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旅して恋する吟遊詩人  作者: S.U.Y
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募る望郷、染み入るのは異郷の優しさ 後編

 平和というものは、人それぞれに感じ方のあるものだ。本村市太郎は生あくびを噛み殺し、学校の帰路でそんなことを思う。異世界転生を体験してから、現代日本に帰ってきてしまった。それも、異世界で勇者から闇の魔将となるまでの経緯を体験したうえで、である。命のやり取りを常としない日常は平和そのもので、市太郎からしてみればひどく温い空気に感じられる。

 魔法が使えず、身体強化のスキルも効果を発揮しない。だがそれでも、レベルアップにより市太郎の肉体は一般的な人間よりも頑丈に、強力になってしまっていた。それは、精神においても同じことが言えた。

 だからこそ、市太郎は警官に追われて逃げる少女を見つけても、必要以上に動揺はしなかった。目を逸らし、他人の振りをすることも、しない。温い現実の中で、市太郎の心はどこか麻痺してしまっていたのだ。

「こっちへ」

 通り過ぎようとした巫女服姿の少女の手を掴み、さっと細い路地へと引っ張り込む。

「ここに、隠れてて」

 路地に少し入ったところに、知らない家の生垣があった。その陰へ少女を隠し、市太郎は路地の入口へしゃがんで少し待つ。頭の中で、五つほど数えて立ち上がる。

「うがっ!」

 衝撃と同時に、うめき声が聞こえた。市太郎は頭を押さえ、自分で尻餅をつく。

「い、たたた……」

「き、君、大丈夫か? 済まない、人を追っていて、前方不注意だった」

 わざとらしく声を上げると、体勢を立て直した警官が市太郎へ手を差し伸べてくる。

「あ、大丈夫です。自分で立てますから。お巡りさんが追いかけてる人って、巫女さんの服着た女の子ですか? あっちに、走っていきましたけど」

 立ち上がり、細い路地の向こうを指差して市太郎は言った。

「ああ、そうだ。協力、感謝する」

「お勤めご苦労様です。頑張ってください」

 敬礼して駆け去る警官に、同じく敬礼を返しつつ市太郎は内心でこっそり舌を出した。

「……戻ってくるかもしれないから、今のうちにちょっと離れようか」

 生垣の陰へと声をかけると、じっと警戒する表情をした少女が顔を見せた。

「……どうして、こんなことを?」

 問いかける少女に、市太郎は着ていたコートを脱いで差し出す。

「いいからいいから、気にしない。ちょっとした、国家権力への反抗ってやつだよ。ほら、俺って反抗期真っ盛りって年頃だからさ。あ、コート着たら、髪も下ろしておいたほうがいいね。ツインテって、さすがに目立ちすぎるから」

 手際よく言い渡される指示に、少女はわずかな躊躇いを見せたが、素直に従った。長めのコートを羽織り、ツインテールに結った髪を解く。さらりと揺れた黒髪に、市太郎の胸がどきりと鳴った。

「……ついでに、下だけでも替えたほうがいいかも。ジャージ持ってるから、良かったらどうぞ。あっ、俺はケーサツが戻って来るかどうか、見てるから大丈夫。そっちの陰で、ちゃちゃっと着替えてね」

 コートの下からのぞく赤い袴を見やり、市太郎はカバンの中からジャージを取り出して見せた。少女は黙ってうなずき、ジャージを受け取って生垣の陰へと隠れる。宣言通り背を向けた市太郎の耳に、かすかな衣擦れの音が届いてくる。ますます高鳴る胸の鼓動に、市太郎は深く息を吐いた。

