67話 嬉しい成長
夏バテでモチベーション落ちてました。申し訳ない
「桜、そちらはどうだ? 」
「今のところ動きは確認されていません」
「そうか」
アレクセイがモニター越しに拡大した建物を凝視する。元々廃棄が予定されていたラボに明かりが灯っていると聞きつけ調査を始めたのだったが、予想通り人影が目撃できた。
しかもフォックスの目撃もあって中にいるのが『Hive』のメンバーだと知り、なんとかギアを集めて制圧作戦が実行できるに至ったのだ。参加するパイロット全員が「ここを逃せば日本国内で捕まえられない」と分かっているので士気の上がり方は尋常ではなかった。
「さぁ、そろそろ作戦開始の…… 」
―――――――ヒュルルルル、という風切り音でアレクセイの声は遮られ、その音は事もあろうかアレクセイたちが用意した『ギアを隠す為に買収したビル群』に向かって一直線に飛んでくる。
「え? 」
「総員退避!! 」
アレクセイの掛け声で全員がビルから退去しようとしたその時、コンクリートやガラスを砕く音に紛れてグレネードの嵐が到来した。なんとか脱出できたのは全体の2/3にあたる24機だけだった。
「ちぃっ、これだけか? 」
「はい、でも…… 」
桜の震える声は正しかった。自分達の策が見破られているからこそ爆弾が降り注ぐのであって、相手が相手なだけにこれで終わるとは思えなかったからだ。
「しかし、どこから情報を仕入れているというのだ…… 」
地下通路を使ってのギア搬入や近辺で目撃されないように気を使う等、計画を知られないように行動したはずだったため、この先制攻撃は非常に狼狽した。周りを見渡しても大体の友軍機が破損しており、まともに戦闘できる状況ではなかった。
「クソッ!!! 」
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「完璧だな」
フォックスが双眼鏡から目を離しつつ、界人に親指を立てて『サムズアップ』のサインを送った。
「人の動きが消えたから軍の展開があり得る、いつもなら活動が行われていないはずの時間帯に照明が点いているから恐らく工作活動をしている。この二つから『作戦の準備』をしていると結論付けられたんだから界人も成長したもんだ」
フォックスが深く頷くとレオンが界人の肩を叩いた。その手にはいかなる感情が篭っているのか、いつもよりも力強かった。
「やっとリーダーらしくなったな、大分フォックスに似てきたがな」
界人が照れ気味に頭を掻く。ユリがレオンの袖を握りながら界人とフォックスの顔を見比べながらとぼけた様に口を開いた。
「やっとここまで来れたね、後はギアの操縦だけだね」
「それは無理だってぇ」
一瞬にして場の空気が和んだ。界人が考えた作戦というのは『グレネードランチャーによる爆撃で敵をビルから炙り出した後、狙撃隊による攻撃で被害を出さずに敵を殲滅する』というものだった。爆撃が成功したことを受けてギアによる狙撃 が開始され、敵機がバタバタと崩れ落ちていくのが見える。
「あれ、なんでしょうかね? 」
双眼鏡で敵を見ていたクルーの一人が声を上げる。
「あれです。あの二機だけ動きが速くて…… 」
フォックスが急いで双眼鏡で崩れかけたビル群を覗く。そして他とは格段に速い動きを見せる二機を見てニヤリと笑った。
「界人、ギアの用意をしろ。レベルアップのチャンスだぜ? 」
界人が不安そうにユリを見る。ユリは一瞬レオンの顔を見上げたあと、静かに微笑んだ。
「頑張ってね」
「う、うん! 」
あまりに露骨に界人の鼻の下が伸びたので、オペレーターたちが大笑いした。ひとしきり笑いが収まったところでフォックスが手を振りながら格納庫に続く階段の手摺に手をかけた。
「今回は相手が二機だから二人で出る。支援射撃も止めてくれ。万一こちらが不利になったら出撃してくれ」
「分かった。早めに帰ってこいよ、年なんだから」
レオンの笑顔に投げキッスを返し、フォックスと界人が階段を降りていった。
「レオンさん、今のって死亡フラグじゃ…… 」
「なに、フォックス《あいつ》がフラグ一つだけで死ねると思うか? 大体自分で立てても死なないのに」
「そうですね」
レオンとユリは静かに微笑んで戦場へと目を落とした。
そろそろここで作者の小話でもしましょうか。次回からちょくちょく出していきますね




