76話 あれから と これから
入試終わり一発目でございます。文体取り戻すまでに時間かかると思いますが宜しくお願いします
カフェを出てからはや2時間、界人の両腕には高く積み上げられた荷物の山がそびえ立っていた。
「ほら界人、早く帰るよ? 」
「まだトランクに入れてないんだから待ってくれよ」
急いでワンボックスカーの後部に荷物の山を載せる界人。百合は子供のようにはしゃぎながら助手席に乗り込んだ。
「急いでよー、エンジンかけるよ? 」
「だから待ってって」
キーを回そうとするユリの右手を寸手のところで止める界人。「いーじゃん別に」と口を尖らせるユリを「急発進の可能性を考えてくれよ」となだめた。
「そういえば、夕飯どうする? 」
「え? あ、あぁそうだな⋯⋯ 」
慌てて取りつくろう界人。その態度から何かを察したのかユリの目が細くなる。
「⋯⋯ ねぇ界人」
「どうした? 」
ユリの目が疑惑の色を増していく。界人はなんとか悟られないように前方に視線を固定する。
「何を隠してるの? 」
「なんでもない」
「もうばれてるんだから観念しなよ」
ユリが助手席から身を乗り出して注意を引こうとするが界人も界人で必死である。結果渋滞に巻き込まれ、二人の帰路は予定より一時間以上遅れる羽目になったのであった。
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「たっだいまー! ⋯⋯ってあれ? 」
大量の荷物を抱えたユリがラボのエントランスに飛び込むも、いつもとは違いまるで人気がない。
「どうした? 」
「いや、なんで誰もいないの? 」
「⋯⋯さぁ、なんでだろう」
色々バレてしまわないかと内心ヒヤヒヤしつつ、界人も一応周りを見渡した。
「とりあえずホールに行こうか」
「そ、そうだね⋯⋯ 」
しかし、ホールに向かう廊下に差し掛かったあたりでユリも隠し切れない怪しさに警戒しはじめた。
「ねぇ界人、さすがに変じゃない? 」
「まぁまぁ、そろそろネタは明かすから」
「あーっ!、やっぱりそういうことなのね!! 」
界人がホールのドアに手をかけたのと同時にユリが界人の袖を引っ張る。
「ずるいぞ界人! せめて⋯⋯ 」
「「「「「「「ハッピーバースデー、ユリ!」」」」」」」
「⋯⋯⋯⋯?????? 」
一瞬動きを止めるユリ。界人が肩を叩くと彼女の目から一気に涙が溢れ出した。
「え、なんで今日⋯⋯ 」
「自分の誕生日くらい覚えとけって。ほんとそういうとこ女子らしくないよな、ユリ」
ホールいっぱいに詰めかけた『Hive』のメンバーに出迎えられ、ユリのバースデーパーティーは始まった。
「ほら、主役はお前だぞユリ。ずっと立ち飲みというわけにもいかないだろう? 」
レオンが奥に用意した席に座らされるユリ。と思えばすぐさま三角帽子をかぶせられ、流れるようにパーティーが始まった。
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「今年で二十歳か。まだ三年程度しか付き合いがないが、あいつの連れ子が⋯⋯ と思うとくるものがあるな」
レオンが目頭を押さえると古参メンバーの多くが大いに笑った。料理も次々と運び込まれ、あっという間に会場のテンションは上がっていく。
「おめでとうございますユリさん! 」
「ありがとう」
メンバーから杯を受けた頃には、ユリの顔もだいぶ赤くなってきていた。あちらこちらから笑い声が上がってはホールに木霊する。
「⋯⋯ふぅ、まさかこんな感じで祝ってもらえるなんて思ってなかったな」
ユリがつぶやくと近くにいたメカニックメンバーの一人が声を上げた。
「このパーティー、界人さんが企画したんですよ」
「そうなの? 」
「⋯⋯すまん、恥ずかしくて言えなかった」
フィリップが界人の肩を叩く。その勢いに界人はつんのめった。
「ハッハッハ、いいじゃないか。フィアンセにサプライズしたかったんだろう? 」
「もぅ⋯⋯ ありがと」
「ん? 今なにか言ったかユリ? 」
「なんでもない!⋯⋯ところでフォックスはどこ? 」
ここにきて誰もが『こういうところには必ずいるはず』のフォックスがこの場にいないことに気付き、一斉にあたりを見渡し始める。
「そういえば⋯⋯どこにいるんだろう? 」
「界人も~?レオンさんは? 」
「さぁ⋯⋯ ま、あいつにも一人になりたい時くらいあるだろう。帰ってくるのを待てばいい」
そうは言ったものの、レオンの胸には何か嫌な予感が去来するのであった。




