59話 衝撃
『武芸百般』に力を入れすぎた結果こちらを放棄することになってしまいました。大変長らくお待たせしたことをお詫び申し上げます
敵の乱入からは早かった。指揮系統が完全に麻痺し、押され始めている。
「特務隊! 各自の判断で敵の撃破を許可する!! 」
アレクセイの号令と同時にルイスたちも戦列へ加わるが、敵の圧倒的は電撃作戦に即日対応出来るはずもなかった。
「何とかして状況を…… 」
「ルイス! 右!! 」
「おう! 」
辺り構わず弾幕を敷くルイスと桜は互いに背中を預けて円形に動きながら戦線を駆け巡る。その時、真横にいた味方機が吹き飛んだ。いや、正確には上半身を「斬り飛ばされた」と言う方が正確だろう。
なだれ込んできた敵の軍団の中に明らか新型の外見をした紫色のギアが薙刀を携えてこちらの陣形を突き破っている。
「なんだあの爆龍、とんでもねぇ動きしやがる!! 」
なおも進撃を続けるレジスタンスのギアを倒しながら、ルイスたちは一際目立った動きを見せるそのギアに困惑していた。明らかに乗り手の腕が違うだけではなく、こちらが攻撃しようと銃を構えたとして必ずこちらの味方機が射線に入るような回避をするため狙えない。
「ちっ、あいつをなんとかしねぇと…… 」
「ルイス! 前に出過ぎですよ!! 」
「!っ、すまん」
アレクセイもあまりの敵の数に押されて対応が遅れている。友軍機はあてにならず本部は阿鼻叫喚と化していた。
「ルイス! あいつは相手にせず目の前の敵に集中しろ! 」
「は、はい!! 」
しかし、敵の新型機は倒した友軍機をわざとこちらに投げたり奪った銃器で威嚇したりと戦況の膠着に繋がるような戦い方を繰り出してくる。ルイスたちはじりじりと戦線を後退させられ始めた。
「桜さん! あいつを早く…… 」
「今は戦線の維持を最優先にして! 私だって…… キャア!! 」
敵はその隙を見逃さなかった。瞬間的に攻撃が止まった桜の乗るクルセイダーに敵の薙刀の刃が迫る。桜はなんとか逃れようとするが敵の爆龍は即座に桜機の脚を踏みつけて破壊する。
「グゥ、こっのぉ!! 」
クルセイダーが振り向き様にピストルを抜く。しかし爆龍は苦し紛れに構えたその拳銃を腕ごと斬り飛ばした。
「あぅ、くうぅぅぅ…… 」
「桜さん!! 」
防御が間に合わない、桜はそう感じて目を閉じた。しかし、相手が振り下ろしたであろうその刃が届くことはなかった。
「え? 」
「ははっ、間に合ったぜ…… 」
「ちょ、何を!! 」
ルイス機が覆い被さるように桜を庇ったのだ。勿論モニター越しから分かるほどの深手を負っている。
「女の子守らずに死んだら男がね…… ガハッ!! 」
「喋らないで! 隊長! 誰か!! 」
既に混乱してしまっていた桜の耳に、更なる追い討ちをかける一言が飛び込んできた。敵の新型機が突然スピーカーをオンにして中のパイロットが言葉を発したのだ。
「なんだぁ、女かよ。言ってくれれば加減してやったのに」
「!!!! 」
その場にいた全てのギアが停止した。アレクセイ機すら動きを止めて紫色のその新型機に釘付けになった。その声はその場にいる誰もが聞いたことがある声だ。
「ばかな!? なんでこんな…… 」
アレクセイが驚の声を漏らしたその時、再び新型機のパイロットが声を上げた。
「総員撤退! 俺は後から追いかける、行け!! 」
その号令を受けてレジスタンスたちが一斉に撤退を開始し、政府軍は命惜しさからか一目散に逃げ出した。
「隊長、ルイスが! ルイスがぁぁ!! 」
泣きながら桜がすがり付くと、アレクセイは厳しい顔でたしなめた。
「落ち着け桜! フレッド君たちはすぐにルイスを連れて撤退!! 」
その場に残ったアレクセイ機以外の二機がルイス機を担いで撤退を開始した。その場にはアレクセイの乗った白い爆龍と、パイロット不明の紫色の爆龍が対峙する。同じ姿をしていて同じ武器だというのにまるで雰囲気が違った。
「生きていたか、フォックス=J=ヴァレンタイン」
「よぉ、久しぶりだな。こうやって出会えたことが奇跡のようだ」
人物紹介:レオン=アリシア
現在、Hiveのリーダーと目されている人物。元アメリカ軍サンパウロ基地司令兼特務大佐というかなりの秘密を知る経歴のため、政府からは危険人物として認定されている。
片腕となったフォックスに彼女が持つ感情はいかなるものか全く想像は出来ないが、界人いわく「フォックスを愛してはいるがその生存力に若干驚いている」とのこと




