してる。


 これが鬼……。東京本部に襲撃して来た分解鬼も破茶滅茶だけど、こいつも相当だぞ。


「たった2人っすか。司令塔は日本人みたいっすね」


 鬼は地面から、まるでプールから上がるようにして出てきた。


「日本人なら気が合いそうっすね。俺もそうっす。室瀬(むろせ) 正人(まさと)さんっすよね。知ってます。めっちゃ調べましたから」


 若者口調。翻訳は機能してない。日本語だ。


「正人さんの技は特殊っすよ。亀戸(かめいど)先輩の動き止めるんすから。矢が変形、それに質量も増えてますよね。アレは想で増やしてるんすか」


 知られてる。どこまで知られてるんだ?


「他の外人さんは知らねっすね。マークしてない人たちってことは確かっす」


 それにしても、よく喋る。


「あ、あと。(れん)君は居ないんすね。ぶっちゃけ、俺の相手が正人さんで良かったっす。正人さんあんま強いって印象無いっすから」


 それは俺が一番よく知ってる。小さい時から、あの時から痛い程知ってることだ。


「俺は鬼ん中じゃ弱い方なんで、もちろん油断なんてしねっす。命掛かってるんで全力っすけど、他の人相手するよりは安心したってとこっすね」


 俺は北海道支部で廉を見てから、廉を支える存在でいようと思った。


 守りたい想いと共に、もう失いたく無いから。


 俺で良かったと安心してくれたことは、俺にとってかなり都合が良い。


「敵相手にあんま喋りたくねっすよね。喋れる最後の機会だと思うんで、何か言うことあれば聞くっすよ。あ、ちなみに高葦(たかあし) 砂宏(すなひろ)っす」


 18人全員が、高葦(たかあし)を見据えている。


「喋りすぎだ」


「そっすか」


 俺の後ろで、仲間達は突き上げられる。鋭利な地面が、俺以外の17人に向かって伸びていた。


「え、全員防ぐんすか!」


 高葦が驚いた通り、全員がそれを防ぎ、次の攻撃に備えて体勢を整える。


 雷の弓、広範囲に届く火炎放射、地面スレスレを這う音速の鞭。その全てが、高葦に襲いかかる。


 高葦は自身前方の地面を突き上げて防ぎながら、自身を後方に突き飛ばす用の地面を吐出させる。


 高葦が着地する場所を狙って、俺は引いていた矢を放つ。


 高葦は更に、自身直下の地面を吐出させる。


 俺は視線を上へと移動させた。しかし、そこに高葦は居ない。視線を戻した場所にすら、既に居なかった。俺の矢も、何処にも落ちてない。


 地面に潜っ……。


 【土砂蟻地獄】


 突き上げられた皆が着地するタイミングで、地面はさっきみたいに凹んだ。高葦(あいつ)、全体をしっかり"見て"やがる。


 【蟻釜(ありがま)


 周囲の土が盛り上がり、俺らを包み頭上で隙間を無くす。真っ暗だ、何も見えない。


「焦るな!落ち着け!」


 頭上に矢を放ち、矢尻が土に触れたと同時に展開する。矢を蜂の巣状に均等に変化させ、土に隙間を作る。薄暗い柔い光が差し込んだ。何も見えないより全然マシだ。


 【気象眺蟻(きしょうちょうぎ)


 いつの間にか、俺と仲間は空中に放り出されていた。いや、全員が放り出された訳じゃない。14人だ。


 高葦は全員を一気に殺しはしない。殺せないのかもしれないが、確実に殺せる人数に絞って殺してる。


 タチが悪すぎる。


 それを、守れない俺はもっとタチが悪い。


 俺は何をした?何も出来ていない。何も出来ずに仲間が6人も命を落とした。


 日本の皆みたいに、対応できない。皆は何から始めてる?いつも俺はどうしていた?


 (おかーさん)、廉はまず、敵の能力を視ていた。敵を知らなければ、対策なんて出来るわけない。


 そっからだ。


 着地して直ぐに気付いた。足場がフカフカの土に変わってる。踏ん張りが効かないし、体勢が崩れやすい。ジッとしてるだけで、地面に沈んで落ちてしまう。


 高葦は土を微細なレベルで操る。そして圧倒的に、俺らの位置を把握するのが早い。


 俺らが土に触れただけで、その位置が正確に伝わっている?


 俺ら14人は離れた位置に居る。それぞれが足場に苦戦し、鋭利な土を避けるのに必死だった。


 それに加えて、俺らは高葦の姿が見えない。


 この消耗戦は、圧倒的に高葦が有利。この流れを打破しない限り、俺らに勝ち目は無い。


 "全力出す場所を見極めてるんですか?何で?全力出せずに死んじゃったら、それこそ死にたくなるくらい後悔する。"


 大口開けて呼吸する俺の脳裏に、千歳(ちとせ)くんの言葉が響いた。


 俺は……全力じゃない……。


 "兄貴は落ち着いてるけど、我武者羅な兄貴って見たことねえな。"


 お前らを援護するには冷静さが大切なんだよと、その時は言ったし、本気で思ってた。あの化け物達を目で追うにも、行動を予測するにも、冷静じゃなきゃ出来なかった。


 けど今は?


