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旅して恋する吟遊詩人  作者: S.U.Y
21/58

番外編その1 港の出会いの物語

予告どおり、番外編です。軽いおつまみ程度に、お楽しみください。

 キャラバンの先頭を行く馬車を操りながら、シャイナは空を見上げる。雲ひとつない、綺麗な青空が広がっていた。

「あの子は、今頃どうしているかしらね? 今度こそ、幸せになってくれれば良いのだけれど……」

 などと呟きながら、馬車を進めてゆく。物憂げな表情のシャイナが思い浮かべるのは、親友のユーリのことだった。

 情熱的で惚れっぽく、考え無しにどこまでも突っ走ってゆくその姿は、おおよそ世間のエルフからはかけ離れた存在である。もしかすると、耳が長いだけの何か別の種族であるのかも知れない。そんな考えが頭をよぎり、シャイナは軽く首を振った。

「そんなわけ、ないわよね。あの人たちの、子供なんだもの」

 遠い目で、シャイナは空の彼方を見つめる。青空の向こうに浮かべるのは、シャイナの記憶の中にある人物の姿だ。すっと、シャイナの頬に朱が差してゆく。

「シャイナさん。そろそろ、休憩の時間ですぜ」

 そんな折に背後からかけられた声に、シャイナはびくりと肩を跳ねさせる。シャイナの背後、馬車の中にはいつの間にか灰色のコートを纏った人物が座っていた。

「ゴドー。もう、びっくりさせないで頂戴」

 シャイナがそう呼びかけるのは、キャラバンの副長を務める男である。二メートル近い巨体に、ごついがどこか人懐っこい顔を持つこの男は、キャラバンの最後尾の馬車を担当していた。

「三号車の馬が、ちょいとバテ始めてます。ユーリさんも居なくなっちまったし、無理は禁物ですぜ」

 ゴドーの言葉に、シャイナは苦笑を浮かべる。

「そうね。あの子はもう、行っちゃったんですものね」

「幸せに、なってくれるといいですなあ」

 低く重い、けれども優しい声を聞きながら、シャイナは後方の馬車に手を振り合図をする。街道の路肩に、一列となって馬車が停止した。

「ありがとう、ゴドー」

「何のことですかい?」

 きょとん、といかつい顔を傾けるゴドーに、シャイナは軽い笑みを投げる。

「あの子の幸せを、祈ってくれて。親友の私から、代わりにお礼を言っておくわ」

 シャイナの言葉に、ゴドーの顔に人懐っこい笑みが浮かぶ。

「本当に、仲が良いのですな、シャイナさんとユーリさんは」

 すっと、ゴドーが差し出してくるのは茶の入ったカップである。受け取ったシャイナはカップの中身を一口含み、顔を歪める。

「……渋いわね。でも、不思議と疲れが取れていくみたい」

「良薬、口に苦しってやつでさ。シャイナさんも、少しお疲れのようだったので強めに出してみやした」

「……ありがとう。そうね、ユーリが居なくなって、色々と堪えているのかも知れないわね」

 カップを両手で包むように持ち、シャイナは小さく息を吐く。

「商売一辺倒のシャイナさんにそんな顔をさせられる、ユーリさんは本当に大事な親友なんですなあ」

 しみじみと言うゴドーに、シャイナはこくりとうなずきカップを傾ける。

「ええ。いつの間にか、そうなっていたわ。初めは、そうでもなかったのだけれど……」

 遠い目になって、シャイナは空を見上げる。その視線の先にあるものは、抜けるような青空ではない。遠い、過去の記憶である。

「それじゃ、あっしはこれで」

 そっと腰を上げて、ゴドーが姿を消した。自分の馬車へと、戻ってゆくのだろう。意識の片隅でそう考えながら、シャイナは目を閉じ思い出に浸り始めた。


 それは、まだシャイナがキャラバンを率いる長ではなく、ひとりで活動していた頃のことだった。一台の小さな馬車と、わずかな元手を持ってシャイナが訪れたのは、港町である。大きな商船が、港へ到着する。その荷の中にあるものを、別の町へ運ぶ。それだけの、仕事だった。

