俺が話しておくべきこと
2話です。本当なら本編に入ろうというところだったんですけど、世界観の説明は終えても主人公の必要な説明は終えてないなと思ったので、急遽また説明させました。
すみませんが、本編開始は次回からとなります。
俺は 影野 夢幻。最強のゲームプレイヤーだ。16歳にして、あの世界的大ヒットとなったRPGにかけては、他の追随を許さないまでの実力者となってしまった。もうオンラインに繋いで協力や対戦をしても、俺より強い奴に出会わなくなってしまったもんだから、絶対強者の肩書きも考えようだなとは思う。やれやれ……。
まあそんな俺でも、この地位に昇り詰めることが出来た要因の一つとして、あのろくでなしのクソ親父について触れなければならないことは分かっている。けれども気乗りはしない。全く。
だが仕方ない。あいつのおかげ、とまではさすがに言えないにしても、確かに起点となったろくでなしではあるのだ。
俺の親父は、そのゲームの開発スタッフの一人だった。下っ端ではないが現場で指揮を取るわけでもない、なんかよく分からない立場にあるらしい。
その伝で、俺は通常のプレイでは実現不可能な性能のキャラクターを作成、今日に至るまでオンライン・オフラインを問わず、様々なシチュエーションで猛威を振るったというわけだ。
――え? どんなキャラクターなのかって? そう説明を急くなって。慌てない慌てない。一休み一休み。焦らなくともちゃんと解説するから。
俺のキャラクターの名前は『エイト』。由来は俺の名前から。夢幻を∞の記号に変換し、更にこの数学記号を45度回転させると数字の8になる。はい、由来は以上。
ちなみに俺は、自分の名前を割りと気に入っている。キャラクターの名前も大抵エイトで決めているし、それとは別にハードのアカウント名を決めるときなんか、『MUGEN』に賽の目を5回振って出た数字を入力してジ・エンドなんだからな。
俺の名前を決めたのは親父だと聞かされているが、さすがの俺でもこればかりは感謝せざるを得ない。この名前は随分と使い勝手がいい。親愛なるクソ親父には一先ずありがとうと言っておくぜ。
ああ、賽の目を振るのが5回なのは何故かと言うと、生年月日を入力していると思われないためだ。生年月日を入力する? そんなの小学生がやることだろう? 4回や6回にすると、出目が悪けりゃそれと勘違いされてしまう。そんなの癪だからな。振り直すのも面倒だから、予め5回と決めておくことにした。
あと言い忘れていたが、エイトは女性だ。男なのにどうして女のキャラクターにしたのかって? 気持ち悪い? 変態的思考の片鱗が垣間見える? おいおい、そんな聞き捨てならないことを言うもんじゃない。ちゃんと合理的で尚且つ経済的な理由がある。
……経済的な理由はないな。
このゲームは男性キャラと女性キャラで装備が異なる場合が多々ある。俺が獲得した特殊なパラメータのことを考えると、男性より女性の装備をした方が効率がいい。
チートを使って男性に女性の装備を着せればいいじゃないかという破滅的愚行を提案した輩が過去にいたが、至極正常な感性の持ち主たる俺から言わせてもらえば、女装した男を操作するなんて嫌だ。ふとした瞬間にやめたくなりそう。
更に言えば、女性キャラクターの方が見映え的にも得した感がするのは厳然たる事実である。筋肉モリモリマッチョマンの変態が、柔道着や重厚な鎧兜を纏って、額に汗を滲ませながら野太い声で唸る様を延々と見続けるのは、ぶっちゃけ耐えられない。
そこへきて女性キャラクターは、軽やかに舞い、華やかに躍り、軽装にすればたまにありがたい景色を俺たちの双眸に見せつけてくれる。もうむしろ個人的にはキャラクターエディットの段階で性別を選択するステップを省略しても一向に構わない感じだ。
……さて、そろそろ長ったらしい前置きに嫌気が差してきた人もいるだろうから、ここらでいよいよエイトの性能について言及しようか。
初めに言っておく。エイトは通常では有り得ない性能の持ち主とさっき述べたが、全パラメータカンストとかいう何の捻りもなくつまらないキャラクターではない。
キャラクターには俺たち人間と同様、個性がある。良いところ、悪いところ。好かれるところ、嫌われるところ。得意なこと、苦手なこと。それこそが、ゲームという明確に現実から隔絶された世界の中にいながら、俺たちプレイヤーにリアリティを感じさせる最たる要素だ。
だからエイトのパラメータは、際立って優秀な一つを除けば、あとは他のキャラクターと同等か、あるいはその最強パラメータを持つ代わりに弱体化している。
……ここで改めて言おう。俺の名前は 影野 夢幻 。俺のエイトは、ある一つのパラメータの数値が、システム的にも実際的にも『カンスト』している。
エイトの回避パラメータは∞だ――。
はい。主人公の自分語りでした。なんだこいつ。
そんなわけで、この物語は回避チートです。とにかく避けます。相手の攻撃も、誹謗中傷も、苦難も、逆境も、あらゆる障害を避ける避ける。
でも女の子が絡むと避けられなくなります。本当になんだこいつ。