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13話 素質

こういう作品では基本年齢に逆らえないのがお約束ですので、こういった流れもありかなぁ……なんて思ったわけです。ありきたりな展開もたまにはいいかな、と思う今日この頃です

「新人だってよ、懐かしい響きだぜ」


 フォックスたちは、とある現場に向けて車を走らせていた。ユニバーサル・ファクトリー本社敷地内にある『パイロット育成施設』である。


 軍用ギアのパイロットは、その生命を自己責任で管理することが求められるため、一般人パイロットでも軍人に匹敵する訓練を積み、戦場で生き抜く術を学ばなければならない。そのための教育をとある男に任せてあるとフォックスは言う。


「あいつ、人数の多さに発狂してなきゃ良いんだがな」


「70人はいくらなんでも酷すぎないか? 」


 レオンですら、これから会う教育担当者に同情している。70人もの軍用ギアパイロットを育てるのはそれほどに大変な事なのだ。


「お、そろそろ見えてきたぜ? 」


 フォックスたちの乗るワゴン車は迷うことなく黒塗りの建物に吸い込まれていく。誰が見ても怪しさ満点の黒さである。


「ここであってるの?ねぇフォックスゥ…… 」


 ユリは既に怖さが興味を超えたらしい。まぁ、そうなるように外観に注文をつけたのは黙っておこうとフォックスはあえて話題を変える。


「それはそうと、新人たちの資料を忘れてないよな?俺」


「あぁ、ちゃんとあるよ」


 レオンが封筒をバックミラーに写す。


「じゃあ、そいつから通し番号9番のやつのデータを見てくれ」


「いきなりどうした?資料だけで決めるなどあなたらしくもない…… 」


 そういってレオンは書類に目を通す。すると突然目の色が変わった。


「これは!…… 」


「な?新型のパイロットにもってこいなのよ」




─────────────────────

 車を降りると、パイロットスーツを着た男性がやって来た。男性はフォックスに手を差し出し、微笑む。


「お久しぶりです、教官」


「おう、新人たちは訓練中かい? 」


「はい、もちろん」と言ったあと、男性はレオンと、レオンの腕にしがみつくユリに軽く会釈した。


「私は『Hive』代表兼パイロット育成統括のフィリップ=グリーンと申します。さぁ、中へどうぞ」


フィリップの案内に従い廊下を歩く三人。ユリはレオンに付きっぱなしであった。


「今は何の訓練中だ? 」


「格闘ですね。三人とも見ていかれますか? 」


フィリップが三人の方に振り返る。レオンは「ほぅ」と言って少し考えた後、「ご相伴に預かるとしよう」と答えた。


「ユリはどうする? 」


「私、先に整備スタッフの皆さんと話がしたい」


「了解しました。では、先にユリさんを送りますので、教官は先に闘技場エリアへ」


 再び軽い会釈をし、フィリップはユリを連れてエレベーターに乗っていった。


「さて、じゃあ俺らも行くかね」




─────────────────────

 闘技場エリアへ足を運んだ二人が見たのは、久しく見ない程の活気だった。候補生同士で格闘大会をやっているのだろうか、男女共に物凄い盛り上がりである。


「どう見る? 」


「隊長の予想通りだな。彼の才能は本物だ」


 男女が半々のこの状況下で男子を倒す女子もいるが、一人だけ別格に強い男子候補生がいる。どうやら物足りないらしく、随分と大それたアピールを繰り返している。


「君がやるか?レオン」


「遠慮しておく。あのような三下相手に手加減は出来そうにない」


 レオンの微笑を確認し、フォックスは上着を脱いでその男に近づいていった。


「よお、面白そうな事やってるな。混ぜてくれんかね? 」


「何言ってんだおっさん、見学コースはあっちだぜ」


 へらへらと笑う若者たちの顔を見て、フォックスはなにかのスイッチが入ったらしい。真剣な顔になっていくのが遠目のレオンにすら分かるレベルで候補生を睨む。


「冗談に聞こえたならすっこんでな。こいつで首を掻き切るぞ? 」


「な!?、え?嘘だろ…… 」


 若者が驚くのも無理はない。フォックスが取り出したのは喧嘩を売りにかかった候補生のベルトに差してあったナイフである。


「相手の目線から殺気を感じとれ、肉弾戦になる場合は不用意に相手に近付かない。どっちも当たり前の知識だろうが? 」


 フォックスは奪ったナイフを全力で投げる。ナイフは一直線に打撃の練習用の打ち込み台に飛んで行き、台の頭に刺さった。


「……相変わらず容赦のない…… 」


 レオンは腕を組んだまま動かない。やられっぱなしは分が悪いと感じたのか、男はフォックスの胸ぐらを掴んだ。恐らくは絞め落とす気なのだろう。


「ヴッ!? 」


 まるで崩れ落ちるかの様に相手が倒れた。フォックスはこの狭い間合いでも打撃を加えられるよう『発勁(はっけい)』を学んでいたのである。


「別に格闘にケチつける気はねぇんだが…… 」


 フォックスの目付きは鋭さを増していく。


「攻撃の動作、受けの一つに至るまでちゃんとした意味を見出だせ!それでは赤子も殺せない!! 」


 フォックスの剣幕に場の空気が凍りつく。この状況下で彼に触れれば死ぬやも知れぬ空気が広がる。


「だったらおっさんの格闘は人を殺せるのか? 」


 フォックスよりも少し小柄なくらいの男がフォックスの前に立つ。こいつは普通とは根性の座り方が違うようだ。


「何が言いたい? 」


「こういうことだよォ!! 」


 男がナイフを突き出す。一瞬の出来事に他の候補生たちは顔がひきつる。


「おい玄田(くろだ)!おっさん死んじまうだろうが!! 」


「どうせ部外者だろ?だったら……!! 」


 次の瞬間、玄田と呼ばれた候補生が宙を舞い、地面に叩き付けられた。フォックスは突きを読んでいたのだ。


「見え透いた騙し討ちが戦場で通じると思うなよ、新人。リアルな戦場ではこんな手品は受けないぜ?」


 フォックスは玄田の顔の真横にナイフを突き刺す。そして手を振りつつその場を離れた。仲間に肩を貸されつつ、玄田はフォックスの背中を眺め続けた。


「あいつ、何者だよ…… 」




─────────────────────

「ご苦労、あれではかなり今後が思いやられるな」


 レオンの元に戻り、闘技場を出る二人。フォックスは再び書類に目を落とす。


「筋は良い。後は実践あるのみだな」


 そう言うと、フォックスは携帯を取り出しどこかに電話し始める。


「おう、フィリップか?俺だ、フォックス。今から新人をブリーフィングルームに集めろ。ご挨拶といこうじゃないか」


人物紹介:フィリップ=グリーン


民間警備会社『Hive』代表。ユニバーサル・ファクトリーに拾われた直後の頃からのフォックスの同僚で、フォックスが育てたユニバーサル・ファクトリー初の軍事用ギアパイロット


フォックスが海外出張をしている間は後進のパイロットたちの教育に当たっていた。フォックスいわく「実力はある、でも才能がない」。それでも第二世代機で第四世代を落とすことが出来るほどの腕前である。

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