 機会があれば、シャイナは私財をはたいて珍しい他大陸の物品を手に入れるつもりでいた。運ぶ荷を圧迫したりしなければ、その程度の裁量は許されていたのだ。

 かさばらず、なるべく日持ちのするもの。それでいて、安くなければならない。だが、そんなに都合の良い物は、どこにも無かった。一日中、足を棒にして港を歩き回ったが、シャイナが手にすることが出来たのはさほど珍しくもない、魚の干物が数枚のみである。

 肩を落とし、シャイナは港の市場を後にする。夕闇に包まれて、港には不穏な空気が漂い始めていた。シャイナのような少女が、このような場所を一人で歩くのは危険である、といえた。自然と、シャイナは早足で安宿への道を急ぐ。その耳に、諍いの声が聞こえてくる。

「もう、何でこんな所まで付いて来るの? 私、別に一人でもやってけるのに!」

 まだ幼い、自分と同じくらいの年頃の少女が上げる金切り声に、シャイナは足を止める。そっと、声のした方へと目を向ければ、薄暗く狭い路地の中に二つの人影があった。

「ほえ、ユーリ。外は危ないんだよ。僕の、手の届かない所へ行ってしまえば、ユーリが危ない目に遭っても僕はどうすることもできないんだ。僕は、心配だよ。このままじゃ、夜も眠れなくなっちゃう」

 それは、背の高い人影と子供のような人影の言い争いだった。

「眠れなかったら、ママに相手してもらえばいいでしょ、パパ!」

 そんなことを言う子供の恰好に、まず目がいった。羽根付き帽子に青いマント、ひらひらとした少し滑稽な格好の背中にはリュートがある。吟遊詩人の恰好をした子供、シャイナの目には、そう見えた。

「ほえ? うん。それは、ママには相手してもらうんだけど、ユーリが危ない目に遭うのは、また別の話だよ?」

 奇妙な鳴き声のようなものを上げて、首を傾げる背の高い人影。こちらへ目をやって、シャイナははっと息を呑んだ。薄暗い路地の中、褐色の肌は闇を纏うような黒装束に包まれており、すらりと伸びた手足は長く腰も高い。闇の中できらきらと煌くのは、白銀の髪だ。そこから、長い耳のようなものがにょっきりと伸びている。恰好の怪しさよりも、造形の妖しく美しい様にシャイナは目を奪われた。

「ほえ、私は、危ない目に遭ったりしないってば! パパとママが、ちゃんと教えてくれたでしょ? 護身術!」

 子供のほうも、奇妙な鳴き声を上げる。親子喧嘩なのか、とシャイナは意識の片隅で考えつつも、男のほうから目を離せない。息が詰まり、胸が苦しくなる。シャイナにとってそれは、初めての経験だった。自分の心臓の音が、やけにうるさく感じる。

「ユーリの術は、あくまで護身用の初歩的なやつだからね。小学校出たら、本格的なやつを教えようと思ってたんだけど。今のまんまじゃ、危なっかしくて見ていられないよ」

 男が、肩をすくめて言う。我知らず、シャイナはうんうんとうなずいた。何だか知らないけれど、この美しい男の人のほうが正しい。そう、思ったのだ。

「じゃあ、見てなきゃいいじゃない!」

 きっ、ときつい視線で子供が男を見上げて言う。男が、呆れたように息をひとつ吐いた。

「それくらい、心配ってこと。大体、ユーリは……」

 男の姿が、シャイナの目の前ですっと消える。きょとん、となったシャイナの肩に、誰かの手がポンと置かれる。

「この子のこと、気づいてた? 僕に夢中になって、気づかなかったんじゃないの?」

 背後から聞こえてくるのは、先ほどまで穴が開くほど見つめていた男の声である。シャイナは全身を硬直させ、ひっと息を呑む。

「ほえ、あ、べ、別に、気づいてたもん!」

 明らかに嘘と判るほどの動揺ぶりを見せながら、子供が言う。だが、シャイナにはそれをどうこう言う余裕など全く無かった。固まった全身を、物凄い勢いで冷や汗が流れてゆく。

