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46話 そして男は……

何だかんだで連載開始からもう50日ですか、早いですねぇ………

「25!! 」


 地面に激突すると同時にメイスが刃の根元から折れる。ゼロは折れた刃をもって敵を殴り付けた。


「26!、後3分!! 」


 叩き潰した敵の腕手から太刀を奪い取り切りかかり、一撃で迫り来る敵の右腕を肩から切り飛ばした。


「27! 」


 腕を落とされて後退しようとした敵を蹴り飛ばし、上から踏みつけ太刀を突き立てる。なりふり構わぬその戦い方は見るもの全てを戦慄させた。


「!? 」


 あらぬ方向から斬撃が飛んでくる。通常のパイロットならば負荷の強すぎで不可能な動きをするそのギアにフォックスは嫌な記憶を掘り返されたような嫌悪感に襲われた。


「クローンか、しかも調整で恐怖すらないってか? 忌々しいもん作りやがって」


 突撃してくる敵機にタックルを食らわし間合いを保ちながら、敵の腰にマウントしてあったハンドキャノンを手に取る。


「28ィィ!! 」


 コックピットに直撃した榴弾は大量の破片を伴って敵を正確に破壊する。そして次の敵を手にかけようとしたその時、ゼロは突然脚を捕られて体勢を崩した。


「こいつっ!……… 」


 背中からひっくり返されるも、すぐさま相手の腕を捕り、十字固めの要領でもう片方の腕も引きちぎり次の敵の頭部をその腕で打つ。


「どいつもこいつもォォ!! 」


 打たれた衝撃で後ろにひっくり返った敵機にハンドキャノンを撃ち込み、弾切れを起こした空筒を投げつけた。見事に敵カメラを破壊し、目を失った敵を更に太刀で串刺しにする。


「29……!! 」


 なんと、コックピットごと貫いたはずが敵機は死も恐れずゼロに抱きつく。振りほどこうともがいたが、その後ろから味方ごとゼロを狙う敵の得物を見てフォックスは一瞬動きが止まってしまった。


「パイル…… バンカー…… 」


 そこからの反応は早く、なんとかレバーを手離したものの、放たれた鉄杭はコックピットの端を捉え、フォックスの右肩に襲いかかった。


「ア゛ア゛ア゛ア゛!!! 」


 肉の裂ける音と骨が砕ける音が混ざった聞くにたえない音と鉄と肉が擦れ合う異臭がフォックスの五感を襲う。大破した敵機ごとゼロが転倒した。


「ヴ、グゥゥ…… 」


 傷口を押さえる。肉が焼けたせいか出血はそこまで酷くなく、さいわい転倒の衝撃で薄れかけた意識もはっきりとしていた。


「終われるかァァ!! 」




 ──────────────────────

「出力安定、いつでも出せます」


 乗組員の一人がメーターから目を離し後ろを振り返る。しかし誰も答えない、いや、答えられないと言う方が正確だろうか。その訳は全員が集まっている中央モニターに映し出された映像のせいである。


「こんなことで……… こんなことで! 」


 界人が海図用のテーブルを叩く。その拳は涙に濡れていた。後悔、怒り、悲しみ、ありとあらゆる感情が渦巻いて押し止めることすら出来なくなっていたのだ。


 満身創痍のまま敵の隊列に挑み続けるゼロの姿に涙を流さないクルーはいない。しかし、彼が作ったこの時間を無駄にすることにも出来ないと誰もが分かっていた。


「……発進しろ」


 レオンが静かに口を開く。余りに冷静すぎるその声に艦内が一気にどよめいた。


「レオンさん! まだ…… 」


「発進しろ!! 」


 画面から目を逸らし界人の肩を掴んだ。レオンの目を見てやっと、界人はレオンの命令の意味を理解した。


「もうこれ以上、フォックスに無理をさせたくないんだ…… 許してくれ……… 」


「レオンさん…… 」


 初めてレオンが人前で涙した。自分を守るためとはいえ、たった一人の恋人が命を絶つ瞬間を見たくはないのは当たり前の話である。操舵輪を握る 乗組員の一人が界人に静かに頷きスイッチを押すと、ジャックフィッシュはその巨体を鳴動させながら動き始め間もなくその場を後にした。




 ──────────────────────

「もはやここまで、かねぇ」


 無理があった。1対130など正気の沙汰ではないことも重々承知している。それでもフォックスは後悔の欠片も見せることなく、笑った。


「行ったか…… フ、ハハハハ!! 」


 潰れかけのモニターに地下水路の防犯カメラ映像を映す。そこには阻むものがない水路を悠々と進む潜水艦の姿があった。


「それでいい、迷わず進め若鳥ども。じきに追い付くからよ」


 その時、ゼロは突如オープン回線での呼び掛けを受信した。恐らく敵の降伏勧告だろうか。


「聞こえるか? フォックス=J=ヴァレンタイン」


「何だね? 今さら降伏勧告か? 」


「少し違うな、これは指揮官であるアレクセイ=フーマー中佐からのお願いである」


 アレクセイ、フォックスはその名に聞き覚えがあった。確か自分を倒したロシアの天才パイロットだったと記憶している。


「ロシアの天才が何の用だ? 」


「ここで死ぬなどという馬鹿げた真似は止めて頂きたい。あなたは私の憧れであり、全てのパイロットの目標なのだ! こんな数の暴力で蟻の様に潰していい存在では断じてないとこの場で断言できる!! 」


 顔も知らぬ若造にすら目標と崇められていたとは思いもよらなかった。しかし、フォックスにはまだやるべき事が残っていた。


「それは有難い評価をありがとう。だが俺には仕事が残っていてな」


「何を言っている! その状態では何も出来ないだろう!! 」


「そうじゃないんだよなぁ」、と呟きながらフォックスは上着のポケットから小さなスイッチを取り出し、セーフティカバーを外してそれを掲げた。


「なんで建物に誰も居ないと思う? 貴様ならばその意味が分かるよな」


「!? 、まさか…… 」


 アレクセイがそう呟いた瞬間、ゼロの背後にある建造物の基礎の部分が爆発した。その爆風は辺りのギアを丸ごと転倒させるほどの規模である。


「総員撤退!! 」


 アレクセイが叫ぶが時既に遅く、基礎を吹き飛ばされたビルは計算されたかの様に前方へと倒れ始める。


「あばよ」


「後悔するぞこんな死に方!! 」


 アレクセイの叫びにフォックスは満面の笑みで答えた。


「やって損した後悔は地獄で笑えるが、やってない後悔は地獄ですら笑えねえよ。お前はどうだ?天才君」


 その通信を最後に、ゼロは自ら作った穴に落下しビルの倒壊が始まった。



 ──────────────────────

 この戦闘は後に「Hive作戦」と呼ばれ、語り継がれる事となった。

これにて前編終了! 来週からは後編スタートです!!

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