「……平和だな、本当に」

「何のこと?」

 かけられた声に振り返れば、着替えを終えた少女が立っていた。胸の前に赤い袴を抱え、その目には疑わしいものを見る光があった。

「何でもない。ちょっとした実感ってやつさ。じゃ、行こうか」

 そう言って、市太郎は路地を出ようとする。

「え、ここって、あなたの家じゃないの?」

 生垣と市太郎に交互に目をやりながら、少女が戸惑った声を上げる。

「ううん、知らない人の家だよ。大丈夫、ここは平和だから、トラップとかモンスターとかは、いないから……もちろん、冗談だよ。怒られたら、謝ればいいだけだからね」

 飄々と言った市太郎に、少女が呆れたような顔を向ける。

「不法侵入……立派な、犯罪じゃない」

「君の逃亡幇助、も多分犯罪じゃないかな。公務執行妨害系のやつ? ま、細かいことは気にしない。それでいいじゃん。あ、そっちの袴、俺のカバンに入れとこうか?」

 市太郎の提案に、少女が首を横へ振る。

「……匂いとか嗅がれそうだから、やだ」

「勝手にはやらないよ。嗅ぎたいときは、ちゃんとお願いするから」

 爽やかに言い放つ市太郎に、少女がドン引きした。じっとりと湿り気を含んだ視線に、市太郎の背筋がぞくぞくと震える。

「ともかく、落ち着ける場所に行こうよ。大丈夫、俺は紳士だから。俺は、本村市太郎。君の名は? なんてね」

「……陽神芹香(ひのかみせりか)よ。その、助けてくれて、ありがとう」

 某有名映画のタイトルを交えたおどけた質問に、少女は真面目な答えを返してくる。冗談の通じないタイプなのかな、と市太郎は内心で首を傾げた。

「……ま、いいか。それじゃ、早速行こう」

 歩き出す市太郎の後ろ、三歩ほど離れた位置を少女はキープしてついてくる。

「どこへ行くの?」

「とりあえずは、俺の家だね。姉ちゃんかユーリが帰ってれば、もう少しましな着替え、用意できるだろうし。あ、変なことするつもりは無いから、安心してね」

 にっこり爽やかスマイルを浮かべて言う市太郎に、少女が微笑みを返す、

「ええ、大丈夫。私も、身を守る手段くらいは、持ってるから」

 そう言った少女の肩に、黒い鴉がばさばさと羽音を立てて止まった。

「鴉……? 随分、人懐っこいんだね。それに……足が、三本ある?」

「細かいことは、気にしないんじゃなかった? この子は、私の……部下みたいなものよ。変態を見つけると嘴で突っつく癖があるの。でも、変なことしないなら、大丈夫よね?」

 にっこりと笑う少女に、市太郎はただうなずくばかりであった。



 手のひらに入るくらいの板を頬に当てて、ミチカが声を上げる。スマホ、という物で、それは遠距離にいる相手と瞬時に連絡を取ることのできる道具らしかった。

「はあ? 女の子拾った? つくなら、もっとマシな嘘吐きなさい、イチ! それで、その子の着替えにあたしとユーリちゃんの服を? はあ……あんた、女装癖まで身に着けちゃったのね? 断然、駄目に決まってるでしょう! ともかく、お腹壊したなら素直にそう言いなさい! 今日はユーリちゃん連れてライブしてくるから、打ち上げとかで遅くなるわ。お薬ある場所、解るわね? 飲んで、寝ていれば治るわよ、じゃあ、切るわね」

