地下鉄道の爆破師
草を踏めば足元から逃げるように飛蝗が飛び、視界の端では蝶が舞い踊る。
コンクリート造りをあざ笑うかのように生えた植物たちの生命力はとどまることを知らないようだ。
なにせ、木が生えてる。地下にだ。
だけど地上の植物とは違う部分があった。
全て、濃淡はあれどもだいたい紫いろをしていた。
そんな紫色の植物園と化した地下鉄線路を進む。
足元は芝生、たまに木の根っこ。
転ばないように注意して歩んでいれば目の前にゲロ犬が三匹。
お食事中のようで私には気づいていない。
「こいつら何処にでもいるな」
流石に三匹を相手に銃声がどうのこうのと渋ってはいられないしもう渋るつもりもない。
邪魔な奴は全部撃ち砕く!
腰に下げた銃を抜きまずはあいさつ代わりに一発。
「くたばれェー!!」
初弾で命中。この銃の特徴も掴めてきた。
この距離なら腰だめでも当てられる。
肩を大きく抉り、心臓をも潰された犬は生命活動を停止。
二匹目に取り掛かろうとしたとき、壁につけられていた小さな扉をぶち破って女が一人飛び込んできた。
「あー! くっそ! また犬か! こいつら汚いから嫌なんだけどなー!」
いうやいなや、筒状物質をポイっと二つ空き缶を投げ捨てるように投擲。
視線の先に私を見つけるや否や、三個目を取り出し投擲。
「っの野郎!」
「野郎じゃないです女ですー! 死ね!」
このタイミングで投げるものがただの石とかなわけが無い。間違いなく手榴弾とか爆発物の類だ。
どのくらい飛び散るかわからんからとにかく遠くへ逃げようとしたが、その先にもう一個爆発物が投げられてきた。
「くそったれ!」
迷わず蹴飛ばし遠くへ弾く。初めからこうしておけばよかった。
そしてそのまま大きく前に体を投げ出し対ショック体勢をとる。
爆発は思ったよりも大きくなかったが、ゲロ犬二匹は爆発四散。
飛び散った酸のキツイ臭いを鼻の奥に感じながら、煙の向こうの女を強く睨むんだ。
女は私がまだ生きていることに軽く驚き、また一つ、手榴弾を取り出し構えた。
爆風の痛みで顔に力が入る。視界がぼやけて銃口も真っすぐ定まらない。だが敵はそんなことは構わず攻撃する。しょうがないので私も適当に発砲。
足元に転がってきた爆発物は蹴り返すことで送り先に返品。着払いだ!
「う、わわ! 腕が片一方ないくせにやるね!」
「ん? ここ来るまでにやられたんだよ。今頃地上でキレたフリしてMobおいかけてるんじゃないかな」
「もしかしてプレイヤーにやられたの?」
「そうだけど?」
「どういった状況でやったの?」
「追いかけられて逃げてる途中にやられたよ」
「うっわ逃げてる相手に当てるとかやばいなあご愁傷様。情報をくれたお礼に弾丸をプレゼントするよ♪」
その行動は読めてたぞ。
銃を抜くならもっと早く抜いたほうがいい。
体を横にほんの少しずらし、半身の姿勢をとる。
少しでも女に見せる体の面積を少なくする。
半身にした流れで腕を持ち上げ、三発。
下半身から頭にかけて、人中をなぞるように撃ったが一発の弾丸が頬を掠っただけで終わった。
爆風の影響は色濃い。
だが相手の射撃センスが低くて助かった。
こっちは被弾零で済んだ。
こっちから近づくことはしない。
着弾率は上がるだろうけど被弾率も上がるからね。
ズンと下腹に響くような振動。
爆破かと思えば私を追いかけていたトカゲが姿を現した。
トカゲの口腔が紫色の輝きを宿す。
息を吸い込んで放たれたのは火炎の奔流。
生い茂った草木を焼き払い、私と爆弾魔を灰にしようと押し寄せる。
「う、わ」
「はやく! こっち!」
女はすでに自分が来た横穴に入りなおしている。
私も急いで走り、飛び込む。
穴を急いでメイクツールで塞ぎ、火炎が入ってこないように蓋をした。
「この壁は薄く作ったからすぐに破られるよ!」
「じゃあ打って出よう。ここで争ってもあのトカゲに片づけられるだけだと思う」
「私はさっきアイツに似たやつに追いかけられた。あのトカゲと違って二本の管が背中から生えてたし、口から火なんか吐かなかったけど」
「少なくともアレと同じようなヤツが後一匹はいるのね。まいったな…」
まいったまいったといいつつ壁に爆弾を張り私に離れろとジェスチャーをした。
十分に離れたところで起爆。塞いだ時よりも大きな穴が壁に開き、トカゲちゃんがこんにちわ。
まぁ、そうだろうなと予想していたので対処は簡単。
弾丸だ。弾丸を撃ち込むのだ。
あ? 弾丸が鱗に弾かれてる?
