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30話 価値観の違い

この作品で、一応「HJ2018コンテスト」に応募してみました。よってここから6月にかけて文字数が倍になります。

「随分と派手にやらかしたな、今回ばかりは庇いきれそうにない」


 フォックスたちが沖縄を楽しんでいるのに対し、

 フェルディナンドはアルフレッドたちとテレビ会議の真っ最中である。


「私も理事会の中ではまだまだ力がない方だ。これほどの不祥事はねじ曲げることはできない」


「ならばうちの技術を盗んだことにしておけばよいのでは?私たちが構想段階で凍結していた試作品を横流しで手に入れたことにすれば問題ない。条約上は『実際に市販機を作ってはいけない』だけなのですから」


 オールバックに髪を整えた東洋人が眼鏡の奥から冷ややかに笑う。アルバートも彼の発言に頷く。


「そうしてもらえるとありがたい。こちらも色々と揉めておってな」


「了解した、この一星(イーシン)産業CEO、(リュウ) 一星(イーシン)に任せてもらおう」


 他の三人が頷いたのを確認し、劉がフェルディナンドの方を向く。


「ところでだな、あの調整を受けたパイロットは駄目だったのか? 」


「駄目でしたね、あのフォックスとかいう男が強すぎたんですよ。あれ以上の調整となるとロバート少佐の精神を維持できる保証がありません」


 すると、アルフレッドがため息をついた。


「最悪壊れても構わん。やりなさい」


「しかし、それではロバート少佐の人権に…… 」


「そんなことにこだわっていては話が進まん。気にするな」


 アルフレッドの非情な発言に場が凍る。フェルディナンドは拳を握りしめた。


「そうやっていつまでも戦争をやらせるおつもりで? 」


「フェルディナンド君、口を慎み…… 」


「いいんだよ劉君、ならば少し話をしてやろう」


 アルフレッドが葉巻を灰皿に置き、画面越しからフェルディナンドを見下ろす形になるように悠然と座り直した。


「そもそも、人類を宇宙に放り出すとしてもまだまだ人口が多すぎるんだよ。今のままではどちらにせよ経済が閉塞するのは目に見えておる」


 アルフレッドがため息をつくと同時にバトンが劉に移った。人差し指で眼鏡を押し上げ、フェルディナンドに見えるようにわざとらしく手を組んだ。


「もしも君が本気で『人類を宇宙に』なんて思っていても今は控えるべきだね。まずは宇宙に上げられるほどまで人類を減らさなければ」


「……そのためには多少の戦争の延期も構わないと? 」


「勿論さ、効率よく人を消しつつ金を稼ぐのには戦争はもってこいなのだよ。仕方のないことだと割り切りたまえ」


 フェルディナンドの拳に更なる力が入る。爪が長ければ血が滲むであろう程に固く握られた拳は小刻みに震えている。


「……了解しました。彼の調整はアルザスの第二技研で行います。劉さんには後で調整の技術レポートと共にレールガンの設計図も送っておきますね」


「うむ、賢い返事をありがとう。ではこれで失敬、会見やらの準備があるのでね」


 劉が写っていた画面が暗転した。次いでアルバートがフェルディナンドの方を見る。


「君には代表の座を降りてもらうことにはなるが構わないか? 」


「えぇ、勿論そのつもりですよ。後はアルバートさんのお好きな様に」


 その一言で、アルバートが椅子に深く寄りかかった。横にいる秘書に葉巻の火を点けさせる。


「ならばそうさせてもらうとしよう。こちらも理事会やらで忙しくなりそうなのでここで失礼させてもらうよ」


「お疲れ様です」


 アルバートの画面が消えたのを確認し、アルフレッドが葉巻に再度火を点けた。


「………ふぅ」


「私に何か? 」


「いや、君を見ていると昔の私を思い出してね、少し思うところがあるんだよ 」


 煙を吐きながらアルフレッドが明後日の方向を向く。それはまるで希望を追いかけるかの様な目付きをしているようにフェルディナンドの目にはには写った。


「私も若いときは君のように希望に満ち溢れていた。戦争が続くのをよく思わない時期もあったのは間違いない」


 吐き捨てるようにアルフレッドがため息をつく。先程の表情とはうって変わって絶望に満ちた顔であるようにフェルディナンドは感じた。


「だが人間はね、いつか現実と向き合わねばいかん時が来る。年を重ねれば重ねるほどに現実は肩にのしかかってくる」


「そのためには理想を捨てろと?『次の世界に』なんて偉そうに言っている我々が夢を捨てる必要があると? 」


「そうはいっていない。経済圏そのものの拡大もいずれは必要だが、それは我々の仕事ではないと言っているだけだ。今は分からずともよい」


「……了解しました」


「ではな」


 飲まざるを得なかった。退き場所を間違えて上に居座り続ける者たちをどかすのはそう簡単な事ではない事も理解できた。暗転した画面を見つめ、フェルディナンドは一人立ち尽くす。


「……父の言う通り、閉塞した世界には閉塞した思考しか生まれない。負の連鎖だな、まるで」


 フェルディナンドの父もそうやって頭の固い連中に消された事も、彼そういった人々に根付いた『閉塞』を解除するためにはまず上が変わっていく必要性があることも彼は重々理解している。しばしの間を置いて固定電話に手を伸ばす。


「……私だ、一部のギア製造レーンを私の直轄工場に移しておいてくれ。やらねばならない事が出来た」




─────────────────────

 日が沈み始めてユリたちが片付けをし始めたのを確認して、フォックスは竿を畳んだ。


「久しぶりにのんびり出来たな、こういうのも悪くない」


「……ずっと、こんな日々が続けばなお良いのだがな」


 レオンの呟きにはあらゆる意味が込められているのを、フォックスは一瞬で理解した。


「そうだなぁ」


 フォックスが水平線を見つめる。ギアの出現による戦争様式の変化により船が不要となったことが大きく、船舶はほとんど見当たらない。あるのは点にしか見えない漁船程度である。


「そろそろ降りても良いとは思ってる」


「きついのか? 」


「いや、結局年寄りが居座っても良いことなんか一つもありはせん。結局は『若者がどうするか』によって変わる世界じゃないといつまでも進まんよ、この世界は」


「だったら」とレオンが意地悪そうに微笑む。


「とっとと譲る気なのか? 」


「それはない。俺も意地が張っていてね、恐らく死ぬまでパイロットであり続けるだろうさ」


 少し安心したような顔をするレオンにフォックスは「しかしな、」と続けた。


「恐らく早死にすることは間違いない。一度死んだ人間が言うのもなんだが、次はないだろうな」


「分かってるさ、『その時は奴等を頼む』だろ?サンパウロの時もそう言ってたじゃないか」


「そうだったか?」ととぼけるフォックスに「ボケが始まったようだな」と辛辣なツッコミを返すレオン。


「分かってるさ。せめて界人とユリの面倒くらいは見てやるとしよう」


 二人は岬を後にした。



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