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旅して恋する吟遊詩人  作者: S.U.Y
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現代巫女の底力! 前編

当作品に素敵なレビューを戴きました! 赤城 きいろさん、本当にありがとうございます! 大変励みになっております!

 この世には、科学で証明できないものがある。オカルトと呼ばれる怪奇現象も、その一つである。そんなものはいずれ、科学でタネが割れる。そう言われてはいるが、科学によって証明された怪奇現象はただ、証明をした気になっているだけなのだ。どれほど科学が発達しようと、それは無くならない。

 無いよりも、在ったほうが面白いじゃないか。そう、考える存在がいるからだ。人々の思いを糧にして、それは現代の世にも根強く蔓延り、生きている。神社に住まう神々は、その代表格ともいえるだろう。賽銭を投げ願い事を託し、そうして生まれた信仰心により、神は現代を生きているのだ。

 何の変哲もない、平凡なアパートの一室に神に仕えるその巫女は立っていた。居間のテーブルに仰向けに寝転がる青年を前に、巫女は少女と対峙する。険しい顔を見せる巫女とは対照的に、少女はただ素直に、驚きに目を瞠っていた。


 ユーリはまず、目の前にいる奇妙な服装の少女の気配を探った。そして、驚いた。

「あなた、魔力を持ってる……?」

 ユーリの言葉に、少女は静かに葉の付いた木の枝の先を突き付けてくる。

「あなたは、この世界の人間ではないわね。異界の、異形」

 しゃっと、少女が枝を振る。少女の魔力が、緩やかな波となってユーリへ放たれる。それは、ユーリの知っている魔法ではない。ちりちりとユーリの肌の上で、魔力の弾ける感覚があった。

「ほえ? これ……何の魔法?」

 ぱちぱちと微かな痺れの中で、ユーリは平然と首を傾げる。少女の魔法には、敵意や害意などが感じられない。ために、ユーリは戸惑っていた。

「ユーリ、ちゃん……くそ、この鴉め、俺の痛さと気持ちよさの境目に容赦なく爪を立ててくる……もっと踏んで、アッー!」

 三本足の鴉に踏まれ奇妙な声を上げるイチタローに、一瞬だけ視線を向ける。大丈夫そうだ、と安心したユーリは少女へ視線を戻した。

「空気の、浄化をしたの。あなたを、異界へ送り返すためにね」

 両手で枝を持ち、左右へ大きく振りながら少女が言う。

「異界へ、送り返す……ほえ!? そ、それって」

 ばちばちと、ユーリの表皮で魔力の反応が大きくなってゆく。元の世界に、戻れる。そういうことだろうか。唐突に現れた幸運に、ユーリは半信半疑な思いで少女の行為を見守った。

「祓い給え、清め給え……!」

 踊るように、少女が枝を床へ立てる。何の支えも無く、枝は床に根を下ろすように立った。そして少女が両の手を拡げ、大きく音立てて打ち鳴らす。ばちり、とユーリの周囲へ、魔力の電光が走った。眩さに、ユーリは目を閉じる。もしかすると、もしかするかも知れない。妖しく騒ぐ胸の鼓動を抑え、ユーリは光が収まるのを待った。

