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旅して恋する吟遊詩人  作者: S.U.Y
34/58

恋煩いの処方箋 前編

 冷たい風が、馬車を包むように吹き付けていた。連なった五台の馬車が進むのは、険しい山道である。陽の光は陰り、うっすらと漂う空気の中には雨の気配があった。

 斜面に傾いだ幌の上で、少女はほろりとリュートを爪弾く。繊細な音色とは裏腹に、その表情は心ここにあらずといった風情である。

「霧の中の迷い道ー。出口はどこに、あるんだろー」

 物憂げな歌声に合わせるようにして、周囲にもやのような霧がたちこめてくる。

「ユーリ……大丈夫かしら?」

 御者台で、手綱を握る女性が心配そうに呟く。徐々に狭くなる視野の中、そろそろと慎重に馬車は進む。

「……やはり、アレが原因としか、考えられぬな」

 女性の傍らで、幌の上の少女を見上げて幼女が言った。

「魔王様には、何か心当たりがあるのかしら」

 幼女へ顔を向けて、女性が聞いた。

「……うむ。余の第三形態を見て以来、ずっとああなのだ。ならば、おのずと結果は見えてくる。余は、ユーリをずっと見つめ続けてきたのだからな」

 幼い顔にらしからぬ口調で自信満面に言う幼女へ、女性は首を傾げた。

「つまり、どういうことなのかしら」

 行く手の道が緩やかなカーブを描き、手綱を引き絞りつつ女性は問う。

「つまり……また、ユーリを怖がらせてしまったのであろう。そういうことだ……」

 両手で顔を覆い、幼女は俯く。

「思えば、ユーリは余の形態変化に過敏な反応を見せていた。なれば易々と、余は用いるべきでは無かったのだ」

 落ち込んだ様子の幼女の横で、手綱を緩めた女性は幌の上を見上げる。ぽやりとした少女は、変わらず物憂げなメロディを奏でていた。

「……本当に、そうなのかしらね?」

 怪訝な顔で、女性は首を傾げる。途端に、馬車ががたりと揺れた。車輪が石を、踏んでしまったのだろう。馬車はわずかに傾き、すぐさま元の姿勢に戻る。幌の上から、少女の身体がころりと落ちた。

「ユーリ!」

 幼女が叫び、転がり落ちた少女を抱き留める。

「あ、シア……」

 気怠い表情で、幼女の顔を見上げて少女が呟く。真っ赤になった少女の額へ、幼女が手を当てる。

「……む、熱があるようだ」

 幼女の声に、少女は両手をヒラヒラさせて首を振る。

「ほえ、大丈夫、だいじょうぶー……ねえ、シア。首の数、増やしてない? 四本くらいに……」

「……余の首は、どの形態でも一つだ。これは、重症やも知れぬな」

 幼女の背に、コウモリのような翼が展開する。

「どこ、いくの?」

「魔王城だ。魔界随一の医師に、お前を診せる」

「ほえ、やだ……」

 幼女の提案に、少女は首を横へ振る。

「案ずるな。どんな重篤の魔物でも、奴の手にかかれば一瞬で」

「私、魔物じゃないよ……」

 少女の声に、幼女はあっと息を吐いて硬直する。

「とりあえず、馬車の中で寝かせましょう。これから行く所に、きっとお医者様くらいはいるはずよ」

 女性の提案に、渋々といった表情で幼女はうなずいた。


 高山に生える植物の中には、希少なものが多くある。山の霊気を吸収し、育っているからだと見る向きが強い。そこで採れた植物を加工すれば、様々な医薬品の材料となる。それゆえに、薬草師たちが多く集まる村があった。

 シャイナたちが訪れたのは、そんな村落の一つである。薬草や医薬品を仕入れる代わりに、高山では手に入りにくい穀物などを運んできたのだ。

 薬草の香り漂う村落で、高熱を出したユーリを山小屋へと運び込む。高山植物の薬効を研究する医師が、折よく住んでいたのだ。診察室へと入って行ったユーリはぐったりとして、意識もおぼろげであった。一緒に入ろうとするシアをなだめすかして、待合室でシャイナはようやく一息つくことができた。

