68話 三つの戦い〜フェルディナンド編〜
そういえば私、『宵闇に詠う』ってハイファンタジーも書き始めたんですよ。読んで頂けると嬉しいです。
「ささ、お座り下さい」
フィリップに勧められ静かに腰を降ろすフェルディナンド。その瞳からはいつもの余裕は消えていた。
「今日はどうされましたか? 」
フィリップの目からも分かるが、フェルディナンドはここに来る道中自分に対する不信の目線が容赦なく浴びせかけられていた。吐き気すら催しそうなその目線を耐えつつ質問に答える。
「いや、今日は政治家としての私ではなく一人の『レジスタンス』として話をしに来たんだ」
「ほぅ」と興味を示しつつなお警戒を解かないフィリップ。これが現状なのだと再確認しつつフェルディナンドは言葉を続ける。
「信頼されていないことも分かっている。だが私は既に政府と縁を切った、それくらいは信用してくれないか? 」
「ま、良いでしょう」と部下が差し出したコーヒーに手をかけるフィリップ。フェルディナンドが続いて飲むと、フィリップが突如笑い出した、
「どうされました? 」
「いやいや、フェルディナンド君はあれほどの切れ者でありながら中々面白い男だと思ってね」
「何がです? 」
「知ってるかい? 相手と同じ動きをしようとするのは『自分が相手よりも劣っている』と自覚している時らしい。政府高官として登り詰めたというのに変わった男だよ」
「それは違う」とフェルディナンドは真っ直ぐにフィリップの目を見た。この男はレジスタンス組織のリーダーとしてはあまりにも出来すぎている、人を率いる立場でいたからこそフェルディナンドは彼の実力を正しく理解していた。
「今までこの『Hive』が残ってきたのはひとえにあなたの外交手腕が大きいでしょう? たとえフォックスがいたとしてもそれだけでは持たないはずだ」
「分かっていないねぇ」
フェルディナンドの考えを否定するかのようにフィリップは笑った。
「どういう意味ですか! 」
「この組織が存続するには私が必要かもしれない。だがそれで済むのは『会社組織』ならばであってギアを扱う『軍事組織』ならそうはいかないのさ」
フィリップが腕を組む。その目線からは先程までの笑みは消え、真剣そのものである。
「確かに組織運用には資金と交渉が欠かせない。それが出来るのはこの組織では私を含めて数人だろう。だが金で軍隊は動かしてはいけないのさ」
その言葉にフェルディナンドは雷に撃たれたような感覚を覚えた。唖然とするフェルディナンドの心を他所にフィリップは話し続ける。
「今の政府はそれを理解していないだろう? だからこそうちなんかに遅れを取り続ける。血の通った人間同士でやるからこそ戦争には終わりが来る、なのに政府は機械で戦争をやろうとしているのさ。本質を忘れたら何事も終わりだよ」
肺の空気を吐き切る様に捲し立てた後、フィリップは何かを懐かしむように天井を見上げる。フェルディナンドは彼の言葉の意味を噛み締めながら口を開いた。
「すごいですね。人間としての格が違う…… 」
「うちを駒に政府を打倒するつもりだったんだろ? だったらこれくらいの事は覚えておきな」
フェルディナンドはギョッとした。まさか既に考えを読まれているとは思わなかったのだ。
「全てお見通しですか」
「あぁ、俺の人生の師匠は既に分かっていたよ。それに『かつての部下を玩具にした事への償いはしてもらう』と呟いていたしな」
これにはフェルディナンドも顔を引きつらせながら笑うしかなかった。その空気を察したのかフィリップは静かに笑う。
「ま、会ってみてからさ。既に作戦は始まっているし」
「作戦? 」
「あぁ、不死身のフォックスが本気になったからには負けはない。中継もしていることだし、実際の戦場を見てみようじゃないか」
そう言うとフィリップの後ろのモニターに映像が映し出された。恐らくフォックスのギアに取り付けたカメラだろうか、かなり揺れのひどい映像である。フェルディナンドは映像を食い入る様に見つめ、フィリップはその様子を見て微笑んだ。
「本気で世界を変えるなら、こういうことも知っておかないとね」




