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ライトニング・スピード  作者: アラトラト
第1章
13/14

第十二話 入部試験開始

 




 桜子を迎えに行くとちょうど終わったところのようで他の生徒から話しかけられていた。



 茶髪の爽やかイケメンで物腰も柔らかそうだ。

 熱心に話しかけられているのに桜子は引きつった笑顔で早く打ち切りたいというオーラを発しており、樹と鈴を見つけると直ぐにこちらに走って来た。



「助かったよー!」

「あれ? あの人は良かったの?」

「うん・・・。 なんか熱心に誘われてたみたいなんだけど」

「へー。 一体なんに誘われたの? 食事とか?」



 桜子は今はメガネと三つ編みで委員長スタイルで地味な感じになっているが元々は美少女といっても過言ではない容姿をしている。

 入学早々ナンパされてもおかしくないだろう。



(まったく話しかけられなかった僕とはえらい違いだな)



 樹はガイダンスが終わった後もちょっと期待していたのだが女の子はおろか男子生徒にさえ話しかけられず、友達作りという点においては開始早々失敗していた。



「ちっちがうって! それに興味がなかったからよく聞いてなかったし・・・」



 樹が内心落ち込む中、桜子はちょっと焦ったように否定する。

 どうやらあのイケメンくんは完全にスルーされていたようだ。



(ドンマイ・・・イケメンくん)



 心の中でくだんのイケメンにエールを送り教室を後にした。









「それでこのとっても可愛い子は鈴ちゃんの妹さん?」



 校舎から出たところで桜子が百恵に熱い視線を送る。

 もう目がハートマークになっているところを見ると子供が好きなのだろうか。

 個人的には子供好きな女の子というのは二重丸なのだが鼻息も荒くなって、目を血走らせている点を考慮し、丸と三角の間くらいにしよう。



(まぁ、僕からの評価なんて関係ないだろうけど)



 と思いつつ内心ではため息。



「ちっちがうよ! 桜ちゃん」

「そうなの?」

「うぅうん。 この子は百恵もえちゃんっていって、こう見えても高校生なの」



 そんな桜子にビビりつつも百恵を紹介する鈴。



「こう見えてもは余計だっちゃ!! あとちゃん付けでよぶなぁー!」

「はぁはぁはぁ・・・なにこの可愛い生き物!」

「なっ撫でるな!! やっやめるっちゃーー」



 その紹介の仕方に案の定百恵は腕を振り上げて抗議するも、その仕草さえとても愛らしいため、桜子に頭を撫でられていた。



 怒りながらもちょっと嬉しそうにするあたり百恵の中での葛藤があるのだろう。



「それよりもこのあとはLSライトニング・スピード部の入部試験を受けに行かないとね」

「入部試験?」

「僕も知らなかったんだけど百恵・・・さんがいうにはそういうのがあるみたいだよ?」



 樹が「百恵ちゃん」と言おうとしたのを察していたのか怒ったような表情を向けられたため急いで言い直す。

 それが良かったのか一転して笑顔になる百恵。

 まるで子供のようにコロコロと表情を変えるものだなと樹は思うが口には出さない。さすがに何度も怒らせるのは可哀想だ。まぁ、可愛いのだが。



「そうだっちゃ! とても厳しい試験なのだ!」

「そうなんだぁ〜!よくいえまちたねぇ〜!(ハート)」

「やっやめろぉー! 頬ずりするなっちゃーー!!!」

「はいはい。 桜さんいい加減に離れて」

「ぶぅー!」



(どんだけ好きなんだよ・・・)



 渋々引き下がる桜子に苦笑いしながら樹は百恵に先を促す。



「もうなんなんだっちゃ! もういいっちゃ! 試験でとくと驚くといいっちゃーーー!!!」

「ちょっ!?」



 しかし百恵は耐えられなくなったのか泣きながら講堂の方に走り去っていってしまった。



(おいおい・・・)



 なんだったんだと唖然としながら樹は百恵の立ち去っていった方向を見る。

 そこは入学式のあった講堂の方角だ。

 何か知っているような百恵が立ち去ったということは、あそこが会場なのかもしれない。



(あそこなら星幽武装アストラル・デバイスをつかっても大丈夫だし間違いないかな)



