危険な飴と甘い鞭 前編
ブクマ、感想、評価等ありがとうございます。頂いたものをエネルギーにして、まだまだ進んでいきます。
キャラバンの一団が、荒野を行く。土煙を上げて走るのは五台の馬車と、そして巨大なリクガメだった。人の背丈ほどもあるリクガメが、鈍重な四肢を懸命に動かして馬車に追随している。
リクガメという生物が、馬車に追いすがる程度の速度を出せるというのは普通ではない。このリクガメは、魔物だった。あちこちに棘のような突起を生やしているが、愛嬌のある顔につぶらな瞳が愛らしい。このカメの魔物は、調教によって人間に使役されているのである。
堅牢な甲羅の上には、一人の少女の姿があった。
「もし、カメさんー、カメさんよー、もすこし早く、走ってねー」
少女は丸い甲羅の上で、器用にリュートを爪弾きながら歌声を上げる。ほろりほろりと流れる音色に乗って、カメを引き連れたキャラバンは進んでゆく。その行く手には、大きな村落があった。
村の広場へ到着した馬車の周りに、たくさんの人が集まってくる。キャラバンの運んでくる、珍しい品々を目当てにしているのだ。馬車の前に商品を陳列する一団の側で、カメの魔物が興奮気味に足を踏み鳴らしていた。
「ほえ、マリアンヌ、どう、どう」
甲羅の上に乗った小柄な少女が、カメを落ち着かせようと声をかける。だが、見知らぬ環境で多くの人がごった返す状況で、落ち着けるほどカメは大人ではなかった。
「ユーリ、大丈夫そう?」
「ほえ、何とか抑えられるけど……ぐらぐらするよシャイナ」
カメの上の少女、ユーリがリュートを取り出し、穏やかな旋律を奏でつつ言う。キャラバンの長、シャイナは腕組みをして、難しい顔をした。
「今、調教師の人を呼びに行って貰っているから、もう少し辛抱して頂戴」
「うん、大丈夫。マリアンヌも、ちょっとびっくりしてるだけだから」
ね、とユーリは愛嬌のあるカメの顔に向かって首を傾げる。首を持ち上げたカメの瞳は、きょときょとと忙しなく動き、小さな鼻の穴からふしゅーと荒い息が漏れる。
「ほえ……だめかも知れない」
奇妙な鳴き声のような口癖とともに、ユーリの顔に冷や汗が伝う。見上げるシャイナの顔が、引きつった。多くの村人の集まるこの広場で、カメが暴れれば大惨事になってしまう。
「ユ、ユーリ、何とかしなさい!」
「ほえ、シャイナ、大きな声出したら、ダメだよ。ほら、マリアンヌ、楽しい音楽だよー」
ほろんほろんとリュートの弦を鳴らし、興奮するカメを鎮めるべくユーリは歌声を上げる。だが、努力もむなしく興奮しきったカメは後ろ足で立ち上がり、ユーリはカメの甲羅からころころと転がり落ちてしまった。
「マリアンヌ、ダメ!」
立ち上がったカメの前にあるものは、馬車だった。立ち上がったカメの高さは、馬車のそれを超えるほどもある。そのまま前足が振り下ろされれば、カメの重量で馬車と周囲の人々が潰されてしまう。ユーリが必死にカメの甲羅の端を引っ張り、何とか制止しようとしたそのときである。
「行け!」
どこからともなく、凛とした男の声が聞こえた。同時に、立ち上がったカメの腹に、白い何かがぶつかった。どん、と甲羅を通じて、ユーリも衝撃を感じたほどだった。二本の足で立っていたカメの身体が、ぐらりと揺れる。
「ほえ?」
地響きを立てて、カメが仰向けにひっくり返った。カメの下敷きになったユーリの口から、ぐえ、と乙女にあるまじき声が出る。そんなユーリの視界の中で、小さな白い狐が小走りに駆けてゆく。その行く先には、一人の男の姿があった。
「よくやった、ハク」
