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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【結】
101/144

100話ー幾星霜ー

 ユルゾックの猛攻に押される一行。


 4つの門を潜った黒潮は、異様な空間に居た。


 空間に輝く、朱い門。


 黒い水に朱い門は反射する。


 この空間、全身に力が入らない。


 水の底に骨が溜まってるんだろうけど、今すぐにでも、水に身体を預けたい。


 精神的にも脱力感を与えるような場所。


 俺はユルゾックと戦っていた筈。何をして、黒潮(おれ)は此処に来た?


 最後、俺はユルゾックの腹部を拳で貫いた。


 今考えれば凄いことだ。昔の俺と比べれば、天と地ほど差がある。俺より強い"鬼"のデュロルに、攻撃が通るんだから……。


 本当に通ったのか……?


 こんな簡単に、俺は鬼に並ぶ強さになったのか?一応、小さいけどツノは生えた。けど、そんな直ぐに差は埋まるもんなのかな?


 ……今はいい。俺は何故此処に居るかが問題なんだ。


 俺が拳で奴の身体を貫いた直後、あいつは何か言った。技を発動したんだ。


 ふと身体を見ると、さっきまでの傷はあるものの、痛みはまるで無いじゃないか。


 現実の俺が飛ばされた訳じゃない。精神だけが此処に居る……?


 さっきから、水が朱い門に吸い込まれてる気がする。足元に敷き詰められた骨も、その流れに従い始めてる。


 全身は刃物に刻まれてるんかなってくらい痛くなってきた。声は出ない。





ー東京本部 滑走路ー


 全身の痛みに(うな)された。その勢いで上体を起こす。砕けた装甲が擦れて溢れる音がする。


 気を失っていた。山辺(おれ)は、ユルゾックの技で菅岡(すがおか)とぶつかった。どのくらい時間が経った?ユルゾックはどうなった?まだ視界がボヤけてる。


 辺りを見回す。居た……。どうなってる?


 ユルゾックの腹に、黒潮(くろしお)は肩を押し込んでる。殴って貫通させた?いや、にしては微動だにしない。


 ユルゾックの呼吸に合わせて、黒潮は唯揺れてるだけだ。おかしい。


 同タイミングで菅岡も起きる。


「菅岡!立て!黒潮がおかしい!」


 菅岡はユルゾックを見やると、踏ん張りが効かない身体で立ち上がった。


 ユルゾックは俺ら2人を見ても動こうとしない。


「今は止めてほしいなぁ」


 【金剛絡繰(こんごうからくり)


 ユルゾックが両手を叩くと、阿吽の金剛力士は復活した。


「頼むよぉ、吸収(こっち)に力割いてるから、全力で守ってくれぇ」


 阿吽の動きは、さっきより少し速いくらい。多分、ユルゾックの想を分けられて動いてる。ユルゾックと黒潮が動けないのには理由がある筈。奴の言う"こっち"ってのは、黒潮を中林(なかばやし)みたいに変形させようとしてる?いや、中林は変形されてる時、苦しそうに叫んでた。吸収してるのか?例えユルゾックが黒潮を吸収してるんだとして、あの場からは動けない。今吸収する判断をしたのは、俺ら2人が気絶して戦闘不能だったから。俺らが起きたのはユルゾックにとって想定外!!


 こんくらいポジティブに考えて良いだろ!


「菅岡!今しかない!限界以上出せ!!」


 俺の拳より先に、菅岡の雷の方がユルゾックに届く。だから俺は、菅岡の邪魔をさせない!


 振り下ろされる吽の拳を横から弾く。腕を引き、吽の腹部に肘打ちして遠ざける。


 菅岡が技を出せる時間を稼いだ。


 【大想(たいそう) 超電磁弾(ちょうでんじだん)


 菅岡の右腕が弾かれる。最高速度の、一点集中の強力技。あいつがずっと鍛錬した技だ。


 目で追えない雷は、ユルゾックの右肩を弾き飛ばした。避けやがった。頭を避けやがった。


 吹き飛ばした吽は崩れた。ユルゾックの肩から腕にかけて再生される。吽の想を回収したんだな。


山辺(やまべ)!もう僕は貧弱な技しか出せない!阿を抑えることは出来るから、行ってきて!」


 ありがとう菅岡。


 菅岡の雷が俺の頭上を通り越し、阿の身体を遠ざける。


 左腕を通常サイズに戻し、その想を右腕と全身に込める。右腕は等身サイズから更に肥大化する。


 ユルゾックは阿を崩して想を回収した。両手を前に突き出す。


 "いいよ、俺ごと。"