「ユーリ……あのような頼りない医師で、大丈夫だろうか。見たところ、ほとんど魔力も無い人間の若造であったが……」

 長椅子に腰掛け、シアが落ち着かない様子で言った。

「一応、医術都市で学んだ医師らしいから、心配はいらないわ。ちょっと若いけれど、腰の据わった良い先生だったじゃないの」

 シアの向かいに腰を下ろし、シャイナは答える。山小屋にいた医師は年若く、ひょろりと痩せた青年だった。だが、運び込まれたユーリを見て機敏に動いた姿には、頼もしさを感じさせるものがあった。医師の姿を思い返し、シャイナはうんとうなずき診察室の扉を見る。

「……そうであった。強さばかりが、人を測るものではない。そういうことだな、シャイナ?」

「ええ、そういうことよ。私たち商人も、外見だけで人を判断したりはしないもの。信頼できる相手かどうかは、立ち居振る舞いを見て決めるべきだわ、魔王……お嬢様」

 山小屋へ入ってきた大柄な人影を見止め、シャイナは呼び名を変える。

「ユーリさんの様子は、どうですかい、シャイナさん」

 湯気の立つカップを持った、キャラバンの副長ゴドーが言いながらカップをシャイナへ手渡す。薬の臭いの中に、爽やかな茶の香気が漂った。

「今、診ていただいているところよ。ありがとう、ゴドー」

「こういうときは、まずは落ち着くことですぜ。お嬢さんも、良かったらいかがですかい?」

 シャイナに厳つい笑みを見せつつ、ゴドーがシアにもカップを差し出した。

「……うむ、ご苦労」

 小さな手でカップを受け取ったシアが、一口茶をすすりほうと息を吐く。

「苦いが……良いな、この香りは。心のさざ波を、鎮めてくれるようだ」

 カップを傾けるシアの前で、シャイナも茶をすする。胸の中に、爽やかな香りが吹き抜けてゆくようだった。

「それで、荷の搬入は順調かしら、ゴドー?」

 問いかけるシャイナに、ゴドーがうなずきを返してくる。

「へい。あとは薬草と、薬品の積み込みだけでさ。品の良し悪しがあるんで、シャイナさんにも立ち会っていただきてえんですが……」

 そう言って、ゴドーが診察室の扉を見やる。シャイナはうなずき、腰を上げた。

「わかったわ。ま……お嬢様に、ここはお任せして良いかしら?」

 シャイナの問いに、シアがこっくりとうなずく。

「問題無い。ユーリのことは余に任せるが良い。どうせ、待つしかできぬのだからな」

「それじゃ、お願いするわ。さあゴドー、荷の受け渡し場所へ行きましょう」

「へい。ありがとうごぜえやす」

 ゴドーがシアに一礼して、待合室を出る。続いて歩きながら、シャイナは診療室を一度、振り返った。

「ユーリ……」

 心配そうに呟きながら、それでもシャイナは足を止めない。食い入るように扉を見つめるシアを後にして、シャイナも待合室を出た。


 ぐわん、ぐわんと揺れる意識の中で、ユーリは幻を見ていた。光に包まれてゆく視界の中で、青白く大きな背中がユーリを守るように立ち現れる。

「…………!」

 投げかける声は、しかし届かない。あれは、一体誰なのだろうか。どうして、頭に焼き付いて離れないのか。一切がわからずに、ユーリの視界がぼやけてゆく。遠ざかる大きな背中に、ユーリは手を伸ばす。

の……きみ……」

 名前もわからないその背中へ、熱に浮かされた声をぶつけた。そこで、ユーリの意識は現実へと戻る。少し硬めのベッドに、寝かされていた。優しそうな白衣の青年の顔が、上からユーリを覗き込んでいる。

