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ライトニング・スピード  作者: アラトラト
第1章
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第十一話 登校

 





 今日からやっと高校生になったのだと樹は目の前の景色を眺めていた。



 学園の生活区画だけあってこの時間登校する生徒で溢れかえっている。

 真新しい制服に身を包みすこしの緊張感をもって歩く樹と同じ一年生に、友達と仲良く話しながら登校するこなれた様子の上級生達。



 そんな学校への道を樹は桜子と鈴と一緒に歩いていた。

 鈴は寮ではなく実家から通う数少ない生徒だがあらかじめ樹は一緒に登校する約束をしていたのだ。



「兄さんがいっくんが家に帰ってこなかったの・・・怒ってたよ?」

「あー・・・それは予想してたけど益々帰りにくくなったかな」

「・・・いっくんは私達の家族なんだから、ちゃんと、帰って着てほしいな」

「じゃあ、そのうち帰るよ」



 待ち合わせ場所について早々に嫌なことを聞いてしまった。

 鈴は小さな声でつっかえつっかえ話しているが恐らく昨日帰ってこない樹について相当ご立腹だったのだろう。鈴も避難するような視線を向けてきている。



(こっちに戻ってきてからは一人で生活する予定だ。なんていったら更に怒られるのかな?)



 内心冷や汗をかきながら樹が適当に相槌を打っていると隣から視線を感じたのでもう一人の同行者に視線を向ける。



「やっぱり仲がいいんだね」



 顔は笑っているがどこか不機嫌そうな桜子にまたもや内心冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべる。



「子供の頃から一緒に暮らしてるからじゃないかな?」

「ふーん」

「あっあの、ごめんなさい・・・」

「え!? 鈴ちゃんが謝ることじゃないよ!」

「・・・だって、さっき、桜ちゃん怒ってた」

「あっあれは冗談! 冗談だよ!」

「そう、なの?」

「うっうん!そう!」

「よかった・・・」



 桜子はいたずらっ子ような顔で樹に相槌を打つがそれを間に受けた鈴から謝られてしまいタジタジになる。

 なんとか鈴が落ち着くのを待ってから、樹は登校前に寮の玄関で会った時に気になっていたことを桜子に聞いてみる。



「気になってたんだけど桜さんなんでメガネかけてるの?」

「え? これはーイメチェン? うんそう。 イメージを変えてみようとおもったの! 似合ってない?」



 それにハニカミながら答える桜子だがどこか緊張しているようにと見える。

 今日の桜子は大きな丸メガネをかけ、髪型は三つ編みのツーテールにしている。素材がいいせいか似合っていないわけではないが何処か地味な印象を受ける。


 本人がいいのならそれでいいかと思わないでもないが。



「ううん。 似合ってると思うよ? 僕オシャレとか全然わからないから参考になるかわからないけどね」

「うっうん・・・ありがとう」



 そんな会話をしながら三人で割り当てられた大教室に向かう。

 今日はそこで新入生のガイダンスが行われる予定になっている。

 星華学園は完全単位制でクラスというものはない。

 それぞれが学びたい授業を履修して講義を聞きにいく形式をとっている。

 桜子とは学部が違うのだが同じ教室でガイダンスが行われる。もちろん専門的な学部はその後に別々に説明が行われるようだ。



「じゃあ私はこっちだから」

「うん。 またガイダンスがおわったら」



 大教室に到着し桜子と樹達はわかれる。桜子は戦闘科、樹と鈴は一般教養科のブースに移動する。

 大教室という名前だけあって普通の教室の四倍はあろうかという広さなので一年生を全員入れても足りるのだろう。



(ドキドキするなー! 友達できるかな!)



 鈴と一緒に長机に腰掛けながら樹はキョロキョロと辺りを見回す。

 初めての学校生活に期待は膨らむばかりだ。



「誰か話しかけてくれないかなー」

「ふーん。 話しかけてほしいっちゃ?」

「それはそうだよ!」

「じゃー特別にあたしが話し相手になるだらー」

「ほんと! ・・・て、中学生? ここは中等部も併設されてるんだっけ?」

「中学生じゃないっちゃ!!!」



 樹がパッと顔を上げるとそこにはかろうじて中学生くらいの女の子が後ろを向いて座っていた。

 ショートヘアの可愛い感じの女の子でこの辺りの方言が混ざっているところから近所の子だろうか?

