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旅して恋する吟遊詩人  作者: S.U.Y
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運命のひと 前編

 大胆な装いをした見目麗しい女性が、黒の燕尾服を身に着けた少年の手を引いて夜の通りを歩く。倒錯的なその光景は、道行く人々の視線を集めてしまっていた。大通りを横切って、安宿のある路地へと二人は消えてゆく。尋常では見られぬ光景であったが、ほどなく人々は足を動かし、方々へと散ってゆく。誰も先ほどの二人に見惚れはしても、賢しく噂をし合ったりはしない。小さな村などであれば、そうはいかなかっただろう。だがここは、大都市なのであった。他人への詮索に深入りすれば、どんな厄介ごとが待っているかも解らない。都会人のクールな性質は、そうした防衛本能によるものなのである。


 とある安宿の一室に、ノックも無しに入ってくるものがあった。机に広げた地図へ両手を叩きつけ、シャイナは振り返る。

「ユーリ! あなた、一体今までどこに行っていたの? 探したのよ……」

 入ってきた人物を見て、歩み寄るシャイナの動きが止まった。

「ほ、ほえ、ごめん、シャイナ……」

 ばつの悪そうな顔で謝るのは、確かにユーリだった。少し濃いめの化粧と、そしてかなり扇情的なドレス姿をしている。

「……何て恰好をしてるのよ、ユーリ。あと……後ろの男の子は、誰?」

 きょとん、としてしまったシャイナを前に、ユーリは部屋の奥へと進み、ベッドへ腰掛ける。

「ほえ、私も、ちょっと混乱してて……何から話せばいいかな?」

 珍しく困り切った顔を見せるユーリに、シャイナは首の斜角を大きくするばかりである。

「私に言われても……まず、この子は誰なの? 見た感じ、魔王様の関係者かしら?」

 ユーリに付き添うように入ってきた少年を見やり、シャイナは言った。黒の仕立ての良い燕尾服を身に着け、不敵な笑みを向けてくる。その表情には、ぴんと来るものがあった。

「ククク……そうだな。余は確かに、関係者だ。魔王に深く、関わっているからな」

 笑みを深くして、少年が言った。

「ほえ、関係者というか、本人でしょ、シア」

 眉を下げたまま、ユーリが横やりを入れる。

「シ……ア……? 魔王様?」

 思わず真ん丸に目を見開いて、シャイナは少年を指差した。

「やれやれ。もう少し楽しんでやろうと思っていたのだがな。ククク……驚いたか、シャイナ?」

 腰に手を当てて、シアが悪戯っぽく笑って胸を張る。シャイナとしては、こくこくうなずくことしかできない。長かった金髪は肩口あたりで揃えられており、顔つきもどこか少年らしく、シャープなものになっている。切れ長のルビーレッドの双眸には、吸い込まれてしまいそうな不思議な引力があった。

 しばらく魅入ってしまっていたシャイナは、首を大きく振って息を吸い、吐いた。

「おおよその想像はつくけれど……できれば、きっちりと説明していただけるかしら、魔王様?」

 幼女でいた頃よりも、シアの外見には危険な魅力が備わっていた。その目で見つめられると、意識がどこかへ行ってしまいそうになる。シャイナは視線をシアから外し、ユーリへと向ける。

「良いだろう。ユーリの親友であるお前にも、聞く権利はある。まずは見ての通り、余は女の身体を捨てて男となった」

 顔を逸らすという無礼を気にするふうもなく、シアが語り始める。きっと、ユーリが聞いていれば、それで良いということなのだろう。シャイナはユーリを見つめたまま、耳を傾けた。

「どうして? それから、どうやって? 今のシアの気配は、完全に男の子になってるよね? 幻術とか、そういうのじゃなくて」

 ユーリが、シアに問う。

「お前は、余の第三形態の背中を、理想の背中と言った。お前自身は、覚えてはおらぬかも知れぬがな。そして、こうも言った。理想の背中の持ち主が、女の子だなんてあんまりだ、と。なるほど、余は失念しておったのだ。ユーリが恋をしたいのは、男であるということを」

