寡黙で優しい療術師 前編
お読みいただき、ありがとうございます。ブクマ、評価と感想等、大変励みになっております。
今回から、ちょっと趣向を変えたお話をお送りいたします。どうぞ、お楽しみください。
町の酒場のステージで、煌く光が舞い踊る。客席で少女は、その光景を見つめていた。ステージ上で歌うのは、若い男の吟遊詩人である。無双の剣士を讃える歌に、観客たちは酔いしれる。ギターの音色も高らかに、酒場の中は大いに盛り上がっていた。
物憂げな表情で、少女は酒杯を重ねる。歓喜の喝采溢れる店内に、その少女の周囲だけが、どこか沈んだ雰囲気に包まれていた。
少女の隣には、少し年下くらいの黒いドレス姿の幼女が座っていた。ドレス姿の幼女が、隣の少女にあれこれと話しかける。そのたびに、話しかけられた少女は嫌そうな顔で距離を取る。しかし、その距離は黒い幼女によってすぐに詰められてしまう……そんなやり取りを、壁際で腕を組んで見つめる一人の男がいた。
男は、灰色の外套を着た長身で、その腰には古びた木剣が一本吊るされている。額を覆う黒い前髪の間から、鋭い双眸がちらりとのぞく。男が見つめるのは、黒いドレスの幼女だった。
「……行くか」
ぼそり、と低い声で呟き、男はもたれていた壁から身を離す。胸の前で組んでいた腕を下ろせば、そこにはヒーラー協会の紋章である、赤い十字が刺繍されていた。
男が歩み寄る、わずかな時間の間にも、少女と幼女はやり取りを続けていた。
ユーリは、肩を下げてわざとらしく息を吐いた。何もかもが、最悪な夜だった。町へ着いてみれば、町を守る防魔結界が破れ、多くの魔物が町めがけて襲い掛かってきた。周囲一帯に潜む魔物をすべて集めた、と思えるほどの数を退治して、気分直しに一曲歌おう、と酒場に来てみればステージにはすでに先客がいた。その吟遊詩人が歌うのは、魔物退治で縦横無尽の活躍を見せた、剣士の歌だ。それはユーリが、歌おうと思っていたものだった。
ステージ上の男の歌は、悪くない。ノリと勢いで、軽やかに剣士の偉業を歌い上げている。だからユーリも、他の観客と同じように歓声を上げて、歌いたかった。隣で、魔王が酒を飲んでいなければ。
「どうした、ユーリ? 具合でも悪いのか? やはり人間の食事は、口に合わんのか。余の手元であれば、滋養のある蝙蝠の眼球など、いくらでも食せるぞ?」
気持ちの悪いことを言いながら、魔王は少しずつ椅子を寄せてくる。ユーリは座ったまま、そっと椅子を動かし距離を取る。
「ほえ、そんな気味悪いの、食べたくありません。食べたいなら、一人でさっさと帰って食べて下さい、魔王様」
気の抜けた鳴き声を上げながら、ユーリは冷たく言い放つ。
「断る。余は、ユーリと一緒が良いのだ」
にこりと笑い、魔王は言った。フォークに突き刺した肉を、ユーリに差し出してあーんと迫ってくる。
「いりません」
「口を開けねば、ここにいる人間を皆殺しにするぞ?」
「……あーん」
脂っこい肉を食べさせられ、ユーリはワインで口の中を洗い流す。フォークを手にした魔王が、今度は自分の口へと肉を運ぶ。血のように赤い魔王の舌が、ぺろりとフォークを丁寧に舐めた。
「クク……間接キスだ。これほど仲良くなったのだから、せめて余のことを名前で呼んではくれないか?」
ちらり、と魔王がユーリに対し、期待に満ちた流し目をくれる。ぷい、とユーリは顔を横へ向けた。
「お断りします。私に、そういう趣味はありませんから」
にべもないユーリの返事に、魔王が眼を細くする。ざわり、と総毛立つほどの邪悪な気配が放たれようとした、その時である。
「……おい、そこの黒いの」