 板を頬から外したミチカが、指で表面をつつく。ぴ、と鳴いた板を、ミチカがハンドバックへと仕舞った。

「ごめんなさいね、ユーリちゃん。あの馬鹿、雑用が嫌で逃げちゃったみたいなの。おまけに、変な嘘まで吐くし……日に日に、変態の度合いが増してきているわね」

「ほえ、それなら私が、イチタローの分まで手伝います。何すればいいですか?」

「ありがとう、ユーリちゃん。それなら機材の運び込みしてるタケさんを、手伝ってくれるかしら? 私は、お店の人と打ち合わせしてくるから」

 ミチカが指し示すのは、黒い箱のようなものを運んでいる長身の男性、タケさんこと藤武アーロンである。

「チョット重たいヨ?」

 額に汗を掻きながら、アーロンが言った。

「大丈夫です。このくらいなら……ほえ、軽いですよ、これ」

 アーロンが腰で持ち上げている黒い箱を、ユーリは横からひょいと持ち上げる。少し重い気もするが、フルプレートの鎧よりは軽く感じた。

「おお、すごいネー。それは、そこにそっと置いてネ」

 アーロンの指示を受け、ユーリは箱を小さなステージの端へと置く。

「ここでいいの、タケさん?」

「うん、ダイジョブ。あとは線を、繋ぐダケー」

 言いながら、アーロンがミチカの弾いていた板状のピアノを運んで来る。そうして、黒い箱とピアノにそれぞれ黒く細い紐を差し込み、繋いだ。

「コレでお終い。ありがとネ」

「ほえ、どういたしまして」

 にっと笑うアーロンに微笑みを返し、ユーリはぐるりと視線を巡らせる。狭い酒場の中は薄暗く、まだ開店前なのだろう。テーブル二つとカウンターの前に置かれた椅子には、まだ客の姿は無かった。カウンターの向こうに並んでいる酒瓶の種類の多さに、ユーリは目を奪われた。

「ほえ……小さいお店なのに、沢山お酒並んでる」

「小さいケレド、とってもイイお店ダヨ。お酒も、美味シー」

 ユーリの呟きに、アーロンが答えた。一通り、見たことの無い文字のラベルを読んだユーリはアーロンへと顔を向けた。

「ねえ、タケさん。ミチカさんのこと、どう思ってるんですか?」

 問いかけると、アーロンの渋みのある顔から表情が消える。

「ミチカは、とっても大事な人だよ。音楽について、意見も合う。それに、日本に慣れない僕のことを、よく構ってくれるんだ」

 たどたどしい言葉ではなく、流暢な言葉でアーロンが言う。それはミチカやイチタローの使う言語では無かったが、ユーリには意味がきちんと読み取れた。

「お世話してくれてるんですね。ミチカさんって、そういうとこありますもんね。私も、お世話になってますし」

「うん。ミチカは優しいよ。音楽にも情熱的で、一緒にいるとすごく楽しい。ずっと、ミチカと一緒にやっていけたらって、僕は思ってる」

 アーロンの言葉に、ユーリの頭の中にぴん、と閃くものがあった。

「それって、好きってことですよね?」

 ユーリの問いに、アーロンが微かに躊躇を見せて、うなずいた。

「……そうだね。僕はミチカを女性として、好きなんだと思う。だけれど、僕はミチカに、アタックできない。その、資格がないんだ」

 椅子に腰かけ、俯いたアーロンが組んだ両手を額へ当てる。

「……朝にも、そんなこと言ってましたね。資格がないって、どういうことですか? 好きな人に、好きって言うことに、資格なんて必要ないと、思いますけど」

「……ミチカは日本人で、僕はそうじゃない。ユーリさんは、日本に来てまだ日が浅いから、解らないだろうけど、この国は、異郷の人間を簡単には受け入れてはくれないんだ。僕の母親が、故郷へ帰る道を選んだように、ね」

 首を横へ振るアーロンの言葉に、ユーリの胸がどきりと鳴った。異郷の人間。それを受け入れないというのであれば、ハーフエルフである自分はどうなのだろうか。一瞬過ぎった考えを、ふるふると頭を振って吹き飛ばす。

「でも、ミチカさんなら、大丈夫です。たぶん、ミチカさんもタケさんのことを、好きなんです。だからきっと、上手くいきます。たとえ種族が違っても、好きになったらそれでいいんです!」

