八話
組合に入った途端、大勢の人たちが俺たちを見た。見たというより、ちらちらと伺う様子なのである。
「ん?なんか見られてる?」
「みたいだな。なんでだろ?」
マップには人が居るのを確認できるが、視線までは分からない。
心当たりといえばレベルと思う。けど、新人の高レベはそこまで珍しくはないはずだ。他といえばジョブマスぐらいしか思いつかない。
スロフィットとセルダンのジョブマス取得が違うのか?
分からんから、とりあえずベールさんの所に行こう。さっさとランクを上げたい。
受付が近くなるとベールさんが気づいたみたいで声をかけてきた。
「おはよう。10時前に来るって割とゆっくりなのね」
「そうなのか?」
「混む時間は8〜9時だねー。この時間ってことは何か食べてきたの?」
「露店でサンドイッチを食べて来た!ねぇ何かおすすめってある?」
リアが得意げに答えた。結構気に入ったのだろう。
「そうだね~。露店や組合の料理もいいけど、やっぱアンネルさんの彼氏がやってるお店かな~」
「どんな料理?」
「パスタがメインなの種類が多くて麺も自家製なのが有名ね」
「へぇ~行ってみようかな。ユナ、夜に行こうよ」
「おぅ、それよりもクエ受けに来たんだからそれからだ」
女子トークが盛り上がると思ったが、俺に話を振ったので折ることにした。付き合うのは今度にしとこう。
「あ、そうそう。クエスト受ける前にこれをやってほしいの」
ベールさんは思い出したように言って4つの水晶を出した。
「これは、 WISを計測する水晶。魔法能力は潜在能力って説明したよね?」
昨日教えて貰った事を思い出しながら頷く。
スロフィットには無かったステータスで、セルダンでは表示されない隠しステータス。冒険者カードに表示されていないので、もちろんステ振りもできない。
「潜在能力は本人の強さに直結しているって言われているの。別に、魔法系スキルがどうこうってことはないのよ。まぁ、解明がきちんとされていなくて分からないことが多いんだよね。WIS=本人の強さなんだけど、個人差があるって言ったでしょ?だからってわけじゃないんだけど、鍛えれば一応上がるのよ。水晶でしか計測出来ないからみんな定期的に確認しているの」
「へぇ~」
なるほど、だから周囲はちらちら見てたんだな。
「おぅ、元気そうだな」
「「ん?」」
「あ、ディモンズさんおはようございます」
「おはよう!お二人さんは昨日ぶりだな!!」
突然現れたのは道中に会ったおっさんだった。マップに映っていたので人が来るのは分かっていた。だけど、声をかけてくるとは思ってもいなかった。
あっさんが声をかけたそのとたんフロアに居た冒険者たちがざわついた。
「おい、あの噂は本当みたいだぞ」
「やべーな、すげぇ新人がきたって本当みたいだな」
「ディモンズさんが指導するって本当なのか?」
「そうじゃねーか?WIS測定した後って新人研修だろ?しかも先輩冒険者は指導するんだからそうじゃねーのか?」
「おいおい、まじかよ。先輩冒険者でディモンズさんって、あの二人すげー強いってことか?」
三者三様の声が聞こえてきた。なるほどちらちら見てきたのはこういうことだったのか。このおっさんって凄い人だったんだな。
「おっさんって凄い人なんだな」
「まーな、こう見えて凄いんだぜ!」
「へー」
感心しているところある会話が聞こえてきた。
「なー、あの子可愛くね?」
「お、ほんとだ!マジ職だっけ?俺たちのPTに入れたいな‼」
「確かに!マジ職が居ないからほしいな!」
「めっちゃ好みなんだけど!草食系野郎より俺にしねーかな?」
「おまえならいけるかもなー」
「よし!アタックしてみよう!!」
振り返って締め上げに行こうとすると。
「おい!どこに行く!!」
「ちょ、ユナ⁉」
おっさんに止められた。
「……物理的にアタックする。締め上げに行ってくる」
「やめとけ!そんなのを相手にしているだけ無駄だ」
「…ちっ」
「まぁまぁ、落ち着いて。それよりも計測しましょ。見本じゃないけど見せるね。手を置くだけで…」
そう言ってベールさんは水晶に手を置いた。すると一瞬だけ光り、3分の1と少しほどヒビが入った。
「まぁ、こんなもんかな。」
「お、嬢ちゃん前より弱くなってねーか?」
「だねー、ここで働いてから迷宮に潜ってないからね~」
「前より割れたのか?」
「おう!凄いんだぜー、3分の2はヒビ入れていたからな!」
「ほー、すげぇな!まぁ、基準は分からんけどな」
「そりゃそーだな!ちなみに俺はこんな感じだ!!」
そう言っておっさんは水晶に手を当てたその瞬間に割れた。ヒビではなく割れたのだ。しかも割れた勢いで破片が四方に飛び散った。破片の一つが俺に当たった。割といてーな。
「お前スゲーな‼あの一瞬で嬢ちゃんを守る位置に移動するなんてな!!」
そう、リアに当たる破片を移動して防いだのだ。
そして、周りがまたうるさくなった。
「おい、今の動き…」
「意外といい動きだな」
「あいつってマジじゃないのか?」
「俺はそう聞いたぞ?二人のマジ職って」