つかつかと、歩み寄ってきた長身の男が魔王へと声をかけた。無遠慮な呼びかけに、ユーリの方がびくりとなった。魔王は平然と、男にちらりと視線を向ける。
「何だ、身の程知らずが」
魔王の返す言葉には、絶対零度の冷やかさがあった。男の灰色の外套と、腰に木剣を差したいでたちを見て、ユーリがあっと声を上げる。
「ほえ、あなたは、もしかして……すっごい勢いで魔物を蹴散らしてた、剣士様?」
ユーリの声に、男はぴくりと頬を歪ませたが、視線はずっと魔王に向けられている。
「お前から、強い魔の気を感じる。幼い娘の形をしているが、魔族だな?」
男の問いかけに、魔王がほうと感心の息を吐く。
「余の魔気を感じ取るとは……少しは、使える身の程知らずのようだな」
フォークを置いた魔王が、男を見上げて言った。
「魔族が、この町に何の用だ。防魔結界を破ったのも、お前の仕業か」
男の手が、腰の木剣の柄に添えられる。その仕草を、魔王は鼻で嗤う。
「ふん、そのような棒っきれで、余に抗するつもりか? つくづく、人間とは愚かしい。ユーリよ、やはり旅なぞやめて、余とともに人間を滅ぼし尽そう。なあ?」
ユーリの肩へ、魔王が手を伸ばす。その瞬間、男の全身から凄まじい剣気が迸った。鋭く研ぎ澄まされたそれは、魔王の指に小さな傷を作る。
「……その少女は、嫌がっている。離れろ」
男の言葉に、魔王はにんまりと笑い、指から垂れる青い血をぺろりと舐めた。
「なるほど。ただ、棒切れを振り回すだけではない、か。面白い。ここでは少し手狭だ。外で、遊んでやるとしよう」
魔王が立ち上がり、酒場の出口へ悠然と歩き出す。
「……いいだろう」
言葉少なく、男が魔王の後へと続く。戦闘民族特有の掛け合いの速さに、付いて行き損ねたユーリは一瞬呆気に取られていたが、ドアを軋ませ出てゆく男の背中を慌てて追いかけた。
「待って! いくらあなたが強くても、相手は……」
外へ出たユーリが、魔王と対峙する男の袖を引いて言いかける。だが、男は左手でユーリを制し、すらりと木剣を引き抜いた。
「心配は無用だ。あいつより、俺のほうが強い」
正眼に木剣を構え、男が言う。魔王の唇が、V字に吊り上がる。
「ほう。今の余よりも強い、そう嘯くか。ますます、面白い。お前は、この形態のまま、無残に引き裂いてやろうぞ」
プライドを刺激されたのか、魔王はそう言って両手の爪を長く伸ばし、身構える。ひゅるり、と乾いた風が吹き抜ける。ぎゅっと胸の前で手を握り合わせ、見守ることしかユーリにはできなかった。
「いつでも、かかって来るがよい、棒切れの剣士よ」
くいくい、と魔王が手のひらを上に向け、人差し指を曲げて挑発する。男は応じるように、木剣の刃に手を添える。
「その傲慢も、今宵限りだ、魔族の娘! 神樹ユグドラシルよ、剣に力を! 深き闇を切り裂く威力を!」
裂帛の気合と共に、男が聖言を唱える。男の古びた木剣が、青白い光を帯びて輝き始めた。
「む、その力……神の、力だと?」
目を見開いた魔王に、男が刹那の呼吸で肉薄し、袈裟切りに木剣を振り下ろす。ばちり、と魔王と男の間で、数回火花が散った。凄まじい速度での、それは打ち合いだった。神気を宿した木剣の刃と、魔王の魔力を纏った爪とが、触れあうたびに弾けあい、火花を散らしているのだ。
「ほえ……すごい」
あまりの剣速に、その鋭さに、ユーリは感嘆の息を吐く。男は木剣を巧みに振るい、魔王に爪を振るう機会を与えない。その流れるような攻撃は、剣士というよりは剣聖、と評するべきであった。
青白い火花がいくつか散り、魔王が大きく跳び下がった。魔王の爪には細かなヒビが入り、対する男は平然と木剣を立てて構えている。勝負の趨勢は、男の方へと傾きつつあった。