 遠い異郷にある想い人の姿を胸に浮かべ、ユーリは言い切った。

「種族……?」

 首を傾げるアーロンに、ユーリはにへらと笑って右手を振る。

「それくらいの違いがあっても、っていうことですよ。変な遠慮しないで、嫌がられてドン引きされても、アタックし続けたらいいんです。だって、好き同士なんですから」

 ユーリの胸の中に、シアとの思い出が浮かび、消えてゆく。たくさんユーリのことを想い、形あるもの、形のないもの、様々なものをシアはくれた。ユーリのことを、ずっと見つめ続けてくれていた。離れ離れになって、それが失われ、ユーリの中には深い悔恨が残っている。もっと、仲良くしておけば、良かったのに。そんな想いが望郷の念となり、ユーリの心を揺さぶっていた。

「でも……」

「でももヘチマもありません。好きなら好きって言わないと、ダメなんです」

 きっぱりと言って、ユーリはアーロンを見つめる。静かな、時間が流れた。

「……そうだね。ユーリさんの、言う通りだ。僕は」

 キイ、と店の入り口が開いたのは、その時だった。

「お待たせ、ユーリちゃん、タケさん。お店の準備はいいみたいだから、そろそろお客さんを入れるわ。そっちの準備は……いいみたいね」

 板状のピアノの前まで歩いてきたミチカが、鍵盤を押す。耳慣れない、異世界のピアノが音を鳴らした。

「ほえ、ミチカさん……」

「なあに、ユーリちゃん?」

 ぱちぱちと、カウンターの奥で音がした。同時に、ぱっと店内が明るくなっていく。

「頑張ろうね、タケさんも!」

 笑顔を向けて、ユーリが言った。ミチカとアーロンの二人が、力強くうなずいて応える。

「ええ、頑張って、そして楽しみましょう!」

「盛り上がっテ、イコーネ!」

 そうして、三人のライブが幕を上げた。


 客席は、すぐに満席になった。小さな店だから、それは当然だろう。だが、今夜の観客は食いつきが違う。演奏を続けるうち、ミチカはそれに気づいた。バーの片隅でする生演奏に、グラスを片手にした観客たちは皆こちらを向いて身体を揺すり、リズムを取っている。雑談をしたりスマホを覗き込んだりする者は、皆無であった。観客たちの熱中ぶりは、ミチカにとって初めての経験だった。

「だってー、好きなんだもんー、あなたに、どんどん酔いしれてー」

 透き通るような美声が、陽気な歌詞を歌い上げる。完全にアドリブなそれは、ユーリの歌声である。見た目は完全に外国人美少女なユーリが、流暢な日本語で歌い上げるその様は見事で、花の精のように美しかった。ついつい引き込まれ、手元が怪しくなるのをミチカは何度も抑える。

「今夜も素敵に、恋の花開くー」

 ほろろん、とユーリのリュートが音色を奏で、残響が店内へと淡く消えていく。わっと、観客たちから拍手が沸き起こる。ミチカとアーロン、そしてユーリも晴れやかな表情で一礼した。

 予定していた曲の演奏が終わり、何曲かアンコールも受けた。ユーリの歌い上げる陽気な恋の歌は、不思議と身体の中を熱くする。演奏を終えて、撤収の前に祝杯を上げながらミチカはユーリの背を叩いた。

