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ライトニング・スピード  作者: アラトラト
第1章
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第十三話 幼鬼見参

 




「どれでも好きな物を使うといい」



 桜子と樹が七重に近づくと、段ボールを床に置いて中を見るように促される。



「え? これが星幽武装アストラル・デバイスなんですか?」

「ああ、今は基礎状態だがな」

「基礎状態・・・?」

「む?」



 桜子がハテナを浮かべて頭をひねると七重も同時に頭をひねる。

 それをみて樹はため息をつきそうになるのをこらえ、説明を始める。



「宗源寺先輩。桜さんは初心者なんですから細かく説明しないと分かりませんよ・・・」

「そっそうだったな」

「はい。 桜さん、このカード状態を基礎状態と呼び、これにアストラルを通すことで復元、展開され武器としての形状になるんだ」



 樹は「ちょっと、みてて」といってカードを一つ手にするとアストラルを流し込む。するとカードが薄く青色に発光し、片刄の長剣が出現する。



「おぉーー!!」

「これは青玉星鋼で作られた星幽武装アストラル・デバイスの剣かな。 桜さんも使いたい武器を探してみてよ」

「うん!」



 桜子はどの武器を選ぶのだろうか。

 ザッと見た感じだと色々な武器が揃っているように見える。おそらく試作品なのだろうがこれだけの量の星幽武装アストラル・デバイスを所有しているとは驚きである。



「宗源寺先輩。 これだけの量の星幽武装アストラル・デバイスをどうやって集めたんですか?」

「ああ、これは博士の私物だ。 私達の物ではないんだ」

「私物?」



 ますますこの部活は恐ろしいところだと思う。

 箱に無造作に入れられた星幽武装アストラル・デバイスは数十個を超えている。まさかどこかと戦争でもするのだろうかと思いたくなる量だ。



 それを私物として持っているとは博士とは何者なのだろうか。



「あっ、これにしようかな」



 樹が考察を巡らせている間に桜子は自分が使う武器を選んだようだ。



「じゃあ、そこにアストラルを流し込むんだ。イメージとしては自分の血管の中を血が流れるようにアストラルを全身に流し、さらに星幽武装アストラル・デバイスも体の一部のように血管を通すって感じで・・・ あっ、でも始めでは難しいと思うから僕が展開するからさ」



 そういって桜子の手から基礎状態の星幽武装アストラル・デバイスを受け取ろうとした時、それが青白く光だし、灰色のカードに青色のラインが規則的に走り出す。



「桜子さん!?」

「待て! アストラルは繊細に扱わなければ自壊現象が!」



 樹と七重は急いで止めようとするが、



「うーーーーーーん!! あっ! できた!!」



 と全く話を聞いていなかった桜子の歓喜の声に打ち消されてしまった。

 しかし、それで驚いたのは止めようとした二人だ。



「「・・・は!?」」



 ついつい言葉が重なってしまった。



 というか人間驚いた時の言葉にそんなにボキャブラリー豊富ではないはずだ。

 樹は自嘲気味に頷くと、桜子の手に握られた星幽武装アストラル・デバイスをみる。



 色は青色で長柄であり、先端には日本刀のように反りをもった物がついている。

 簡単に言えばその形状は薙刀と呼ばれる武器に近い。

 取り回しはしやすい武器に分類されるとは思うけど、これを選んだ理由はなんだろう。



(というかそもそも、アストラルは今日初めて体内に蓄積されたのは間違いないのに、もう物に通すことができるようになったんだ・・・)