「ほえ……ここ、は?」

 全身が熱を発しているように熱く、視線を動かすだけで頭痛がする。

「ここは、診療所です。先ほど、熱を下げるお薬を打ちましたから、もう少しすれば気分も良くなる筈ですよ、ユーリさん」

 少し低い、穏やかな声で青年が言った。

「熱……? ほえ、私、病気なの……?」

 微かに首を傾げるユーリに、青年はうなずく。

「はい。お連れの方も、心配されていました。早く元気になるためにも、診察をさせて下さい」

「ほえ……わかり、ました」

「では、始めますね」

 青年の手が、ユーリの首筋へと伸びる。

「ひゃ……」

 手指の冷たい感触に、ユーリは思わず声を漏らす。

「くすぐったいかも知れませんが、なるべく動かずにいてください」

 言われたとおり、ユーリはじっと息を殺し、気配を消す。

「息は止めなくていいですよ。楽に呼吸してください」

「ほえ」

 苦笑した青年の声に、ユーリは大きく深呼吸をした。とくん、とくんと青年の手が、ユーリの脈を読み取ってゆく。熱のせいだろうか、ユーリは少し息苦しさを覚えた。

 口を大きく開けて、中を診る。背中に聴診器を当てて、呼吸の音を聞く。そうして診察を続けるうちに、ユーリの動悸は少しずつ、早さを増してゆく。

「ふむ……これは……」

 一通りの処置を終えて、青年が顎に手を当てて唸る。少し寒気を感じてきたユーリは、布団にくるまってその顔を見上げた。

「ほえ、先生……?」

 見上げる視線に気づいた青年が、ユーリへと生真面目な顔を向ける。

「ユーリさん。不躾な質問かもしれませんが、答えていただけますか? お聞きしたいのは、ユーリさんの年齢についてなのですが」

 問われて、ユーリは自分の歳を口にしつつ首を傾げる。

「ほえ……どうして、そんなことを?」

「いいえ……あなたのようなエルフ族の方々は、見た目と年齢がかみ合っていないこともありますので。たまに信じられないようなご高齢の方もいらっしゃいますからね。その逆も、あり得ることではありますし」

 青年の言葉に、ユーリは少し、考え込む。目を閉じて、ぱちりと開く。

「ほえ……もしかして、私の病気って」

「……自覚が、おありなのですね?」

 青年の言葉に、ユーリは小さくうなずく。

「パパとママはまだまだ元気だけど……私、おじーちゃんもおばーちゃんも見たことない……そっか、私」

「ユーリさん?」

 ぽそぽそと呟き始めるユーリを前に、青年が戸惑ったような声を上げる。

「私、もうすぐ死んじゃうんだね……」

「ユーリさん、落ち着いてください。まずは深く呼吸をして。あなたは勘違いをしています。あなたは病気ではなく」

「いいの。私には、わかってるから。もう、駄目なんだよね? うん、いつか、こんな日が来るんじゃないかって、思ってた……」

 青年が何かを言っていたが、ユーリの耳には入らない。大きな耳はしゅんとうなだれ、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「きっと、エルフの高齢者しかかからないような、すっごく厄介な病気なんだよね? もう、治らないくらいの。ああ、それならせめて、死ぬ前に良い人と巡り合って恋したかったな……うぅ」

「いえ、その、ユーリさん? まず、高齢ではないですよね?」

「ほえ、慰めは、いらないよ。こんな見た目だけど、さっき言ったのは、本当の年齢だから。あなたよりは、年嵩なんだよ?」

 ユーリの言葉に、青年は小さくうなずく。

「ええ。ですので、少し驚いてしまったのです。まさか……」

「まさか、この歳でもう寿命なんて……でしょう?」

「違います! いいですか、ユーリさん。あなたは……」

 そのとき、診療室の扉が大きく音立てて開いた。

「話は、聞かせてもらった」

 開け放たれた扉の向こうには、沈痛な面持ちのシアが立っていた。

「ああ、ご家族の方でしたね。もう、入っても大丈夫ですよ」

「ほえ、ご家族? やっぱり、ご家族呼ぶくらいの病気なんだね……あ、その子は家族じゃなくって、ただの友達だよ」

「ユーリ、今わの際までそのようにつれないことを言ってくれるな……余は、お前の家族となる用意は出来ている。お前は、決して一人ではないのだ」

 側へ寄ったシアが、そっとユーリの手を取って頬を擦りよせる。

「シア……ちょっと複雑だけど、嬉しいよ。でも、とりあえず家族の話はナシの方向でね? 先生……私の最期、看取ってくれる? 先生みたいな、優しそうで格好いい人に見守られて死ぬなら、私、本望だから」

