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40話 ここから

いよいよ八万字の大台に乗ってきましたね。我ながらよくここまで書いたなあと思ったりもしますが、物語的にはまだ三分の一も書いておりません。これからも長くお付き合いお願いします。

「…… なんでこうなった」


「いいじゃないか、よく似合っているぞ」


「やっぱり素のレベルが高いよねフォックスって、何でも似合う! 」


「ふざけるな! 」と叫ぶフォックスの姿を見て、界人もそのタキシード姿に感動を禁じ得なかった。成婚パーティーをするとは聞いていたもののここまできっちりとしたものにするとは聞いていなかったのだ。


「いや隊長、めちゃくちゃ似合ってます」


「お前まで……… まぁいい、とりあえず何でこんなことを思い付くに至ったか説明してもらっても構わんか? 」


 フォックスが腑に落ちない顔でユリを見ると、彼女はレオンとしばし顔を見合せてから揃ってフォックスを見返して答える。


「なぜって、フォックスって自分の事をあまり喋らないじゃん。いいじゃん結婚を祝ったって」


「言い出したのは私だから多目に見て欲しい。それに6月も終わっていい感じに休暇期間じゃないか、多少飲んだところで誰も叱りはしないさ」


 二人の顔を交互に見て、フォックスは深く息を吐いた。そこに若干の困惑が滲んでいるのはいうまでもない。


「で、何人来る予定なんだ? 」


「200」


「はぁ!? 」


 その数には界人も流石に驚いた。一体どうすればそんな数を集められるというのか。


「ここに来るついでにフィリップさんに電話しといたの。そしたら国外に出かけていない人はみんな来るって」


「レオンはその事知ってんのか!? そんなどえらい数の前で何をしろっていうんだよ!! 」


 状況が飲み込み切れていないフォックスを見てレオンが盛大に腹を抱える。


「そこまで焦らなくてもいいじゃないか、どうせ挨拶を振られるだけだ」


「その挨拶が問題なんだろうがぁ!!! 」


 会場ホールの控え室にフォックスの叫びが木霊した。




 ──────────────────────

「それでは、新郎のフォックスさんに開会の挨拶を頂きましょう」


 なぜかノリノリで進行役を受け持ったフィリップが今まで見たこともないような満面の笑みでフォックスにマイクを預けた。


「こいつ!……… まぁいい」


 マイクが音を拾っているため、当然ながらフォックスの声は一同に丸聞こえである。


「えー……… まぁ、わざわざね、誰も得しないような慶事に足を運んで頂いてくれて感謝する」


 いつもの彼からは想像できないような狼狽ぶりに会場は一気に我慢大会と化した。あちらこちらで

「プッ」とか「ウグッ」といった擬音が飛び交う。


「特に伝えることもないし、馴れ初めを聞きたければ後で来い。とりあえず乾杯!! 」


 もはや挨拶の体をなしていないそれに会場は爆笑の渦を生み出し、堰が切れたが如く宴は始まった。




 ──────────────────────

「そういえば、レオンさんと隊長って元々同じ部隊なんですよね? 」


 女子クルーたちが目を輝かせながらフォックスの前に押し寄せた。アルコールが入って饒舌となった彼女たちを「まあまあ」と宥めるフォックスの姿はまさしく『優しい父』の空気をまとっている。


「レオンとは訓練生時代から同期でな、当時は俺の方が弱かったんだぜ? 」


 最前列のパイロットたちが飲んでいたビールを一斉に吹き出す。あまりの驚愕度合いにむせる者まで現れた。


「それはないでしょぉ」


「いや、事実フォックスはシミュレーターの成績は驚く程に悪かったな。各分野においても評価は常に良か可だ、格闘が優だったのが同期から驚かれるくらいの凡人だったんだよ」


 全く冗談味のないレオンの口調に周りは再び度肝を抜かれた顔をした。


「だが実機による疑似戦闘訓練が始まったとたんにフォックスの評価はほぼ反転したさ。いかなる状況下でも実力を発揮する戦術選択能力とシミュレーターでは測り切れなかった『兵士としての』強さがみるみる発揮されてな」


「そんなことより、いつ出会ったの? でどっちが告白したの? 」


 唐突かつダイレクト過ぎる質問に場の空気が冷えた。しかしフォックスはそんな空気を意に介さずにレオンの肩を抱き寄せる。


「俺の一目惚れだな、未だによーく覚えてる」


 若干恥ずかしそうにフォックスに寄りかかるその姿を見ているとレオンが告白したかの様な錯覚に陥りそうである。


「候補生時代に座学の講習で席が隣だったもんでな、当時からまぁべっぴんよ。最初に「好きです」って言った時のレオンの反応を見せてやりたいくらいだぜ」



「馬鹿っ! その話はするなと…… 」と顔を赤くして慌てるレオンを見て「こいつはいい肴だねぇ」とニヤニヤするフォックス。全員がフォックスに「デキる男は違うねぇ! 」と野次を飛ばす。



 ──────────────────────

 フォックスの様子を少し離れたところから見ていて、界人は一抹の不安を抱いた。


「俺もいつかああいう風になれるのかな…… 」


 すると、後ろから界人に抱きつく人がいた。


「いいじゃんそんな事求めなくて、あなたはあなたでしょ? 」


「でも……… 」


 ユリを好きになった以上、フォックスがちらつくのは仕方のないことだと口に出しかけたその時、ユリの人差し指が界人の口を押さえた。


「違うの、それは私が怖がってただけ。フォックス以外の人と付き合うのがどういうものなのか分からなかっただけだから…… 」


「だからさ」とユリが界人の腕を抱き締める。


「私も正直になってみる。これでいい? 」


 返事に困ったその瞬間、よく通る声が界人の耳に飛び込んできた。


「おいおい、あっちも出来上がってるみたいだぜ!! 」


 それまでフォックスに釘付けだった者も含めて全員が界人たちの方を見る。


「おめでとう!! やっと振り向いてもらえたかぁ? 」


「次は挙式から全員で参加しないとなぁ!! 」


 いつもは冗談混じりの野次も、今ばかりは暖かさのあるものに感じられる。界人は今ここにいることを心の底から喜ぶと共にユリを抱き締めた。


「ここからだね、ユリ」


「うん、ここから頑張る」


よく『日常パートの後の鬱展開が怖い』という話を耳にしますが、実はそんなにその辺を意識しているつもりはないです。


しかし、私が『セブンスドラゴン』とか『ソールトリガー』が大好きであることを鑑みると案外無意識になってそうですね。

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