ならば目だ! 目を狙え!
「爆弾切れたからここからは生産しつつ投げることになるよ!」
「つまりどういう事?」
「作りながら投げるからちょっと攻撃感覚が長くなるってこと!」
「りょーかい!」
時間稼ぎの射撃だこん畜生!
たとえ少ない光源で狙った的が小さくても数うちゃあたる。当たれ。当たってください。つぶらな御目々に当たってください。
「何処狙ってるの!?」
「目だよ!」
「当たってないじゃん!」
「的が小さいの見てわからないの!?」
「ごめん……そんなに怒らなくてもいいじゃん……」
「あー私も気が立ってたわ。あまりにも当たらなさ過ぎて」
「この話はここまでにしよ。空気を変えよう。よし。現状を打破するために一つ思いついたよ」
我に策ありと爆弾少女が指を立てた。
手に握られているのは一回りでかい爆弾。
こいつでどうしようというのか。
「これを爆破して壁に開いた穴の拡張とトカゲへの攻撃を同時に行う」
「まぁ素敵! で? 爆風はどう回避する?」
「あなたのメイクツールで穴を掘りつつ壁も作る。つまり簡易的な蛸壺を掘る」
「OKやってみよう」
メイクツールは定められた範囲の物質を削り取ってどっか謎の空間に貯蓄、貯蓄した物資を任意の形に形成して出してくれる便利機械だ。
そして今はスコップの代わりに穴を掘ってくれる。
人二人が並んでひざを抱えることが出来る程度の穴をぱぱっと作成。
「できた!」
「よっし、じゃ私は爆弾を投げるよ! 準備おーけー?」
「おーけー!」
投げた爆弾の飛んでいく先を追いかけたい気持ちを抑えて蛸壺の中で身を丸める。
対衝撃耐性ッー!
地面を揺るがす衝撃が私達を包み、通り過ぎて行った。
「よっしゃ出るよ!」
「GoGoGo! Go ahead! Go ahead!」
えいやと飛び出し爆発の衝撃でぴよってるトカゲの隣をダッシュで通過。通り掛けに一撃お見舞いしようかと一瞬考えたけどそれは無し。
でも爆弾ガールはバーバリアンな思考なのかお腹の下に爆弾を押し込んで行った。
「お腹の下にねじ込んでやったよ! 致命傷になるといいねぇ!」
ウキウキ顔で私にサムズアップ。
私も気分がうきうきテンションもアップアップ。
そして聞こえる素敵な爆音。
一緒に振り向けば美しい爆発が血肉でデコレーションされてた。まるで花火みたいだぁ!
