69話 三つの戦い〜フォックス対桜〜
この前、『RE:BORN』というアクション映画を観たのですが、いやぁアクションが凄い! あれこそ戦闘ですよ。
ゼロのコックピットの中で目を瞑るフォックス。その口元は旧友との再会を懐かしむかのようにわらっていた。
「懐かしい…… 久しぶりだな」
エンジンの振動を背中で感じながらゼロが一歩を踏み出す。ホバーパッドに足を接続すると、モニターの端に『adopted』の文字が表示され、外の景色が一気に映し出された。
「隊長、出られますか? 」
界人の乗る爆龍がゼロを見る。「いこうか」と声をかけると爆龍が先手を切って駆け出した。
「おう、じゃあやりますか」
瓦礫の山に残っている二機のギアに突撃するフォックスと界人。界人は迷いなく爆龍に突っ込んだ。
「お前の相手は俺だ!! 」
二機の爆龍はそのまま後方に過ぎ去ってゆく。敵のクルセイダーは爆龍を見送った後、即座にフォックスの駆るゼロに向き合った。
「本堂 桜だったか? 」
「えぇ、あなたを殺したくて止まない女よ」
律儀に通信を使って返して来たところを見るとまだ救いようがあるらしい、フォックスはそんな事を考えながら武器を構えた。ゼロの手に握られたナイフは猛禽の嘴のように曲がっている。
「動きが止まったな。見たことがないのか? 」
「カランビットでしたっけ? そんな武器、使いこなしている人を見たことがありませんよ」
クルセイダーがアサルトライフルに銃剣を装着して構える。
(あれは切るためのナイフ、振り上げる暇を与えなければ何てことないもの)
やはり戦場では刺突攻撃が最も効率的である。アレクセイの言葉を返せばこの男は戦場で血迷った選択をしたことになるが、完全にそうだとは言い切れない。クルセイダーが静かに銃口を上げて照準を合わせた。
「この距離なら外しませんよ? 」
「だろうな」
「だったら! 」
引き金を引こうとしたその瞬間、銃身が爆発し銃剣が足元に落ちた。
「なっ!? 」
「周りを見なさすぎだな、これが見えないとは注意力が足りない」
「それは…… 」
銃剣を拾い上げながらモニターの彩度を上げると、そこにはキラキラと光る筋のようなものが映っていた。
「ワイヤー、なのか!? 」
「そう、常に相手の全てに注意することこそがパイロットスキル向上の鍵だぜ? 」
「ちぃっ! 」
銃剣をアッパーカット気味に突き上げる。しかしゼロは一歩後退しただけでその動きを避ける。
「あなたはッ! ここにいてはいけない人間なんだ!! ルイスだって、隊長だって! お前がいなければ…… 」
感情に任せて銃剣を繰り出すクルセイダー。しかしそれを最小限の動きだけで捌き、避けるゼロ。モニター越しの桜の怒りに染まった目にため息を溢しつつフォックスが口を開く。
「感情が乗っているな。そこまで出来たら大したものさ」
クルセイダーの装甲は近接攻撃の際には拳や脚といった攻撃が集中する部分にせり出して攻撃に転じる様に出来ている。必然的にゼロは近接戦が不利になるのだが、そんな様子は欠片も伺えられない。
「だが、感情が乗ると動きは直線的になる。だから必ず隙が見つかるのさ」
クルセイダーの中段突きを回避したゼロは、カランビットの刃の端を手首の油圧パイプに引っかける。そして腕を取って足を払い、クルセイダーを投げた。
「キャア! 」
カランビットの刃が手首を切断し、クルセイダーが地面を転がる。立ち上がろうとするクルセイダーを上から踏みつけ、ゼロが脇に転がっていた鞘に入った太刀を拾い上げた。
「私は負けない! あなただけには…… 」
「私情は捨てろ、パイロットの鉄則だぞ」
太刀を振り下ろすゼロ、「グッ!? 」という短い断末魔を残してクルセイダーが沈黙した。
「ふぅ、感情の乗った攻撃はいつでも面倒なもんだな」
「………殺したの? 」
モニターの端にユリの顔が映る。恐らくは桜を殺したと思っているのだろうか。
「殺ってない。若人を殺すのはナンセンスなんでな」
そういうとゼロの右手がクルセイダーのコックピットハッチを引きちぎった。中は無傷らしく、ユリが「ホントどうやったらこんな加減が出来るのよ」とぶつくさ文句を言っている。
「頭を打ってくれたか、ホントに最小限で終わったよ」
ハッチを開けて腕を伝ってクルセイダーのコックピットに滑り降りるフォックス。数十秒後には桜を抱えて外に顔を出した。
「ま、感情は抑えるべきだが捨てるよりましさ」
目を覚まさない桜の顔を見下ろして呟くフォックス。思うところがあるのかその顔は暗い。
「……はぁ、戦争は辛いな」
僅かに白みゆく空を見上げて、フォックスは再度ため息を溢した。