 そうおもっていった言葉であったがその子にとっては禁句だったようで手を上げて憤慨している。



「・・・本当? じゃあ、小学生なのかな? それならここには」

「だーかーらー! 違うっちゃ!!」



 その反応も子供そのものであり、まるで小学生と話しているような気分になる。

 しかしそれが気に食わなかったようで牙のような八重歯を剥き出しにして怒りを表していた。

 まぁ、それも可愛いとしか表現できないのだが。



「あたしは高校生だっちゃ!!」



 そして胸を張ってその子は宣言する。

 見た目は小学生か中学生くらいにしか見えないが、本人がいうのだそうなのだろう。

 鈴と思わず顔を見合わせると鈴も驚きながらも頷いてくれる。

 一先ず聞き間違いとかではないようだ。



「・・・そっか、高校生なんだね。 それでお名前は言える?」

「だから子供扱いしないでほしいっちゃ!!」



(おっと、そうだった)



 ついつい見た目が子供なので間違えてしまった。

 それにしても怒りながらも目をウルウルさせているところなど、とても保護欲をくすぐられる。



「かっ、かわいい!」



 それは鈴も同じなのか目を輝かせてその子の頭を撫でている。

 というかあんなに積極的な鈴は初めて見たな。

 その子も初めは嫌がっていたみたいだがだんだんと唇を尖らせながらも嬉しそうだ。



「それで君のお名前はなんていうのかな?」

「よくぞ聞いたのだ! あたしは羽石衣百恵うえしもえっちゃ!!」

「そっか百恵ちゃんっていうんだね。 僕は樹、夜威見樹よろしく」

「子供みたいにちゃん付けで呼ぶなっちゃ!」

「あっ、ごめんごめん」



 うん。どうしても子供にしか見えないな。



 そんなこんなでガイダンスが始まる。

 内容は大体知っていることの復習や単位の詳しい取得方法など細かい点が説明され、一般教養科のガイダンスは終了する。



 樹と鈴が席を立つというの間にか百恵はいなくなっており、少し探してみるが見当たらなかったのでそのまま桜子を探しに行くことにする。



「あっ、あっちじゃないかな?」



 大教室はたくさんの一年生に埋め尽くされていてどこが戦闘科のブースなのかわからない。

 そんな中、鈴の指した方をみると確かにそこには一般人とは少し違った雰囲気の集団を発見する。



 皆背が高く、ガッチリした体型であり、目がギラギラしている。一般人は近寄ることさえできないだろう。

 今も先生から説明が続いているようだが半数近くの生徒はもう友達が出来たのか勝手にしゃべっている。


 明らかにガラが悪い生徒もおり、鈴は樹の後ろに隠れてしまった。



「桜さんはどこかな?」



 探してみると三つ編みにメガネをかけた桜子が真剣に話を聞いているところだった。

 彼女は星辰士アスタランナーとして初心者だ。初心者はそんなに多くないのかカリキュラムに関する説明を聞いたいる生徒は少ない。



「どうする? まだかかりそうだけど・・・ちょっと外に出てようか?」

「うん・・・」



 縮こまってしまった鈴を連れて外に出て、自動販売機で飲み物をかってベンチに腰掛ける。



 そこは高校とは思えないガーデンスペースになっており授業の合間の生徒のオアシスとして機能していた。



「いっくんはなんでこの学校に入ろうとおもったの?」



 ゆっくりと行き交う生徒を眺めていた樹に鈴がおずおずと聞いてきた。



「一番は学費が安いってとこかな・・・」

「それだけ?」

「んー。 目的も達成できたし戻ってきただけだよ。 なんて言ったってここが故郷なんだから」

「だったらなんで家に帰ってこないの?」



 ポツポツと繰り返される問答に樹は前を見ながら話していた。

 とてもではないが鈴の視線を真っ向から受け止めることはできないでいた。

 それは罪の意識か、後ろめたさか。



「・・・帰ることなんてできないんだよ。 もう僕は必要ないんだ」

「そんな、こと、ない」

「鈴の気持ちもわかっているつもりだよ。蓮兄さんもそれを望んでくれてるとは思う。 けど僕がそうしたいんだ。 一人で生きて行くって決めてたから」



