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何かのプロローグ、のようなもの

「恋に身を焦がす夏」企画(2017.8)用にどうかな、と書き始めたものの、途中でテーマに沿わないと思い直し書き止めたものの冒頭部分です。


当『小話の部屋』が更新2カ月ありません、のアナウンスが出ていたので、こっそり投稿……中途半端ですみません。

設定自体は私歴最長キャリアの二人。そのうちお目見えできれば、と思います。


 好きになった人には既に好きな人がいた。

 彼が私の方を向くことは決してない。そういう人を好きになったのだから。


 だから告白はもちろん、自分の気持ちを気付かれるようなことは絶対にしないと決めていた。今日だってそう。神社の玉砂利を踏む白無垢の姉と黒紋付の彼の後ろをにこやかについて歩く振袖姿の私は、どこからどう見ても「二人の結婚を心から祝う妹」だったはずだ。


 なのになんで、目の前の男にバレていて、しかも通せんぼされているのかわからない。


「――なんで?」

「それはこっちのセリフ。なんで花嫁がお前じゃないんだよ」

「……意味がわからない」


 滞りなく式が終わり、残すは神社併設の広間での宴席だ。お祝いを言いに来る人が詰めかけて大所帯になった控え室から少し外の空気でも、と抜け出したところを捕まえられた。

 神社の細い奥廊下で、片方の肩を壁につけて腕を組んで私の行く手を阻む。海外ドラマで見るようなポーズが妙に決まっているのがなんとも腹立たしい。黒の礼装スーツに白ネクタイはこいつが今日の賓客の一人でもある証拠だ。


「ねえ、通して」

「おっ、次は美咲みさきちゃんの番か〜? あんまりすぐにお姉ちゃんに続くと、お母さん寂しがるぞぉ」

「はぁっ!? ちょ、田中さん、それはないっ」

「――ッチ、」


 ガヤガヤと人が来た空気の中から、よく知った声が聞こえた。振り向いて断固否定すると、私の耳に舌打ちが聞こえる。チッてなんだよ、嫌いなんだよそれは。ムカついて顔を戻すとさっきより仏頂面がこっちを見下ろしていた。


「ここじゃ落ち着いて話もできない」

「え、ちょっ」

「遠山のー、遊びなら容赦しないぞー!」

「なっ、鈴木さんっ!? いやもう、佐藤さんまでっ」


 ちくしょう、振袖動きにくい! まんまと手首を掴まれて捕獲される。やんやと囃すのに忙しくて私の否定の言葉など聞こえてなさそうな陽気なおっさんたちを置き去りに、外に連れ出された。




 ここの神社の境内は広い。さらに隣接する市の公園と緩やかに繋がっていて、駅近くの商業区域とは思えない緑溢れる長閑な空間が広がっている。夏に片足を突っ込み始めた今の時期の、濃くなっていく葉色は昔から好きだ。

 駐車場を通り抜けた本殿の裏手、お祭りの神輿なんかがしまってある蔵のような建物の一つの近くにあるベンチに腰を落ち着ける。というか、そもそも付き合うつもりは毛頭なかったのだが、有無を言わさぬ空気で無言で木陰のベンチに大判ハンカチを敷かれてしまっては座るしかないじゃないか。

 私からは何も言うことはない。だんまりを決め込んでいると、困惑に怒りをブレンドしたような声が隣に座った男から出て来た。


「……だから、なんで隆之さんの相手がお前じゃないんだ」

「あの二人はもうずっと長いこと付き合っていて、私が隆之とそういう関係になったことなんて一瞬でもないけど? 逆に、どうしてそんな考えに至ったのかの方が不思議なんだけど」

「だってお前、ずっと好きだったろ」


 だからどうしてバレてるの。あの二人でさえ気付いていないのに。


「――んなわけないじゃん」

「見てれば分かる。俺はお前だけ見てたから」

「っ!?」


 なんかすごいこと言われた!? 背けていた顔を思わず隣に座る男に向ければ、ぶれない視線に至近距離で射抜かれる。


「だから諦めたのに。医院ウチに届いた招待状の名前見て、俺がどれだけ驚いたか分かるか」

「いや、悪いけど一つも分かんない。だってあの二人は中学くらいから付き合ってたの知ってるでしょ?」


 もともと幼馴染で隠す気もなかった二人だったから、最初っから近所にも両家にも公認だった。学校でだってもちろん。

 目の前の男とちゃんと知り合ったのは高三くらいからだけど、家も確かに近所とはいえないけれど、でも、うちの店にだって来たことあるのに。お姉ちゃんとだって会ってるはずなのに、知らないわけがない。


「俺はずっと、その相手がお前だと思ってた」

「は、」

「お前に双子の姉がいるのは知っていたけど。隆之さんは『さくらい』の娘と付き合ってるとしか聞かなかったから、お前なんだろうと思ってた」


 目の前の男――遠山とおやまさとしは、そう言って悔しそうに歯嚙みした。すぐそばの樹の上で鳴く鳥の声が耳に響く。こんなに感情を露わにするこいつを見たのは、初めてだった。



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