65話 邂逅
なぜだ!? 書いているはずなのに戦闘シーンにたどり着かない……
「おーい、フォックスはどこー? 」
ユリが格納庫から出て来て休憩室を覗いたがそこにはフォックスの影はなく、界人と数人のパイロットがポーカーをしている最中であった。
「チーフならガレージのバイクに乗ってどっかに行っちまったぜ。ほい、フルハウス」
「ここ二日ほど隊長は休みなかったしな。じゃあ俺はストレートフラッシュで」
「おい、イカサマしたろ! 」
「なんでそんな面倒なことを…… イテッ!! 」
ユリは自分をそっちのけでポーカーに没頭する界人の耳をおもいっきり引っ張った。
「太平洋の人工島ベースと違ってここは敵地のど真ん中なのよ? 敵に見つかったらどうすんの!! 」
すると界人の隣にいた黒人のパイロットクルー、レックスがユリの肩に手を添えた。
「いいかい? チーフはレオンさんと飲みに行ったのさ。俺らが付いていって良い話じゃないの」
「久しぶりに二人にさせてやろうよ。な? 」
「むぅ…… 」と頬を膨らませるユリ。まるで駄々っ子をあやすかの様に界人がユリの手を取った。
「仕方ない、俺らもどっかに出掛けるか? 」
その瞬間、ユリの顔がパアァっと明るくなった。そしてそのまま手を繋いだまま出ていく二人を見送りながらレックスが呟いた。
「また勝ち逃げられた…… 」
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「しっかし、2年見ぬ間に白髪が増えたな」
「うるさい! 誰のせいだと思ってるんだ全く…… 」
ベースから軽くバイクを走らせて新宿の表通りのバーに入った二人はまだ午前中だというのに既にウイスキーのボトルを3つほど空にしていた。
「生きてるんなら教えくれても良かったのに…… 」
「そうもいかなかったんだよなぁ、2年間ずっとスイスにいた訳だし」
「しかしよく思い付いたな、搬出用のエレベーターを使うなんて」
そう、あの戦闘の最後でフォックスが落下したのは『ギアを地上に搬出するためのエレベーターのハッチ』だったのだ。ある程度は考えながら戦っていたとはいえ奇跡に近い助かり方であった。
「伊達に20年近くギアに乗ってる訳じゃねぇからな、そこだけは譲れんさ」
しばしの沈黙が流れた後、二人は同時にグラスの酒を空けた。
「 ……成長したな、あいつら」
フォックスがグラスの氷を見つめながら呟やく。その左手にレオンがそっと手を重ねた。
「誰かにそっくりな育ち方だよ。無茶はするし一人で突っ走るし」
「そうやって限界を知るんだよ。多目に見てやれって」
「そりゃあお前みたいに強ければ私だってなにも言わないさ」と今度はレオンがグラスの氷を見つめる。そして寂しそうに息を吐き出して言葉を続けた。
「何かこう、背負いきれないとわかっているものを無理に背負っている感じがしてさ…… 」
「理想の隊長像か、若いねぇ」
そう言うとフォックスはロックの追加を注文した。そしてレオンの方を向き、静かに深呼吸をして話し始めた。
「そうやって誰かの背中を追っかけて強くなるんだって。男ってのはそんなもんさ」
「そうよね、そうやって恋人ほっぽらかして行っちゃうもんね!! 」
「それは悪かったって、な? 」
これは厄介だ、とフォックスは心の中で思った。ただでさえ怒ると面倒なレオンなのに酒が入って面倒さに拍車がかかっている。あんまりなことをした場合その身ひとつで止める自信がなかった。
その時、一人の女性がバーに入ってきた。二人はその服装だけで彼女が何者かを即座に悟った。
「 ……軍人か」
「フォックス、武装は? 」
レオンが頭を下げつつフォックスに耳打ちすると、フォックスはズボンの太ももを指差した。
「マントを使って静かにな」
「もう取った。大丈夫」
二人が元の体勢になって酒を飲み始めると、件の女性軍人はフォックスたちの横に座った。そして何も注文せずにフォックスの横顔を観察している。
「なんかついてるか? 」
「いいえ、ただ…… 」
カチャリ、と冷たい金属音を立てて拳銃をフォックスの頭に突きつけた。
「この距離なら逃がすことはないと思いましてね。はじめましてフォックス=J=ヴァレンタイン、私は本堂 桜です」
「仇討ちか? まだそんなに殺していないはずなんだが…… 」
フォックスが嘲ったように答えると桜は拳銃をフォックスのこめかみに押し当てて言葉を荒げた。
「えぇ! あなたからすればそうでしょう、でも私には大きな問題なんです!! 」
そう言って桜は引き金を引こうとしたが、ピクリとも動かずなかった。
「覚悟は良かったんだがなぁ、態勢を整えてから撃つまでが遅すぎる。恐らく軍人になってまだ5年と経たないんだろうがあまりお痛はしなさんな」
右手で桜の指を止めつつ、今度は左手でナイフを取り出し喉元へと突きつけた。
「さっき一瞬下を向いたのは酔ったからじゃなくてお前を警戒しての事前行動さ。こんな事も気付けんとは経験不足だな、本堂少佐」
「今日のところは帰りなさい、相手してほしければちゃんと準備を整えてから来るべきね」
いつの間に酔いが覚めたのかレオンも席を立って拳銃を構えている。桜は力なく拳銃をしまいバーを出ていった。
「やっぱりクラシックの大型バイクに乗ってるのが悪いのかねぇ」
「あなたの知名度の問題よ! 」
レオンがカウンターに代金を叩きつけ、二人はバーを後にした。
そろそろドラマパートばっかりに飽きたって? そう言わずにお付き合い下さいよぉ……