 シアの言葉に、ユーリが考えるそぶりを見せた。だが、恐らくユーリの頭では、過去のことを思い出すなどという作業は奇跡レベルの偶然が必要だろう。シャイナは、小さく息を吐いた。

「確かに、そういう雰囲気の時が、あったわね。ユーリが、お酒を呑んで帰ってきた時に」

「ほえ、そんなこと、あったっけ?」

「あったのよ。それより、魔王様。ユーリの次の質問に、答えていただけるかしら?」

 ちらりとシアへ一瞬、視線を移して言った。

「うむ。ユーリに何かを思い出させるのは、余の魔術をもってしても不可能に近い。なれば、次の問いに答えるとしようか」

 シアが難しい顔でうなずく。

「ほえ、私、そんな忘れっぽいかな?」

 頬を膨らませるユーリを、シアとシャイナは受け流す。知らぬは、本人ばかりなのである。

「我ら魔族にとって、男女の性別はあまり意味を成さぬ。大悪魔の形態変化の中には、男性体と女性体、両方の資質を備えたものもあるくらいだからな。まあ、慣れ親しんだ肉体を、頻繁に変化させる者はそういない。身体の根本から、作り変える必要があるのでな。大量の魔力を消耗するゆえ、滅多に己の身体そのものを変えようという者は、いなかった。そういう意味では、余が先駆者、ということになるな」

 シアの説明に、シャイナは手を挙げる。

「つまり、魔王様の今の状態は、形態変化によるものでは無い、ということかしら?」

「その延長線上にある秘術、だ。恒常的に身体を変化させ、通常形態にまでそれを及ばせる。まあ、口で説明しても、お前には解るまい」

「形態変化では、駄目だったのかしら? その秘術とかいうものには、デメリットがあるのでしょう? 大量の魔力を、消耗してしまう」

「余の形態変化の中で、第四以降がそれに当たるのだが……ユーリは、余の形態変化に関してあまり良い感情を抱いてはおらぬ。そして、魔力の操作を少し誤れば、また通常形態に戻ってしまうのだ。後々ユーリと深い仲になるのであれば、それは少しばかりまずいのでな」

 シアの言葉に、ユーリの顔が赤くなる。恐らく、ピンク色の想像が浮かんでいるのだろう。シャイナも、ちょっと想像してみた。確かに、通常形態が女性型では、色々とまずいかも知れない。

「なるほど、よくわかったわ」

「ほえ、シャイナ。何がわかったの」

 半目になって、ユーリがじとりとした視線を向けてくる。

「あなたと、魔王様の問題よ。良かったじゃない、ユーリ。これなら、そうそう心配はいらないわね」

 両手を拡げて見せて、シャイナは言った。

「良くないよ。だって、私……シアと付き合うなんて、考えたことも無かったもの」

 シアの目の前で堂々と言って、ユーリは物憂げに息を吐く。

「あら。でも、この数日、あなたが姿を消していたのって、魔王様がらみの事ではないの?」

 シャイナの問いに、ユーリが首を横へ振る。

「ううん。それは別件。ちょっとイロイロあったんだけど……さっきシアと会ってから、どうでも良くなっちゃった。変わりすぎだよ、シア」

「お前と一緒になる為であれば、余は手段を選ばぬ。だが、ユーリよ。余は、お前の意思を大事にしたいとも思っている。意思無き人形を(つがい)にするのであれば、そこにはこれほど狂おしい情熱を傾けることなど出来はしない。余は、ありのままのお前が欲しいのだ……もし、お前が望むのであれば、余は前の姿に戻っても良いのだが」

「それはやめて。今のままのほうが、いい」

「ユーリ、あなた……」

 目を細め、シャイナはユーリをじっと見つめる。いくら何でも、現金すぎじゃないかしら。その言葉を飲み込んだシャイナの頭に、ぴんと閃くものがあった。

「そうだわ、とりあえず、デートでもしてみたらどうかしら?」

 手を打ち合わせ、シャイナは言った。

「ほえ、デート?」

「ほほう」

 ユーリとシアが、同時にシャイナに顔を向ける。

「お付き合いも何事も、順序というものがあるわ。この街は、幸い大きな都市だし、ユーリも魔王様も、まだじっくりと見て回ってはいないでしょう? 観光も兼ねて、明日一日デートでもしていらっしゃい。気持ちの整理をつけるにしても、材料は多いに越したことはないわ」