 うっすらと笑顔を浮かべ、ユーリは青年に言った。青年は困ったような笑みを返し、後ろ頭を掻いた。

「それはとても魅力的な提案ではありますが、まず無理でしょうね。僕のほうが、先に寿命を迎えそうです。僕は、いたって普通の人間ですからね」

 青年の言葉に、ユーリは泣き笑いの顔になる。

「そっか……そうだよね。私、子供みたいな見た目だし、先生も、恋人にするならもっと元気な、大人らしい人がいいよね……ほえぇ」

 ユーリの瞳に、大粒の涙が浮かぶ。青年の指が、その滴を優しく拭い取る。

「そんなことは、ありませんよ」

 熱と涙でぼやけた視界に、優しく微笑む青年の顔が映る。

「ほえ……いいよ、慰めてくれなくたって」

 ふい、と顔を背けてユーリは言った。

「ユーリさんは、とても元気で魅力的な方だと思います。僕には、勿体無いくらいですよ」

 青年の手が頬に添えられ、ユーリは真正面から青年と向き合う。その眼は、嘘をついているようには見えなかった。

「じゃあ……恋人になって、私の、最期の時を一緒に過ごしてくれる?」

 問いかけに、青年は微かにうなずいた。

「恋人になれば、僕の話を聞いてくれますか?」

 問い返され、ユーリは少しの間、黙考する。脳裏に浮かぶ背の君の立ち姿に、胸がズキンと痛んだ。けれどもその姿は遠く、どこに居るのかもわからない。顔さえも、わからないのだ。ぎゅっと目を閉じ、ユーリは頭の中から背の君の姿をかき消した。

「ほえ、いいよ。二人で、抱えてく問題になるんだもん。病気と、真正面から向き合わないと、だよね」

 決然と、ユーリはうなずく。

「ま、待て、ユーリ! 余は……」

 傍らで立ち上がり声を上げるシアを、ユーリは片手を挙げて止めた。

「シア。約束、したよね? 私の恋路は、邪魔しないって。本当に私が好きなら、私の一番輝いてるところを、見てて。シアに残してあげられるのは、たぶんそれだけだから……」

 儚げに口を開くユーリに、シアがぺたんと膝をつく。

「……ユーリは、余の好きになった女だ。ないがしろにすれば、お前はもちろん、一族郎党に至るまで滅ぼし尽してやる。それを、忘れるな」

 きっ、と青年に向けて顔を上げ、シアは言った。

「何やら、複雑な事情があるのですね。わかりました。シアさん、あなたの期待に添えるかどうかはわかりませんが、ユーリさんは僕が必ず幸せにしてみせます」

 頼もしい顔つきで、青年が答えた。

「くっ……人間の分際で、良い顔をする。だが、余とて魔族を統べる王。このまま手を拱いてはおらぬぞ。ユーリが死にゆく運命であるならば、死神に直談判をしてでも止めてみせる! そうなれば、恋人はお前ではなく、この余だ! よいな?」

 一方的な宣言とともに、シアの姿がふっと消えた。唐突に行使された転移の魔術に、青年は目を丸くする。

「ほえ……シアのことは、放っておいていいよ。あの子、いつもあんなだから。それより先生、私の病気のこと、聞かせて? あ、それから、私のことは、ユーリって、呼び捨てにしていいよ」

 にっこりと笑顔になって、ユーリは呆然とする青年に声をかけた。

「……わかりました。今は、ユーリさん……ユーリの、体調の変化についてのお話が先ですね。心して、聞いてください」

「ほえ……うん」

 生真面目な顔の青年に、にへらと緩んだ頬でユーリはうなずいた。


 宿に借り受けた山小屋で、シャイナとゴドーは肩を並べてユーリを見つめていた。冷たい空気が吹き込んでくる窓を全開にして、ベッドに半身を起こしたユーリが遠く窓外の景色を見つめている。その様子は儚げで、今にも消え入ってしまいそうな風情があった。

「……それで、何の病気だったのかしら、ユーリ?」

 いかにも重篤の病人オーラを醸し出すユーリに、シャイナはカップを片手に聞いた。隣ではゴドーが、ユーリの分の茶を用意している。山で採れる香草を加えたゴドーの茶は、苦味の中に微かな甘みが加わり絶妙の味わいとなっていた。