 というか樹達はどこで入部試験が行われるかも知らないので取り敢えずいって見るしかないのだ。

 ガイダンスで説明もなかったので実は困っていた。

 いわゆる渡りに船というやつだ。



「取り敢えず講堂に行ってみようか」



 それに2人とも頷き講堂へと向かう。



 ここから講堂はわりと近く三人でワイワイ話しながら向かうとそこには十人ばかりの新入生が各々自由に立って試験を待っていた。



「思ったよりすくないんだね」

「どうかな・・・僕には多過ぎるように映るけどね」



 闘技場の中を見回して桜子が感想を述べるが、樹は反対の意見だった。

 確かに見方によっては少なくとも映るだろうが樹としてはそうは思わなかった。

 LSライトニング・スピードは命をかけた人間同士の戦いだ。競技、スポーツと言葉を濁しても現実はただの殺し合いだ。

 武器とは殺傷の道具であり、兵器とは戦争ために産み出された遺物だ。

 それらを持って人間同士が戦う以上人が死なないなんてことは妄想に過ぎない。



 樹にとってはこれだけの人数がそんな競技に参加することを望んでいることが不思議でたまらなかった。



 黙り込む樹を桜子はじっと見つめ心の内をおもんばかる。

 先ほどの言葉からも彼のLSに対する気持ちが伝わってきたからだ。



「あらっ、意外と沢山の方が入部を希望されているのですね。私としてはとても喜ばしいことです」



 程なくして昨日会ったアリスと小さな段ボール箱を持った七重が扉を開けて入ってきた。

 金髪碧眼の美少女が優雅に微笑み、一人一人ゆっくりと眺めていく。恐らく目をつけていた人物が来ているか確認しているのだろう。



「うむ。樹と桜子もちゃんと来たな!」



 銀髪銀眼の美少女はその見た目とは裏腹に男勝りに口角を上げる。



「宗源寺先輩・・・ちゃんと来たなっていうくらいなら場所くらい教えておいてくれませんか? 入部試験があるってことも知りませんでしたよ?」

「仕方ないだろ!私だって今朝登校した時に知らされたんだからな!」



 肩をすくめて呆れる樹に、七重は胸を張って答える。



(胸を張っていうことじゃないでしょ)



 どうやら七重も知らされてなかったようなのでこれ以上の追求は無意味だと思い金髪の美少女である白石アリスの次の言葉を待つことにする。



「こほん。 ではこれよりLSライトニング・スピード部の入部試験を始めたいと思います。 形式はバトルロワイヤルですが新入生全員に対しこちらは1人。 勝利条件はこちらの部員を倒すことですの。 簡単ですわよね?」



 アリスは綺麗な微笑みを浮かべて言い切る。



「すみません。 質問を一つよろしいでしょうか?」



 少しの静寂の中、1人の生徒が手を挙げた。

 その生徒には見覚えがある。たしかガイダンスで桜子に絡んでいたイケメンだ。



「ええ、どうぞ」

「では一つ。 生徒会長はバトルロワイヤルとおっしゃいました。 しかし勝利条件は全員で1人を倒すこと・・・これではバトルロワイヤルとは言えないではないでしょうか?」



(意外とあのイケメンくんは頭が切れるな)



 イケメンの質問に樹は感心する。雰囲気に飲まれることなく冷静にアリスの説明を聞いていなければそこに気づくことはできない。



「え? どういうこと?」



 案の定新入生の中で、彼の問いが理解できない人間が声を上げる。

 それを聞いたイケメンは爽やかな微笑みを浮かべ新入生達を見回すと堂に入った演説を始める。



「みんな! 考えても見てくれ! 生徒会長は試合形式をバトルロワイヤルといっていたが実際は多対一の変則レイドなんだ。 ではなぜバトルロワイヤルといったのか・・・それはそうなる理由があるからだ。 そうですよね? 白石会長」



 イケメンがそのままアリスの方に体を向けるとニッコリと微笑み合う。



「あらっ、言い忘れていただけですわよ?」

「では教えていただけるのですね?」

「もちろんです。 形式がバトルロワイヤルといったことに間違いはありません。 なぜなら入部できるのは一名だけですので」

「一名だけとはどういうことですか?」

「つまり入部できるのは私達の部員を倒した人だけだということです」



 その言葉に集まっていた新入生は驚愕する。

 それはそうだろう。入部できるのが1人だけといきなり言われれば驚きもする。

 その中で騒いがず冷静にいるのは樹と桜子、そしてイケメンのみだった。

 もしこれが冷静な分析力を試しているなら他の新入生はここで終わりだろう。



「・・・たしかにこれはバトルロワイヤルですね」



 ボソリと呟いたイケメンの言葉が騒ぎを沈静化させ、静寂を生んだ。



 今、新入生達はやっと状況を理解し互いに視線で牽制しあっているところだろう。

 目をギラギラさせる新入生達に協力しようという意思はもう無いだろう。

 アリスの狙いはもしかしたらそこにあったのかもしれない。



(意地が悪いというかなんというか)



