お題に挑戦
ほかの作者様の活動報告欄で時々「お題もの」を書いています。出題に沿って書いて、添削していただいたり、他の方のを見て勉強したり。発想のトレーニングにもなります。
小話にもならないような短いSSですが、表に、とのリクエストを今回の出題者のなななん さまより頂戴しました(ありがとうございます、優しい!)
こんなこともして「なろう」を楽しんでいます。
お題:【描写だけ(会話なし)で恋をした瞬間の場面を書いてみよう! ただし、自分とは違う性別の視点で】
いつものバーでいつものように愚痴を聞く。ブルームーンの細いステアに絡まる指に光るリング。
好きだ、信じていると言いながらも、不安に揺れて焦がれる瞳が俺を映すことはない。触れそうで触れない距離の肩が、少し痩せたように見える。
――あんな奴、やめればいいのに。
友人を取りなすいつもの言葉の代わりに、初めて今夜そう思った。
(夜寄り。笑)
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お題:【音、もしくは音楽、を使って一場面書いてみよう】
深夜の屋根を叩く雨音に紛れて耳に届くのは、爪弾く弦の音。眠る皆を憚る小さな音をもっと聞いていたくて、誰かがかけてくれた毛布に首を埋めた。
あの騒ぎが嘘のように静まり返った雑魚寝のアパートの部屋に響く単調なメロディが、まぶたの裏で色を持つ。
曲が終わった後の、あやすようなチューニングについ、声をかけた。
「ねえ、次はあれ弾いて。あのほら、パセリとセージとローズマリーの」
「起きてたのか……『スカボローフェア』な。まあ、いいけど」
つまらなそうな表情をして、大事そうに音を出す。皆が起きているときには渡されても触りもしなかったのに――わかりやすい嘘つき。
「クラプトンは?」
私の鼻歌に合わせて弾き出す『Tears in Heaven 』。少し下がる左肩。
「私『How Deep Is The Ocean』も好きだけど」
「今度はジャズか、節操ないな。どんな選曲だよ」
呆れたように言いながらも、弦の調子を合わせ始めているじゃない。
――後輩のこの部屋で埃まみれのギターを見つけて、痛そうな顔をした。まるで失くした恋人を偶然見かけたようなそれには、私自身にも覚えがあったから。
『どんな』って、それは。
「……泣きたいのかと思って」
毛布を置いて起き上がり薄い壁に背中をつけて隣に座れば、返事の代わりに弦が震えた。
(恋人じゃないよ、同期だよ)
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《ついでにオマケ:秋の恋企画のリベンジ小話》
〜うれしたのし秋の恋〜
当駅が始発の下り電車は乗客を乗せて、あと数分後に迫った出発を待っている。
彼女の電車はこの十分後、隣のホーム。
――家まで送る。大丈夫。
先に出る電車はいつだって僕の路線。
――見送る。見送らせて。
僕のことをいまだに名字でしか呼べない内気な彼女に、それ以上の無理は言えない。
反対方向の住まいは別れ際には距離以上の遠さを感じさせ、ぽつりぽつりと言葉が落ちる。
紅葉きれいだったね。そうだね。
楽しかったね。楽しかったよ。
乗車を促すアナウンスに急かされて車内に乗り込み、ドアのギリギリに立つ。
何か思い出したような彼女に小さく手招きをされて身を乗り出した。
っ、ユウ君、またね。
発車のベルに紛れてしまいそうな小さな声。
それでも耳に響いた僕の名前、返事をする前に二人を隔てる扉が閉まった。
今日見た紅葉よりも真っ赤な顔で、片手で口元を隠したまま視線をそらして手を振る彼女。
ホームを出た車窓に映る自分の顔を見ていられなくて額をつける。
――ずるくないか。あれは反則だと、思うんだ。
(「うれしたのし秋の恋企画」参加作品の甘さが足りなかったなあ、との反省を込めて書きました)




