63話 あるべき所に
戦闘シーンも書きたいのですがあいにくストーリーの都合上進展が遅くて申し訳ない
輸送機は快調に空路を進み、日本エリアの領空に入った。
「羽田にこいつを乗り捨てる。全員ギアに乗っておけよ、ギアでスカイダイビングなんてそうそう出来たもんじゃないからしっかり用意しろ」
パイロットスーツを着込む界人たちに対してフォックスはそんな様子を全く見せない。
「フォックスさんは着ないんですか? 」
「感覚が違うもんでな、軍人時代からこの格好だと決まってるのさ。あとリオ君、俺のことはフォックスさんじゃなくてもう少しフランクに読んでくれんかね? 」
「そうは言われても…… 」とリオが返す。あまりにフォックスの存在と功績を後輩たちに伝えすぎたか、と界人は後悔した。
「で〜、私はどうすればいい? 」
オートパイロットの設定を終えたユリがフォックスに抱きつく。フォックスはユリの頭を撫でつつ界人の方を向いてニヤリと笑った。
「あと何分で特攻を開始する? 」
「7分、そこから羽田に向かって全力で降下していくようにしたよ」
「はいよ。さて皆の衆、あと五分で支度しろ! すぐに飛び降りる!! 」
「了解!! 」
にわかに騒がしくなった倉庫を横目に、フォックスはユリを抱き締めた。
「乗るか? あのギアに」
そこには片腕を失ったままのゼロが安置されていた。そのギアは間違いなく二人にとって思い入れの深いものである。
「乗る!! 」
「じゃあパイロットスーツを着ておいで」
「うん♪」
スキップしながら格納庫の端に設けられた更衣スペースへ向かうユリを見て界人はため息をついた。
「変わらないなぁ…… 」
その言葉を聞いた瞬間、フォックスが突然ニヤリと笑った。
「そこに惚れたんだろ? 」
「ま、まぁそうなんですけどね…… 」
恥ずかしそうに下を向く界人の脇をフォックスが小突く。ひとしきりからかった後にフォックスが界人の背中を叩いた。
「さぁ、新天地と懐かしの仲間が待ってる。行くぞ! 」
「はいっ! 」
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「……で、我々を日本に? 」
アレクセイは困惑していた。フェルディナンドが突如解任されたことを告げられ、同時に劉から日本への出向を命ぜられたのだから当たり前だと言える。
「そうだ。フォックスの首を持ち帰るまで本部への帰還は禁止する」
「待ってください! 隊長は別に…… 」
「本堂 桜君、それ以上の反論は処罰の対象になるが構わんかな? もっとも、結果も出せない上司を庇うとは辛い仕事を遣っておられるようだが」
「くっ…… 」
桜が拳を握る。劉のボディーガードたちがニヤニヤしながらアレクセイに唾を吐きかけた。
「天下のアレクセイ大佐もこんなもんですか、つまらん世界だねぇパイロットはぁ」
「素人同然のレジスタンスを狩りまくって得た声明だからなぁ、所詮英雄も見せかけ…… 」
その時、ボディーガードの一人が真後ろに吹き飛んだ。
「だったら今やるか? 」
「んだとこの野郎! 」
もう一人がナイフを取り出そうとするが、そんな隙も与えることなくアレクセイの拳が唸る。その目は赤く血走り、指から滴る拳と相まって修羅のごとき様相を醸し出していた。
「実戦の経験もない役立たずどもが何をほざこうと気にしないんだがな。パイロットとはたとえレジスタンスであろうと過酷な任に就くことは当たり前、貴様らが口先三寸だけで語れるような世界ではない!! 」
あまりの剣幕に劉も腰を抜かしてへたり込んだ。桜も始めて見るアレクセイの怒りの形相に驚きを隠せない様子だった。
「次はないと心得ろ。真剣にあの世に送り届けてやる」
「ふぁ、ふぁい…… 」
前歯が抜けた口で答えにくそうに返事をした先に倒れた方のボディーガードに向かって、アレクセイが二人目を投げつける。
「日本には喜んで出向しましょう。フォックスを討ち取れなかったこの失態は結果でお返しいたします」
そう言うと動きの早さに耐えられずに頭から落ちてしまった帽子を拾い上げて劉に向かって敬礼し、桜の背中を急かせてアレクセイはその場を去った。
「隊長、あれはまずいのでは? 」
「関係ない。任務中に私情を持ち込めない分、普段はより感情的であるべきだからな」
アレクセイが桜の頭に手を置く。恥ずかしそうに手を払いのける桜を見てアレクセイは大笑いした。
「さ、日本だ日本。羽田に着いたら旨い寿司を奢ってやろう」
二人は足並みを揃えて本部の建物を去った。