「ほえ、嘘だね。この子がそっと路地裏に入ってきて、ユーリのほうを見つめてから僕をずっと観察してたことなんて、知らなかったでしょ? もし、この子が危険な人間だったとしたら、ユーリはもうこの世にいなかったよ?」

 男はまるで、見ていたかのようにシャイナの行動を言い当てた。全てが、把握されていた。そうして、今、シャイナの命はこの男の掌の上にある。恐怖が、シャイナの背中をそろりと上がってくる。

「……パパ、その子、怖がってる」

 子供に指摘されるまでもなく、シャイナの両目にはこんもりと涙が溢れていた。港町の薄暗い路地裏で、人知れず死んでゆく運命を思いシャイナは己の迂闊さに涙を零す。男の手が置かれた肩は、なぜかピクリとも動かすことができない。シャイナにできることは、ほろほろと涙を流すことのみであった。

「ほえ……まいったね。泣かせるつもりは、無かったんだけど」

「パパのせいだね。女の子泣かせるなんて。ママに言っちゃおうかな?」

 悪戯っぽく、シャイナの頭上に微笑みかけながら子供が背中からリュートを取り出し、構える。

「その言い方だと、色々と大変になりそうだから、内緒にしててくれる?」

 頭上から、そんな声が聞こえてくる。目の前で、子供の小さな手がリュートの弦に触れた。ほろん、と聞こえてくる音は、とても綺麗だった。

「貸しひとつ、だからね。パパ」

 そう言った子供の手が、リュートの弦の上を滑らかに動いた。ほろり、ほろりと紡ぎ出される旋律に、シャイナの心は引きこまれてゆく。

「大丈夫ー、もう大丈夫ー、あなたはほんとに、大丈夫ー」

 陽気に歌いながら、子供がステップを踏む。シャイナの手が、自然と歌に合わせて手拍子を打つ。シャイナの背後で、男も手を打ち鳴らして踊り始める。

「さあ、君も踊ろうよ!」

 男が、シャイナに手を差し伸べてくる。音楽に導かれるままに、シャイナは頬を染めて男の手の上へそっと手を重ねる。薄暗い路地を、いつの間にか光の魔法が照らし出し、そこは小さなダンス会場へと変わっていた。

