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0話 プロローグ

 どこまでも灰色の続く薄暗い空に、一機の大型輸送機が翼を広げている。


『予定を変更して速報をお届け致します。まず、先刻発生しましたタリンでの戦闘の風景を…… 』


 西暦2519年。人口爆発、宗教問題や人種問題、環境問題といったあらゆる国際問題が本格的に地球そのものを食い潰し始めてから100年余りが経過してしまった時代である。


 格納庫横の巨大なモニターに映し出された画面を見ているのは背の高い銀髪の男である。コーヒーを片手にソファーに腰を降ろし、まるでここが自宅だと言わんばかりにくつろいでいる。


『この戦闘に際し、アメリカ軍は更なる戦力の導入を決定しました。これにはテクノ・フロンティア社の圧力が大きいものと思われ……… 』


 要は大企業に対する機嫌伺い、単なる『忖度』という言葉で片付けられるものであろう。困窮した国家は財政の大半を財閥系大企業に頼ることとなっている。結果として政府そのものが企業のイエスマンとならざるを得なくなってしまったのだ。ある意味救いようが無いともいえる。


『それでは今朝未明に発生した戦闘の映像をご覧下さい……… 』


 映像が切り替わり、恐らくは中継で届いたであろう戦闘のVTRが流れ始める。速報のため、音ずれの修正すらかかってはいない。


「おぉ、派手にやっとるなぁ」


 コーヒーを片手に男が呟く。男の発したその言葉はやけに重く感じられる。


 崩れたビル、原型が分からないほどに壊れたギア、そしてあちらこちらから立ち上る煙。これらがいつ、明日が我が身になるか分からない状態が続いているのがこの時代なのだ。


「いつ見ても惨いもんだ、もう少し民間人を巻き込まない所で戦えばいいものを…… 」


 テレビの前の小机にカップを置いた。


「しかし『ギア』持ち出してまで大規模戦闘やるとはなぁ…… 」


 画面越しに動く巨大な人型のロボットを見つめて男が呟く。映像に映っているその巨大なロボットは決してファンタジーのものではなく、人が自らの技術力で生み出した文明の産物である。


 23世紀後半には核融合エンジンが完成し、その15年後には小型化も成功した。燃料となる重水素も惑星間航行技術の確立により、木星から当たり前のように供給出来るようになった。本体の原料となる金属も、ついでのごとくアステロイドベルトから回収出来るようになった。正に人類の科学の結晶ともいえる。


 そのロボットは当然ながら企業の製品であるため『ギアを売るために企業が戦争を食い物にしている』ととることも出来る。そうすればある一つの疑問が解決させられる。


「20年間もご苦労なこって」


 男が言うように、この戦争はあらゆる国家がおおよそ三つの陣営に分かれて20年に渡って戦っている。史上類を見ない程の国際戦争にも関わらず、この戦争には不可解過ぎる点がいくつも存在する。


「大義名分もなくよくもまぁここまでズルズルとなるもんだ」


 国際戦争には必ず目的となるべき大義名分が存在するのだが、今回の参戦国はどこもその大義名分を発表していない。普通ならばあり得ない話である。そういった点もいかに政府が企業のいいなりであるかを証明している。


「さて、お仕事を始めますかね」


 男はソファーにかけてあったコートを取り、シャツの上から軽く羽織る。ジーンズにロングコートといかにも有り体な格好だが、ここまで似合う男もそうそういない。


「タリンねぇ、少しは数が減ってるといいけどよ」


 男はそのまま奥の格納庫に向かって歩いていく。その後ろ姿には何か言い表せぬ力の様なものが宿っていた。



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