 眩しい光が、瞼の外から消える。ユーリはゆっくりと目を開き、

「ほえ……」

 そして、落胆した。目の前には、奇妙な恰好の少女、そして居間の机の上には鴉に踏まれて悦ぶ変態の姿がある。何も、変化は無かった。

「っ、そんな!?」

 胸の前で両手を合わせたまま、少女が声を上げる。

「えっと……これで、終わり?」

 少女の魔法はまだ途中で、続きがあるのでは、としばらく待ってみたユーリが声をかける。キッ、と少女の眉が吊り上がった。

「まだよ! 絶対に、祓ってみせるわ!」

 少女がユーリの側へ寄り、細長い紙をユーリの額へぺたりと貼った。

「ほえ、これは?」

 紙からは、そこそこの魔力を感じる。込められているのは、聖属性の魔法のようだった。

「黄泉の国へ帰りなさい! 悪霊退散!」

 二本の指を立てて組んだ印を突き付け、少女が叫ぶ。少女の魔力に反応して、紙が青白い炎を上げて燃え上がった。

「ほえ、危ないよ。それに、ターンアンデット? 私、生身だよ?」

 燃え上がる紙を指でつまみ、ふっと息を吹きかけて炎を消す。

「これも通じない!? そんな……」

 大仰に身をのけぞらせる少女に、ユーリは引きつった笑みを浮かべる。

「えっと、お話、させてもらってもいいかな?」

「次、いくわよ!」

 ユーリの問いを無視して、少女は服の袖から珠を連ねた丸い輪を取り出す。

「……巫女さんが、数珠?」

 変態が、声を上げた。どうやら、あの輪は数珠というアイテムらしい。

「なむ……」

 ごにょごにょと、少女が呪文のようなものを唱え始める。状態異常を少し回復させそうな光が、ユーリを包む。だが、もちろん何も起こらない。

「あの、あなたは一体誰なの? どうして、イチタローなんかと一緒に」

「これでダメなら! 今度は!」

 言葉は通じるようだが、話にはならなかった。少女は服の袷に手を入れて、胸元から銀色の十字架を引っ張り出す。

「汝のあるべき場所へ帰りなさい!」

「帰る方法があるなら、すぐにでもそうしたいよ」

 聖なる光に包まれたが、やはり何も影響は無かった。

「まだよ!」

「ほえ……うん。全部終わったら、お話聞かせてね」

 次々と怪しげなアイテムを取り出し、魔法を行使する少女にユーリは半ば諦めたように呟いた。


 小一時間が経過した。ユーリの周囲には、藁でできたロープやらにんにくを紐で縛ったもの、小皿に盛られた塩など意味の解らないアイテムが散乱していた。そして少女は、力尽きてぐったりと仰向けに寝転がっている。少女の頭の横に、三本足の鴉がやってきてツインテールの根元を嘴でほじくり始めた。

「ほえ……もう、いい?」

 ユーリの問いに、少女がかすかにうなずく。ユーリは足元に敷かれた、魔法陣の描かれた布の上から降りると少女へ歩み寄った。

「大丈夫? あ、紹介が遅れたけど、私はユーリ。吟遊詩人だよ」

 魔力切れになったのか、青い顔をして息を切らせている少女にユーリはきっちりと挨拶をした。

「ふう……鳥っていうのも、悪くないもんだね。ありがとう、芹香ちゃん。はい、お水」

 額の汗を拭いながら、爽やかにイチタローが少女へコップを差し出した。よろよろと起き上がった少女が、コップを受け取り咽喉を鳴らして水を飲む。

「ぷはあ、ありがとう。でも、八咫烏で変な事、しないでくれる?」

 コップを返しながら、少女はイチタローに胡乱な目を向ける。

「いや、気持ちよかったもんで、つい」

 頭を掻きながらの発言に、ユーリと少女と鴉が同時に動いた。居間のソファに、頭を下にした奇妙なオブジェが出来上がる。

「大丈夫? イチタローに、変な事、されなかった?」

「うん。真面目な顔で、踏んでくださいって言われたから、つい八咫烏をけしかけただけよ。何かをされた、ってことはないから。あ、私は、陽神芹香。巫女をやってます」

 ぺこり、と少女が頭を下げて名乗った。

「ヒノカミセリカさん?」

「そう。セリカって、呼んでくれていいわよ。ところで、あなた、アマテラスって、知ってる?」

「ほえ……知らない」

 首を振るユーリに、セリカが苦笑して見せた。

「一応、この国で太陽を司る女神様なんだけどね。本気で知らないみたいだし、やっぱり、あなたは別の世界、別の神様のところからやってきた人のようね。私は、アマテラスの力を宿した、巫女なのよ」