 化け物は居ない。居るのは、俺を信じて着いて来てくれた兵士達だけ。


 我武者羅に動いて、場を乱す役目が居ない。


 あいつらを間近で見てきた俺なら、掻き乱すことができる。


 冷静であり、我武者羅に全力を出す。


 冷静に考えれば当たり前のことだ。人の命が掛かってるんだからな。


 副腕と弓を連結させ、俺は足元目掛けて矢を引いた。


 【磔装填(はりつけそうてん) 根交廻(こんこうめぐらせ)


 地面に潜らせた矢を展開する。


 細く長く強く硬く。


 土中を張り巡らせるイメージで。


 海のように動いていた地面は、ピタリと動きを止めた。


 土の中に矢を張り巡らせたおかげで、高葦の大体の位置が分かった気がした。


 土の中で軽い場所と、重くて硬い場所がある。


 重くて硬い場所は移動してる。


 泳ぐように移動しやがって。


「高葦を見つけた!矢の一部を地上に出す。その場所を一瞬で吹き飛ばしてくれ!」


 ルルーザとクレアは爆発系の能力。2人の威力は相当だし、土を吹き飛ばして高葦を引っ張り出せる。


 矢の一部を地上に出して爆破するを繰り返した。仲間達もそれに慣れてくる。そうすると、高葦の姿が見えるようになってきた。


 高葦が移動できないくらい、もっともっと張り巡らせろ。耐えろ!


 血管が浮き出るのを感じるし、鼻血なんてとうに出まくってる。俺が耐えるだけで、高葦を地上に出すことが出来る。そう考えれば、何だって辛くなんてない。


 行く手が無くなったのか、高葦は力尽くで矢をへし折ろうと突進する。高葦に多く判断させることで、俺達14人には隙が与えられる。


 地面を爆破して、高葦は全身を見せた。


 その瞬間、高葦の重圧は跳ね上がった。


 俺達の居る一帯が凹み、外に向かって地面の波は広がっていく。


 【大想(たいそう) 螻蟻波転(ろうぎはてん)


 俺達を、大きすぎる土の山が囲った。装甲ヘリの中で見た、あの山だ。


 その山が地響きと揺れを伴って、四方から押し寄せてくる。押し寄せ方も恐ろしくて、頂上付近は波のようになっていた。


 やがて見える空は縮んでいく。


 身体中から血が溢れようが、視界が揺らごうが、俺は更に想を込めた。


 俺を信じてくれた仲間達は、静かに待っていてくれた。


 八方を塞ぐ山の動きは止まる。


 【大想(たいそう) 磔装填(はりつけそうてん) 山崩不知(くずれしらず)


 山の動きを止め続け、高葦を捉え続けろ。


「そこまで厄介とは思ってなかったっす」


 よっこいしょと、高葦は姿を現した。


 高葦は一瞬で俺へと距離を詰めた。そう理解した時には既に、顎に衝撃が走っていた。脳が揺らぐ。


 殴られた瞬間に見えた。


 俺が抑えられるのは、地形を動かせなくするくらいのこと。土全部を抑えられる訳ない。俺の矢をすり抜けた細かな土が、高葦の身体を後押ししてた。


 どんだけ微細に操ってんだよ高葦(こいつ)は。


 俺が意識を失えば、抑えてる土がまた自由になる。高葦はやはり、俺だけを執拗に狙って来る。皆が俺を守ってくれるけど、高葦は皆を、的確に返り討ちにしてる。


 殺傷能力は無いにしても、ダメージは相当だ。並みのデュロルの殴りじゃ無いし、細い土を鞭みたく使ってやがる。


 今直ぐにでも矢への想を和らげて、高葦の攻撃を見極めたい。でも、それをした瞬間、高葦は地面に潜ってしまうし、攻撃の幅も威力も殺傷能力も格段に上がる。


 耐えるしか……。


 "それじゃ同じだろうが!!"


 廉に怒られた。


 でもよ、保守的になるしかないんだよ。


 "そうなったのが、ウチの所為みたいじゃん。"


 脳裏に聞こえた懐かしく若い声。


 俺は声に出して息を吸った。


 "妹の(らん)"の声だった。


 命を落とした6人にも、友人や兄妹、愛する者が居た筈。


 俺が守らなければいけないと……。


 何から守るんだ?


 今は高葦ただこいつからだろ。


 相手が天災なら、俺は守りに徹すれば良いだろ。


 今の俺は、まるで相手がどうしようも無く敵わないと決め付けてる。


 だから、守らないとって感情になっていた。


 高葦の攻撃を防いでいるだけで、俺は満足していたんだろ。


 あの時、"俺が守らなければいけないと思った。"って、俺はずっと勘違いしていた。


 俺が守らなかったから藍は死んだのか?違う。殺したのはデュロルだ。それに後悔してんのか?


 "ウチが死んだからってさ、何でマサ兄が後悔すんの?ウチの所為にしても良いよ。良いけどさ、ウチの所為にするんなら、その後悔引き摺らないでよね。"


 この言葉は俺の願望かもしれない。そう言って欲しいのだと。


 守るだけで相手を倒せる訳ない。守るだけで倒せるなら、みんな守るだけでいい。


 そうじゃない。


 我武者羅のやり方が分かったよ。






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