お題に挑戦(3)その1【水・蛍・夕焼け】
初出:2019/07/29 Twitter
指定ワードを使って書くお題もの①
こちらのキーワードは「水」「蛍」「夕焼け」です!
まさか浴衣で来ているとは思わなかった。反応が遅れたのは意外すぎて驚いたから、それだけ。
「えっと、顔赤いけどもしかして熱ある?」
「っ、いや、平気」
「熱中症とか……」
心配そうに持っていたペットボトルの水を渡してくるけど、そうじゃない。
紺色の浴衣に、夕焼けと同じ茜色の帯。困ったような笑顔は教室で見るのと同じなはずなのに違って見えて、大声を張る屋台の呼び込みも聞こえないくらい動揺している自分がいる。
「一人?」
「あ、いや、佐藤と来たんだけど」
「もしかしてはぐれた? 私も陽奈ちゃん達と一緒だったんだけど、これ買っていたら、」
後ろにいたはずの友人が消えていたと、水風船を揺らす。
「連絡は?」
「電源切れてるみたい」
「あー……」
誰かとラインをしながら、キョロキョロするコイツを視界に入れた瞬間に「じゃあ頑張れよ!」なんて言って急にいなくなった友人のニヤケ顔がチラつく。
はぐれたのではなく友人連中に嵌められたと気づいて、余計なお世話だと言いたいが。
「……一緒に探すか?」
「あ、うん。そうしてもらえると助かる。さすがにこの人混みで一人だと、ちょっと自信ない」
安堵を隠さずへにゃりと笑う顔は破壊力満点で、思わず喉から何かが出そうだ。
「とりあえず、駅のほうに行ったらいいのかな」
「だな」
並んで歩き出したものの、何を話したらいいか――学校でない場所というのが非日常なのだと実感した。話題を探して口をついたのは、
「浴衣なんだ」
「あ、陽奈ちゃん達と約束してて。お姉ちゃんの借りてきちゃった」
「へえ」
「これねえ、蛍が飛んでるんだよ」
向こうも話題に困っていたのか、ほっとしたように肩口の模様を指差す。
「……蛍、見たことあるか?」
「え、ない。見られるところあるの?」
「この辺じゃないけど」
沿線沿いにある自然公園は、幼稚園の遠足で行くような所だ。中学で転校してきたから、きっと行ったことはないと思ったが。
「ええと、今度……行く、か?」
「えっ」
ヤバい、前のめった!
心臓が痛くて正面から顔を見られないが、目の端に映る横顔は見間違いでなければ赤く染まっていて。
「……行きたい、かな」
消えそうに小さい声を耳ざとく拾った時に、したり顔の友人達を通り向こうに見つけた。




