45話 戦場の悪魔
この戦いが終わるまでに10万字を超えたかったんですが、少し無理そうです。
「目標施設の全面防壁を破壊」
5分間の飽和爆撃によってHive本部の壁に崩落が確認できたが、未だに行動を起こす様子は見られない。あまりの静かさに堪えかねたのか、アルバートが机を叩いて怒鳴る。
「なぜ動かない! やつらは揃いも揃って自殺願望者なのか? 」
「少しは落ち着きたまえ、風格はそういうところに現れる」
アルフレッドが気だるげに睨むとアルバートは落ち着きを取り戻した。劉は画面を見つめたまま動かない。
「ここまでやって出てこないということは地下か、捜索せんことにはな」
劉が呟いたその言葉は的を射ていた。数瞬の間をおいて一斉にギア部隊が前進を開始する。
「さぁ、いよいよ退路がなくなったぞ。どうする……… 」
アルフレッドが微笑んだその時、中継をしていたはずのギア積載カメラの映像が突然の振動とけたたましい爆音を記録して突如暗転した。これには劉とアルフレッドも流石に驚いた様子を見せる。
「まさか地雷!? やつらどこからあんな代物を持ち出した!! 」
劉が憤慨するのも頷ける。地雷を一面に撒いていた場合、こちらに発生する損害は冗談では済まないレベルになることは容易に想像できた。
「すぐに映像が切り替わる、その結果を受けてからでも…… 」
アルフレッドが宥めるや否や、すぐさま画面が切り替わり爆破の惨状が映し出される。地雷の威力はかなりのものらしく、被弾した機体は原型が解らないほどに壊されていた。
「やはり、一筋縄ではいかないというわけか」
呆れた声でぼやきつつも、アルフレッドは手元のマイクのスイッチをオンにする。
「クローン部隊にルートを作らせろ。あやつらに関してはどうせ作れば済む話だからな」
隊列の左側から旧世代機の一隊が現れ、一斉に地雷原に向かって突撃していく。もちろん道中幾度もの爆発が生じ、隣の僚機が潰れていくというのに一切臆することなく突っ込む。
「……やはり恐怖のない駒は扱いやすい。すぐに道が開く」
あっという間に一機が本部建物の手前まで到達した。それを見て残存部隊が発動し終えた地雷の山を他所に一斉に前進を開始した。
「さぁ、今度こそ降伏を…… 」
劉がそう呟いた瞬間、中継先の地面が噴火した。突如発生した土柱はギアを複数吹き飛ばし、巨大なクレーターを形成した。
「戦場の…… 悪魔…… 」
アルバートが息を飲む。漆黒の塗装に背丈よりも巨大なあまりにも禍々しいメイス、その鈍器を軽々と持ち上げ担ぐその姿は正に悪魔の風貌である。
「さて悪魔よ、神に歯向かう無謀さを思い知るがいい」
アルフレッドが笑う。悪魔が棲み付いたかのような暗い笑顔に劉とアルバートは戦慄した。
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「まずは三機」
エレベーターの緊急作動とメイスの重さを活かした一撃は見事に不意を突いたらしい。明らかに乱れる敵の隊列を土煙越しに確認しつつ、ゼロはメイスを担ぎ直した。
「…… 後6分か、こいつは中々無茶苦茶だな」
レバーを握り直しながらフォックスが不敵に笑う。あまりにも晴れやかなその笑顔は戦場で放たれるものとはあまりにもかけ離れている。
「おぉりゃァァァァ!! 」
大上段からの強烈な一振り。ギアの装甲と同じ材質によって作られた巨大なメイスは重量5tを上回り、第五世代クラスの出力がなければ重量に負けて持ち上げることすらままならない代物である。多少のダメージを受けることを想定して作られた第一世代の装甲も、この圧倒的な重量を持つ鈍器の前では紙切れも同然である。
「もぉいっちょぉぉ!! 」
通常では有り得ないほどのモーターの駆動音を撒き散らしながらゼロがメイスで敵の隊列を薙ぎ倒す。ダッシュホバーを装備していて踏み込みが効きにくいとはいえ一薙ぎで第三世代が六機、二小隊分がスクラップと化した。
「ぬんっ!! 」
反撃の隙を伺いながら前進する敵に、ゼロはメイスを支点に機体を持ち上げハイキックをお見舞いした。カメラを吹き飛ばされたその隙を逃すことなく、下からメイスを振り上げて叩き潰す。
「これで10! 」
ここでようやく敵も反撃態勢が整ったのか、三機ひとかたまりの小隊編成に切り替わり銃器を構え始める。ダッシュホバーによる移動速度の補正があるものの、メイスの重さで動きが鈍重になる。
「その程度でっ! 」
しかし、敵は一発たりとも撃てなかった。フォックスは常に敵の誰かを背後に置きながら動くことによりこの密接した距離で敵が飛び道具を使えないように工夫しながら逃げているのだ。
「俺を殺せると思うなよォォ!! 」
再びメイスの風切り音と耳障りな衝突音が響き渡った。
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「なんでたかが一機に手間取っている! とっとと突撃して撃破せんか!! 」
今度はアルフレッドが怒り始めた。既に被害が50機に達したというのに敵は未だ無傷のままである。いかに彼といえども堪えかねるところがあったのだろう。
「いっそ、クローン部隊を使ってしまえばよろしいのでは? 奴はどうも心理的な駆け引きも駆使しているようだ」
劉のアドバイスを受け、アルフレッドは再びマイクを取る。
「やれ、全てを投入しろ!! 」