「ほえ……あのね」

 はらはらと舞い散った木の葉が風に乗り、ユーリの手元へ落ちてくる。薄く朱色に顔色を染めたユーリが、木の葉を摘まんでもじもじと動かす。

「はい、ユーリさんの分でさ。ところで……窓、閉めねえんですかい? ちょいと、身体に毒な気がしやすぜ」

 湯気を上げるカップを、ゴドーがユーリに手渡す。受け取ったユーリが、カップの温かさを確かめるように手を添えた。

「ほえ、ありがと。ちょっと……冷やしたほうがいいかなって、思って」

「もうすぐ夜だし、冷えると薪が勿体ないから、閉めるわよ」

 言ってシャイナは窓を閉め、ユーリに目を向ける。

「あ、うん……えへへ」

 重病人オーラが、それだけで半減した。ユーリの額に手を伸ばし、シャイナは熱を測る。

「あら、もう、熱は引いたみたいね。大したことなくて、良かったわ」

「ほえ……病気じゃ、無かったんだもん。大丈夫だよ」

 にへら、と笑うユーリに、シャイナの頭の中にぴん、と来るものがあった。

「……別の意味で、病気かも知れないわね。ともかく、お医者様は何て言っていたの?」

 問いかけに、ユーリの口がもごもごと動いた。カップの茶をひとすすりして、ほわあと息を吐く。

「うん。その……たぶん……成長期、なんだって……」

「成長期? あんな高熱、出してたのに?」

 目を丸くするシャイナの背後で、ゴドーが静かに立ち上がる。

「……それじゃ、あっしはこれで。シャイナさん、明日明後日にゃ、出立できるよう、準備しときやすぜ」

 茶道具を片付け、ゴドーが素早く去って行った。大柄な背中を見送ったシャイナは、息を吐いてユーリに向き直る。

「成長期って……熱が出るものだったかしら?」

「うん。実は最近、ちょっと悩み事があって……それで、あんまりよく眠れてなかったの。熱は、そのせいだって、先生が言ってた」

 先生、と言うユーリの声の中に、どこか甘やかな響きを感じた。先ほどシャイナに訪れた直感が、確信へと変わってゆく。

「身体じゅうの関節が痛かったり、うまく身体が動かせなかったりしたのは、長年そのままだった身体が急に成長し始めたからだって、先生がね」

 くねくねとしながら言うユーリに、シャイナの両肩に疲労感がずっしりとのしかかる。まだ熱い茶をひとつ、すする。爽やかな香味が、肺腑を駆け巡る。

「先生が、先生がって……もしかして、ユーリ?」

 問うと、カップを抱えるように持ったままユーリはうなずいた。

「先生、言ってくれたの。私が、子供っぽくないって。ちゃんとした、一人の女性として魅力を感じるって。恋人になれるのは、光栄だって……ふふふ」

 蕩けた笑みを見せるユーリの前で、シャイナはあんぐりと口を開けてしまう。

「恋人……? もう、そんなに進んでいるの? 一体どうして、そんな事になったのよ?」

「初めは、私が勘違いしてたの。身体は思うように動かないし、熱もあるしで……このまま死んじゃうんじゃないかって……でも、先生がね、優しく諭してくれて……ふふふ、先生……」

 ユーリのお花畑な言葉を解析し、読み解いてゆく。

「……つまり、勢いで告白して、オッケー貰ったのね。そして、意外と本気で好きになられて、嬉しい、と」

「ほえ、シャイナ、心読んだの? まあ……そうなんだけど」

「あなたと何年付き合ってると思っているのよ? それで……どうするの、ユーリ?」

「うん……私、この村に残ろうと思うの。先生と一緒になって、薬草の研究とかして、本当に病気の人たちを、助けていきたい。それが、先生の生き方だから……」

 何かを秘めた目で、ユーリは言った。

「ユーリ……わかったわ。あなたの決意は、固そうだし」

 幾度も訪れている、ユーリとの別れ。いつまでも、シャイナは慣れることが出来ないでいた。苦楽を共にした親友との別れなど、慣れるものではない。身を引き裂かれるような、思いがあった。だが、同時にこの小さく愛らしい親友には、幸せになってほしかった。本人が願う以上の幸せに、浸ってほしかった。だからこそ、シャイナはうなずく。

「シャイナ……ごめんね」

 寂しそうな顔を、ユーリが向けてくる。この親友もまた、同じように別れを惜しんでくれているのだろうか。シャイナは笑顔を作り、首を横へ振る。

「いいのよ、ユーリ……ここの薬は高値で売れるから、ちょくちょく私も顔を見せることになると思う。そのときに、あのお医者様と笑顔で出迎えて頂戴ね」

「うん……うん」

 ぎゅっと、ユーリが抱きついてくる。温かな抱擁に、シャイナも力いっぱいユーリを抱き締める。言葉では語り尽せぬ思いと思いが、交錯する。

「……ユーリ、ちょっとだけ、背が伸びたのね」

 いつもよりわずかに高い位置にある頭へ、シャイナは声をかけた。

「ほえ……成長期だもん。次に会うときは、見違えてるんじゃないかな」

 くぐもった声を胸の中から聞きながら、そうね、とシャイナはうなずくのであった。

お待たせいたしまして、申し訳ありません。これからしばらく、週一ペースで頑張っていきますのでよろしくお願いします。

お楽しみいただければ、幸いです。

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