「すごいじゃない、ユーリちゃん! 練習の時もそうだったけれど、本番になるとぐっと深みが増していたわ!」

「ほえ、ミチカさん。ミチカさんもタケさんも、凄かったです!」

 にへら、と微笑むユーリと、ミチカはグラスを合わせて乾杯する。

「ありがと。でも、ユーリちゃんの歌とリュート、本当に素敵だったわよ。情感たっぷりで、まるでいくつもの恋をしてきたような、そんな艶があったわ」

「ミチカさんのピアノ? も、タケさんと息ぴったりでしたよ。すっごく、歌いやすかったです」

「それは、まあ……長い付き合いですもの」

 アーロンのことを言われ、ミチカは何となく言葉を濁す。アーロンに目をやれば、大ジョッキに一杯のビールを持ってこちらへとやってくるところだった。

「ユーリさん、今日の歌、最高だったネ! 僕の国の言葉で、あんなに上手に歌えるナンテ!」

 すでに酔っているのか、アーロンが奇妙なことを言いだす。

「タケさん、何言ってるの? ユーリちゃんは」

「ミチカさん、ちょっと……」

 アーロンへ向けて口を開きかけたところで、ユーリがミチカの袖を引いて顔を寄せる。

「ん? なあに、ユーリちゃん」

 同じく顔を寄せれば、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。

「たぶん、タケさん……日本語、っていうのを国の言葉って言ってるんだと思いますよ?」

「どういうことかしら?」

 ひそひそと、アーロンに聞こえないよう声を潜める。ユーリが、少し悪戯っぽく笑った。

「日本の人に、なりたいんじゃないかなって、思うんです。ミチカさんと、一緒になって」

 ユーリの言葉に、ミチカの思考が停止する。あっ、とミチカの胸の中に、声にならない声が上がる。

「で、でも……そんなこと、まだ、一言も」

「言葉じゃなくて、音で、タケさんはミチカさんに、伝えてましたよ」

 先ほど湧き上がっていた、ふんわりと温かな気持ちが全身へと広がっていく。ぼうっとなった頭でアーロンを見れば、ジョッキを掲げて微笑んでいる。かつん、とミチカは持っていたグラスを、アーロンのジョッキへとぶつけた。

「ミチカ、今日のアナタの演奏も、スンバラシーでしたヨ」

「タケさん……」

「今夜は、アーロンと呼んでクダサイ、ミチカ……」

「もう、酔っているの、アーロン? でも、いいわ。今日は、何だか素敵な気分だから」

 微笑んで、ミチカはアーロンを見つめる。アーロンの瞳の中には、ミチカだけが映っていた。そっと寄り添い、アーロンがミチカの頬にキスを落とす。ヒュウ、と客たちの間から、口笛が聞こえた。ふわふわと舞い上がるような気持ちで、ミチカはグラスを掲げて見せる。素敵な夜は、まだ始まったばかりであった。



 空いたカウンターに並んで腰かけるミチカとアーロンに微笑みを向けて、ユーリは酒場を出た。寄り添う二人の姿に、脳裏に重なって浮かぶのは両親の姿である。きっと、あのふたりは上手くいく。そんな確信を胸に、ユーリは鼻歌交じりに建物の屋根を飛び跳ねる。向かうのは、ミチカとイチタローの住まう家である。

「お腹壊したみたいって、ミチカさん言ってたけど……大丈夫かな?」

 イチタローは変態であったが、ユーリの世界を知る唯一の日本人である。ほんの少しくらいは、心配なのだ。夜も更けかかり、淡い月の光が降り注ぐ。ひょいひょいと石造りの建物をいくつか跳び越えて、ユーリはイチタローの待つ家へとたどり着いた。

「ただいまー……ほえ、扉に鎖がかかってる」

 早業で鍵を開けて、玄関の扉を引いたユーリの手が止まる。ぴん、と張られた鎖につなぎ留められ、扉はわずかな隙間を作って止まっていた。

「ま、いいか」

 扉の隙間に身をくぐらせ、ユーリは内部へと侵入を果たす。腕一本分の空間があれば、ユーリにとってそこは通行可能なのである。

「ただいま、イチタロー。お腹の具合、大丈夫……ほえ?」

 狭い廊下を歩き、居間の戸を開ける。室内の光景に、ユーリは驚きの声を上げた。

「ゆ、ユーリ、ちゃ……」

 そこには、居間の中央のテーブルに仰向けになって倒れるイチタローの姿と、

「……見つけたわ、異界の、異形」

 ユーリへ顔を振り向ける、紅白のゆったりとした服を着た少女がいた。仰向けのイチタローの腹の上で、三本足の鴉がくわあと鳴いた。

「ほえええええ?」

 鴉の鳴き声に呼応するように、ユーリも鳴いたのであった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回もお楽しみいただけましたら、幸いです。

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