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48話 二年

昨日は本当にすみませんでした。携帯を家に忘れるなどという大失態をどうかお許しください

「それでは、多少聞こえにくいだろうがここでブリーフィングを始める」


 薄暗い輸送機の格納庫で界人の前に並ぶのは、恐らくまだ界人と大して歳が変わらないであろう若者たちである。全員の顔が引きつっており、その顔を見ると周囲の空気すら凍りついてしまうかの様な雰囲気が漂っていた。


 パンパン、と界人が手を叩くと若者たちが飛び上がる。その様子を見て界人は少し笑った。


「怖がり過ぎだって、何が怖い? 」


「いや、だって今からやるのは殺し合いですよ?隊長は怖くないんですか? 」


 その問いに対して、界人はある答えにたどり着いた。それは「自分はフォックスに比べてまだ安心感が欠けている」ということだ。しかし、これは年季や経験の問題があるため界人自身ではどうしようもない。


「あー、まぁ確かに俺じゃ心細いだろうが…… 」


「いえいえ、そこじゃなくて。そのぉ…… 」


 若者が口をつぐむと、後ろから整備員の一人が若者の肩を握った。


「気にすんなそんなもん、こいつなんか実戦に出る前はひよっ子だったんだからよ。誰だって経験だよ、経験」


「中々言ってくれるじゃないですか、まあ否定はしませんが」


 界人が少しおどけて返答することによって、眼前の彼らの表情も和らいだ。


「さて、ある程度ほぐれたところで本題に移りたいがいいな? さて、今回の作戦目的は『新型機の強奪』だ。君たちは俺が囮になっている間にちゃちゃっと予備の輸送機に新型機を詰め込んで撤退すればそれでいい」


 全員の顔を見渡し、界人が微笑む。


「大丈夫、俺も負ける気はないし君たちがいつも通りでいられるなら誰も死にはしないさ」


 再びパン、と手を叩く。


「さぁ、俺は先に降下を始める。第一、第二小隊は敵の動力反応が俺に集中した時点でサクッと新型機を奪ってくれ。以上! 」


 全員がそれぞれの準備に取りかかる中、界人は一人モニターに映る作戦地点『新型機評価試験会場』を見つめていた。


「二年ぶりかぁ、これで三回目のサンパウロだよぉ」


 ユリが界人に歩み寄る。


「『レイヴン』は整っているのか? 」


 界人がユリの後ろにそびえ立つ黒塗りのギアを見やる。「勿論♪」とユリは界人の背中に抱きついた。


「ホントに大丈夫? 」


「大丈夫だ。俺は必ず帰ってくるから」


 ユリの手を握る界人。流石に緊張しているのか界人の手には力が入るが、ユリは何も言わない。


「頑張って」


「分かった、行ってくる」


「……待ってるから」


「あぁ」


 互いに向き合ってしばし抱き合い、界人はすぐにギアの方に歩いて行った。その後ろ姿を見送りつつユリはため息を吐く。


「まさか、今の死亡フラグだって分かってないのかな? 」





 ──────────────────────

 スイス ジュネーブ郊外旧『Hive』本部跡、現レジスタンス『解放戦線』アジト


「おーいスコット、義手は出来たかい? 」


 雑じり気のない銀髪をなびかせた男が、部屋の隅で大量の工具を手元に機械をいじっている老人に声をかける。


「おぉ、丁度いい具合に出来上がった。付けるか? 」


「頼む」


 男の右腕は、怪我によるものかはたまた生まれつきか付け根からない。片袖だけを通したコートを脱ぐと、恐らく義手を固定するためであろうアタッチメントの様な銀色のパーツが見え隠れしている。


「貴様のその体格に合わせるのは苦労したがな。どうだい、動作に問題はないか? 」


 あっという間に男の肩に義手が装着される。老人の手際は見事なものだった。


「いいんじゃないか? 」


 義手で前髪を掻き上げ、その後手を閉じたり腕を振ってみたりする。しばし付け心地を確かめたあと、男はにやっと笑った。


「完璧、流石は天才スコットだね」


「血液流を用いたエネルギー供給システムを採用したがいかんせん出力が不足しとる、戦闘だとかギアの操縦だとかに耐えうる改良版はまたおいおい作るからとりあえずはそれで我慢せい」


「あいよ、重ね重ね感謝する」


 スコットと呼ばれた老人はそのままリモコンを手に取りおもむろにテレビの電源をつける。そこには連合政府が導入するであろう新たなギアの解説がニュースとして流れていた。まもなく試験が始まるからだろうか、しかもその様子は世界中に同時中継するとまで公言している。


「下らん」


「やはり不良品か? スコットさん」


「いかにも。あんなの玩具だよ」


 スコットが不機嫌そうに手元のカップを引き寄せ、コーヒーを啜る。しばしの沈黙のあと、スコットが思い出したように天井を見上げ話し出した。


「そういや、今回の試験はある組織をあぶり出す為の罠だとか噂されとるな」


「ほう、そりゃ一体どこのレジスタンスだ? 」


「なんじゃ知らんのか『Hive』だよ、昔はそこのパイロットだったんだろ? 」


「昔はそうだが今の事までは知らんさ。無理を言わんでくれよ」


 男が工具の散らばるデスクのスコットとは反対側に置かれた椅子に腰を下ろす。


「だがまぁ、生き残ってりゃ出てくるだろうな。やつらは俺の教え子さ、やりたい事はすぐに分かる」


 再度銀髪を掻き上げ、男はニヤリと笑った。


「さて、こっちも始めるとしますか」

組織解説:統一連合政府


かつての国連を元に作られた人類初の全地球圏統一政府。しかし、実態は旧体制下の大企業役員が幹部の大半を占めており、国際的な支持は得られていない。

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