 演奏が終わり、路地には再び静寂が戻ってくる。シャイナの前に、改めて男と子供が並んで立った。

「ほえ。僕は、ダークエルフのダク。この子の、父親なんだ」

 まずは男が名乗り、子供の背をぽんと押した。

「ほえ。私は、ユーリ。吟遊詩人をしてるの。あなたは?」

 子供も名乗り、笑顔を向けてシャイナへ問いかけてくる。

「私は……シャイナ。ギルドの依頼で、この港へ来たんです。それで、あなたたちの言い争う声が聞こえてきて……ごめんなさい。覗き見するつもりは、無かったんです」

 ぺこり、とシャイナは二人に向けて頭を下げる。シャイナの謝罪に男は涼やかに笑い、子供はにっこりと陽気に笑う。

「ねえ、シャイナ。あなた、エルフは好き? それとも、嫌い?」

 シャイナに笑顔を向けたまま、子供が問う。唐突な質問に、シャイナは首を傾げた。

「……人による、としか言えないわね。好きになれる人柄なら、好きといえるでしょうけれど、嫌いにしかなれない人物だったら、嫌いとしかいえないわ」

 シャイナの答えに、子供は満足そうにうなずいた。

「ほえ、ありがと。あなた、きっと良い商人になれるわ。私が、保証してあげる」

 怪訝な顔のままのシャイナの前で、子供が男へ振り向いた。

「ねえ、パパ。私、シャイナと一緒に旅する! それなら、心配いらないでしょ?」

 子供の言葉に、男がシャイナを真面目な顔で見つめる。じっと、心の奥底まで見通すような瞳に、シャイナはどきどきと胸を高鳴らせる。

「うん。いいかもね。この子が、危険な目に遭うような場所へは行かない事。それを守れるなら、いいよ。あと、ちゃんと自分で許可を取ること」

 軽い笑顔になった男が、ぱちりと子供へ片目をつぶってみせる。

「ほえ、あ、そっか。ねえ、シャイナ。よかったら、私を、あなたの仲間にしてもらえないかな? 広い大陸の隅々まで、一緒に旅しようよ!」

 子供の勢いに圧されるように、シャイナは一歩、後に下がる。

「ええと……どういう、ことかしら?」

 開いた距離を、ずい、と子供が詰め寄ってくる。

「自分の食い扶持くらいは、私、自分で稼ぐから! あなたを、護衛させてほしいの!」

「……それは、タダで?」

 顔を引き締め、シャイナが問う。

「うん、タダで!」

 笑顔で、子供が答える。

「じゃあ、駄目よ」

「ほえ……どうして?」

 不思議そうな顔をする子供の肩に手を置いて、シャイナは人差し指を立てた。

「労働には、正当な報酬があってしかるべき。私は、そう思うから。タダ働きなんて、するのもさせるのも嫌なのよ。だから……」

 頭の中でソロバンをはじき、シャイナは少し間を置いて口を開く。

「収益の、一割。それが、あなたの報酬。その条件でいいなら、私はあなたを護衛として雇うわ。どうかしら?」

 シャイナの弾きだした報酬には、打算が多分に含まれていた。自分と同じ、もしくは少し小さいくらいの年頃の子供に払うにしては、それは破格のものといえる。頼りない冒険者程度ならば、同額で雇えるくらいなのだ。だが、シャイナは思った。この子供が魔物や盗賊の襲撃に遭い、危機に陥ったのならば父親である男が助けに来るのだろう、と。そうすれば、またこの妖しく美しい男に、会えるのではないか、と。そうして、危機を乗り越えていくうちに、先ほどのダンスのようにちょっとくらい良い感じに触れ合えるのではないだろうか、と。

