十一話
「はじめ!!!!」
支部長の合図から数秒経ったが両者動かない。
が、風が吹くと同時に俺から動いた。
ファイアスピアをおっさんの胸に目掛けて向けて放つ。向かって右へ回避された。
回避されたと同時に接近するその足元へアイススピアを放つ。これは跳んで回避される。
(うん、準備はおけおけ)
ライトボールを設置し、後ろへジャンプし距離をとる。おっさんは見え見えの罠を避けながら走り近づいてくる。
(いまかな〜?)
ライトボールへ向けてナイフスローを放つ。おっさんがライトボールの真横に居たタイミングでナイフが当たる。その瞬間、凄まじい閃光と共に放電をした。
「ぐっ」
少しばかり感電し、怯んだたおっさん。分かっていて身構えていた俺も感電し、怯んだ。が、連続してナイフスローを発動していた為、怯んでもキャンセルされずに放たれる。
「っ⁈」
感電しながらもスキルを放ったことに驚く。自分に刺さったナイフにさらに驚いた。
HPゲージの見た目は変わらないが、数値が1減っていた。それを確認しだので問いかける。
「一撃だろ?」
「……あぁ、そうだな」
返事をするも不満顔である。時間にして1分も経っていない。たった数手で終わってしまった。一撃は一撃だ。ルール通りである。
「やめ!互いに礼!!」
合図があった。今のを一撃と判断してくれたのだろう。しかし、支部長も不満顔である。ルールはルールなのだ、マジ職以外のスキルを使用してはダメと言われていない。仮に、ステータス、取得ジョブを知られていたとしても、そのジョブのスキルを使用しなければならないとも、言われていない。
この場で全てを見せるわけにはいかない。その事を分かっているから、支部長達は何も言ってこないのだろう。
礼をした後に握手をした。睨みながら互いにしか聞こえかない程度の声で聞いてきた。
「嬢ちゃんは?」
リアを横目にして聞かれたので、一瞥して答える。
「俺より」
何がとは言わずに、リアの所に戻る。
それ以上は言わなくもやれば分かるだろう。古参組ではないのに、席の座に就いたんだ。強い以外の言葉が見当たらない。
戻るまで待たず、リアが入れ替わるように小走りできた。その顔は不安そうである。
「大丈夫だ。当たれば痛い。けど、死にはしない。死ぬつもりでやれ」
「死なないって分かってるよ。でも、怖い」
あぁ、怖いよな。分かるぞ俺だって怖かった。だけど、やらなきゃダメだ。こればっかりは乗り越えなければならない。
「俺も怖かった。お互いに冠つけてれば大丈夫。喰らっても痛いだけだ。それにステータスが上がってるからそんなに痛く無いはず。人との戦闘はいずれある。練習だと思え」
少し考え返事をした。
「うん分かった。行ってくる」
向かうリアを呼び止める。
「あ、ちょっと待って。使うのはマジシャンとウィザードのスキルだけな」
なんで?と、言いたげな顔をしている。それが少し可笑しくて吹きながら言った。
「全部見せたらダメ。それだけで十分やれるだろ?」
また少し考えた。そして聞いてきた。
「ん。武具は?」
「無強化の初心者用武具だけ。武器はこれ持っていきな」
スロフィット時代に作成した武器を渡した。受け取ったリアはびっくりした顔をする。
「いいの?」
「いいぞ。まだあるし、こんな時にしか使えない」
「ありがと」
そして目を瞑った。バッグの中を確認しているようだ。数秒経ち、目を開けドヤ顔で答えてきた。
「防具変えたよ」
「そか、いってらっしゃい」
後で分かった事だが俺たちは『装備』と『服』は別らしい。『服』は『アバター』になっていた。ゲーム時代の『装備』=[実際に使う装備]で『服』=[見た目だけの装備]がそのまま適用されていた。
その為、『アバター』が優先される。つまりではないが、『装備』を『服』として着れば『服』扱いで『装備』は装備画面からだけになる。そして、『装備』をしていても、『服』を脱げば産まれたてと同じ姿になった。ちなみにだが、『装備』の可視化はできるが、脱ぐことが出来なかった。脱がすこもである。不思議でならない。
また、この世界の人たちは『装備品』と『服』になっており、どちらも身に付ける物として扱われた。『服』に見える、見た目のいい『装備品』はかなり費用と素材がかかる。その為分けられていた。
朝着替えたのがキャラ作成時に貰える『初心者アバター』で良かった。後で服を探しに行こう。それと、この世界では服の所持数が少ないらしい。基本的に防具をつけている為、変えがあまり必要ないとのことだった。
リアがおっさんと立ち会う。
緊張したリアにおっさんは声をかけた。
「ボウズより強いのか?」
「……それは無い。ユナには誰も勝てない」
「そうか。ボウズは俺よりと言ったんだかな…。まぁわかるか」
「…」
脱力して構えなおしたおっさんを見て、リアも構えなおす。
2人の準備が整ったことを確認した支部長が合図をだした。
「はじめ!!」
結果から言うとリアの圧勝だった。一歩も動かずに動かさずに勝利したのだ。