56話 予感
思い付きでVRMMOのジャンルに殴り込みをやってます。題名は『武芸百般~VRMMORPGの世界で武術という概念は通用するのか?~』です。こちらも宜しくお願いします。
ジュネーブの軍基地に着いた後、アレクセイたちは即座に新型ギアの調整作業を終えた。
「すげぇ、これは物凄い代物だな…… 」
ルイスの顔が思わず綻んだ。いかにコストが落ちたとはいえ、未だ第五世代機はその他の量産型に比べて値段が高く、最前線ではまだ旧世代が現役の戦線も存在する。
「ルイス君はどこの出身だったかな? 」
アレクセイがヘルメットを外してルイスの方を向く。
「元は重慶に、その後ジュネーブでパイロットになりました」
「ほぉ、中々のエリートじゃないか」
「いえ、大したことはありませんよ」
この時代において、軍用ギアのパイロットになるには二つの方法がある。一つは軍の士官学校にてパイロット課程を修めるという方法と、各地にあるパイロット候補生学校を卒業するという方法である。後者のルートでパイロットになった場合で少佐以上の階級になるには再び高級士官昇級試験を通らねばならず、アレクセイのように相当な成績を立てない限りはまず無理である。
「士官学校出なだけでも十分エリートさ。だがなぜわざわざ私と行動を共にしようと思った? 君の年齢なら後数年で参謀だろうに」
「それが嫌なんですよ、覚えもないことで昇進が決まるなんて許せませんから。男として、一軍人として功績を作ってからじゃないと」
拳を握りしめて夢を語るルイスの姿を見て、アレクセイは大いに笑った。その笑い声には嫌みの欠片も感じられない。
「男として、か。悪くない、誰か目標がいるのかね? 」
「あなたですよ、アレクセイ大佐」
完全に興味本位だったのでアレクセイは面食らった。自分が未来の将校たちにとっての憧れになっているとは思いもよらなかったのだ。
「そうか、それはまた随分と大きな期待をされているようだ、ハッハッハッ…… 」
「大佐、私も調整が完了しました。次は何を? 」
パイロットスーツ姿の桜を見て、ルイスは桜に釘付けになった。それもそのはずで桜の体は予想以上に主張が激しく、パイロットスーツの上からではかなりはっきりとラインが見えるからだ。
「えっと、桜さん? 」
「ん? あぁ、どうせ女性用では動きにくいもので。見苦しいところを見せてしまいましたね」
「いや、すっごく綺麗です。ビックリしましたよ」
すると桜の顔が赤くなった。
「綺麗だなんてそんな…… 冗談はよしてください! 」
必死に顔をブンブンと振るその仕草も非常に愛らしく、ルイスの顔にまで血が上って来たのが分かる。アレクセイは二人の肩をポンと叩いた。
「丁度いい、今夜は二人で飲んでこい! 出撃は明後日なんだから多少は潰れてきても構わんから、ほれ」
そのまま二人をドックの外まで連れ出し、半ば強引に見送った。
「やれやれ、これで桜も少しは男に馴れてくれると嬉しいんだがなぁ…… 」
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「…… そうですか、あるべきところに…… 」
スコットにドッグタグのありかを聞いた界人は落ち込んだ。『あるべきところに帰った』、それはつまりフォックスの墓がこの近くにあるということだと界人は感じた。
「で、フォックスの墓はどこに…… 」
「あ、墓ぁ? 」
スコットが突然すっとぼけたような声で聞き返したのに対して界人は若干腹が立った。
「いや、だからフォックスの…… 」
「勝手に殺すな馬鹿者が」
その時、自分の真横という想像もしなかった所から声をかけられ界人は反射的にベッドから落下した。
「よぉ、元気かい? 」
当然、声の主を見て二度驚いた。
「え? なんで…… 」
「悪かったな、ギリギリ死なずに生きてるよ。悪いか? 」
思わず抱き付きそうになった。まさか本当に生きているとは、と喜ぶと同時に明らかに寂しくなった右半身を見て嫌な予感がした。
「まさか、右腕は…… 」
「ないよ。義手生活さ」
スコットがすぐさまフォックスの肩口を捲り上げる。そこに生々しく残っていた火傷と裂傷の痕が傷の重さを物語っていた。
「あの時、俺がもっと…… 」
界人がうつむくと、フォックスの義手が界人の左肩を握った。
「終わったことは気にすんな。そんな事よりも…… 」
フォックスがちらりとドアの方を見やると、そこには目を真っ赤にしながらこちらを見ている影があった。
「馬鹿! 心配させないでよぉ…… 」
「痛っ! そんなにきつく抱き付くなよ、悪かったから…… 」
一気に場の空気に花が咲いた。若人二人の感動の抱擁を眺めつつ、フォックスとスコットは二人してため息を漏らした。
「若いってのはえぇのぉ…… 」
「レオンにも謝らないとなぁ…… 」
人物紹介:スコット=ミラー
元ユニバーサル・ファクトリー技術員。彼が17歳の時に発表した『核融合エンジンの小型化に関する理論的手法』という論文は現在稼働するすべての重水素式核融合エンジンの元祖となっている。
しかし、その論文の軍事転用を巡り30代半ばにして会社を辞した。その後はフリーエージェントとして世界を飛び回り、最終的に解放戦線に収まっていた。