「へぇー! 意外と軽いんだね」



 そして、桜子はあろうかとか振り回して感触を確認しているようだが、金属の塊である星幽武装アストラル・デバイスが軽いわけはない。

 確かに刃の部分はアストラルで構築されているが質量がないわけではない。

 一般人が持てる重量ではないのだが桜子が振り回していることから、彼女は無意識のうちに身体強化を行なっているということになる。



「・・・規格外過ぎる」

「同意見だな」



 いまだ楽しそうにはしゃいでいる桜子を眺めていた樹と七重はおそらく同じような顔をしていただろう。

 しかし、いつまでも見ているわけにはいかない。試験が始まる前にある程度のレクチャーをしておかなければ無理をしかねない。



「桜さん。 なんでその武器を選んだの?」

「えっとね。 実はちょっとだけ薙刀を習ってたことがあるんだー。 すぐやめさせられちゃったけどね・・・」

「そうなんだ。 じゃあ、ある程度の使い方はわかるんだよね?」

「うーん。 本当に初歩の初歩はわかるんだけどそれ以上っていうとわからないかな?」

「初歩がわかるなら武器の方はとりあえず大丈夫だと思うよ。 次はアストラルの扱い方になるんだけど、まず初めに防御の星武技を覚えて欲しい」



 そういって樹は桜子から少し離れるとアストラルで身体の表面を薄い膜で覆って行く。



「これが【星武技・辰星しんせい】。 基本の五星技の一つで、身を守る盾になるんだ。 星辰士アスタランナーと戦う場合にはこれを習得していることが必須なんだ」

「え!? でも私、星武技なんて使ったことないよ!?」

「それでも、出来ないなら君を戦わせることは出来ない」

「そんな!」

「昨日言った言葉は嘘じゃない。僕は桜さんに死んでほしくないんだ。 相手が曹源寺先輩と同じ実力なら、たとえセーフティの掛かった星幽武装アストラル・デバイスであっても生身で受ければ・・・わかるよね?」

「う・・・たしかに」



 樹と七重の戦いを思い出したのか身震いをする桜子。

 アストラルはアストラルでしか防ぐことは出来ない。

 それは、ミサイルに素手で対抗できるわけがないのと同じ理屈だ。

 それだけの力を有しているのがアストラルと呼ばれる粒子であり、星辰士アスタランナーなのだ。



 とはいえ、桜子にいきなりやれというのも酷な話だ。

 本当は入部してからじっくり基礎を学ばせた上で実践を積ませる予定だっただけに樹としては歯痒いものもある。



(さて、どうするかな?)



 出来ないといって投げ出すのは簡単で誰にでもできるが、桜子は強い意志をもって星辰士アスタランナーになると決めたはずだ。



 樹の横で黙って見ている七重は興味深いものを見ているように目を細める。

 おそらく樹と同じように桜子の実力を見極めようとしているのだろう。



「やめる?」



 樹は唸っている桜子にそう話しかける。

 その言葉にハッとした桜子は気を引き締める。



「やめない! だからもう一度見せてほしいの!」



 言い切る瞳はまっすぐと樹の目を見据える。

 そこからは強い意志と諦めない気持ちが感じられる。

 正直にいえば基本の五星技といえど一朝一夕で身につけることは難しのだが、本人が望むのであれば仕方がない。



「うん。 じゃあまずそのメガネを外して欲しい。 君の瞳は《金華眼》と呼ばれる特別な星眼だけど、異物を通して見てもうまくアストラルを見ることができないんだ」



 樹がそういうと桜子はすぐにメガネを外し、部屋の隅に置くと、黄金色に染まった瞳で樹を見つめる。



「桜さんの目には今の僕はどう映ってる?」

「えっと、キラキラしたものが樹くんの身体を薄い膜みたいに覆っている・・・状態に見えるよ」

「じゃあ今度は自分の身体も同じようにキラキラで覆ってみれば出来るはずだよ」

「でも、私アストラルは」

「大丈夫」



 桜子が不安そうな顔で弱音を吐こうとしたのを察知して樹は、頷いてみせる。

 それで決意を固めたようでグッと拳を握り、身体の隅々まで意識を集中させる。



(!? 桜さんならもしやとは思ったけど)



 桜子の身体がほのかな光に包まれて行く。

 樹にはアストラルを視覚としてみることはできないため、ボンヤリとではあるが確実にアストラルが桜子の身体を覆っていくのがわかる。



 そして樹は身体の震えを抑えることができなかった。

 これが畏怖なのか歓喜なのかわからないが、驚愕を帯びていたことはたしかだろう。



「・・・できた」



 流石に疲れた様子で桜子は呟く。その表情は達成感でいっぱいであり、拳を握り締める姿は意気込みが感じられた。



(基本五星技【辰星しんせい】そして【填星てんせい】を微弱だが使えている)



 樹は冷静にアストラルの状態を確認する。

 焚きつけた樹だったがまさか本当に出来てしまうとは。



(いや、出来るような気はしていたけど実際に見てみると驚きを通り過ぎて冷静になるね)



 今度ばかりは苦笑も出て来ない。



 金華眼の発現者は歴史上偉大な功績を挙げた人物ばかりだ。

 世界大戦を終結に導いた英雄や新しいアストラルを発見した科学者、難病の治療薬を開発した治癒士などどんな分野であっても世界に名を残している。

 その例にもれずもしかしたら桜子は将来なにかとてつとないことを成し遂げるかもしれない。



「これで試験に参加してもいいよね?」



 樹が思考の海に沈んでいると桜子が薙刀を手に近づいてきた。

 その瞳は未だに黄金色に輝いている。



(他の星武技を使用しても金華眼を維持できている・・・)