 自分の商魂と恋心を、秤にかけて導き出したそれはシャイナの最適解といえた。対する子供は、ほんの少しだけ唇に指を当てて考え、にこりと笑う。

「うん。シャイナがそれでいいなら、いいよ! これから、よろしくね!」

 元気よく言って、差し出してくる小さな手をシャイナは握り、上下に振る。

「ええ。こちらこそ、よろしくね。ええと……ユーリ、で、いいのかしら?」

 シャイナの問いに、うん、とユーリは元気よくうなずいた。

「ほえ、お話、決まったみたいだね。良かった」

 男が、端正な顔にあどけなさを感じさせる笑みを浮かべて言う。きゃあ、とシャイナは自分に向けられたその笑みに、胸の中で嬌声を上げた。

「それじゃあ、僕はそろそろ行かなくちゃ。シャイナさん、ユーリを、どうかよろしくね」

 伸ばされた褐色の手を、シャイナは両手で包み込むように、力強く握りしめる。

「はい! その……ダクさんも、お元気で! いつでも、ユーリに会いに来てくださいね!」

 シャイナの言葉に、ダクは涼やかな笑みを残して姿を消した。ほけら、としばらく立ち尽くしていたシャイナの袖を、くいくいとユーリが引く。

「シャイナ、私たちも、行こうよ」

 ユーリに促され、シャイナは薄暗い路地裏から表通りへと出てくる。並んで歩くユーリが、うんと両手を上へと伸ばした。

「ほえ、やっと、パパから離れられたよ。改めて、ありがとね、シャイナ」

 清々した、と言わんばかりのユーリの態度に、シャイナは苦笑する。

「素敵なお父様じゃない、ダクさんって。ずいぶん急いでいたみたいだけれど、どこへ行ったのかしら?」

 遠い目をするシャイナの横で、興味無さげにユーリは頭の後ろで腕を組んだ。

「ほえ。たぶん、あっちの大陸に帰ったんじゃない? ママも待ってるし」

「あっちの……大陸? こんな夜に、船なんて出ていたかしら?」

 首を傾げるシャイナへ、ユーリがあくび交じりの声を出す。

「ほえ。船じゃなくて、徒歩だと思うよ。パパなら、走ったほうが早いもの」

「海の上を……走るの?」

「うん。走るよ、普通」

「走らないわよ、普通」

 ユーリの軽い口調に、シャイナは冗談だと思った。きっと、見えないところでユーリを見守っているのだろう。そう考えれば、背筋が自然と伸びた。

「ユーリは、どうして旅をしようって、思ったの?」

 何となく聞いた質問に、ユーリの頬がにへらと緩む。

「素敵な、恋をするためだよ」

「恋?」

 問い返すシャイナに、ユーリがうなずく。

「ほえ。まだ見ぬ素敵な誰かと恋に落ちて、激しい恋路の末に幸せな家庭を築くために、私は大陸を渡ってきたの」

「……それだけのために、大陸を?」

 問いかけると、ユーリが真剣な表情を見せる。

「うん。私のパパとママは、あっちじゃ結構偉い人なんだ。だから、娘の私と真剣に恋をしてくれる人なんて、寄ってきてはくれなかった。だから私は、海を越えることにしたんだよ。こっちでならきっと、良い人見つかるかも知れないから」

「そう……見つかると、いいわね。素敵な人が」

 色々と突っ込みたいところではあったが、当たり障りのない言葉をシャイナは選んだ。何となく、そうするべきだと思ったのだ。真心のカケラもこもっていないその言葉に、ユーリがにへらと笑顔を見せてくる。

「うん、ありがと。きっと、見つけてみせる。この大陸のどこかにいる、私の運命の人を」

 きらきらとした瞳でうっとりしているユーリを連れて、シャイナは安宿へと向かう。陽気で能天気なユーリを見つめるシャイナの胸に、不思議な感情が芽生え始める。それは、まだシャイナが自覚するには小さな、ほんの微かな感情であった。

「それはそれとして……明日から、きちんと働いてもらうわよ、ユーリ」

「うん。頑張ろうね、シャイナ!」

 うなずきを交わし合い、そうして、二人の旅は始まったのである。


 空を見上げ、シャイナは息を吐く。遠い日の、出会いを思い出していたのだ。あれから、いくつもの年月が過ぎていった。大人になってゆくシャイナに比して、ユーリはずっと変わらなかった。いつの間にか見下ろすほどの背丈の差ができて、ユーリは少し嫉妬しながらもシャイナの成長を喜んでくれた。苦難の日々を、ユーリは文句も言わずに共に過ごしてくれた。たまに、今生の別れを切り出してはくるが、いつも戻ってきては泣いていた。目を閉じれば、色んなユーリの顔が浮かんでくる。

「……駄目ね。どうしても、あの子の顔が浮かんでくるわ。ユーリ……」

 雲一つない、青い空には太陽が、そして小さな黒い点が浮かんでいる。

「ユーリのお父様も、元気にしていらっしゃるのかしら」

 周囲に誰もいないことを確かめて、シャイナはそっと唇に呟きを乗せる。ユーリとよく似た、けれども色白ではなく褐色の顔。ほえほえと、ユーリのものより低く、優しい鳴き声。思い浮かべ、そっと目を閉じるシャイナの目の前の地面が、突然爆発する。風圧で吹き飛ばされて、シャイナは尻餅をついた。

「な、何、一体……?」

 狼狽し、目を見開くシャイナの眼前に、一つの顔が現れた。先ほど思い浮かべていた顔によく似た、けれども色白の、女の子の顔。今にも泣きだしそうに、大きな瞳に涙を湛えるその姿は、ユーリである。

「ユ、ユーリ?」

 呼びかけつつ、シャイナは無意識のうちに両腕を拡げる。そこへユーリが飛び込んできて、胸に顔を埋めてくる。きゅっと、小さな腕がシャイナの背にしがみついてきた。

「ほええええん!」

 泣き声を上げるユーリの背を、シャイナは優しく撫でた。

「……おかえりなさい、ユーリ」

 涙と鼻水でぐじゅぐじゅになった親友を抱きしめながら、シャイナはそっと呟くのであった。


 なお、ユーリの力が明らかになり、危機になっても父親が現れるわけではないと知ったシャイナは密かにショックを受けたのだが、それはシャイナだけの秘密なのであった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、幸いです。

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