「シャ、シャイナ、何言ってるの? お仕事は、どうするの?」

 わたわたと手を振って言うユーリを、シャイナはひたと見据える。

「誰かさんを捜索するために、足止めされてたのよ。今日明日で、キャラバンに新しい仕事なんて降っては来ないわよ」

 ぴしゃりと言うと、ユーリは顔を俯ける。少し気の毒にはなったが、せっかくの機会である。シャイナはシアに視線を向けた。

「魔王様も、それで良いかしら? ユーリのエスコート、上手くできる自信はおあり?」

 シャイナの問いに、シアは不敵な笑みでうなずく。

「ククク……造作も無いことよ。余が、最高のデートプランを立てておいてやろう。ユーリよ、楽しみに待っていろ。明日が、来ることをな。フハハハハ!」

 高笑いをしながら、シアが背を向ける。珍しく徒歩で去ろうとするシアを、シャイナは呼び止めた。

「魔王様、そういえば、大量の魔力を消耗されたとのことですけれど、大丈夫なのですか?」

 シャイナの言葉に、シアが振り返る。傲岸不遜な笑顔には、一片の曇りもない。

「案ずるな。確かに、今の余の魔力は一割程度しか残ってはいない。回復には、かなりの時を要するだろう。だが……」

 シアの足元から、黒いオーラが立ち昇る。突如巻き起こる風に、シャイナは片腕を上げて顔を庇う。

「余は、魔を統べる王にして、大悪魔。お前に心配されるほどには、弱ってはおらぬ」

 吹き荒れる風に、机の上の地図がひらりと舞い上がり、シアの手元へ飛んでゆく。

「これは、借りておくぞ、シャイナ」

 ひらひらと手にした地図を振りながら、シアは部屋を出て行った。

「……言ってくれれば、普通にお貸ししたのだけれど」

 しばし呆然としていたシャイナの口から、そんな呟きが漏れる。

「ほえ……」

 隣で、同じく呆然と見送っていたユーリが小さく鳴いた。ユーリの視線はシャイナとは別の意味で呆けていたのであるが、シャイナがそれに気づくことはなかった。


 部屋を出て、後ろ手に戸を閉める。しばらく歩き、シアはふっと息を吐いた。手にした地図を、くしゃりと握りしめる。

「……難儀なものだな、これは」

 独り言ちて、しばらく壁に手をつき立ち止まる。

「ユーリ……」

 じっと足元を見つめ、熱い吐息を零す。

「余に、不可能などは無いということを、見せてやろう」

 顔を上げれば、不遜な笑みが浮かぶ。歩き出す行く手には、黒いフルプレートを身に着けた長身の男の姿があった。

「魔王様、お迎えに……」

「愚か者。ここでは、坊ちゃまと呼べと言っておいたであろう、ギーザ」

「失言いたしました。坊ちゃま、お迎えに上がりました。指示通り、最高級の宿を手配しております」

 魔界随一の剣の使い手、魔将軍ギーザが恭しく頭を下げる。

「ルクスオルは、如何した? 手配は奴めに下した命であるが」

「……魔王城に、不穏な動きがあるとのことで、そちらへ向かいました。詳細は、追って連絡をすると」

「留守居にはアブジンを置いてきてあるが……何があったか」

 言葉を交わしながらも、二人は足を進める。宿を出て大通りに戻り、ひときわ大きな宿へと向かう。

「魔…坊ちゃまが、お気になさる程のことではない、とルクスオル殿は考えておりますようで」

「なれば、良い」

 通されたスイートルームのソファに、シアは深く腰を沈める。

「奴の知恵を借りたいところではあったが、余のみで考えるというのも、また一興……ご苦労であった、ギーザ。下がって、休め」

「はっ」

 ソファの前に跪いたギーザが、一礼をして去ってゆく。静かにドアが閉められてから、シアは座ったまま地図を広げる。街の全体図が描かれた地図のあちこちに、小さな書き込みがあった。

