62話 感情の空転
なんと!今度は日間7位に入らせて頂きました!! 2、5、8ときて7です。次はどこにランクインするんでしょうか……
スイス 統合政府軍野戦病院
ルイスは目を閉じたままマスクをつけられ、透明な液体の中に浮かばされていた。部屋にいるのはそんな格好のルイスと桜、そして治療の担当医である。
「……というわけで、現在ルイス少尉にはナノマシンによる再生治療を実施しています。幸い神経系には一切損傷がないので無事に完治するでしょう」
医師が説明を終えるが、桜は治療用の特殊な液の満たされた水槽に浮かぶルイスから目を離さない。
「どのくらいかかりますか? 」
「どうでしょう、個人差はありますが彼は内蔵を損傷していましたから。最低でも二ヶ月はかかりますかね」
「そうですか…… ありがとうございます」
「任務頑張って下さい」
「失礼します…… 」
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無言で病室を出てきた桜の顔は暗かった。部屋の外で待機していたアレクセイは桜の様子に不安を抱いた。
「……かかるか? 」
「はい、二ヶ月だと言われました」
「そうか」
桜の返答を聞いてアレクセイは即座に彼女の心境を察した。かつて抱いた事があるその感情を彼女に確かめる。
「憎いか? 」
「え? 」
「無自覚って事はないだろうが。あのパイロットを倒したいのか? 」
「それは! その…… 」
口をつぐむ桜を見てアレクセイは確信した、『桜は復讐心に駆られている』と。
「あのパイロットについて教えて欲しいか? 」
「知っているんですか!? 」
「まぁ腐れ縁だがな。場所を変えよう」
そう言うと、アレクセイは桜の背中を叩いて歩き始めた。
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戦闘が終わった後、フォックスたちは即座に荷物をまとめ始めた。
「これからどこに行くんですか? 」
「日本だ、新しい拠点が出来るそうな。しかも懐かしの教え子全員集合だとフィリップが言っとった」
「え、全員が集まるんですか? 」
界人が目を丸くすると、フォックスは「らしいぜ」と笑顔で答えた。
「へぇー、皆元気にしてるかなぁ」
界人が懐かしそうに上を見上げていると、新人の一人が「あのぉ」と声をかける。
「どうした? 」
「そちらの方がフォックスさんですか? 」
「なんだい、俺の話かよ」
界人を挟んだままフォックスが新人に声をかける。界人は行き場に困ったように辺りを見渡して新人の肩を握った。
「うちの期待の新人、リオ・カスペン君です」
「お前が指導したのか? 随分偉くなりおってからに、えぇ? 」
「勘弁してくださいよ。格闘はレオンさんが見てますから俺より達者です」
「ほぉ、そいつは楽しみだねぇ。宜しくリオ君」
「あ、はいお願いします! 」
リオが律儀にお辞儀をするのを見てフォックスは一人笑った。ひとしきり笑ったところで胸ポケットから端末を取り出して電話をかける。
「スコット、そろそろ輸送機を出す準備を始めてくれ。じゃあ」
手短に電話を切るとフォックスは二人に向き直って再び微笑んだ。
「さぁ、ギアを輸送機に積み込んですぐ日本に出発するぞ! 」
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「隊長とフォックスの間にそんな事が…… 」
「あぁ、まあ向こうは軍人だったし私の兄のことなど覚えていないだろうがな」
アレクセイの悲しそうな表情に桜は胸が痛くなった。自分と同じ境遇を経験しているからこその表情なのだろうか。
「どうせその感情は当人に一矢報いるまで晴れないが、晴れたあとには虚しさしか残らんぞ。先に言っておく」
うつむく桜の肩を優しく握り、アレクセイは疲れを取り繕ったような寂しい笑顔で続けた。
「パイロットに私情は厳禁、俺を悲しませるような事はしないでくれ」
直立したまま動けない桜を置き去りにするかの様に、アレクセイは出口に向かって歩き始めた。桜はそんなアレクセイの背中を見つめていた。
「でも、私は諦めない…… 」
拳を握り締める。切るタイミングを逃して少しだけ長くなった爪が手のひらに突き刺さる。
「あなたがどう思っていようと許せない。だから」
血の滲んだ手のひらで手すりを握りしめ、窓ガラス越しにルイスを見る。彼の目はもちろんのこと深く閉ざされていた。
「馬鹿だって思うでしょ? 」
桜が力なく笑う。その瞳には光るものがあった。
「だけど、私にはこれしかないの。ごめんね、ルイス」
涙を拭いた直後の赤い目のまま桜はアレクセイの後を追いかけるように走り出した。
レビューに書いて頂いた通りこの作品は良くも悪くも『テンポが悪い』が売りでございます。単に私の表現力不足でもありますが、伝えたいこと全部載せするとどうしても歯切れが悪くなってしまうんです。そこだけはお許しください。