「二人だから他のステもあげているのかな?」
「そーじゃねぇか?」
「……なぁ、おれさっきの謝ってたほうがいいかな?」
「そのほうがいいかもな」
「ご愁傷様」
少しは反省したみたいだな。
「次は、お二人ね」
「「はーい」」
ベールさんが水晶を寄せてきた。
「先にいい?」
「ん?いいぞ」
「嬢ちゃんから先なのか?普通男からじゃねーのか?」
「まっ、そうなんだろうけど、リアはユナより弱いからねー」
「ふーん、こりゃ青年のが楽しみだな!!」
「ハードル上げんなよ」
リアは手を置いた。その瞬間、おっさんと同じように割れた。破片の飛び散りがおっさんより勢いはあった。
「「「「……はぁぁぁああ????」」」」
席なんだからこれぐらいは予想していた。しかし、おっさんとベールさんを含む周囲の人たちはそうではなかったようだ。
「おいおいおいおい、まじかよ!!!俺より飛んでんじゃねーか!!」
「見たいですね、登録の時にステをみてたけど…予想以上ですね……」
そして、周囲は俺を見た。
「はぁ……」
手を置いた。俺も水晶が割れた。まぁ、それは当然だろう。しかし割れ方が違った。違ったのは違った。割れたのが水晶だけではなかったのだ。
手を置いた瞬間、水晶が粉々に割れて飛び散った。その飛び散った破片の勢いが強すぎて窓ガラスにあたって割れたものもあれば、壁に刺さっているのもある。周囲の人たちに当たったけど、この程度では怪我をしないみたいだ。
それよりも……
「あ……やべ、ベールさんわりぃことした……」
誰も何も言わない。組合の人達、周囲の冒険者、2階からみていた人達、大勢の人が口を開けて黙った。リアでさえも黙っている。皆が文字通り絶句しているのだ。
1分ほどしてようやくベールさんが戻った。
「いや、そんな事は気にしなくていいよ……。え?んッッ??貴方達っていったい何者なの??」
「ん~~期待の超大型新人??」
俺はあえてふざけて答えた。そこに、おっさんはノってきた。
「いやー、俺より強いやつなんて久しぶりに出会ったぞ!!育てがいのある奴らが来たな!!」
「おっさん、お手柔らかにお願いします」
「おう!!」
「やっぱり、ユナには追い付けないのかな……」
「なんか言ったか?」
リアのつぶやきにおっさんはワザと反応し、俺をちらっと見た。しかし、俺は聞いてないふりをした。
そして、また周りが騒がしくなった。
「おれ………、死んだ……」
「「「「「ご愁傷様」」」」」
どうやら本気で反省したようだ。まぁ、今回は許しておこう。
「ま、貴方達の強さが分かったから新人研修に移りましょう」
「なぁ、嬢ちゃんよー。こいつらに研修必要か?」
「んー。強さは十分わかったんだけど…決まりですからねぇ…」
「だよなー」
俺たちのことで二人が悩んでいるみたいだ。なんか悪いことした気分だな。
そんなところに一人の男性が来た。
「いやー、君達凄いね。昨日、ベールから聞いていたけど、これほどとは予想以上だね。若くて強いっていいねー!」
「ッ!!支部長!!お、お疲れ様です‼」
ベールさんのあいさつの後、すぐに他の従業員たちが一斉にあいさつをした。
「「「「お疲れ様です!!!」」」」
今ので分かる。この人は慕われていると。従業員は恐怖心からではなく、尊敬をもって挨拶をしたのだ。そして、この人は強い。恐らくおっさんよりも強くて、今の俺達では絶対に勝てない。リアもそう感じたのだろう少しひるんでいる。
「君達~いつも言ってるけど、そんなに畏まらないで、すっごくやりずらいんだから」
こういう人には逆らわないようにしないといけない。今後、優遇とかしてくれるように気を付けないといけない。こちらから挨拶をしないと印象が悪くなる。俺はすかさず笑顔で挨拶をする。もちろん会釈だって忘れない。
「初めまして、昨日冒険者登録をしたユナと申します。今後は宜しくお願いします。そして、こちらが…」
「初めまして、ユナと同じく昨日登録した、リアです。宜しくお願いします」
初顔合わせとしては悪くない印象だろう、人の第一印象は15秒で決まると言われている。しかし、顔を合わせて15秒過ぎているが仕方ない、それでも挨拶は大事だからな。それにしても、リアがビジネスマナーを覚えていたのがびっくりだった。まぁ、新社会人になって間もなかったからなー。就活の間に覚えてたんだろう。
「初めまして、ウィンノック冒険者組合支部長のノル・シュタインだ。こちらこそ宜しく」
支部長は思ったよりも話しやすそうだ。
「君達は片づけとか宜しくね~。さ、私の部屋へ行って新人研修の特例について考えよう。ベール、ディモンズの二人もだよ」
「はっ、はい!!」
「う、うす!」
おっさんがふざけていないことに驚いた。しかし、それが普通なのは、周囲の冒険者に目を向けると分かった。冒険者全員が緊張してる。こちらも恐怖からではなく、やはり尊敬からであった。恐らく、支部長はウィンノックの人たち全員から慕われていると思う。凄いな、会って間もないけど素直に尊敬してしまった。
「さっ、行こうか」