ワケ
今回は、ついに謎が明かされます! (まだ第5話)
俺の部屋に超絶美少女がいるという確定的事実に感動する暇をさえ与えず、エイトは盾を前方に押し出し、突進してきた。この技は知っている――物理アクション『シールド・チャージ』だ。
俺はこれまで触ってきた数々のゲームによって培われた動体視力と反射神経により、間一髪でエイトの攻撃を避ける。
俺の部屋の広さなんて高が知れてる。俺は勉強机に勢いよくぶつかり、背中に走る鈍痛に呻いた。エイトの方も、俺のゲームコレクションが所狭しと収納された棚に盛大に衝突し、パラパラとパッケージが床に落ちていった。
普段なら発狂して絶叫する俺だが、今はゲームのことなんか気にしている場合ではない。エイトの殺意は本物だ……本気で、俺を殺そうとしている!
エイトは態勢を立て直すと、すぐに方向転換し、再び俺に『シールド・チャージ』を繰り出した。幸いこれも避けることが出来たが、エイトは決して諦めることなく、その後も俺に『シールド・チャージ』を連発した。
エイトは他にも数多くのアクションを覚えているが、この『シールド・チャージ』をばかり繰り出すところに、俺は自分の日頃のプレイスタイルとの関連を見出だしていた。
『シールド・チャージ』は、盾と己の体重の全てを乗せて突撃するという攻撃なので、ゲーム中では敵のヘイトを著しく溜める効果もあった。エイトの協力戦での役割を鑑みて、俺のプレイスタイルは、『シールド・チャージ』の使用率が凄まじいものとなった。
端的に言って、毎日『シールド・チャージ』を100回ほど繰り出していた。そのプレイスタイルが起因で、今のエイトも『シールド・チャージ』をぶっ放しているとしたら、彼女の行動理念の根底には、まだゲーム内での設定が活きていることになる。
ゲーム脳な俺は、こんな危機的状況下にあっても、そんな理論を頭の上に展開できたが、かといって事態が好転するでもなく、エイトは執拗に俺を狙って体当たりし、俺はそれを避け、そして俺の部屋は見るも無惨な有り様となった。
ベッドはひっくり返り (その下にエッチなものを隠していたが、それは幸い倒れたベッドの下敷きとなってくれた) 、置物や家具は床に散乱し、更にいつの間にかコンセントが抜けたらしく、テレビ画面は真っ暗になっていた。見れば、ゲーム機とコントローラーが、テレビから離れた場所にゴロンと転がっていた。
どうしよう、まだセーブしてない……。
「……どうして……どうしてなんだ……」
一進一退というか、一歩も動かないような状態が延々と続き、二人の息があがってきた頃、エイトが涙声で呟いた。
絶えず警戒し、いかなる場合にも即座に身を翻せるようにしていた俺も、この時ばかりはエイトが心配になった。彼女の目には、キラリと光る雫が……。
「私は16年間、一生懸命自分の人生を生きてきたのに……優しいお父さんやお母さんの愛情を受けて、たくさんの友達に囲まれて、幸せな毎日を過ごしていたのに……それが全部、作り物だって言うの!?」
男性のような口調は崩れ、俺は今目の前に立っているのは戦士ではなく、一人の女の子であることを理解した。
「私の思い出が、全部……作り物? ふざけないでよ! アンタたちの私利私欲のために、私の――私たちの人生は作られたの!? 何が『業腹なのも分かる』よ! 何が『最高のパートナー』よ! そんなのアンタたちが押しつけただけじゃない! 人の人生を弄んで楽しんでんじゃないわよ!」
エイトは次のアクションを繰り出すでもなく、しゃがみ込んで泣いた。思いきり、声を挙げて泣いた。
俺はそれを、ただ立ち尽くして見ていることしか出来なかった……。
はい、エイトの思いの丈でした。ゲームのキャラクターだって、漫画のキャラクターだって、アニメのキャラクターだって、もしかしたら生きているのかも。当然、小説のキャラクターだって。作り手が一から十まで作り込んでいる間、実はその内部で独自の『物語』が育まれているのかもしれないですよね。
僕が別に執筆している『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品では、キャラクターがまさに『生きている』という点を意識し、その模様を描いています。『物語』とは、即ち『人生』なのです。様々な人物が織り成す『人生』の交錯をお読みになりたい方は、気が向いたら、こちらもよろしくお願いします。