61話 彼が向かう先
二本並行はつれぇ……
先程の中継の結果を受けて、連合政府議会は緊急会議を開いた。目的は勿論のこと『フェルディナンドの叱責』である。
「どういうつもりだねフェルディナンド君、解放戦線はあの戦力で撃滅できるのではなかったのか? 」
アルフレッドが机からゆっくりと身を乗り出すが、フェルディナンドは彼の威圧をものともせずに平然と返答した。
「えぇ、『フォックスがいなければ』ですが」
劉が机を叩く。
「言い訳は良い! どうやってこの事態を収集させるか考えろ!! 」
既に世界各地で暴動が確認されている。元々理不尽な権力の行使によって生まれた政府なのだからその軍事力の程が知れればこうなることは明白であったのだ。
「私に、そしてアレクセイ大佐にその責を求めるというならば筋違いでしょう! フォックスほどの男なら容易に戦況を変えられることくらい分かるでしょうが!! 」
劉がフェルディナンドの剣幕に押されて黙り込むが、アルフレッドとアルバートは表情を崩さない。
「ならば聞こうフェルディナンド君、何がいけなかったのだね? 」
「ならばはっきりと申しますがねアルバート卿、クローンは駄目ですよ。調整のし過ぎでイレギュラーの事態に使い物にならない」
フェルディナンドが答えると、アルバートは葉巻を灰皿に置いてため息をついた。
「そうそうイレギュラーが起こってたまるか、クローンの配備は止めない」
「実践経験の足りないクローンに戦場を任せた結果がこれでしょう! 」
「なぜ一度減らせた人件費を増やそうという発想になる!! 」
「だったらあの男に二度と勝てるか!! 」
肩で息をするフェルディナンドをアルバートが睨み付ける。このような状況にあってなお、他の議員たちはヒソヒソ声でフェルディナンドの発言の不敬さを語っている。
「その発言、政府に対する侮辱発言か? 」
「本気で未来を考えているからこうやって具申しているのだ! なぜ伝わらない!! 」
フェルディナンドのあまりの迫力に場が静まり返る。するとアルフレッドは咳払いをしてフェルディナンドに向き直り腕を組んだ。
「やはり、君は若すぎたようだ。人を率いることの難しさが分かっておらぬ」
フェルディナンドの顔がひきつった。その不吉な予感は見事に的中した。
「君を司令から解任する。もう二度と我々の前に現れるな」
「…… 」
フェルディナンドは今一度議場を見渡した。自身を擁護するものも、意見を聞き入れようとするものもいない事を確認してフェルディナンドは静かに一礼した。
「かしこまりました」
ドアの閉まる音が響き渡り、フェルディナンドがいなくなったところで議場はにわかに落ち着きを取り戻した。
「さて、次期司令は劉君、君でいいかい? 」
「了解した。ついでにクローンの増産もやって良いかね? 」
「構わぬ。どうせ足りない駒なんだから好きなだけ足してしまいなさい」
劉とアルフレッドが今後を語っている間、アルバートは上の空だった。
「どうしたアルバート君? 」
「いや、いつもなら全くこちらの意思に反目しない彼がなぜ? と思うと…… 」
「さぁ、気にしたら負けだろ? 」
劉が軽く流そうとしたその瞬間、アルフレッドの手元の緊急回線電話が着信音をばらまいた。
「私だ」
「大変です! 全てのクローン培養槽が一斉に稼働停止!! あと二時間で全てのクローンが…… 」
「何!? 」
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フェルディナンドは議場を出た後、すぐに秘書へと電話した。
「私だ。今すぐクローン培養槽のブラックボックスを起動させろ」
たったそれだけの言葉を伝えて電話を切り、表に停めてあった自家用車に乗り込んだ。
「空港へ。そして電話を使う」
運転手は静かに頷き、車を出した。フェルディナンドが座った座席の肘掛けがせり上がり、電話が現れる。フェルディナンドはダイヤルを4番にあわせて受話器を取った。
「私だ、今大丈夫か? 」
『おぉ、フェルディナンドさん。大丈夫ですよ』
電話の主は、あのフィリップであった。
「今すぐ私直属のメカニックを全員そちらに送る。ラボを起動させてくれ」
『了解。ということは司令降板か? 』
「あぁ、ばっちり降ろされたよ。お返しにクローンのストックをゼロにしてやったがな」
『おぉ』と引き気味に対応するフィリップの声とは裏腹に、フェルディナンドの顔は不敵な笑みを浮かべている。
「遅くなってすまなかった。さぁ、『デルタ計画』を始めよう」
人物紹介:フェルディナンド=バックリーjr.
元統一連合政府軍司令。腐敗した世界に見切りをつけた彼は『とある計画』のため動き始める……




