58話 片腕の武神
ブクマ100件、誠にありがとうございます。これからも宜しくお願い致します
解放戦線包囲作戦開始から既に3時間が経過したが、未だレジスタンスは動きを見せない。
「本当に動くんですかねやつらは」
ルイスを含めてパイロットたちは皆コックピットで待機していることもあり痺れを切らしかけていた。
「気にするな。いかに規模が大きくても敵は素人、ただの作業だと思っていれば良い」
アレクセイは腕を組んだまま全機に通信を繋いだ。しかし、現地の部隊員は納得がいかない様子である。
「不満か? 」
「なぜ攻勢に転じてはいけないんでしょうか? それだけが疑問で…… 」
隊員の一人が質問すると、アレクセイはその問いを一笑した。
「そうやって後先考えずに突っ込んだからたかが一機のギアに負けたのだろう? 」
「それは…… 」
「どうせあと一時間もかからずに相手が先に根を上げる。我慢してくれ」
そして全員に向けての通信が終わった後、アレクセイは自身が率いている追撃隊のギアに絞った個別回線に切り替えて話し始める。そのただならぬ緊張にルイスたちも固唾を飲んだ。
「今回の作戦は『被害は最小限に』とお達しが来ているようでな、どうもこの基地の司令部は敵を一網打尽にしたがっている」
隊員たちはアレクセイの発言でこの呼吸すらはばかれるほどの空気の正体を知ると同時に、その見当違いな作戦に対する不信感を露にした。
「それではまるで損をするようなものじゃないですか! なんでこんな…… 」
「落ち着きなさいルイス少尉。隊長はせめて私たちだけでも生き延びられるようにちゃんと忠告してくれたのよ、せめて指揮官に恵まれた事を感謝しないと」
「 ……了解」
桜がいさめると、ルイスはすぐに押し黙った。それを見てアレクセイを筆頭に会話が二人の話題に切り替わる。
「しかし驚きましたよ隊長、まさか桜さんがこんなに肉食系だとは思わなかったです」
「だから言ったろ? 桜から言い出すって」
結局あの日は朝まで飲み倒し、歩けないからとアレクセイを呼び出して帰ってきたのだ。バレないはずがなかった。
「申し訳ありません! あの時は本当に…… 」
「良いともさ、おかげでこの堅物にも恋人が出来たんだからな」
ルイスに至っては恥ずかしさのあまりに黙り込んでしまっている。
「さて、そろそろ切り替えろ。任務に私情は…… 」
アレクセイが手を叩いたその時、天を突くような轟音と振動が走った。
「何事だ!! 」
緊急回線が開き、オペレーターの音声が各機のコックピットにこだました。
「敵襲! 急いで迎撃準備されたし!! 繰り返す…… 」
──────────────────────
「やはりか、数に安心して胡座をかくなどいい根性をしているじゃないの」
第六世代『爆龍』の性能は見立ての上をいっていた。射撃の反動もほとんど受け止め弾道のずれもない、今までのギアにはにないほどの安定感を示したのだ。フォックスの射撃能力と相まって、そのライフルから放たれた弾丸は吸い込まれるように敵陣に命中したのだ。面制圧用弾頭ゆえにその被害は容易に想像がつく。
「初擊命中、全機編隊を組んで前進! 」
フォックスの命令に合わせて、三機のギアが三角形状に並んだ『トライフォーメーション』を取りながら30機近いギアが一斉に敵陣めがけて突撃を開始する。
「ユリ、敵陣の様子は? 」
「予想通り、完璧に混乱してるっぽい」
久しぶりにユリのサポートの元で戦っていることに対する嬉しさからか、戦士の余裕かフォックスの顔は笑っている。
「どうしたの? 」
「ん? いや、相手は素人集団のようだからな。加減してやらねばならなかったかと公開している」
「しかし隊長、相手にはあのアレクセイがいるんですよ? どうやって戦うんですか? 」
界人が不安そうに質問すると、フォックスは義手でモニターにピースサインを返した。
「数に訴えてこない限りなんとかなるさ」
「フォックス、相手が応戦を始めたよ」
ユリがすかさず戦況を報告すると、フォックスの表情はすぐに戦士の顔へと戻った。
「だから安心して待ってろ」
爆龍は足元に用意してあった太刀を握り、敵陣に向かって突撃を開始した。
──────────────────────
解放戦線の殲滅を銘打って放送されたその映像は今まさに地獄絵図と化していた。
「始まったか、しかし馴れた戦い方をする」
レオンはその中継を見て感心していた。レジスタンスだというのに駆け引きと技術を巧みに使った戦い方はとてもではないが素人の真似出来るものではない。
「ん? あれは…… 」
恐らくは最初の一発を売ったギアだろう。解放戦線の方から界人が鹵獲したと思われる新型機が突撃してくる。瞬く間に距離を詰め最初の一機を撃破した。
「!!!! 」
レオンの身体に電流が走った。気づけばテレビの前で立ち上がり、画面を食い入るように見つめていた。
「そうか、お前だったのか…… 」
全てが噛み合った。なぜフィリップがスイスにこだわってレジスタンスを作ったのかも、なぜ政府がここまで大々的に中継を行ったこともその一瞬で理解できた。
「そうか…… そうか! 」
あらゆる感情が混ざりに混ざったその心で、レオンは涙を溜めながら呟いた。
「お帰り…… 」
組織解説:解放戦線
スイスに本拠地を持つヨーロッパ最大規模のレジスタンス。構成人数、保有ギアの数は共に世界有数の組織であり政府から特定排除対象に認定されている。
創設者はかつてのHive代表であったフィリップであり、その手腕は未だ健在であることを内外に示している。