「これは……ククク、思わぬ収穫であったな。シャイナには、後ほど褒美でも取らせるか」

 地図に書き込まれているのは、ユーリの行きそうな場所、気に入りそうな場所、酒場や、服屋の位置である。行方不明となっていたユーリを捜索するために、それは作成された地図なのだ。

「街を走る道を流れとし、一つの流れに多くを取り込む……」

 シアの細い指が、地図の上をなぞる。始点は、ユーリのいる安宿からだ。くるり、と円を描くように動いた指が、とん、と一つの地点を打つ。そこは、現在地であるスイートルームのある宿であった。

「しかる後に、流れの速さを刻み、望み得る最上の結果を引き寄せる」

 大きな窓の向こうに、バルコニーがあった。西へ向いたそこからは、沈みゆく夕陽が見えることだろう。シアの頭の中で、それを終点とした時系列の流れが組み上がってゆく。

「そして、仕掛けを……サプライズ、と言うのであったか……」

 様々な強者渦巻く魔界で、魔を統べる王として君臨してきた魔王としての頭脳が、静かに回り始める。こめかみに人差し指を当てて、シアは目を閉じる。

「……ふむ、完璧だ」

 ぱちり、と目を開けたシアが、ソファから身を起こす。側にあるテーブルから、ハンドベルを持ち上げて打ち鳴らす。間を置かず、部屋のドアがノックされた。

「支配人を、呼べ」

 入ってきたメイドに、高らかにシアは命じるのであった。


 翌朝、ユーリは目を擦りながらベッドから起き上がる。隣で眠っているシャイナが、低く唸りながら寝返りを打った。ずれた毛布を掛けなおしてやりながら、そっとベッドを降りる。閉じたカーテンをわずかに割れば、空はまだ紺色の様相であった。雨の降る気配は、無い。

 こっそりと音を立てないように、水差しの水を一口飲んだ。

「ほえ……眠れない」

 シャイナと一緒にベッドに入ってから、かなりの時間が経っていた。ベッドに入ればすぐに眠れる特技を持っているユーリであったが、今日はなぜかうまくいかない。目を閉じると、変貌したシアの姿がちらちらと瞼の裏に浮かんでくるのだ。

 息を吐いて、ベッドに浅く腰を下ろす。寝転がるシャイナの両腕が動き、空を切る。

「ん……ユーリぃ?」

 眠そうな声を上げながら、うっすらとシャイナが目を開いた。

「ほえ、ごめん、起こしちゃった? ちょっと咽喉が乾いて、お水を飲んでたの」

 気にしないで眠っていて、と言おうとするユーリの前で、シャイナが身を起こす。ひっつめを解かれた髪が散らばり、中々に凄い光景になっていた。

「明日は、大事なデート、なんだから、しっかり寝ていなくては、駄目よ。体力勝負、なんだから」

「もう、日付は変わってるよ。お日様は、まだ昇ってないけど」

 大きなあくびを見せるシャイナへ、ユーリは微笑んで見せた。

「ユーリ、まさかあなた……寝ていないの?」

 寝ぼけまなこをぱちくりして見せるシャイナに、ユーリはうなずく。

「うん。まだいろいろと、気持ちが追いついてなくって……」

「……そう、なのね。ごめんなさい、ユーリ。もう少し、時間を置いた方が良かったかも知れなかったわね」

「ほえ?」

 きょとんとしたユーリに、シャイナが肩を落とす。

「魔王様との、デートのこと。ちょっと強引に、進め過ぎたかも知れない」

「別にいいよ。シャイナが言い出さなくっても、シアのことだもん。あの場ですぐに何かをって、言い出すかも知れなかったし。それに、知ってるでしょ? 私、一晩くらい寝なくったって、平気だよ」