 まったくもって規格外だが桜子は自分がすごいことをしているという自覚はないのだろう。

 樹に今も満面の笑みを向けていることがその証拠だ。



「そうだね、そこまで出来ればある程度は大丈夫だよ」

「やったぁー!」



 樹の言葉に無邪気に喜ぶ桜子は、将来偉大な功績を挙げるような英雄ではなく、年相応の女の子にしか見えなかった。











「みんな! ちょっと聞いてほしい!」



 準備を整え対戦相手が発表されるのを待っていた時、イケメンくんが桜子たち全員に話しかけてきた。



「相手は上級生だ・・・僕たちが一人一人で戦ってはおそらく勝てないと思う。 だから、ここはみんなで協力したほうがいいと思うんだ!」



 少し長めな茶い髪が一つ一つの動作で揺れ動き、まるで映画の一場面を見ているように桜子は感じていた。


 動作の一つ一つが桜子のよく知る芝居がかった気にくわないものであり、好きになれそうにない。


 彼を見ていると桜子はかつての自分を思い出し沈鬱な気分になる。だというのに戦闘科のガイダンス終了後に自分に話しかけてきた。

 あの場は必死に取り繕ったが樹が来てくれなければいつまでも演技を続けられた気がしない。



 と、桜子は考える一方でイケメンくんを評価する部分もある。むしろ、彼に悪いところはそこまでないのだと思うし、誰しも自分を良く見せたいものだ。



 今の発言も至極真っ当な意見だと思う。

 正直桜子だって、七重と一対一で戦って勝てるなんて思わない。

 今朝の樹と七重の勝負を見ていてもまるで次元の違う戦いであり、俗物的な言い方でいえば、スゴイやヤバいといった一言で表されることだろう。



「はぁ? お前さっきの話聞いてなかったのかよ」



 しかし、イケメンくんの言葉は集まった新入生たちに受け入れられることはなかった。



「そうよそうよ! 入部出来るのは一人だけなんだから協力なんてしないわ!」



 新入生たちから批判の声が上がる。

 考えてみればそれは当然の反応だろう。

 確かに協力しなければ勝てないが一人しか入部出来ないのも事実。



「みんなの言いたいことわかるよ。 普通にやったら一人も入部できないと思わないかい?」

「はっ! そりゃあ、おめぇがよぇーからだろ!」

「そうかもしれないけど、僕は少しでも確率を」

「雑魚は黙ってろ!」


「ねぇ、もしかして最後に出し抜くつもりなんじゃないの?」

「絶対そうよ!」



 必死に説得しようとするイケメンくんに口々に新入生たちは反論する。

 それを苦しそうな表情で聞いているイケメンくんにはこれ以上の説得は無理そうだ。



(この試験はなにを試してるの?)



 桜子は新入生たちの話を聞きながら準備運動をする。

 樹からオッケーが出て、しばらく興奮していた桜子だが、今はとてつもない緊張感を感じていた。

 なにせ初めての実戦がいま始まろうとしているのであるのだから緊張しないというほうが嘘だと思う。



 それとともに桜子は試験内容に疑問を抱いていた。明らかに新入生たちを連携させないためのルールを設定していながら新入生一人では勝てない対戦相手が用意されている。



(でもやるしかないんだよね)



 桜子は疑問を取り敢えず棚上げし、手に持った得物の感触を確認する。かじったことがあるとはいえ、実戦経験は皆無。それでも桜子は夢を叶えるために戦わなければならない。



(それに樹くんとの約束もあるし・・・? あれ? そういえば樹くんはどうするんだろう?)



 そこでふと樹を探すと壁際で七重と一緒に観戦ムードで立っている姿を確認する。

 その姿をみて胸がなぜかチクリと痛んだ。



(・・・なんだろう。 この痛み)



 桜子が眉をしかめながらも二人から目が離せなくなっていると唐突にアリスの声が会場にこだまする。



「お待たせしました。 皆さん準備が整ったようですのでLSライトニング・スピード部の入部試験を開始したいと思います」



 先程まで騒がしかった闘技場が一気に静寂に包まれる。

 それとともに照明が落とされ、辺りが暗闇に変わる。



「開始に先立って対戦相手を発表致しましょう」



 アリスの透き通ったソプラノが伸びやかに会場を満たし、どこからともなく出現したスポットライトが闘技場の中央付近に光を集約される。


 そしてそこにはーーー



「わっはっはっはっ!! 百ちゃん見参だっちゃぁー!!!」



 つい一時間程前に一緒にいた幼女が仁王立ちしていた。



「戦闘科三年生にして《幼鬼》の二つ名を持つ羽衣石百恵うえしももえ先輩です」





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