白い狐を抱き上げる男の頭には、犬の耳があった。だがその顔つきは人間のもので、怜悧で繊細な作りをしていた。ハク、と呼びかけた狐に対して浮かべているのは、あるかなきかの微笑である。
「ほえ……胸が、苦しい」
カメの下敷きになっているからか、はたまた別の理由からか、ユーリは息苦しさを覚え、カメの下から這い出した。
「ユーリ、大丈夫?」
心配そうな顔で駆け寄るシャイナに、ユーリはうなずいて見せる。そんな二人とひっくり返ったままのカメの元に、狐を抱いた男が歩み寄ってきた。鋭い双眸が見やるのは、カメである。
「躾が、なっていないようだな」
それは、恐ろしく冷たい声だった。男のズボンから出ている尻尾が、ぴん、と警戒を示すように立っている。ユーリは無意識のうちに、両手を拡げ男の前に立ちふさがっていた。
「マリアンヌは、ちょっとびっくりしてただけだよ。普段は、大人しい子なの」
男の眼が、ユーリをじろりと見る。見据えてくるブラウンの瞳の冷たさに、ユーリは全身をふるりと震わせた。
「お前が、こいつの飼い主か?」
淡々とした問いかけに、ユーリは首を横へ振る。
「違うよ。私たちはこの子を預かって、この村の調教師のバレンツさんに届けに行こうとしていたの。ずっと、面倒を見ていたのは私だけど」
ユーリの答えに、男はふんと鼻を鳴らす。
「俺が、そのバレンツだ。なるほど、素人が手に負えなくなって、手放したといったところか? 随分と、甘い調教をされていたようだ」
男が、再び視線をカメへと移す。まるで食肉を見るような、無機質な視線だった。委縮しきったカメが、手足と首を甲羅の中へと仕舞い込む。
「マリアンヌ、大丈夫だよ。私が、ちゃんと守ってあげるから」
怯え切ったカメに、ユーリが声をかける。そんなユーリの前で、男は肩をすくめて息を吐いた。
「……さっさと起こして、俺の家に連れて来い」
そう言うと、返事も聞かずに男が踵を返して歩き出した。
「あ、ま、待って!」
ユーリは逆さになったカメの甲羅の下へ材木を差し込んで、テコの原理を使って巨体をひっくり返す。ずしん、と重い地響きを立てて戻ったカメが、手足と首をそっと伸ばした。
「行くよ、マリアンヌ。シャイナ、後は任せて」
傍らでうなずくシャイナを背にして、ユーリは男を追いかけた。そうして連れて来られたのは、村はずれの大きな庭のある家だった。
庭の周囲は木の柵で仕切られていて、中には様々な動物、猛獣、そして魔物までもが放し飼いになっている。見渡して、ユーリは目を丸くした。
「ほえー、いっぱいいるね……」
感嘆するユーリの傍らで、カメが首を縮める。犬猫を引き連れて庭を駆けまわる馬に続いて、巨大なトカゲが挨拶するように舌をちろちろと出した。
「あいつらは、俺が調教した奴らだ。そのカメは」
「マリアンヌ、だよ」
言いながら、ユーリは男へ懐から取り出した手紙を渡す。それは依頼人の、カメの元飼い主からの手紙だった。男はさらりと一読すると、手紙を無造作にポケットへ入れる。
「……没落した貴族の、忘れ形見か。また厄介な物を持ち込んでくれたな」
腰に提げた鞭を手に取り、男はカメに正対する。反射的にユーリは男とカメの間に身を入れた。
「どけ。調教の邪魔だ」
男の、冷たい声がユーリを打つ。襲って来る強烈な威圧感に、ユーリの肩がびくんと震える。それでもユーリは、カメの首を抱きながら男に視線を返した。
「やだ。マリアンヌに、酷い事するつもりでしょ?」
ユーリの言葉に、男は呆れたように息を吐いた。