 両拳を握り、元気アピールをして見せる。

「……ユーリは、魔王様のこと、どう思っているの?」

 微笑を浮かべ、膝を抱えて座ったシャイナが問う。

「ほえ……どう、なんだろう……」

 唇に親指を当てて、ユーリは考えるポーズを取った。

「いきなりすぎて、私もよくわかんない。恰好は、良くなったんだけど……ね」

 幼女から貴公子へと、変わった姿を思い浮かべる。それだけで、胸の底がざわめいた。

「悪くは、思っていないのよね?」

 シャイナの言葉に、ユーリはうなずいた。

「うん。ちょっと幼いけれど、アレはアレでとってもいいって言うか……あっちの姿で接してくれてれば、も少し対応変わってたんだけどね」

 にへら、と頬が自然と緩む。今までのシアの行動を、今のシアの姿に置き換えてみる。ふへー、と奇妙な息が漏れ、傍らでシャイナが呆れたような視線を向けてくる。

「……外見変わっただけで、見事な手のひら返しね。中身は、そのまんま魔王様なのよ?」

「うん。今までのシアのことも、きらいじゃなかったもん。ちょっと、スキンシップが鬱陶しいとこはあったけど」

「けんもほろろ、って態度に見えたけれど? ユーリ、魔王様は真剣で、本気なのよ? 今日のデートで、ちゃんとお付き合いできるかどうか、見極めること。忘れないようにね?」

 真剣な目つきになって、シャイナが見つめてくる。

「うん、大丈夫……だと思うよ、うん」

「……あまり、大丈夫そうには見えないわね。やっぱり、もうちょっと時間を置いた方がよかったかしら」

 心配そうに息を吐くシャイナに、ユーリは胸を叩いて見せた。

「心配ないよ、シャイナ。もしもシアとくっつくことになったって、旅は続けるから。色んな町へ行って、演奏聞いてもらうのも私の生きがいだし、シアもその辺はちゃんとわかってくれると思うの」

「ユーリ……そうね。たぶん、そうなのだけれど……魔王様に、あんまり甘えていては、駄目よ? 人の上に立つっていうのは、何かと大変なのだから」

「うん。わかってる。私、尽くすタイプなんだから」

「……まあ、なるようにしかならないってことね。それじゃユーリ、顔を洗っていらっしゃい。ゴドーに頼んで、お茶でも淹れてもらってくるから」

 窓外から、雀の鳴き声が聞こえてきた。ユーリは素直にうなずき、寝間着から普段着に着替える。手水場へ行って顔を洗い、部屋に戻れば机の上には二つのカップが湯気を立てていた。

「ほえ、もうお茶の用意できたの? 仕事早いね、ゴドーさんは」

 目を丸くして言うユーリに、シャイナが苦笑を見せる。

「あなたと一緒で、昨日の夜から眠っていないだけみたいよ。次の仕事の下調べで、今日は私も忙しくなりそうね」

 二つのカップを持ち上げたシャイナが、ひとつをユーリへと手渡す。受け取ったユーリは、カップの中身を口へと運んだ。

「ほえ……相変わらず、美味しいね」

「ええ。何せ、ゴドーのお茶だもの」

 茶の香気にうっとりと目を細めたシャイナが、胸を張って答える。

「……シャイナが胸を張るとこじゃ、ないでしょ」

「細かいことは、いいじゃない。それより、魔王様から連絡は?」

 シャイナの問いと同時に、ユーリの頭の中に声が響いてくる。

『おはよう、ユーリ。そろそろ出られるか? ほどなく、余が迎えに行くぞ』

 それは、シアからのテレパシーだった。

『ほえ。準備は出来てるよ。どこで待ってればいい?』

『では、宿の入口まで来るがよい』

『うん。すぐいくね』

 返事をしつつ、ユーリは机の上にカップを置いた。

「今からシアが迎えに来るみたい。行ってくるね、シャイナ」

 元気よく右手を挙げて、ユーリは言った。

「ええ。行ってらっしゃい。しっかりね、ユーリ」

 シャイナも右手を挙げて、ユーリの手と打ち合わせる。見送る笑顔に、ユーリは笑顔で応えた。

「おみやげ、買ってくるから!」

「そんなの気にしないで、楽しんでいらっしゃい」

 小さく手を振るシャイナを背に、ユーリは部屋を飛び出してゆく。ユーリの背中で、リュートが動きに合わせて小さく揺れた。

 こうして今、ユーリとシアのデートが始まろうとしていた。羽帽子の飾りを揺らし、青いマントを翻しながら、ユーリは朝の空気の中を駆けてゆくのであった。

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