71話 三者の戦い〜界人対アレクセイ その2〜
界人機が膝をつく。アレクセイ機が携えていた火薬内蔵式の盾は目論見通り破片をばらまきながら炸裂し界人機に襲いかかった。
「反応式装甲か。随分と凝った真似をする…… 」
アレクセイが短く毒づく。界人機の装甲が異常というまでに薄かった理由を理解したからだ。
反応式装甲、それは旧世紀の戦車にも使われていた技術で当時は『爆発反応装甲』と呼ばれていたものである。装甲に何らかのダメージが入った場合装甲と本体の間に挟まれた爆発物が起爆し、装甲が浮き上がる事によって本体が受けるダメージを極限まで減らすという特殊装甲である。
かつては周りの歩兵に被害が及ぶとして廃止されていたがギアの台頭によって『多少は使用されるようになっている』という程度にしかアレクセイは認識していなかったからだ。
「小細工はこれくらいにして、決着をつけよう」
アレクセイはレバーを握り直し、静かにランスを持ち上げた。
──────────────────────
「あ、が…… 」
爆発の衝撃で前方に頭を強打し、界人は既に意識が朦朧としはじめていた。
「まだ…… 」
腕を持ち上げレバーに手をかけようとするが全く動かない。と同時に界人は自分が息を吐くことしか出来ないに気付く。
「カッ!…… ヒュー…… 」
理由ははっきりしていた。パイロットスーツである。ギアが転倒したりする場合、当然ながらパイロットには相応の負荷がかかる。しかも大きさ、重量共に自動車とは比べ物にならず、たとえ適正があったとしても頭が振られ『むちうち』は避けられない。
フォックスやアレクセイのように『倒れなければいい』のだが一般のパイロットにはどだい無理な芸当である。そのため『むちうち』防ぐためにパイロットスーツが導入されたのだが今回はそれが裏目に出た。体も一体となって揺さぶられた結果肺の真上、つまりは肋骨を骨折しない程度にぶつけてしまったのだ。
(動け!…… 頼む!! )
必死に己を奮い立たせるが痛みに逆らうことは出来なかった。界人が一人耐え難い痛覚と格闘する間にもアレクセイの無慈悲な声が響く。
「小細工はこれくらいにして、決着をつけよう」
巨大なランスの先端が光る。と同時にレバーに手が届く。界人は目一杯レバーを手前に引き、爆龍の体勢を変えた。
「間に合えぇぇぇ!! 」
アレクセイ機の右手に界人機が頭突きを入れる形で両者共に引き下がる。
「ハァ、ハァ……… グッ!? 」
「無理に呼吸を再開するからだ。体がお前の思考に追い付いていない」
急いで呼吸を整えようとするも、界人は咳しか出せなかった。
「ヴッ! ゲホッ、ゲホッ…… 」
「今なら降伏を認めるぞ? 」
刹那、界人の頭を消極的な思考が駆け巡る。しかしその考えを書き消すように界人は頭を振って意識を回復させた。
「出来ない…… 今は…… 」
「なら死ね」
アレクセイがランスを突き出す。それは確かに界人の駆る最新鋭機の胸部を貫いた…… はずだった。
「……何っ!? 」
「言ったろ? ここでは終われないって…… 」
再び界人が仕掛ける。相手のランスを握っての膝蹴りが炸裂し、今度はアレクセイ機が転倒した。
「感情に身を任せた力…… つまらん」
バヨネットを突き立てる界人機。しかしその一撃は虚しく地面を割った。
「流石に当たらないよねぇ…… 」
界人は空振りとなったバヨネットライフルを見つめながら静かに笑った。しかし、対するアレクセイは目の前の若者に底知れぬ恐怖を感じていた。
「あり得ん…… 今のは紙一重で直撃を食らうところだった…… 」
土壇場になってようやく本気が出たのか、それとも違う何かなのか、この場を包む言い知れぬ空気に嫌悪を抱きつつアレクセイは槍を構え直す。
「ならば……こちらも本気でいかせてもらう!! 」
増設ブースターを一気に噴かせて間合いを詰めるアレクセイ機。これをバヨネットライフルだけで受け止めることは至難の技と言える。
「ヌンッ!! 」
ランスを振り抜くが突撃はまたも界人機に当たらない。
「ここっ! 」
そしてカウンターの界人の斬撃が命中する。バヨネットの刃が折れたが同時にアレクセイ機の肩の装甲がめくれた。
「当たれぇぇぇ!!!! 」
苦し紛れとは言えども間髪入れずに界人機がライフルの引き金を引く。奇跡的に数発がアレクセイ機に直撃し、右腕の機能をダウンさせた。
「チッ!、桜には申し訳ないが…… 」
「逃がすかぁ!!! 」
そのまま界人機は腕を交差させてアレクセイ機に突撃する。流石にギア同士の激突は衝撃の桁が大きすぎたのかアレクセイ機が真後ろに転倒して動かなくなった。
「ハハッ、流石に惚れた女の前で負け姿ばっか晒せねぇからな…… 」
流石の界人も精根果てたのかその場で意識を失った