「初めに、上下関係をしっかり教え込まなければいけないんだ。素人である、お前の出る幕じゃない」
「マリアンヌは賢いから、ちゃんと解ってるよ。鞭なんて使わなくても」
冷たく見下ろす男と、上目遣いに見上げるユーリの視線がぶつかり合う。男の右手が閃き、鞭の先端がユーリの足元を叩いた。すぱん、と空気を叩く音が、遅れてやってくる。鼓膜を震わせる尖った音に、ユーリの全身がびくりと揺れた。抱きしめていたカメの首が、甲羅の中へと引っ込んでユーリはバランスを崩し、たたらを踏む。
「俺のやり方に、口を挟むな、素人」
ぞくり、と底冷えするものを感じ、ユーリは唾を飲み込んだ。男の視線に射すくめられ、動くことはおろか呼吸もままならないくらいに、胸が苦しい。渋々と、ユーリはカメの側から離れる。
「マリアンヌに、酷い事したら許さないから」
涙目になって、ユーリは男を睨み据えて言う。
「ここからは、俺の仕事だ。お前が何を言おうとな。ご苦労だった、運び屋」
そう言って、男はカメに向き直る。男の足元で、白い子狐がユーリを見つめていた。
「……明日、また来るから」
「好きにしろ」
怯えるカメに後ろ髪をひかれながら、ユーリは男に背を向け、歩き出した。聞こえてくる鞭の音と、男の叱咤する声が、ユーリの耳にはいつまでも残っていた。
村の宿の一室で、ふくれっ面のユーリにシャイナはお茶を出す。受け取ったユーリが口元でカップを傾け、お茶の熱さに慌ててカップを置く。苦笑を浮かべ、シャイナはユーリの口元を拭いてやる。
「落ち着きなさい、ユーリ。あなたがここで憤ったって、どうにもならないわよ」
「ほえ……ごめん、シャイナ。でも、あのバレンツっていう男の顔を思い浮かべたら、なんだか落ち着かないの」
うう、と唸るユーリを前に、シャイナは腕組みをして息を吐く。
「それなら、思い浮かべなきゃいいんじゃないかしら?」
問いかけに、ユーリが首を横へ振る。
「あいつの顔と、鞭の音と、声が頭から離れないの。うぅ……マリアンヌ大丈夫かな」
ぐるぐると、ユーリは部屋の中を歩き回る。
「ねえ、ユーリ。もしかしてあなた……」
落ち着かないユーリへ、シャイナが言いかける。長い付き合いで、ユーリはそれだけで何を言いたいのか察したようだった。
「無い! それだけは、無いよ、シャイナ。あんな奴、好きになるわけないよ」
ぶんぶんと全力で首を振って、ユーリが言う。ぐいぐいと迫るユーリを押しのけて、シャイナはほっと安堵の息を吐いた。
「それなら、良いのだけれど……ユーリ、バレンツさんは、高名な調教師よ。プロにはプロなりの、やり方があるものなの。邪魔してはいけないわ」
「ほえ……うん。そうだね。でも……マリアンヌのこと、心配で」
「情が移っちゃったのね。まあ、気持ちはわかるわ。私も、そういう経験はあるし……」
遠い目になって、シャイナは宙を見つめる。昔、捨て猫を拾ってきたときの思い出が、ふんわりと浮かび上がってくる。取り留めのない追憶を打ち消すように、シャイナは両手を合わせて打ち鳴らす。
「ともかく、明日また様子を見に行くんでしょう? 出発まであと二日あるから、それまでに納得して、きちんとお別れしてきなさい」
シャイナの言葉に、ユーリは不承不承うなずいて見せた。夕食を終え、酒場へ繰り出す頃にはユーリは元の陽気を取り戻していた。
「大丈夫よね。あの子も、もう大人なんだし……」
上機嫌でリュートを奏でるユーリを見やり、シャイナはそっと呟いた。