「ほえ、神様の力を……凄いんだね」

「そう言われてるってだけで、実際はどうかは解らないけどね。八咫烏は、従ってくれてるけど」

 肩をすくめて見せるセリカの側で、鴉がくわあと鳴いた。

「賢そうな子だね。その子、ちょっと前に見たことあるかも」

 鴉に目を向けて、ユーリは言った。その鴉は日本にやって来た初めての夜、屋上で泣いているところを慰めてくれた鴉に似ていた。

「うん。八咫烏が、あなたを見つけて私に知らせてくれたのよ。異界の、異形の魔力を見つけたってね」

 似ている、ではなく当人、もとい当鳥であったらしい。ほえー、と息を吐いて見つめるユーリの目の前で、鴉は素知らぬ顔で毛づくろいを始めた。

「あっちで変なポーズで埋まってる男の子からも、ちょっとした違和感みたいなのは感じるんだけど、あなたほどでは無いわね。ユーリ……率直に言わせてもらえれば、あなたは、私たちの世界に、いてはいけない存在よ。あなたの魔力からは、人を狂わせるような、強すぎる力を感じるもの。魔力の残滓を追って、そして実際に会ってみて、私はそう確信したわ」

 鴉へそっと手を伸ばしかけていたユーリの動作が、ぴたりと止まる。

「ほえ、私の、魔力が?」

「そう。あなたは、吟遊詩人と言ってたわね。あなたが、強い感情を出して歌った場所……恐らく、この町の公園の木の上、それから公園の広場。そこに、強い魔力が残留していた。それは人の感情を乱し、抑えていたものを剥き出しにしてしまう程の力を持っているの。すぐに祓えば、ただちに影響は無いけど……良からぬものを、呼び寄せることもあるわ。それは例えば、強い欲望を持った、異形の魂であったりするの」

 セリカは言って、ユーリに一枚の紙を見せる。手のひらくらいのその紙には、精巧な一人の男の絵が描かれていた。あっと、ユーリは胸の中で声を上げる。

「この人……ナイフ持って結界使って、ミチカさんを追いかけてた人だ」

「その人は、連続通り魔殺人事件の犯人だった男よ。もっとも、その人自身はもう何も覚えてはいないでしょうけど。その人には、悪魔が憑りついていたの。悪魔は月に一度、その人に殺人をさせて邪悪な欲望を満たしていたの。そしてつい先日、悪魔は自分の力、魔力を活性化させる歌声に触れた。その歌声に誘われるように、悪魔はその人を操り犯行に及ぼうとして、何者かに叩き伏せられた。抜け出た悪魔の魂を、八咫烏が捕らえたの。その魂を浄化したときに、私はあなたの歌声を、その脅威を知ったわ。善悪を問わず、魂に活力を与え、魔力を供給する。それは、この日本においては危険なものでしかない。魔力を操る術を忘れ、失ってしまったこの世界ではね」

 じっと、セリカがユーリを見つめる。異界の、異形。ユーリはセリカが自分をそう呼ぶ意味が、ようやくにして理解できた。知らずのうちに、ユーリは悪しきものに力を与えてしまっていたのだ。それも、自分の愛してやまぬ音楽の、歌の力で、だ。

「あなたは、自分の世界へ帰るべきなの。出来る限り、速やかに」

 諭すようなセリカの言葉に、ユーリは顔を俯ける。

「でも……どうやって帰ったらいいか、わかんないんだよ」

「どうやって、ここへ来たの? 自分の意思では、ないの?」

 セリカの問いに促されるままに、ユーリはこの世界へ来ることになった原因、イチタローとの対決、そしてシアのことや魔王城のこと、魔王シアに反乱を起こしたチロルという魔族のことを、思いつく限りに話していった。順番はばらばらで、解りづらく長い話になったが、セリカは時折相槌をうち、優しく促してくれた。まるで、シャイナのようだ。そう思ったユーリは、シャイナのこともセリカに話した。次第に話は主題とずれていったが、セリカは修正をしたり急かしたりもせず、きちんと話を聞いてくれた。

 話し込むうちに、夜は更けてゆく。空が白み始めるまで、ユーリは元の世界のことをセリカへ語り続けていた。そうすれば、帰ることができるのかも知れない。一縷の望みに、ユーリは口を動かし続ける。いつの間にか、奇妙なオブジェと化していたイチタローの姿は、消えていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回は、番外編となります。

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