 まるで初めから仲間割れをさせようと仕組んだルールとしか思えない。



「ねぇ、樹くん。空気悪くない?」

「そうだね・・・。 さすがにこの中て1人だけって言われると仕方ないかな?」



 重い空気に耐えれなくなったのか桜子が小さな声で樹に話しかけてくるので一緒になって小さな声で答える。



「んーと、でもあれよね・・・白石先輩は多対一ともいってたと思うんだけど」

「たぶんそれがこの試験の核なんだと思うよ。 正直な話、1人ではクリア出来ないと思うよ」

「なんでそうおもうの?」



 桜子が真剣な表情で樹に問う。

 樹も顎に手を当てて考えを述べる。



「仮に今回戦う部員が白石先輩や宗源寺先輩クラスだとすればここにいる人達では絶対に勝てないんだ」

「そんなことどうしてわかるの?」

「見ればわかるさ。 桜さんもあの目で見て見ればわかると思うけど星辰士アスタランナーは普段から自分の体内に一定量のアストラルを保有しているものなんだ。保有しているアストラルの量は個人で違うんだけどその総量は実力に比例しているからある程度の強さみたいなものがわかるんだよ」

「そうなんだ」



 樹の説明に納得したようで桜子は頷くと「むむむむむ」と唸りだした。

 いきなりなにをしだしたんだ?と思い回り込んでみると眉間にしわを寄せて目をかっ開いていた。



「なっなにしてるの?」



 樹が若干引き気味に尋ねると



「目にアストラルを集めようとしてるの」



 とこちらを向かずに答えられた。



「言いにくいんだけどそんなに簡単にアストラルは扱えないよ。 それに桜さんの体内にはアストラルがほとんどない状態なんだから外から取り入れないといけないから無理だよ」

「え? そうなの!?」



 樹は苦笑し、驚いてキョトンとした表情の桜子の肩に手を乗せる。



「今回は僕が力を貸すよ。 体から余分な力を抜いてアストラルを感じ、受け入れるんだ。 いまから今朝みたいにアストラルを流し込む」

「ほぁ〜」



 樹の手がほんのり暖かなり、桜子に触れた面からその暖かさが全身に伝播していく。

 体を満たしていく高揚感と包み込まれるような安心感を覚え、うっとりと目を細めら桜子。



(本当にアストラルが染み込んでいくようだ。 今朝初めてなのにアストラルを操作し、体内に留めていたのは見間違いじゃなかったみたいだね)



 樹をして桜子のアストラルに対する感受性は飛び抜けているとしか思えなかった。

 本来は何年も修行しなければアストラルを身体に保有することなど出来ない。まして、アストラルを操作するなんて第七感の習得が必須だ。

 それをなんの授業もせずに会得している。

 まさしく天才としかいえない才能だ。



(だけどそれを生かすも殺すも自分自身次第)



 樹は惚けた顔をする桜子を見つめ、彼女の未来を夢描く。



「はっ! あっ、できた!」



 樹が思考にふけっていると桜子の瞳が金色に輝き出す。



(さらに金華眼を発現している・・・か。 まさしく才能の塊だな)



「いまなら見れるんじゃないかな? 他の人の体内に保有しているアストラルを」

「うん。 あの星みたいに光ってるのがアストラルだから、それがより光ってるのを待っているのをみつけるんだよね」



 そういって桜子はジッと周囲を見回し、一人一人確認していく。



「樹くんのいってた通り一番輝いてるのはあの・・・イケメンさん?かな? 他の人にはあんまり光は見えないから」



 どうやら桜子もイケメンの名前を覚えていなかったようで言い淀んだ後、樹が心の中で読んでいる呼名と同じ解答を得たようだ。



「多分あってると思うよ。 それを今朝の宗源寺先輩のと比べてみてよ」

「んーと・・・!? え? 全然違うよ!? 多分二倍くらい?」

「そのくらいだね。 だから宗源寺先輩と同じ実力を持ってる人だった場合には単純に2人いないといけないんだ」

「そっそれじゃあこの試験って誰も達成できないってこと?」

「そうだね。 一人では、だけどね」



 桜子と話している間に着々と準備が進められていく。

 自分の星幽武装アストラル・デバイスを持っている者は展開し、感触を確かめ準備運動を始め、それ以外の者は七重が持ってきた箱の中身から星幽武装アストラル・デバイスを各々借りている。



「さぁ、桜さんも取りに行こう」

「うん!」



 そういって二人は七重の持つ箱に向かった。





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