翌日、バレンツの家を再び訪れたユーリは、大きな目を真ん丸に見開いた。カメの魔物、マリアンヌが庭にいて、その眼前には火のついた大きな輪っかが吊るされている。輪っかの下には、踏切板が用意されているところを見るに、どうやらそれはジャンプをして火の輪をくぐる、という仕掛けである。
「マリアンヌ!」
ユーリは庭の柵を跳び越え、一直線にマリアンヌの元へと駆ける。だが、そこへ飛んできた鞭の一振りに足が止まった。すぱん、と炸裂音が鳴り、顔を向けたユーリにバレンツが鋭い視線を浴びせてくる。
「何をやってるの、止めさせて!」
ごうごうと燃える火の輪とバレンツの冷たい顔を交互に見やり、ユーリは声を上げる。
「黙っていろと、言ったはずだ。昨日のことも、覚えていないのか?」
言いながら、バレンツは鞭を引き絞り、マリアンヌの足元へと振るう。弾かれたように、マリアンヌが駆け出した。
「あっ」
短い手足で、マリアンヌが加速してゆく。踏切板へ勢いよく飛び込んだマリアンヌの身体が、大きく弾む。空中で、広げていた手足を甲羅に仕舞い、火の輪をくぐる。そして、着地の瞬間に甲羅から手足が伸びて、地面を横滑りする。それは、一瞬の出来事だった。
「ほえ……」
呆気にとられるユーリの前に、マリアンヌがやってくる。バレンツが、ユーリとマリアンヌの間に立った。その手には、ひと玉のキャベツがあった。
「よくやった。お前なら、出来ると信じていたぞ」
バレンツがふりふりと尻尾を振りながら、マリアンヌにキャベツを与える。ばりばりとキャベツを頬張りながら、マリアンヌのつぶらな瞳は一点を見つめていた。ユーリがそちらのほうへ視線を移すと、白い子狐が後ろ足で耳の裏を掻いている姿があった。
「どうだ、運び屋」
バレンツに声をかけられて、ユーリは我に返った。
「……すごい、マリアンヌって、こんな事が出来るんだね」
「足腰が、しっかりと鍛えられていた。だからこれくらいのことは、出来ると踏んだ」
にやり、と悪戯っぽく笑い、バレンツがユーリの頭に手を置いた。
「ほ、ほえ?」
端正なバレンツの顔が、ユーリの間近へと寄せられる。
「あのジャンプ芸は、お前のお陰ということだ。礼を言う」
そう言いながら、バレンツはクッキーのようなものを取り出し、ユーリの口元へと差し出してくる。思わず開けたユーリの口の中へ、さっくりと甘さ控えめのクッキーが放り込まれた。
「ほえ……あ、ありがと」
もぐもぐと口を動かしながら、ユーリは俯いて顔を赤くする。クッキーを口に入れる瞬間、バレンツがにっこりと笑っていた。それを目にしたとたんに、どきどきと胸が苦しくなってしまったのだ。
「マリアンヌと、遊びに来たんだろう。今日の訓練はもう終わりだから、ゆっくり遊んでやっていいぞ」
そう言って、バレンツはユーリの側を離れようとする。ユーリは、バレンツの袖を引いた。
「……どうした?」
訝しげな顔で、バレンツが振り返る。その顔にはもう、先ほどの笑みの名残すら無い。
「……ユーリ。私の、名前」
バレンツが、ユーリの顔をじっと見つめる。その形良い唇が、ユーリの名前をなぞるように動く。
「ユーリ。良い名前だな。これからよろしく、ユーリ」
微かに笑みを浮かべ、バレンツが言った。ユーリの頬が、にへらと緩む。
「ほえ、よろしくね、バレンツ!」
握手を交わし合う二人の元へ、白い子狐が駆け寄ってくる。屈んで手を伸ばし、子狐を抱き上げるバレンツを見て、ぴん、とユーリの頭に閃くものがあった。
「ねえバレンツ、その子、男の子?」
ユーリの問いかけに、バレンツはうなずく。
「ああ。こう見えて、もう大人だがな」
「ほえ、そうなんだ。それじゃあ、私と一緒だね」
そう言ったユーリに、バレンツが眉を寄せる。
