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井上達也 短編集4 (ちょっと上手になってきた編)

地球にミサイルが落ちてこなごなになる瞬間をこの目で見たとしても

作者: 井上達也

 ー今年は暖冬の予報ですー

 やる気があるのかないのかよくわからないお天気おねえさん(たぶん、天気予報士の資格はもっていない単なる女子アナ崩れのモデル)が言った。テレビの向こうにいる女性は、外の気温がよくわかるようにコートにマフラーを着て、厚手の手袋をはめていた。

 僕は、その姿を見て自然と「ああ、今日は寒いのか。そしてこんな服装をしたら良いのか」と理解した。天気予報ひとつとっても、こんな風に考えられて作り込まれる日本のテレビ番組はすごいなと思った。


 僕は、テレビを見ながら暖かいコーヒーを飲みつつ、焼きたてのトーストを頬張っていた。

 サクサクとトーストを食べる響く一人暮らしの部屋。虚しさと楽しさが入り混じっている。人によっては、寂しいとは言えるかもしれないけれど、僕はこの瞬間が一番好きである。時間というのは人に支配されるものではなく、支配するものである。会社に入ったら出社時間は会社に決められ、退社時間は上司に決められる。でも、本当は朝起きる時間も、寝る時間も、食べるもののみんな自由に決められるはずなんだろう。いつの日か、大人になるとみんな馬鹿になってしまって当たり前のことが当たり前ではなくなるのかもしれない。

 僕は、スーツのジャケットを着てコートを羽織った。マフラーを首に巻いた。さすがに男なので手袋はいらないと思い、手袋はしなかった。誰もいない部屋に向かって僕は「行ってきます」と小さく呟いた。


 パソコンの入った重いカバンのおかげで僕は右半身に重心が傾きながらまっすぐ歩いていた。でも、こんな形で歩いている人が街にたくさん歩いていることに最近気がついたから特段なにも思わなくなってしまった。上司は「そんな歩き方をしていたら身体をわるくするぞ」と僕に律儀なアドバイスをくれたこともある。そして、ビジネス系のデイバックを背負って会社を退社していく上司の姿を何度か見かけたことがある。上司は、カバンの中に入った重い書類やパソコンに負けまいと猫背になって両肩と背中でデイバックを支えて歩いていた。そんな上司の幼気な姿を見た僕は「リュックが姿勢改善につながるのか」と僕は思った。人間は一定量の重さのものを継続してもってはいけないのだろう。


 自宅から一番近い電車の駅につきそうになると僕の横を宇宙人が走って行った。正確にはジャンプしているようにも見えた。

 宇宙人といっても見た目はほとんど僕ら人間と変わりは無い。ちょっとだけ、角が生えていたり、超能力が使えたりするだけである。彼らは、渋谷で売っているようなギャル系の服を着てみたり、その辺のファストファッションを好んで着たりしていた。

 この国は宇宙人にいつの日か寛容的になっていた。あれほど、移民には反対し、貧困国やとなりの国から移住してくる人間を拒絶していたはずなのに、宇宙人が、宇宙からフラフラした宇宙船で現れたときに各国に先駆け真っ先に受け入れた。

「ようこそ、日本へ!」

 首相が、宇宙人の人と握手をしていた新聞が号外で配られてた数年前のことを今でも覚えている。

 町中はパニックになるかと思っていたが、意外と冷静であった。さっそく、宇宙人向けのビジネスを各社は検討したり、スタートアップの会社を立ち上げる若者が続出した。

 そして、意外なことに宇宙人が登場したことによって日本経済は回復し、失われた20年と言われたことすらも覚えていない無いレベルであった。本屋では、宇宙人関連の本が大量に出版され、諸外国では日本のバブル期を彷彿するかのごとく「日本の経営を学ぶべき」的な本を書く研究者が後を絶たなかった。

 宇宙人が現れたことによって、日本には新しい仕事がどんどん開発されていった。僕が子供の頃は想像もしなかったような職業だった。

 宇宙人の話す言語は、もちろん日本語ではない。英語でもなかった(これがアメリカが一番最初に受け入れなかった要因と一部報道がある。彼らにとって世界言語をしゃべる我らこそナンバーワンと思っているらしい。)宇宙人の話す言語は、日本語とクメール語を合わせたようなものだったらしい。(僕は、クメール語がなんなのかさっぱり見当がつかなかった)片言の日本語とクメール語が日本中には飛び交っている。

 

 僕は、会社に向かう途中、彼女に連絡をした。僕が手にしている「フェー」と呼ばれる端末は、ガラス板一枚の上下に小さい通信端末で覆われており、最近の若者はみんな持っている通信端末でとてもクールだった。

 僕の彼女は宇宙人だった。宇宙人合コン(通称宇宙コン)で知り合った子で、1万光年くらい先の星からやってきたと言っていた。宇宙人と結婚する知り合いも少なくはなかった。もちろん人間と宇宙人では生まれてくる子供は少し違う。特に非常にカラフルな髪の毛になることは宇宙人との混種であることの最大の特徴と言われていた。漫画のキャラクターのような色の髪の毛の子供達がたくさん生まれ、漫画大好き日本人たちは宇宙人との結婚を進んで選ぶ傾向にあった(しかし、それは女性が宇宙人な場合であり、男性が宇宙人の場合は、カラフルな髪の毛にはならなかったので、男性の宇宙人はまったくモテなかった。むしろ迫害されるケースもあると聞いたことがあった)。


【今日は、ちょっと遅くなるから品川のハンバーグ屋さんでご飯を食べよう】

 僕は、端末からメッセージを送った。

 数分後、メッセージが返ってきた。

【いeeK℃、お金はアルシンド?】

 彼女は、僕が給料日前であることを心配してくれているようだった。確かに、僕の会社はそれほど給料水準が高い会社では無い。でも、周りの働いている先輩たちはやさしく、和気藹々としている会社だったからとても好きだった。

【大丈夫だよ。それにそんなにあのハンバーグ屋は高く無いよ。二人でも3000円はいかないさ】

 また数分後にメッセージが返ってきた。

【WAO、了解Dアよ】

 彼女は、宇宙人の中でも日本語の理解はよくできる子だった。ほとんどの宇宙人は話すことも聞き取ることもままならないが、彼女は日本に溶け込むために必死に宇宙人日本語学校に通っていたらしかった。


 電車に乗って、流れる景色を窓から僕は眺めていた。空から煙を出しながらなにやら落ちてくる物体が、小さいが僕の視界に入った。

 周りの人はほとんどが気付いていない。


 僕は「フェー」をいじっていた。すると、急にメッセージがポップアップした。


 ーきみたちはぼくたちをよくしらないー

 ーぼくたちはきみたちとなかよくするためにいるんじゃないー


 次の瞬間だった。先ほどまで煙を出しながら落ちていく小さな物体が地球に落ちて、大きな爆発音が鳴った。

 

 ーいみがないものはないー

 ーかんがえることをわすれたにんげんー

 ーあわれなりー


 宇宙人は、どうして地球にきたのだろう。

 どうして、日本は受け入れたのだろう。

 そこにどんな意味があったというのだろうか 


 

 

 

 

 


 


 

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