解説
「この世界では、まれに空間が歪み不可思議な現象が起きる場合がある。例を言うなら、ヌシのように他世界から引き込まれ迷い人となる様な、な。
この近辺では特に多く、その発生する歪みを結界によって任意個所へ集約。そこに祠を立て監視しているのがこの社なわけじゃ」
「どれくらいの頻度で、歪は発生しているんです?」
「年に一度くらいじゃが、迷い人なんぞは10年に一度位じゃな。」
へ?ちょっと長すぎ…
「この社ができて300余年の間でじゃ。この社ができるまではそれこそ月一位に歪が発生しておって、発生するたびに西へ東へ対応に駆けずり回ったもんじゃ」
「えっ?今なんと?」
…
「おっと、すまなんだ。儂、25位から歳とってないんよ。まあ、女性に歳を聞くのも野暮ということにしといてくれんかの。」
姐さんでなく、婆…
「そこっ!失礼な考えしない!『キュビ姐さん』とでも呼んでくれるかのう。」
…
「ヌシは言及しようとしていないが、この耳尾を気にならなんだか?」
「それが本物かどうか、ツッコンでいいのか悩んでいました。お伽噺にそういう種族はいましたが」
「お伽噺上の種族とな?」
『獣人』。物語の背景次第で種族蔑称となるのであえて言及しないでいたのだ。
「儂らは、歪に巻き込まれた者を祖とする一族での。昔、狐と共に暮らしていた村があっての。その村ごと歪に飲み込まれたのじゃ。」
「その時に起きた現象が、人と狐との『融合』じゃ」
ザ・フライですか?
「儂らの様に一部が置換された者もおれば、完全融合を果たしたものも居ったそうじゃ。が、最悪にも醜悪な姿になったものも居る。しかしその度合いに係らず、ほとんどの者は発狂して自滅してしもうた。」
「じゃが生き残ったものは、歪の影響なのか魔力に対して強い感受性を持っておっての。その力を最も受け継いだのがワシなのじゃ。」
エッヘン というように胸を張る姿は、見た目年齢に対して、幼可愛い。
…
「ヌシも襲われたあの暴竜があるじゃろ、あれも昔に歪に引き込まれ、この土地に定着した種族じゃ。なんせ1000年以上前の史実には載っていなかった連中だからのう。」
恐竜時代からの召喚もありですか?
「300年前。ヌシの様に歪に巻き込まれた迷い人がおっての。なんせ言葉が通じんでの、意思疎通に難儀したもんじゃ。」
社が建つ前?後?
「そやつは面白い術や知識をもっておっての、結界や社・祠はその者がもたらしたものじゃ。」
そいつってもしかして陰陽師? 日本文化圏出身者ならこのたたずまいも納得である。
「ヌシもそやつと同じ言葉を使っている様じゃが、出身を教えてもらえるかや?」
「日本ですけど。」
「…違ったか。…ワノクニから来たならば新たに術を教えてもらおうと思ったのじゃが…」
「いえ、それってたぶん、日本の過去の名前だと思いますよ。」
「というとヌシも彼の者と同じ術者かや?ヌシもここに来る途中、術を使ったと聞いておるし。」
なんか期待のまなざしで見つめられると困るんですけど…
「術者なんかじゃないです。今の日本にこっちでいう『術』なんぞ存在していませんし、そんなのはお伽噺の中だけのものです。」
あ~ なんかガックシしてる。
と思ったら復帰した。
「では、ヌシが使った術はどう説明する。存在していない『術』がなぜ使えた?」
ん~どう説明しようかな?
「フェネが『術』を使っているのを見て、この世界では『魔法』が使えるのではないかと推論したんだ。
それならばと、お伽噺の英雄が修行の末に最初に身に着けた技を、なぞってみたら出来たってだけだよ。」
「その術の効果と詠唱を教えてくれんかの?」
「効果は『気』の塊を飛ばして相手を吹っ飛ばす。詠唱はないよ。」
「術の前に何か口ずさんでいたのでは無いのか?」
「気合入れるのと動作手順整理のため、技名を言っただけだよ。」
「…ちょっと実践してみてくれんか? 放たなくてよいから」
「では失礼して…」
その場で立ち上がるとポーズをとる。ちょっと恥ずいな。
「か~」
「へそのあたりに意識を集中」
「め~」
「そこに『力』を蓄積」
「は~」
「そこから『力』を両手のひらへ移動」
「め~」
「手のひらで包むように『力』を収束」
「波っ!」(『力』を霧散させる)
「放出ってな具合で」
「…もしかして、…無言でも出来るのかや?、ならそこの壁、ぶ、ぶ、ぶち抜いてもいい。だ、出してみてもらえぬか?」
どもらなくてもよいと思うが。
さっきの発動シークエンスを無言で、『力』を込めてやってみる。
丹田に集中
蓄積。量は成功時と同じくらい
両手のひらへ移動
収束
放出「ボシュッ!」
壁に拳大の穴が開く。
どこまで飛んで言ったかな?
・
・
・
「…おぉぉぉ! 儂の理論は間違ってなかったのじゃぁぁぁ~!!!」
姐さん、超興奮。