「……お前、男なのか?」
「違うよ、私も、こう見えて大人ってこと。ほら、私って、エルフだから」
言いながら、ユーリは結い上げた髪の中から長い耳をひょこんと引っ張り出す。バレンツは少しびっくりした様子で、ユーリの長い耳にそっと触れる。
「人間の、子供と思っていたんだが……そうか、エルフだったのか」
すりすりと、バレンツの指の間で耳が弄ばれる。
「もう、あんまり弄らないでよ」
くすぐったさに声を上げたユーリに、バレンツは頭を差し出してくる。
「代わりに、触ってみるか?」
ぴくぴくと、バレンツの犬耳が動く。ユーリがそっと触れると、柔らかくこりこりとした感触が指に訪れた。ずっと、触っていたくなる。そんなことを思っていると、バレンツの腕の中からふーっと威嚇の声が上がった。
「ほえ、どうしたの?」
首を傾げるユーリに、バレンツは苦笑する。
「どうやら妬いているようだな。俺が、こいつの他に耳に触らせたのは、お前が初めてだから」
バレンツの言葉に、ユーリは微笑んで子狐の頭へと手を伸ばす。
「そうだったの。ごめんね、子狐さん」
撫でようとした手に、子狐が牙を剥きだし低く唸ってみせる。
「ハクには、嫌われたようだな」
バレンツがそう言った途端、ユーリの背中に重い何かがぶつかってくる。振り向くと、それはマリアンヌの頭だった。
「ほえ、マリアンヌ」
マリアンヌがユーリを押しのけるようにして、子狐の前に頭を伸ばす。ふしゅ、と子狐がひと鳴きし、マリアンヌの顔を蹴りつけて駆け去ってゆく。悲しげなマリアンヌの甲羅を、ユーリはぽんぽんと叩いた。
「お互い、道は険しそうだね、マリアンヌ」
しみじみと言うユーリに、マリアンヌが頭を寄せてくる。ユーリに撫でられて、穏やかな表情を見せるマリアンヌを、バレンツは微笑みと共に見守っていた。
その日の夜、宿の一室でユーリは正座をし、腰を深く曲げて頭を下げる。いわゆる、土下座というやつだ。相手はもちろん、シャイナだった。
「……あんな奴、好きになるわけないよーって、言ってたのはどこの誰だったかしら?」
呆れたような、シャイナの声。ユーリはますます身を縮めて、額を床に押し付ける。
「その、あのね、シャイナ。バレンツが、私を見て、にこーって、笑ったの。それで……」
顔を上げたユーリに、シャイナは冷たい目を向ける。
「それで……惚れたのね?」
「……ほえ」
再び頭を下げるユーリに、シャイナが大きく息を吸って、吐いた。
「出発は明後日だっていうのに、あなたはここへ残る。そういうことね?」
「……ほえ」
シャイナの問いかけに、ユーリは情けない鳴き声で応える。こうなればユーリが聞く耳を持たなくなるのは、シャイナにはもう嫌というほど解っていた。
「……どうやって、暮らしていくつもり?」
「ほえ。バレンツの助手として、調教師のこと勉強させてもらえることになったの。給料も出すって言っていたし、足りないぶんは酒場でリュート弾くから」
顔を上げたユーリの瞳には、決意の色があった。
「そこまで考えているなら、私はもう何も言わない。年に二回くらいは、この村に寄ってあげるから……幸せに、なりなさい。今度こそ」
シャイナの拡げた腕の中へ、ユーリが飛び込む。抱擁を交わす二人の目尻に、光るものが浮かぶ。
「うん、ありがと、シャイナ……私、マリアンヌとハクと、楽しい動物とか魔物に囲まれて、獣人のバレンツと一緒になって……きっと幸せに暮らすから……!」
感極まって泣くふたり。宿の月夜は、更けてゆく。こうしてユーリは、村へ残ることになった。