「く……最終形態であれば、貴様など虫けらのように葬ってやれるものを」
悔しげに、魔王が言った。魔王の最終形態を思い返し、ユーリは全身を震わせる。かつて一緒に戦った恋人のことは忘れられても、魔王の禍々しい姿は魂に恐怖となって刻み付けられているのだ。
「ならないのか? その最終形態とやらに」
震えるユーリの前で、男がとんでもないことを言った。
「ほえ!? ダメだよ! 魔王様は、最終形態になったらすっごく怖くて強いの!」
思わず叫ぶユーリだったが、魔王がそれを否定するように首を横へ振る。
「余は、始めにお前をこの形態のまま引き裂くと宣言した。余自らがそれを破るわけにはいかない。それに……ユーリを怖がらせるのは、余の本意ではないのでな」
重い息とともに、魔王が言って爪を元の長さへと戻す。くるり、と男に背中を向けた姿からは、もう闘争のための魔力は感じられなくなっていた。
「……逃げるのか、魔族の娘」
男の言葉に、魔王が背に翼を生やす。
「今宵の勝利を、貴様にくれてやるだけのことだ。次は本気で相手をする。覚えていろ」
魔王が翼をはためかせると、あっという間にその小さな身体が宙へと浮かびあがる。
「ユーリ……余は、必ずお前を手に入れる。お前の心を、余のものにしてみせる」
空中で振り返った魔王が、ユーリに真剣な眼を向けて言った。
「絶対に、イヤ! さっさと帰って!」
男の灰色の外套の陰に隠れながら、ユーリは舌を出す。そんなユーリに、魔王は微笑を投げ、空の彼方へと飛び去っていった。
「……大丈夫、だったか?」
魔王の去った方角を見つめ続けていたユーリの頭に、ぽん、と大きな手のひらが乗せられた。ユーリは男の外套を握りしめた手を離し、さっと跳び下がる。
「ほ、ほえ。大丈夫、です。あ、ありがとうございます、剣士様」
顔が熱くなって、男の顔をまともに見られずユーリは俯いて礼を言った。
「……ジェイ、だ」
何か苦い物を噛み潰したような声が、ユーリの頭上から聞こえてくる。顔を上げると、一瞬男が苦悶の表情を浮かべていたように見えた。だが、じっと見つめるとその表情は消えて、切れ長の瞳がユーリの目を覗き込んでくる。ぽん、とユーリは耳の先まで、赤くなった。
「ありがとうございます、ジェイさん。あの、魔王を追っ払っちゃうなんて、とっても強いんですね」
にへら、と笑ったユーリが男を見返して言った。
「……大したことじゃない。相手も、手加減していたようだしな」
ふい、と男が顔を横へ向けて、ぶっきらぼうに言う。照れたように強いて無表情を作るその横顔に、ユーリの胸はとくんと鼓動を速めてゆく。
「あ、あの、もしよかったら、お礼をさせてもらえないでしょうか! あ、私は、吟遊詩人のユーリっていいます! その、どこかで、お食事でも」
「吟遊詩人……あ、いや、食事は、その、今日は、もう遅い」
吟遊詩人、という言葉に、男の表情にまた一瞬苦いものが走ったが、すぐにそれは消えて真顔で不器用な言葉を並べ始める。男の仕草に、ユーリはにへらと頬を緩めた。
「ほえ。それじゃあ、明日、お昼ご飯をご馳走させてくれませんか? 良かったら、ジェイさんのこと、もっと知りたいんです」
上目づかいに、ユーリは男の瞳を覗き込む。ずい、と身を寄せれば、男は動揺したように眼をあちこちへと動かし始める。
「う、あ、ああ。い、いや、礼なら別に、いいんだ。礼が欲しくて、やった事じゃない……」
「ダメ、ですか?」
切ない表情で、ユーリは男に視線をぶつける。男は、やがてこっくりとうなずいた。
「……わかった。さっきの酒場で、明日の、昼」
「ありがとうございます、ジェイさん!」