「おっ致命傷かな~?」
「でもアレ動いてるよ」
トカゲは動いていた。
正確に言うと藻掻いていた。
吹き飛んだ腹を私たちから庇う様に丸まり、赤い花のような傷口に光を集めている。
光が集まるとどうなる? 傷口が回復する。これは面白くない自体だ。
傷口に肉が集まり、逆再生するようにふさがっていく様子はまさに悪夢。
「うぇ~気持ち悪~い。あのブレスと同じだね。あの光が集まると何かが起こる」
「みたいだね。多分このままだとアレは完全に傷口を癒して元気百倍で襲い掛かってくるよ」
じゃ、どうする? と聞いてきたのでもちろん答えた。
「頭を破壊する」
「いいね」
おのおのの武器を握り込み治癒行動をしているトカゲににじり寄る。
隣で爆発物を生成し終わったのを確認した私は走り、一気に距離を詰める。
後ろから菓子折箱のような物体が一つ地面を滑ってトカゲの足元へ滑走。後ろから声。
「それは私の任意のタイミングで爆破できる! 気にせず戦って!」
「私を巻き込まないでよね爆裂ガール!」
「もちろんだよ! それと私の名前はオペラっていうの!」
オペラはスイッチを片手に握りながらもう一方の手をぐるぐると回した。その手には先ほど地面を滑った爆弾と同じ形状の物が握られていた。
「足元めがけて投げるよ~! しゅっ!」
また一個投げた。
私の足元で止まったソレを拾い上げ、さらに近づく。
目の前だ。目と鼻の先だ。
トカゲは治癒の光を腹から口へと移し始めた。
もう遅い。
「この距離で外すわけないんだよ!」
握り込んだ爆弾を丸まり、治癒していた腹めがけて投げた。
そのまま腰に下げた拳銃を引き抜き、目を狙う。
「三度目? いや四度目? 何度でもいいや兎に角当たれ!」
引き金を引――
直後爆炎が視界を覆う。
「へへ……きたねぇ花火だ」
一度行ってみたかったんだぜ。というつぶやきも後から聞こえてきたが今はそれよりも先に言いたい一言があった。
「私ごと爆破する奴がいるか!!」
「あ、生きてたんだ」
まったく悪びれない。
むしろ死んでいなかったことにびっくりと笑いやがった。
「あーもうべちゃべちゃ……じゃないね」
「いや、さっきまで血と肉でべちゃべちゃだったよ」
「そっか」
見ればトカゲはかろうじて原型を留めているひどい状態だった。
そりゃ腕と腹を爆破されてひどい状態にならない生物っていないよね。
トカゲに集まっていた光は段々と弱まっていき、最後には無くなってしまった。
「この光は何なんだろうね」
「すっごい便利そうだよね。使えるようになったりしないかな
。私たちもさ」
「どうやってよ」
「内臓とか解剖?っていうの?いじくりまわしてどの器官を使ってるのか判明させてそれを模した装置をどうにか作る?」
「作れたらいいねー」
「だよねー」
あははうふふ。
お互いに目は全く笑っていない。
だって目の前の危険は0になったわけじゃない。
プレイヤーという最大危機が残っている。
裏でどれだけ爆弾を作っているかわからないのが怖いけどオペラが投げる前に額を打ち抜いてやる。
この場に流れる緊張した空気を破壊したのはオペラだった。
「やめにしない?」
手を広げ、何も握っていないとアピール。
「協力して進めよう」
その顔は真剣。
「このまま一人で進めてもできることは限られると思う。現に現地生物に殺されかけた。君のメイクツールがなければ穴や壁を作って戦えなかったし、私の爆弾が無ければ決定力が無くて君も進めなかったと思う」
たしかに。
でもお前のことは信用できないんだよねー。
出会った瞬間に爆弾投げてきたやつの何処を信用したらいいんだろう。
うごご。悩む。
いっそここで殺したほうが後腐れなく進めると思うんだけどあんなトカゲのような化け物がぽこじゃがいたらお先真っ暗なのも確か。
どうするか。
「ここは天命に任せようかな」
メイクツールでコインを作成。
表と裏、表がでたらコイツを信用しよう。
表に×印を付け、指で弾く。
地面に叩きつけられ、出た面は表。
天はコイツと組めと言ってるようだな。
なら、私はコイツとこの都市を攻略しようか。
「よし分かった。組もう。」
「やった! よろしくね!」
パーティメンバーが増えました。
オペラ:ウォリアー
Mt.Dew:エンジニア