 樹はそれだけ言うと立ち上がり、自動販売機の近くのゴミ箱に容器を捨てる。

 この飲み物だってお金がなければ買うことはできないんだ。そして一人で生きて行くと言うことは働いてお金を稼ぐということだ。

 この学校は国立だけあって就職率が高い。

 今までとは違った道を見つけ、しっかりと働くんだ。

 家に帰る道もあったかもしれないけど、それではダメだと樹はおもった。



「おい聞いたか? うちの学校にアイドルが入学したらしいぜ?」



 ベンチに戻る途中、ガーデンスペースを横切って行く二人の男子生徒の会話が聞こえてきた。



「それってデマじゃねぇのか?」

「いや、見たやつの話だと間違いなくウチの制服を着てたらしい」

「おーまじか! でもなんでアイドルがこんなど田舎に?」

「それはしらねぇーけどさ! これってチャンスじゃね? うまくいけばアイドルと高校生活エンジョイできんだろ」

「確かにな! でもさ、今日のガイダンスにも昨日の入学式にもそんな女の子いなかったくね?」

「俺もそれだけが疑問なんだよなー」



(アイドル・・・? 僕は見たって誰だかわからないけど有名人も学校に通うんだな)



 通り過ぎて行く男子生徒を眺めながら樹がベンチに戻るといつの間にか百恵が座っていて鈴と何かを話しているようだった。



「あっいっくんおかえり」

「ただいま」

「帰ってきたか!樹っち! 待ってたぞ!」

「待ってたって、いきなりいなくなったのは君の方だったとおもうけど?」

「細かいこと気にしてたら禿げるっちゃよ?」

「え!? それはいやだ!」

「うむうむ。 じゃあ本題に入るっちゃね!」



 どうやら樹を待っていたようだがベンチは二人がけなので樹の座る場所がない。

 仕方ないので近くに立って話を聞くことにしよう。



「それで僕に用事ってなに?」

LSライトニング・スピード部の入部試験についてっちゃ」

「入部試験? そんなのがあるんだ。 というかなんでそんなことしってるのさ」

「ふふふっ! あたしの情報収集能力をなめてもらっては困るっちゃ!」

「あーうん。 わかったよ。 それでどんなことをするの?」



 いちいち胸を張って叫ぶ癖があるのか話が進まないため樹は今日何度目かのため息をつきながら話を促す。



(それにしてもなんでこの子は僕が入部希望者だってわかったんだろう)



 明らかに一般教養科のブースにいたし、胸のバッジは一般教養科のものだ。

 普通戦闘科以外の学科の生徒が入るとは思わないだろうに。



 訝しみながらも話はきちんと聞いておきたいため、表情には出さないように注意する。

 この話は朝、七重からも聞かされていない。樹は何があろうとなんとかなるが桜子は違う。

 難しそうなら対策が必要だ。



「それはな! ずばり現部員とのガチンコ対決だっちゃ!」

「あっそうなんだね」

「あれ? 驚かないっちゃ?」

「いや・・・まぁ」



 驚くも何もすでに昨日何度もやったことであり、想像はできる。

 というかこの部活は脳筋しかいないのだろうか?

 バトルバトルバトルと取り敢えずやってみよう的な考え方に傾倒しすぎやしないか?



 樹は先が思いやられると思い内心ため息を吐く。

 しかし、その方法が必ずしも間違っているとは言えないだろう。

 実力は戦っているところを見なければ正確に把握することなんてできない。

 本当にLSライトニング・スピードに出るつもりなら生半可な奴を入部させても意味がないのだろう。しかしそれではなぜ桜子が勧誘されたのかわからない。

 まさか、彼女の金華眼を知っていたなんてことはないと思いたいが。



「それで対戦相手はだれか知ってる?」

「それはわからないっちゃ! 毎年クジ引きで決めてるっちゃ!」



 対戦相手の情報がつかめないのは痛いがこればかりは仕方がない。

 桜子をどうにかして勝たせなければならないため、ここはアリスか七重に出て来てもらいたいものだな。



 そんなこんなで時間は過ぎていき、樹達は桜子を迎えに大教室に戻るために歩き出した。

















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