にっこりと笑うユーリへ背を向けて、男は足早に去って行った。男の背中にはしゃいだ声を投げかけて、ユーリも宿へと戻ってゆく。
「ふふ、ジェイさんって……可愛い」
その足取りは、天にも昇らんばかりに軽やかであった。
宿の一室で、夜半も遅くに戻って来たユーリの姿を見たとたん、シャイナは駆け寄って小さな肩を掴んだ。
「ユーリ、無事だったのね? 魔王に、酷い事をされなかった?」
「ほえ、ただいまシャイナ。あんまり揺らさないで、目が回るから」
ユーリの上げた声に、シャイナは手を離してユーリの入ってきたドアから首を出して廊下を見やる。魔王は、付いてきていないようだった。
「ユーリ、魔王はどこ?」
問いかけると、ユーリがにへらと笑った。
「ほえ、あのね、ジェイさんが、やっつけて追い払ってくれたの」
てれてれとのたまうその姿に、シャイナは首を傾げる。
「ジェイ? それって、魔王が結界破ったときに押し寄せてきた魔物を片っ端から切り捨ててたあの凄腕の剣士さん?」
問い返すシャイナへ、今度はユーリが首を傾げて見せた。
「ほえ? よく知ってるね、シャイナ。うん。その剣士様だよ。格好良かったぁ……」
うっとりと斜め上を見上げ、ユーリが身をくねらせる。それは、シャイナのよく知っているユーリの仕草だった。
「……惚れたの?」
シャイナの問いに、ユーリがゆっくりとうなずく。
「うん……一目惚れ。強くて優しくて、そんでもって可愛い人だったの」
にへら、と笑いつつユーリが頭の後ろを掻いた。
「そう……よくはわからないけれど、ユーリが惚れたなら、彼をキャラバンの護衛に雇えないか、交渉してみようかしら? あのジェイっていう剣士さん、フリーの冒険者らしいから」
シャイナの提案に、ユーリの顔がぱっと明るく輝いた。
「本当、シャイナ?」
「ええ。魔王を追い払えるなら、丁度いいわ。あんなのに付いて回られたら、物騒で仕方ないもの。コンビで、二人組のパーティらしいけれど、予算的に折り合えば、まとめて雇うことを検討してみるわ」
「ありがとう、シャイナ!」
嬌声を上げて、ユーリが飛びついてくる。受け止めたシャイナは、くるくると回ってそのままベッドへと倒れ込む。
「あくまで、予算の面で折り合えば、よ。少しは、譲歩するつもりだけれど」
「うん! 充分だよ! きっとジェイさんも、私のこと気に入ってくれてるみたいだから、上手くいくと思う! あ、それから、明日のお昼、ジェイさんと一緒に食事に行くことになったの! シャイナも、良かったら来る?」
ベッドに寝転がったまま、満面の笑顔でユーリが言ったが、シャイナは首を横へ振る。
「馬に蹴られたくはないから、遠慮しておくわ。しっかり、楽しんでいらっしゃい。そして出来れば、少しでも予算を値切れるように好かれていらっしゃい」
「もう、シャイナったら! でも、うん。頑張るよ!」
ふんす、と気合を入れるユーリと並んで、シャイナはベッドサイドのカンテラを吹き消した。
「そうと決まれば、明日に備えて眠らなくちゃね。遅刻なんて、しちゃ駄目よ、ユーリ」
「うん、おやすみ、シャイナ」
そう言って目を閉じたユーリが、十秒と経たないうちにすやすやと寝息を立て始める。健やかな親友の寝顔を、シャイナは穏やかに見つめるのであった。
湖の畔に建つ古城、魔王城の最上階に魔王シアの部屋はあった。稲光が夜の闇を裂き、時折城の屋根へと落ちて来る。ぱっと明るく照らし出される部屋の中、天蓋付きのベッドの上にシアの姿はあった。
「おのれ……忌々しきはあの剣士よ。余の、ユーリを手に入れる計画の邪魔をするとは……」
深紅の親指の爪を噛み、シアは憤怒に顔を歪める。
