いきなり
とりあえず整理してみよう。
まず自分は、祠に居た。
下宿近所の、お稲荷様である。
幼少の頃から、神仏には手を合わす様に躾けられたため、大学登下校時には必ずお参りしていたのである。
いつもなら
「今日も1日、無事すごせます様に」
とお願いすところだが今日は
「あの娘と仲よくなれます様に」
とお願いした。
自分の所属しているゼミに、新人君たちがやってきた。
その中に、めちゃめちゃかわいい娘がいたのだ。
「惚れた」
のだが、しょっぱなから口説く勇気もなく、神頼みしていたしだいである。
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「なんでだ~?!!!」
今現在、自分は走っている。
告白玉砕して夕日に向かって……ではない。
ここはジャングルの中
「なんでT-REXがいるんだ~?!!!」
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賽銭を打ち、手を合わせていると、不意に祠の扉が開き始めた。
気がつくと、祠はそのままに、周りの景色が変わっていた。
「街中だったはずなのに、森? いやジャングル?」
「がさがさっ!」
不意に、木々の間から巨大な顔が出てきた。
「……T-?…REX???!」
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どう見ても恐竜にしか見えない怪物に追われているのである。
「たしかT-REXの推定速度は20~40km/h」
などと考える暇も無く全力疾走中
後数秒で心臓破裂かと思った瞬間……こけた。
心臓より、足の筋肉が限界だったようで、足がもつれた。
過去に2度ほど味わった事もある低速感。
ゆっくり流れる時間の中、足のもつれにより体がひねられる。
進行方向とは逆に向けられた体にT-REXの顎が迫る。
「臭そうだな」と思いつつ、大きく開かれた顎を見つめながら倒れこむ自分
「ーーーーーーーーー『爆烈炎!』」
何らかの「力」の発生を感知すると同時に、元の時間流に戻される。
尻餅をつくと同時に、大顎が前方へ飛んでいくのが見えた。
「力」の余波で前髪が焦げた。
「力」の元を辿ると、後ろで美少女がカメハメ波ポーズで立っていた。
なんでゼミのあの娘がいるんだ?
ん?別人か?
髪の色はオレンジで、ネコミミ付いてる。
いや、尻尾の形状からしてキツネミミか?
「ξκω◎◎⊿⊿α!!」
なんか必死に叫んでいるぞ。ん?
「τυραννο?-σαυρο?!」
何言ってるかわからん。
あっ!T-REXが起き上がろうとしている。やべっ!
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彼女に手を引かれ、ちょっと走った先で樹の洞に放り込まれた。
すぐに彼女も飛び込んできてすぐ入り口に向かい印を切り
「ーーーーーーーーー『隠形』」
また別の「力」を感じた。印が鳥居の型をしていたし、最後の言葉……結界か?
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地響きが、だんだん遠くへ去ってゆく…
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T-REXは遠くへ行ったようだ。
お互い顔を見合わせ、安堵のため息をついた。
「助けてくれて、ありがとう」
感謝の言葉とともに、自分は頭を下げた。
言葉は通じなくても気持ちは伝わるだろうと。
「βασρπΔτ」
やはり何を言っているのか、何語なのかもわからない。
とりあえず自己紹介かな?
欧米式に、手を胸にあて
「ありひろ」
と名乗る。
「あるりろ?」
「いや違う。あ・り・ひ・ろ。」
「あるふぃろ?」
聞き取りにくいのかな?
それじゃあだ名で
「アルファ」
「あるふぁ?」
「ん。アルファ」
OKだ。君の名は?と手を彼女に差し出す。
彼女は自分の胸に手を当て
「フェネ」
と言った。
「フェネ?」
「フェネ」
とりあえず自己紹介終了である。