 黒潮の声。


 【大想(たいそう) 拳砕(けんさい)の一撃】


 全身の力をフル活用した渾身の一撃は、ユルゾックの腕を砕き、顔面の装甲を砕いた。黒潮と共に、後方へと転がっていく。


 右拳は砕け、血が流れ出る。


「起きろ黒潮!!!」


「起きて黒潮!!」


「おい!俺ら2人は起きたぞ!!お前が起きなくてどうすんだよ!!」


 声が届いてるのかは知らない。だからって、叫ばない理由にはならない。


 俺と菅岡は、言葉通りボロボロだけど、まだ戦える。黒潮が起きてくれたなら、もっと。





 みんなの声が聞こえた。


 でもみんなの姿は見えない。


 現実の世界で呼ばれてる。


 現実の俺はどうなっている?


 今俺の身体は千切られてるみたいに痛い。


 それに、生温かな気色悪い感覚だ。


 この朱い門に近付く程、痛みは増してくし、立ちくらみもしてくる。


 それにさっき身体に流れ込んだ感情"食事の邪魔をするな"。俺は今食べられてる?ユルゾックに吸収されてる?


 黒い水の底に沈んでるのは、ユルゾックに喰われた残骸とでも言うのか?


 だとしたら、一体何人を……。


 ひょっとしたら此処に来た時点で、もう助からないのかもしれない。


 現実の身体を動かすイメージが湧かない。


 けどまだ身体は生きていて、感覚も生きてる。


 現実の俺に、山辺と菅岡は呼びかけた。それくらいには身体を保っている。


 想……使えるのかな。


 俺の能力(ちから)は諸刃の剣なんだって。


 "黒潮、それ火力間違えると身体バラけるぞ!"


 千歳(ちとせ)くんの台詞を思い出した。


 確かに爆発させる時、身体にかなりの負荷が掛かってる。でも、逆にさ。負荷を気にしないで爆発させたらどうなるんだろ?


 俺でも予想できないや。


 でもさ、でも。もう助からないのならさ。


 ユルゾックの体内で俺が大爆発したらさ。


 さすがに鬼でも死ぬよね?


 俺の命で、多くの命が守れるってさ。そんな幸せな最期で良いんですか?


 人の命を奪った屑な俺には、恵まれた最期なんだと心から想う。


 きっと、山辺と菅岡が時間を稼いでくれたんだよね。


 中林も、最期に操られないように気張ってたね。


 みんなが居なかったら、俺はユルゾックを倒せなかったと思う。


 ありがとうみんな。


 朱い門を潜り、痛みは加速する。





「な、なんだ……なんだこいつぁ」


 さっきまで抗ってたこいつの細胞が、受け入れたように全身に回り始めた。


 本能が言っている。


 今すぐにコイツの息の根を止めろと。


 流れ込んでくる細胞が、危険信号を出している。


 前にも居た。想を含んでる。


 【大想(たいそう) 死門開門(しどかいもん)】は鬼に匹敵するデュロルを吸収する技。雑魚達は人形だけで分解して吸収できる。しかし、想が一定以上ある奴は分解できないし、もちろん吸収も出来ない。オレもそれ相応の想を使わなければいけない。


 気絶させた2人を吸収しても良かったが、黒潮(こいつ)が厄介だった。思いの外、想を携えていやがった。


 オレの判断が間違っていただと。


 吸収にも時間を要した。


 こいつが抗った。その力が強かった。


 雑魚だと油断していた?


 慎重なオレが?


 何体もの"鬼"を吸収したオレが?


 今までと同じ手筈だ。確実に仕留めて来た。


 その鬼達の想のストックを使っても、こいつを吸収しきれなかっただと?