「……ユーリもユーリだ。せっかく、余自ら間接キスの機会を与えてやったのだ。なぜ、もっと喜ばぬ。うう、ユーリ」
恨めしげに、シアは呟いていた。と、ベッドの側に影が現れ、恭しくシアに跪いて首を垂れた。
「恐れながら、魔王様。先日虜にいたしました、あの小娘のことでお悩みですか」
「……そうじゃ。あのユーリめの心を開かせ、側に置きたい。毎日変わる色んな表情を見て、楽しみたい。魔界一の知恵者であるそなたに、何か良い策はあるか?」
両手をわきわきとさせて、息を荒げるシアに影は重々しくうなずいた。
「ございますとも。我が知恵はあまねく宇宙を知るほどにございます。あのような単純な小娘程度、魔王様の御心に添うように操るは容易いことにございます」
「ほう、頼もしいな。だが、心を操る魔法は、無しだ。ユーリの父親と、余が約束してしまったからな」
シアの言葉に、影は大仰に身をのけぞらせる。
「なんと、魔王様が御自らお約束を……それは、違えることは出来ませんな」
「うむ。違えれば、余の命はたちどころに失われる。それが、悪魔の約束というものだからな。代わりに、ユーリの心を余に靡かせることができれば、花嫁として迎えることができる。そういう、約束だ」
「なるほど。つまり……かの小娘が自ら、魔王様に惚れれば良い。そういうことですか」
「簡単に言うようだが、これがなかなかに難しい。力で脅して、ようやく間接キスが出来た程度なのだ」
ふむ、と影は少し考え、笑い声を上げる。
「……何が可笑しい」
「いえ、我が頭脳にて愚行しますに、とても簡単なことだと存じます。かの小娘の身体には、我ら魔族の同胞であるダークエルフの血が流れております。それを利用すれば良いのです」
シアの眉間に寄っていた皺が、ふっと緩む。
「つまり、どうすれば?」
「その小娘は、人間の中で育てられたのでしょう。つまり、我ら魔族の魅力を、知らないのです。ですので、まずは魔族の魅力を小娘に理解させ、そのうえで魔王城へと誘い込み、魔王様の魅力を存分に発揮されればいちころにございますよ」
影の言葉に、シアの表情がぱっと明るくなる。
「おお、そうか! いちころか!」
「はい、いちころにございます。名付けて、『小娘に魔族の魅力をアピールしちゃうぞ作戦』でございます」
告げられた作戦名に、シアは少し嫌そうな顔になる。だが、魔界一の知恵者が自信満々で付けた作戦名だ。下手に意見を言って、へそを曲げられると厄介である。何とか、真面目な顔をシアは作った。
「……それで、まずどうすれば良い?」
問いかけるシアへ、影が指を一本立てて見せる。
「魔王様は動かず、魔将軍たちを一人ずつ、小娘の元へと送り込みます。人間よりも優れた能力を目にすれば、いかに鈍感な小娘とはいえ魔族の魅力に気づきましょう。まずは、魔界随一の剣豪と謳われる、ギーザ殿を」
影の言葉に、シアの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
「ギーザか。奴ならば、確かに適任だな。あの棒切れの剣士に、まさか後れを取ることはあるまい」
「そうです。人間の剣士を、けちょんけちょんにしてしまえば、小娘の目は魔族に向くことは必定……すべては、魔王様の掌の上、ということになります」
「うむ。では、早速手配をせよ! 魔将軍ギーザを、ユーリの元へと送り込むのだ!」
「御意に!」
力強く影がうなずき、姿を消す。
「待っておれ、ユーリ……! 魔族の魅力を、とことん思い知らせてくれるわ!」
シアは静かに、そして高らかに笑いを上げる。それは、見事な三段笑いであった。
こうして、ユーリの知らないところで邪悪な計画が進められてゆくのであった。




