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4話 世界は回る

この作品に関しては、今までを遥かに超える反響となっており、嬉しい限りです

 タリンを離れて二時間近く飛ぶが、未だに陸地が見えてこない。オートパイロットなのを良いことに、二人は暇潰しの代わりか何かのように戦闘データの作成に取り掛かっていた。


「うわ、ギアで側転してる……」


「普通だろ?」


「あのねぇ、ギアと人体は別物!パイロットが耐えられないじゃん!!」


 操作システムのログから動きをCGで再現しようとするもエラーの文字が画面に乱立し、ユリがキーボードを叩き出す。


「ギアで対人CQC!?もう……」


「自分の体のごとくギアが反応するからねぇ、仕方ない」


 フォックスが黒光りを放つ巨体を見上げる。


 この機体のコンセプトは、今までのどのギアにもあてはまらない。

PNG-0δ それは『作戦内容、環境ごとに』造られたものではなく『どんな環境にも対応できる』を目標に造られた機体。企業ごとに違う規格のずれも、ユニバーサル・ファクトリー社の技術力で全てに対応するように改造。それに合わせて改良され、今までのどの機体にもない高出力、高機動が実現されたのである。


 それでいてパーツの8割が既存のものを使用しており整備の際もストレスを感じない、正に完全無欠な機体である。


「後どれくらいだ?」


「ん〜っとね、後四時間ぐらい」


 まるで狙っているかのように時計までひょこひょこと歩くユリ。かたの長さで切り揃えた黒髪は一切のクセを持たず、年相応の「女の子」としても見目麗しいとフォックスは思っている。


「サンパウロに着いたら街に行ってこい」


「なんでよ?」


 おいおい、とフォックスはユリの肩を揺さぶった。


「お前も年だろ?いい加減探さんと行き遅れるぞ」


「別に良いもん、フォックスがいるし」


「だからなぁ……」


 そういうところがいかんのだ、とフォックスが言い聞かせる。


「一人の女として、タイプの男性はおらんのか?」


「いるよ?」


 フォックスは胸を撫で下ろした。人並みの感情はあるらしい。


「どんなやつだ?」


「まず、イケメンだけな奴は論外」


「お、おぅ……」


 面食いではないのか、とユリの思考に感心し、質問をぶつけていく。

「で、性格は?」


「優しくて気が利くの」


 俺とは違って穏やかな人間が良いらしい。


「他は?」


「そうね〜、スポーツよりは武術できる方が良いな♪」


 武術家ねぇ、この荒みまくった世界にはごまんとおるだろうさ。それに、本当に強い武術家は根が優しいと相場で決まっている。


「あとねぇ、頭が良い方が嬉しいかな」


 文武両道か、悪くない。


「じゃあ、ちゃんと作戦が終わる前に探してこいよ」


「要らないよぉ、もういるもん」


 急に頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。女の思考は読めないものか、とフォックスはユリに向き直る。


「ほう、そいつは誰だ?」


「それはねぇ……」


 いきなり満面の笑みでユリが抱きつく。

「フォックスゥ〜♪」


「……真面目に言ってるなら辞めた方が良い」


 静かにユリの手を解き、フォックスが静かに立ち上がった。

「どこ行くのぉ?」


「操縦席、データ収集は任せた」


 フォックスは気だるげに操縦席へ歩いていった。一人取り残されたユリが呟く。


「……まだあの事気にしてるのかなぁ……」



 操縦席にドカッと腰を降ろし、ドッグタグを握りしめる。


「サンパウロ、ねぇ……」


 タグを裏返すと、そこには笑顔のフォックスと写る一人の女性の姿があった。


「全く、ツケというもんはいつも最悪のタイミングで払う羽目になるんだよなぁ……」


 そのままハンドルの奥の空間にブーツを乗せ、フォックスは大きく伸びをした。



─────────────────────

 サンパウロの米軍基地に到着したロバートは、基地司令の元へと挨拶に向かっていた。


「ロバート・ダルトン少佐です。基地司令はいらっしゃいますか?」


「あぁ、入れ」


 そこには、淡い紫の髪をなびかせた長身の女性が立っていた。いかにも軍人といった空気をまとい、凛とした佇まいからは恐れににた感情が込み上げてくる。


「お久しぶりです、レオン大佐」


「気にすることはない、かつての同僚ではないか」


 この二人の共通点は、かつてのフォックス隊のメンバーであるということだ。そして、レオン=アリシアは当時副隊長だったこともあり、ロバートは彼女に頭が上がらない。


「まずはタリンの件だが、ご苦労だった」


「いえ、あれは私の不手際でしたから」


 椅子に座りつつ、レオンがロバートを促す。相手の着席を確認してレオンが紙の束をロバートに手渡す。


「これは……ほぅ、出撃ですか」


「あぁ、君にはこの作戦で一個中隊を動かしてもらう」


 そう言うとレオンは資料から目を離し、ロバートの方を向いた。


「例の新型機の映像だが、わざわざ転送してもらってすまなかったな」


「どうせあなたの指揮下ですから、意見をもらおうと思いまして」


 レオンがテーブルのボタンを押すと、中央に先刻の戦闘の映像が流れる。


「しかし、隊長にそっくりだ」


「司令もそう思いますか?」


 画面越しの黒いギアは規格のバラバラなナイフとライフルを完璧に使い分け、立て続けに味方機を撃破していく。


「今回の作戦にも現れるかもしれない。その時は私が相手するから、出来るだけ多くのデータを集めろ、いいな?」


「了解しました。では、私はこれにて」


「あぁ、ご苦労」


 ロバートが部屋を出た後、即座に側近に人払いを命じレオンは司令室に一人きりとなった。かつて、女性パイロットとしては唯一のエースを誇った彼女も寄る年波には勝てず、疲労の色が滲み出ていた。


「ハァ……」


 一人ソファーに倒れ込み、胸元のポシェットに手をかける。そこには、彼女と肩を組んで歯を見せて笑う男の姿があった。


「もう15年、か……」


 レオンは一人、ポシェットの写真に呟きかける。


「フォックス……あなたはあの時、何を伝えたかったの?」


人物紹介:フォックス=J=ヴァレンタイン


元アメリカ陸軍中佐、現民間警備会社『Hive』技術員兼テストパイロット。


かつて史上最多の撃破数合計148機を誇るエリートパイロット。10機撃破すればエースパイロットといわれる現状から比較しても、彼の実力が伺い知れる。


この記録は15年前の戦死報告を以て打ち止めとなった。なお、現在この記録を抜く者は両手で数える程しかいない(いないわけではない、これが重要)。


現在はHiveのパイロット『ブラボー1』として活動中。戦闘スタイルを選ばないその戦いっぷりには需要が殺到している。

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