 いや、何を諦めてるんだオレは。


 直ぐにでもこいつを殺せば済むだろ。プライドは今捨てろ。そんなくだらないもんに、命は捨てられん。


 身体の芯から絞り出せ。


 【極想(きょくそう) 絡繰舞踏伍(からくりぶとうのご)強制閉門(きょうせいへいもん)


 オレの身体を絡繰にする。屈辱的な技だ。


 オレの原型は最早無い。そこらから無数に生える骨の刃でこいつを切り裂け。


 周りの雑魚も近付けさせない。


 複雑な想を扱いつつ、こいつを分解して吸収する。極想クラスの最高技術の技だ。


 こいつの身体を肉片とも思わせない程に刻んでやった。


 雑魚はそうやって叫んでおけ。


 吸収が終われば、お前らも吸収してやる。


 もう一回り強くなったオレでな。


 【打ち上げ流星】


 地面付近のオレの細胞が細かく爆発しだした。


 オレはそんなことしていない。黒潮(こいつ)は死んだだろ?


 爆発は次第に大きくなり、オレの身体は浮き出す。


 無数の骨で地面に固定しても、その骨の付け根を爆発される。


 黒潮(こいつ)、細胞だけになっても想を維持してるのか!?


 気色悪い!なんて野郎だ!


 そんなになってまで無駄に足掻くのか!


 身体の内側から、芯を握り潰すような殺意を感じた。


 爆発を止めれず、東京本部どころか、日本の形が分かるまでの高度になる。


 オレを宇宙にでも連れて行くつもりか?


 この高さから落として殺そうってか?


 生きてみせるさ。


 あーだこーだ五月蝿いな。お前は死ぬんだよ。俺と一緒にね。


 なんだ!?あいつの声が脳に……。


 俺はお前を倒して死ねれば幸せさ。


 気持ち悪すぎて反吐が出る!


 お前のような気持ちの悪い奴を吸収なんてしなきゃ良かった。


 ん?それじゃあさ、お前は最悪な死に方するんじゃない?気持ち悪いと思った俺を吸収して、それが原因で死ぬんだもん。


 まだこいつは、こんなことを吐いているのか。


 こんくらいかな。この高さなら、みんなに被害は出ないよね。


 全身が急激に熱くなる。


 俺も分からないくらい、全力の爆発さ!


 いつかやってみたかったんだ!!


 夕暮れの河川敷で、星が見え始めた空に向かって大声で叫びたかったみたいに。


 綺麗な星の下で。


 【極想(きょくそう) 今の時代が幾星霜、作り話だろって思われるくらい語り継がれて欲しい。俺の爆発が、何かを照らす始まりになってくれるかな。最期の大爆発だ!】


 見上げた空は、夜明けだった地上とは比べ物にならない程暗かった。


 大小様々な星屑が、嫌でも目に写る。




 日本ヤクザ【壱輪乃会(いちりんのかい)】傘下

 【桃坂(とうさか)組】専属鬼

 鬼名【絡鬼(らっき)

 ユルゾック・ソクラティス 絶命。





 山辺(おれ)は、黒潮を目で追った。あいつの考えてることは理解できた。覚悟決めたんだなって思って。


 そして、黒潮とユルゾックは見えなくなる。そんだけ高い所まで昇ってった。


 夜明けの空は澄んでいて、これでもかってくらい綺麗な藍色してやがる。


 菅岡も、肩揺らして見上げてる。


 黒潮が最期にやろうとしてることで、ユルゾックを倒せるか分からない。それに備えて、俺らも気を失う訳にはいかない。何にせよ、黒潮を見届けなければ。


 黒潮が居るであろう大凡の位置が、突如光った。目に見える衝撃波を広げる。こんだけ離れてるこの場所からでも、その爆発は大きく見えた。


 黒潮の、全身全霊の大爆発。


 その衝撃は遅れて地上にも届き、そこら中で車の警告音が鳴り響く。


 大きすぎる音に、街は目覚め始めた。


 ユルゾックの気配が残っていた元阿吽の人達から、その気配は消え去る。


 黒潮(おまえ)のお陰で、街はこうして目覚めることが出来た。


 お前の望んだ、立派な最期なんじゃねえかな。


 菅岡は安堵の息を漏らし、膝を着いた姿勢のまま気を失った。


 エキポナのみんなが駆け寄るのを見て、俺の意識も遠ざかっていく。




 EAグループ 日本支部

 東京本部所属

 特別チーム チーム百歳(ももとせ)

 鬼名【屑鬼(くずき)

 黒潮(くろしお) 和希(かずき) 殉職 享年22。

 中林(なかばやし) 花男(はなお) 殉職 享年22。





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